第354話 戦艦ハルナ改装中

 俺と黒丸師匠は、王都キャランフィールドの港に来た。

 港の奥にある軍事区画では、俺が以前鹵獲した帆船の改装工事が行われている。


 沢山の帆船の中で一際大きいのが、三本マストの旗艦ハルナだ。


「ほお! 忙しそうであるな!」


 旗艦ハルナは、改装工事の真っ最中で、多種多様な種族が忙しそうに働いていた。


「とにかく木工が出来る人間をかき集めて、船大工の下につけました。何せ船の数が多いですから、木を真っ直ぐ切れるだけでも、いないよりもマシだろうと」


「なるほど頭数を優先したのであるな」


「ええ。船大工には、とにかく集めた木工職人を使ってもらって、その中から物になりそうな人を弟子にしてもらおうと思います」


「なるほど。良い作戦だとは思うのであるが、沢山の人を使う船大工は大変であるな」


 そこは、もう、本当に船大工に申し訳ないと思う。

 集めた木工職人の中には、家具を作っていた者もいるのだ。


 同じ木を扱う職業でも、家具職人と船大工では畑違いであることは百も承知で『とりあえず使ってみろ。ゴミを片付けるだけでもやらせてみろ』と、船大工に無理矢理押しつけた感がある。


 我ながらブラック気味だとの自覚はあるが、今後、グンマー連合王国では船の需要が増えると思う。


 俺が大陸北部を統一したことで、交易がしやすくなり、大陸北部と南部の船便は増えるだろう。

 そして、海の交易路を防衛するために、海軍力を上げなければならない。


 先回りして船大工を養成しておかないと、経済成長阻害のボトルネックになりかねないのだ。


 まあ、木工をやっていたから、ピアノを作ったり、飛行機のプロペラを作ったりして、飛行機のプロペラを作ったからエンジンも作ってしまい、エンジンを作ってしまったからバイクを作ってしまい、しまいにはモーターボートまで作ってしまった会社が日本にはあるのだ。


