第124話 ゴブリン掃討作戦五日目

 ――ゴブリン掃討作戦五日目。


 俺たちは、ゴブリン掃討作戦の最中だ。

 もう、五日目の昼になるが、いまだ巣を見つけられないでいる。


 俺たちが思っていたよりも、ゴブリンの数は多く、また、広範囲に散らばっているのだ。

 前人未踏の魔の森だからだろうか?

 とにかく、ゴブリンの数が多い。


「俺が上空からデカイ魔法をブチ込みましょうか?」


「私はそれでも良いが、エルハムから森を焼くなと言われている」


 指揮をとるルーナ先生に、俺は魔法でドンを進言したが却下されてしまった。


 木材不足――キャランフィールドの街は住人が増えた為、木材の需要が急増している。

 建物は土魔法で作ったが、窓枠やドアは木で作る必要がある。

 テーブルや椅子など家具も必要だし、フォークやスプーンだとか細かな生活用品も木製だ。


 木こり親子が製材にベタ付きだが、原材料になる丸太が足らない。

 切り倒した木は、すぐには木材に出来ないからだ。

 数ヶ月寝かせなくてはならない。


 そこで、メロビクス戦役の戦場に転移魔法で移動して、戦場に放置してある丸太や馬防柵をアイテムボックスに回収してきた。


 一度、俺が売った物だが、放置しているということは不要なのだろう。

 うん、きっとそうだ。

 俺が回収して再利用しても問題はないはずだ。

 ニアランド王国の領土内だけれど、パッと行って、パッと回収して戻ってくればセーフだ。

 歴史的上位国さんは、怒らないですよね。(棒)


 細かな問題としては、あちこち血が付いている。

 血の跡を見て、木こり親子が震えていたが、まあ、がんばってくれ。

 木は、木なのだ。


 助かっているのは、ウォーカー船長が連れてきたアリー・ギュイーズさんだ。

 優秀という触れ込みは本当で、領主館で仕事をドンドン片付けている。


 お陰でエルハムさんは、クイック製造に専念出来るようになった。

 人も増えたので、クイック製造設備も増設する予定だが、そこで働く人材教育に力を入れてもらっている。


「ゴブリン掃討作戦が終わりましたら、あのエリアは解放地帯とし、畑を作りましょう」


「解放地帯?」


「はい。メロビクス王大国で習ったのですが、魔物を駆除し魔物がいなくなった地帯を解放地帯と呼ぶのだそうです」


「へえ」


「メロビクスは何百年もかけて、解放地帯を少しずつ増やし、農地を増やしたそうですわ。今、掃討作戦が行われているエリアは、川が近いので畑に適しております」


 メロビクス王大国は、農業大国でもあるわけだけれど、長い年月をかけて解放地帯を増やしたとは知らなかった。

 アリーさんは、物知りだ。


「領地の特産品を増やして、収益を上げる方針に、私も賛成ですわ。しかし、キャランフィールドは、人口に比して農地が少なすぎます。外から食料を買い付けるにしても、飢饉が起きれば食料は値上がりいたします。もう少し農地を増やしたいですわ」


 アリーさんは、色々計算した書類を見せてくれた。


 この人は優秀で、俺は要らない子じゃなかろうか?

