第166話 マエバシ! タカサキ! イセサッキ! グンマーストリームアタックをかけるぞ!

「アンジェロ! 黒丸! 準備は良いか!」


 ルーナ先生が、メチャクチャ張り切っている。

 なぜかというと、俺たちはルーナ先生がテイムしたグンマークロコダイルの背中にまたがっているのだ。


 グンマークロコダイルに首輪と手綱をつけて、竜騎兵よろしく、キリリと構えるルーナ先生。


 だが、俺と黒丸師匠は不安で胸がいっぱいだ。


「ルーナ先生……。あの……。大丈夫でしょうか?」


「ルーナ……。それがしも不安である。グンマークロコダイルに騎乗する……、いや、ワニ乗するなど聞いたことがないのである……」


「だから、やる! 不可能を可能にするのが、我々『王国の牙』だ!」


 フンス!

 フンス!


 ――とルーナ先生の鼻息が荒い。


 言っていることはカッコ良いが、グンマークロコダイルの上なんだよなあ。


 ルーナ先生のアジテーションに、グンマークロコダイル三匹が反応する。


「「「グアアア♪」」」


 気のせいかもしれないが、機嫌の良い鳴き声に聞こえる。


 三匹の名前は、マエバシ、タカサキ、イセサッキ。

 ルーナ先生に何か名前をつけろと言われたので、適当に前世群馬県の街の名前を挙げたら気に入られてしまった。


 俺がまたがるのは、マエバシ。

 黒丸師匠がワニ乗するのは、タカサキ。

 そして、ルーナ先生は、イセサッキに乗る。


 もう日が落ちてきて魔の森の中は薄暗い。

 三匹のグンマークロコダイルの目が、怪しく光る。


 目の前には、魔の森の間道があって、俺たちは間道の脇に待ち伏せている。


 足音が近づいてきた。

 グンマークロコダイルの目だけが、足音の方へ動く。

 十人くらいの集団かな?


「来たぞ!」


「「了解!」」


 俺たちは息を殺して待ち構える。

 すると、十人ほどのメロビクス王大国兵が来た。

 おしゃべりをしながら歩いているので、俺たちには、まったく気が付いていないようだ。


「いや、しかし、腹が減ったな……」

「そうだな」

「もうちょっとがんばれ! 魔の森を抜ければ……」

「そうだ! 俺たちの国だ!」


 何も知らないって幸せだな。

 俺の横で、ルーナ先生と黒丸師匠が、黒い笑いを浮かべているのに……。


 ルーナ先生が、手で合図を送る。

 俺たちを乗せた三匹のグンマークロコダイルが、草をかき分け間道に姿を現す。


 ルーナ先生と黒丸師匠が、楽しそうに敵兵に声をかけた。


「「グンマー!」」


「うわああああああ!」

「うお! うお! うお!」

「やべえ! 逃げろ!」


「「グンマー!」」


「あああ!」

「助けて! 助けて!」

「化け物だあ!」


 敵兵は、腰を抜かし、ちびりながら逃げていった。


 ルーナ先生と黒丸師匠は、腹を抱えて笑っている。


 いや、確かに、メチャクチャ驚いていたけどさ。

 グンマークロコダイルの巨体は、四メートル級だ。

 怖がるのも無理はない。


 俺たちは、何度も草むらに隠れては、敵に姿を見せ驚かせ、メロビクス王大国兵を散々に怖がらせた。


 ルーナ先生と黒丸師匠が、飽きだした頃。

 下草をかき分ける音がして、白狼族の特殊部隊員が現れた。


「アンジェロ殿! 全ての敵が間道に入りました!」


「報告ありがとう。街の方はどう?」


「被害はありません」


 良かった!

