第353話 海軍パイロット候補者教育課程
俺と黒丸師匠は、ルーナ先生を放っておいて、海軍パイロット訓練校へ向かった。
海軍パイロット訓練校では、海軍パイロット候補生が飛行機の操縦を学んでいる。
入学の条件は、軍務経験があり、読み書きが出来る人族であることだ。
水を怖がらなければ、人族以外でも良いのだけれど、現実的に人族しか入学希望者はいない。
獣人は、水を怖がり。
ドワーフは、鍛冶と酒にしか興味がない。
エルフは、魔法使いや魔道具製作者になる。
というわけで、海軍のパイロットになりたいのは、人族だけなのだ。
「おお! やってるのである!」
王都キャランフィールドの外れにある飛行場で、飛行訓練が行われている。
初心者訓練中を示すために翼を赤く塗ったグース五機が編隊を組み、空を駆けている。
リス族の教官が異世界飛行機グースの前席に座り、後部座席に海軍パイロット候補生を乗せて実地で飛行機の操縦について教えているのだ。
カリキュラムは、実地が中心だ。
・異世界飛行機グースの操作
・垂直離着陸機ブラックホークの操作
・長距離飛行訓練
・偵察飛行訓練
・戦闘飛行訓練
・飛行機の整備
この飛行機関連のカリキュラムの後は、帆船での勤務がある。
揺れる帆船で船酔いしたり、船員の邪魔になったりしないためだ。
実際に帆船に乗り込み、帆柱に登り、ロープを引く。
波に揺れる船上でもバランスを崩さないように、立って歩く。
そんな基本的なことを学ぶ――いや、体に叩き込んでもらう。
万一、帆船に馴染まない海軍パイロット候補生がいたら、通常のグース乗りになってもらえば良い。
グースの販売を貴族たちに許可しているので、パイロットは引っ張りだこなのだ。
「アンジェロ少年。どのくらいの期間でパイロットを養成するのであるか?」
「目標は半年ですね」
「むむ……。長いのである」
この異世界の感覚だと、長いのだろう。
冒険者ギルドの研修なんて、数日だからな。
ざっと教えて、『あとは実地で覚えろ!』というスタイルが、この世界では一般的だ。
だが、海軍パイロットは、飛行機の操縦に加えて、船のこともわからなければならない。
さらに、海上での航法も加わってくる。
ラッキー・ギャンブルたちエルフがどういった魔道具を開発してくるかによるが、『目標のない海の上で、いかに飛行機を飛ばすか』を学ばなければ、海軍パイロットにはなれない。
覚えなければならないことが多いのだ。
「半年でも短いと思いますよ」
「そうなのであるか? ふむ……」
黒丸師匠は納得していないようだ。
俺と黒丸師匠は、飛行場を後にして港へ向かった。
港では、即戦力組が船に乗り込もうとしていた。
即戦力組は五人だ。
即戦力組は、グースのパイロット経験がある。
全員貴族の息子で、自領でグースを操縦していた。
ただし、技量はバラバラ。
彼らが実戦で使い物になるかといえば、疑問符がつく。
趣味的に遊覧飛行をしていた者もいれば、自領から王都へ、王都から自領へと長距離飛行の経験者もいる。
それでも、五人全員が貴族子弟として高度な教育を受けているし、従軍経験があるのは、ありがたい。
教育のための時間的コストと金銭的コストを大幅に節約できる。
この五人が海軍パイロットの幹部候補だ!
俺は五人に声を掛けて、船でしっかり学ぶようにと訓示を垂れた。
今回の航海は、王都キャランフィールドの港をでて、いくつかの港を経由してギュイーズ侯爵の領都エトルタへ向かう。
船は『愛しのマリールー号』、船長はウォーカー船長だ。
「や! アンジェロ陛下!」
「ウォーカー船長! 五人をよろしく頼みますね」
「ええ。船の流儀をバッチリ仕込みますよ。ただ、特別扱いは出来ませんけどね」
ウォーカー船長には、船員の見習いとして扱って構わないと申し伝えてある。
即戦力組の五人は貴族子弟だが、海の上ではちょっとしたことが原因で命を失いかねない。
特別扱いはナシだ。
「その点は、五人によく言い聞かせてありますよ。蹴飛ばしても構いません。ただ、死なないようにして下さい」
これから向かうのは、冬の海だ。
落水したら低体温症で死にかねない。
即戦力組五人をしごくのは歓迎だが、死んでしまっては元も子もない。
「任せて下さい!」
ウォーカー船長は、自信満々で請け負ってくれた。
「ウォーカー船長。ギュイーズ侯爵の領都エトルタに着いたらどうする?」
「状況次第ですが、予定では西へ向かいます。戻りは冬の終わりか、春になるでしょう」
「わかった。よろしく!」
冬の終わりから春……。
それまでに新型機シーホークを開発して、帆船に搭載できるように船を改装しないと。
かなりスケジュールが厳しい。
「アンジェロ少年は、忙しいであるな」
「ええ。それでも海軍パイロット訓練校が動き出したので、いくらか楽ですよ。それに海賊の被害も収まっていますし」
「ふむ。海賊も冬の海には勝てないのである」
冬になり海が荒れている。
海難事故を避けるため、交易船が減少する時期だ。
その為だろうか、ここ一月、海賊の被害は報告されていない。
「海賊どもは、港に戻って、奪った金で一杯やっているのでしょう」
「けしからん連中である!」
俺と黒丸師匠の声が苦い。
海賊被害に対して、ギュイーズ侯爵は領地の船でパトロールを強化した。
だが、海賊を捕まえることは出来なかった。
海賊に逃げ切られてしまったのだ。
「まあ、春になって出てきたら絶対叩いてやりますよ!」
俺は決意を強めた。
「さて、次は何であるか?」
「船を見に行きましょう! 旗艦ハルナの改装が進んでいるはずです」
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