 タンス職人から船大工なら、まだつながりがある方だろ。


「あ! ホレックとキューがいるのである!」


 黒丸師匠が指さす先では、ホレックのおっちゃんとリス族のキューが船大工のリーダーと難しい顔をして打ち合わせをしている。


「ホレックのおっちゃん! キュー!」


「おう! アンジェロの兄ちゃん!」


「アンジェロ陛下!」


 挨拶をしたら、俺も打ち合わせに参加だ。


「どうしたの? 何か問題でも?」


「あー……。シッピに聞いてくれ……」


 ホレックのおっちゃんは、眉根にシワを寄せアゴのヒゲをゴシゴシとさする。

 あ……、何かあったな……。


 シッピというのは、船大工のリーダーだ。

 出身はイタロス、俺の母親と同じ国の出身だ。

 イタロスは繊維産業が盛んな国で、ファッション関係の産業が強い。


 シッピは、イタロスで木工職人を目指して修行をしていたのだが、方向性が合わなかったらしい。

 イタロスでは家具の木工が盛んなのだが、テーブルの足が細く、細かい細工が貴族御用達のオシャレ家具が中心だ。


 シッピはもっとダイナミックな物作りがしたいと諸国を渡り歩き、ニアランド王国の船大工の元で経験を積んだ。


 ニアランド王国は俺が滅ぼした国だが、元がイタロス人なので、俺に対して恨みはないらしい。

 シッピ曰く――


『安い給料で、こき使われてましたからね。ホレック工房は、給料が良くて天国ですよ!』


 ブラックからホワイトへ。


 だが、今回俺が依頼した船大工を取りまとめて沢山の帆船を改装する作業は、非常にタフな仕事なのだろう。

 目の下にクマが出来ている。

 シッピは四十代だが、心なしか痩せている気がする。


 ホワイトからブラックへ。


 それでもシッピの目は爛爛としている。

 どこかで休ませないと……。

 スマン……、本当にスマン……。


 そんなことを考えながら、俺はシッピから報告を聞いた。


「ハルナの改装は概ね順調です。舷側に魔道具と魔銃を配置するための開閉式の小窓をこしらえています」


「船体強度は問題ない?」


「はい。強度に影響のないように進めています」


 戦艦ハルナの艤装は、船大工シッピやエルフ族とも相談をしたが、舷側に攻撃用の魔道具を配置することにした。

 地球の十七世紀から十九世紀に活躍した戦列艦に近い。


 俺は船首と船尾に旋回式の攻撃用魔道具を配置したかったが、甲板の上は帆柱を支えるロープや縄ばしごが多く、船員が作業をする場所だ。

 誤射の可能性が高く危険だとシッピに却下された。


 それでも、魔道具や魔銃で武装した戦艦ハルナの攻撃力は、この世界では飛び抜けているだろう。


 シッピの説明は続く。


「今、ホレックさんとキューさんと話していたのは、新型機シーホークの格納場所です」


「うん、どうなった?」


「船尾にしました。あれです」


 シッピが旗艦ハルナを指さす。

 旗艦ハルナの艦尾は、大きく口が開いていた。


「艦尾に開閉式の扉をつけて、艦尾を新型機シーホークの格納場所にします。艦尾しか場所がありません」


「うーん!」


 俺は腕を組んでうなった。

 ホレックのおっちゃんとキューが難しい顔をしていたのは、これか!


「ホレックのおっちゃん、キュー、艦尾に格納するのは、どうなの?」


「いや、ちょっと狭いな。シーホークの翼を小さくしねえとな」


「しかし、翼を小さくしたら飛べるかどうかわからないですよ」


 ホレックのおっちゃんとキューが言うことは、もっともだ。

 新型機シーホークは、小型化の予定だったが、艦尾に格納するとなると更なる小型化が必要だ。


 俺は船大工シッピに、他のプランはどうだったか質問した。


「他のプランはどうだった? 素人考えかもしれないけど、船の横に飛行機発着用の板を並べる方法は?」


 俺が考えた方法は、『板・船・板』の形だ。

 かなり強引な方法だが、これなら全通飛行甲板が実現する。

 昔のアニメに出てきそうな変則的な空母だ。


 船大工シッピは、首を横に振った。


「やりたいことはわかりますが、波や風にあおられたら、船が転覆します」


 なるほど……。

 確かに、ダメそうだな。


「じゃあ、双胴船みたいにする方法は?」


 俺は、もう一案提出していた。

 双胴船のように二隻の船を使い『船・板・船』の形にする。

 この方法でも全通飛行甲板が実現するし、船の安定度が高そうだ。


 だが、船大工シッピは、またも首を横に振った。


「操船出来ません。二隻の舵をあわせたり、帆を畳んだり、帆を広げたり、操船作業の息をピタリと合わせないと船体に余計な力がかかり、最悪船体が破断します」


「うーん! そうか!」


 素人考えではダメなようだ。

 全通飛行甲板の空母はスクリュー船か大型の外輪船を開発するまで、お預けだな。


「わかった。シッピの提案を受け入れる。艦尾に新型機シーホークを搭載しよう」


 こうなったら仕方がない。

 新型機シーホークのサイズを、戦艦ハルナの完備格納庫に収まるサイズにするしかない。


「艦尾を格納庫にして、船体強度に影響はないんだな?」


「ええ。大丈夫です。ただし、居住性が犠牲になります。艦尾は偉い方の居室なのですが、取っ払いますので、偉い方もハンモックで過ごしてもらいます」


「偉い方……?」


 何か悪い予感がする……。

 俺の横で黒丸師匠が吹き出した。


「ブハハ! アンジェロ少年の部屋が撤去されたのである!」


「あ……、やっぱりそうですか……」


 まあ、仕方ない。

 飛行機を積んでくれるなら、俺はハンモックでも構わないさ!


 俺と黒丸師匠は、後を船大工シッピたちに任せて、軍事区画を後にした。


「そういえば、じい殿はどうしているのであるか? 最近見ていないのである。ずっとエリザ女王国であるか?」


「ちょこちょこ帰ってきてますよ。書類整理をして、エリザ女王国にとんぼ返りしています」


「ほう……。情報部が動いているのであるな」

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