第252話 砂漠の夕日が、笑ってた

 山岳鉄道、工事がスタートした。

 熊族のボイチェフに現場リーダーをお願いしたのだが、はりきって鉄道用地を切り開いている。


 今回、敷設するのは単線の軽便鉄道なので、道路を切り開くより楽らしい。

 道路と並行出来る箇所もあるので、かなり早く開通しそうだ。


 工事の調整はボイチェフ、シメイ伯爵、ホレック工房から派遣された技師に任せて、俺はキャランフィールドに帰ってきた。


 数日、いつものように仕事をしていたのだが、じいが渋い表情をして執務室に入ってきた。


「じい、どうした?」


 じいは、俺の向かいに座ると、深くため息をついた。


「ハアー……。こちらの報告書をご覧ください」


 じいが差し出した報告書を開く。


 外交報告書だな。

 ミスル王国に派遣している我が国の大使からだ。


 ミスル王国内に共産主義革命の気配がある。

 そのことを、大使はミスル王に伝えてくれたそうだ。


 もっとも共産主義革命といっても、理解してもらえそうもないので、『ミスリル鉱山で反乱が起きそうだ』と伝えてもらった。


 それに対するミスル王の反応は……。


「やる気なしか!」


「頭の痛いことですじゃ……」


 ミスル王……。

 危機感がなさ過ぎるだろう!


 そもそも、オマエが国をちゃんと統治しないから、我が国は、とばっちりを受けているのだ。

 馬賊が出たり、共産主義者が奴隷狩りをしたり……。


 まったく迷惑なことだ!


 報告書の最後の方に、ミスルの大臣が『鎮圧部隊を送る』と書いてあるのが救いだ。


「まあ、鎮圧部隊は送るようだが……」


「いや、アンジェロ様! 組織化されていたら――」


「組織化はされているよ」


 今度ミスルに現れた異世界人は、政府転覆活動に手慣れたヤツだ。

 少人数でゲリラ的に奴隷狩りをさせ、活動資金を稼ぐ。


 捕まえた連中は、ガッツリ共産主義思想がたたき込まれていた。

 思想教育も行っているのだろう。


 組織化していないと、こうはいかない。


 組織化されているとなると、アジトの鉱山は拠点の一つと見た方が良い。

 おそらくはミスル王国内に、目立たず、ひっそりと多数の拠点を構えているはずだ。


「鉱山の拠点を潰しても、他に拠点があるだろう」


「組織は、生き残りますじゃ」


「面倒だな……」


 ミスル王国は、地域大国なのだ。

 ぜひとも安定してもらいたい。


 安定した商売相手であって欲しいのだ。


 それが、こうも問題続出すると頭が痛い。


「共産主義革命組織に、情報部員は潜入したか?」


「そろそろ潜入したころかと」


「目を離すな!」


「はっ!」



 *



 じいことコーゼン伯爵が手配したグンマー連合王国情報部員の潜入は、失敗に終わった。

 情報部員が隊商に紛れてミスリル鉱山に到着すると、ミスリル鉱山はもぬけの殻だった。


「チクショウ! どこへいった!」


 情報部員のエルキュール族の若い男は、悔しがり地面を蹴飛ばした。

 砂漠に落ちる夕日が、エルキュール族の男をあざ笑った



 *



 その頃、革命予備軍と名称を変えた転生者サロットたちは、ミスル第二の都市ザギにいた。

 街中のアジトや宿屋に分散し、追っ手を逃れていた。


 ミスル王国がミスリル鉱山を急襲するであろうことを、察知していたのだ。

 情報元は、サーベルタイガー・テイマーのイネスだ。


 イネスはミスリル鉱山を訪ねると、共産主義革命組織リーダーにして転生者のサロットに、南メロビクス王国で仲間が捕らわれたことを告げた。


「良い情報をありがとう。このアジトは捨てよう」


 サロットは、ミスリル鉱山をアッサリと放棄した。

 既にかなりの量のミスリル鉱石を、別のアジトに隠し持っていたからだ。



 イネスは、サロットたちの仲間になった。

 そして、故郷の独立運動を支援してもらえることになったのだ。


 イネスは、宿屋で一人つぶやいた。


「うさんくさい連中だけど……。使えるモノは、使わなくちゃねえ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る