 そんな事が思い浮かび、アリーさんの有能さにちょっと嫉妬した自分がいた。


 その時、思い出したのは、アルドギスル兄上だ。


『ハッハー! 僕は無能だからね! 仕事は優秀な者に丸投げさ!』


 アルドギスル兄上は、部下の能力に嫉妬したりしない。

 アルドギスル兄上の振る舞いって、出来そうで出来ないよな。


 俺もアルドギスル兄上を見習うことにした。


「わかった。そのあたりは、まかせるので、アリーさんの好きに進めて下さい」


「ありがとうございます」


 アリーさんに色々丸投げしたお陰で、俺はゴブリン掃討作戦に専念できるようになった。


 本部の天幕で待機していると、上空監視の異世界飛行機グースが高度を落としてきた。

 後部座席のリス族が、大声で緊急事態を告げる。


「アンジェロ殿! 『砂利石』の担当エリアで大量のゴブリンを視認しました! ミディアムたちが囲まれそうです!」


 ミディアムたち『砂利石』には、山側のエリアを担当してもらっている。

 あいつらが囲まれるほど、ゴブリンが出たのか。


 どうしようかと、ルーナ先生と相談を始めると、黒丸師匠が名乗り出てくれた。


「それがしが、行って来るのである。『エスカルゴ』を借りるであるよ」


 メロビクス王大国出身の冒険者パーティー『エスカルゴ』が、ちょうど探索を終えて本部に帰ってきている。

 黒丸師匠と彼らなら問題ないだろう。


 ルーナ先生も俺と同じ考えらしく、黒丸師匠に出動を要請した。


「黒丸! 頼む!」


「安心するのである!」



 *



 冒険者パーティー『砂利石』は、大量のゴブリンと対峙していた。

 リーダーのミディアムが、メンバーに檄を飛ばす。


「隊列崩すなよ! 崩れたら一気に来るぞ!」


「「「了解!」」」


 ゴブリンを一体ずつ確実に倒す。

 だが、森の奥に目をやると、次から次へとゴブリンが湧いてくる。

 リーダーのミディアムは、ショートソードでゴブリンの額をかち割りながら考えた。


(ちっ……キリがねえ……。ここが当たりくじ……か?)


 当たりくじ、つまり、自分たちの担当エリアにゴブリンの巣があるのかと、ミディアムは考えた。

 太陽は真上に差し掛かり、『砂利石』の四人は、暑さと空腹でスタミナ切れを起こしそうだ。


「ミディアム! ゆっくりと退くのである!」


 ミディアムの背後から黒丸が現れた。

 中堅冒険者パーティー『エスカルゴ』が脇を固める。


 苦しかった戦いに思わぬ援軍。

 ミディアムは、喜びの声をあげた。


「黒丸のダンナ! 『エスカルゴ』も!」


「上空のグースが教えてくれたのである」


 ミディアムが空を見上げると、一機のグースが旋回している。

 後部座席のリス族がミディアムに手を振ってみせた。


(なるほど! こういう時の為に、あれは空を飛んでいたのか!)


 ミディアムたちがゆっくりと後退すると、ゴブリンも同じだけ距離を詰めてくる。

 ゴブリンたちの隊列が、縦に崩れた。


 そこを横合いから『エスカルゴ』の二人の戦士ミシェルとマルセルが剣で殴りつけた。


 オレンジ色の髪を振り乱し、次々にゴブリンを叩き潰す。

 ゴブリンたちが、明らかにひるんだのを見て、リーダーのミシェルが号令をかける。


「よし! こんなもんか! 昼メシを食いに戻ろう!」


 ミディアムたちは、無事に脱出した。



 *



 天幕で手書きの地図をのぞき込んでいると、黒丸師匠たちが『砂利石』の救出から戻ってきた。


「みんな無事である。エスカルゴが良い働きをしたのである」


「お疲れ様でした。巣はどうですか? ありそうですか?」


「恐らく、あのエリアに巣があるであるな」


「上空から見た限り、なかったですが……」


 俺、ルーナ先生、黒丸師匠で空を飛び、本部近辺のエリアを一通り偵察している。

 その時は、ゴブリンの巣は見つからなかった。


「恐らく山の斜面に穴でも掘ったのである。木が遮蔽物となり、空からは見えないのである」


「なるほど。ルーナ先生、どうしましょう? 砂利石の担当エリアに戦力を集中しますか?」


 ルーナ先生の目が、ギラリと光った。


「そうする。昼食の後、全ての戦力を山側のエリアに投入する。ゴブリンを掃討し、巣を探し、潰す」

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