第281話 嫌がらせのメロディー

 ――翌朝。二月二日、キャランフィールド。


 赤獅子族のヴィスを見送るため、俺は飛行場に来た。


「ヴィス。じゃあ、頼んだよ!」


「おう! 任せとけよ! 腹一杯食わしてもらったからよ。その分、働くぜ!」


 俺は、じい、ルーナ先生、黒丸師匠と打ち合わせて、仕事を分担した。

 例によって例のごとく、悪巧みだ。


 ヴィスとイネスにも一働きしてもらう。


「ヴィス。これを持っていけ。お弁当、当座の活動資金、やることリストだ」


「お! サンキュウな! 弁当は何?」


「カツサンド」


「お前、マジでイイヤツだな……」


 泣くな。バカ!

 どんだけ揚げ物が好きなんだよ!?


「活動資金はイネスに渡してくれ。やることリストは日本語で書いてある」


「じゃあ、なくしても大丈夫だな」


 紛失前提かよ!

 俺はヴィスのズボンのポケットに、やることリストをねじ込む。


「ヨシフ・スターリンに見つかったらアウトだから……。気をつけて。ヤバくなったら、こっちに逃げてきて」


「ああ。無理はしねえよ……。じゃあ、次はから揚げを頼むぜ!」


「任せとけ!」


 そう言うとヴィスは、異世界飛行機グースの後部座席に乗り込んだ。

 プロペラが回り、グースが滑走路からふわりと飛び立つと、ヴィスは俺に手を振った。


 俺も手を振り返す。


 何とも憎めない男だった。

 同じ転生者でも俺とは違うし、ハジメマツバヤシとも違っていた。


 ヴィスが上手く立ち回ってくれることを祈る。

 まあ、イネスがいるから大丈夫だろう。


 ヴィスに頼んだ仕事は、ソ連から従属国を引っぺがす工作だ。


 カタロニア地方、エウスコ地方、アラゴニア地方は、ソ連の従属国となっている。


 この三つの地域は、元々民族独立運動をやっていた。

 その独立運動組織が、共産主義革命組織に看板を付け替え、ソ連の支援を受け独立した。


 独立したまでは、良かったけれど、すぐにソ連の従属国……いや、構成国として吸収されてしまったのだ。


 そして、ソ連の収奪が始まり、食料を奪われ、中央委員会から来た人間が、色々仕切り始めた。


 元々独立運動をやっていた連中は、不満が溜まっている。


 カタロニア地方は、イネスからコンタクトがあった。

 ここはグンマー連合王国陣営に、寝返ることが確定だ。


 カタロニア地方が寝返れば、エウスコ地方、アラゴニア地方も同調する可能性はある。


 この策は、はまればデカイ!

 ソ連の西側をごっそり削りとれるのだ!


 こうやってソ連の力をそげるだけそぐ。

 ヴィスにやってもらうのが、第一弾だ。


 そして、第二弾、第三弾を実行し、ヨシフ・スターリンを丸裸に……。

 ヒゲの同志の丸裸を想像して、ちょっと気持ち悪くなった。


 ヨシフ・スターリンと名乗っている人は、俺と同い年の子供だそうだ。

 転生者なのだが、どんなヤツなのだろう?


 ヴィスから話は聞いたが、イメージ出来なかった。


 しかし、まあ、これは策なんて良い物じゃないな。

 俺たちがヤルのは、嫌がらせだ。



 俺はヴィスを見送ると、情報部の建物に向かった。


 じいは、情報部で引き継ぎを行っている。

 しばらく留守にするので、仕事を部下に振り分けているのだ。


 俺はじいと合流すると、情報部員のエルキュール族と一緒に、ギガランドへ転移した。

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