 メロビクス王大国軍の脱出で、王都に被害は出なかったらしい。


 これで魔の森に全てのメロビクス王大国軍が逃げ込んだ。

 脅した連中もいるし、今頃、メロビクス王大国軍は、魔の森の中の間道を必死で走っていることだろう。


 今から間道を、三匹のグンマークロコダイルに乗った俺たちが後ろから追いかける。

 そして、外で待ち構えているシメイ伯爵の方向へ追い立てるのだ。


 ルーナ先生が、グンマークロコダイルに命令する。


「行くぞ! マエバシ! タカサキ! イセサッキ!」


「「「グアアア!」」」


 何もしていないのに、グンマークロコダイルが猛スピードで走り出した!


「うおおおおお!」

「ぬあああああ!」


 俺と黒丸師匠が、悲鳴を上げる。

 陸上なのに、何て早さだ!


 グンマークロコダイルが、森の中を猛スピードで駆け抜ける。

 間道は曲がりくねっているが、グンマークロコダイルはショートカットして森の中を直進しているのだ。


「ハイヨー! ハイヨー!」


 ルーナ先生は、ノリノリだが後ろの俺たちは、グンマークロコダイルから振り落とされそうだ。


「ルーナ! 早すぎるのである!」


「猛追あるのみ! 突撃!」


「ルーナ先生! 落ちてしまいますよ!」


「アンジェロ! ニーグリップ! 腰でなく、膝で乗れ!」


 俺は必死でマエバシにしがみつく。

 三匹のグンマークロコダイルは、木々の間を、右へ左へとすり抜け、あっという間に間道へ出た。


「いた!」


 間道の前方。

 まだ距離はあるが、メロビクス王大国軍の兵士が見えた。


 ルーナ先生が、グンマークロコダイル三匹に檄を飛ばす。


「マエバシ! タカサキ! イセサッキ! アターック!」


 ガイア、マッシュ、オルデガ――黒い三連星ならぬ、緑の三連星か。

 ジェットストリームアタックならぬ、グンマーストリームアタックか。


 俺たちは、メロビクス王大国軍の後方をとらえた。


「「「グアアア!」」」


「うわあああ!」

「魔物だ! 追ってきたぞ!」

「逃げろ! 逃げろ!」


 メロビクス王大国軍兵は、俺たちを、いや、グンマークロコダイルを見ると戦意を喪失し必死で逃げ始めた。


 中には、間道から魔の森に入って逃げようとする者もいる。


「させるか!」


 ルーナ先生が手綱を引き、イセサッキを魔の森へ誘導する。

 イセサッキは、巨体からは想像できない機敏な動きで、魔の森に飛び込み敵兵を尻尾で打ち据えた。


「ああああああああ!」


 満月には、敵の悲鳴がよく似合う。

 イセサッキのホームラン性の当たりは、敵兵を天高く舞い上げた。


 これは負けてはいられない!


「マエバシ! 俺たちもやるぞ!」


「グアアア!」


 マエバシが、魔の森に突っ込む!

 低い姿勢で木の枝をかわし、下草をかき分け、ヌルヌルと滑り抜けるように、左右にスラーロームを決める。


 俺は姿勢を低く、マエバシにしがみつくようにして、右へ左へと体重移動を行う。


「グア!」


 マエバシが、何か見つけたらしい。


 魔の森の中を必死で走るメロビクス王大国兵の一団だ。


「いけー!」


「グアー!」


 マエバシが、鼻面から敵の一団に突っ込む!


「うああ!」

「ギャア!」


 敵の悲鳴があがり、一団は四方に跳ね飛ばされた。


「アターック!」


「グアアアー!」


 マエバシが尻尾をきれいに振り抜き、敵兵のお尻をジャストミートした。


「ああん♪」


 悲鳴なのか、何なのか、良く分からない声を発して、敵兵は月夜に美しいアーチを描いた。


「ぐあああ♪」


「ああん♪」


 マエバシがバックスクリーン三連発をしのぐかのごとく、次々に敵兵を打ち上げていく。


 俺たちは、メロビクス王大国軍を追い回し、時に戦い、時に蹴散らし、時にホームランし、シメイ伯爵の待ち構える魔の森の出口へ追い込んでいった。


 あとは、頼んだ!

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