第159話 父親がしょげたら、息子が頑張るのです!

 俺はメロビクス王大国とニアランド王国の連合海軍五十隻を、魔法で瞬間凍結させた。

 これで連合海軍は壊滅だ。

 

 凍り付いた敵船を、次々とアイテムボックスに収納して行く。

 アイテムボックスに収納できるということは、生存者はいないということだ。


 気の毒だが、仕方がない。

 ここでやらなければ、キャランフィールドが火の海になっていたのだ。

 非戦闘員の農民や子供も殺されていただろう。


 俺は、そうやって理屈づけて自分を納得させる。


「五十隻の艦隊を丸々収納である……。アンジェロ少年のアイテムボックスは、今さらながら常識外である!」


 黒丸師匠が呆れて絶叫しているが、知らんよ!

 あの適当神メリクリウスに言ってくれ!


 この船はキャランフィールドで解凍し、フリージア王国海軍船として使うのだ。

 問題は、五十隻分の船員をどうするのか……。

 ウォーカー船長に頼んでみるか。


 キャランフィールドへ戻ると、もう日暮れだ。


「アンジェロ!」


「母上! どうしてここに!?」


 キャランフィールドの執務室へ戻ると、アリーさんたち幹部連中と……母上がいた!


 いや、母上だけじゃない。

 俺の父である国王陛下、アルドギスル兄上の母である第二王妃。

 そして、サラに白狼族の特殊部隊員も戻ってきている。


「これは……一体……。王都で何があったのですか?」


 国王陛下である父上が代表して答えた。


「王都は敵の手に落ちた……」


「なっ!?」


「すまぬ……。私の力不足だ……」


 そこからは、みんなが興奮してしまって収拾がつかなくなった。

 王都から脱出してきて状況を伝える方も、聞く方のキャランフィールド組も冷静ではいられなかった。


 メロビクス王大国軍に奇襲され、一気に王宮へ侵入されたらしい。

 どうしたものかと頭を抱えた。


 そここへエーベルバッハ男爵を乗せて王都へ飛んだグースが戻ってきた。

 リス族のパイロットが手短に報告する。


「王宮から脱出できたのは、約二百人です! エーベルバッハ男爵と部下の二名は、王都へ潜入し情報収集を行うそうです!」


「「「「「おおっ!」」」」」


 まとまった人数が無事だったことで、部屋の中の緊迫した空気が幾分柔らかくなった。


「ご苦労だった! パイロットは、休んでくれ。サラたちも良くやってくれた! ありがとう!」


「約束を守った! お袋様と親父様を守ると言っただろ?」


 獣人は、家族と一族を大切にする。

 サラは自分の功績を誇るでもなく、ただ家族を守ったのだと言う。

 サラが俺の父と母を家族として守ってくれたことに、俺の心が温かくなった。


「そうだな。サラ! ありがとう! 白狼族の特殊部隊員も休んでくれ」


「おう!」


 次は、父上たちだ。

 見るからに憔悴している。


 ここはアリーさんにお任せしよう。


「アリーさん。父上たちをお願いします」


「ええ。お休み頂きましょう」


「アンジェロ……。すまぬ……」


 父上は血の気のない青い顔で、終始申し訳なさそうだった。

 王都失陥の責任に押しつぶされそうになっているのだろう。


 もちろん国王である父上の責任は免れない。

 だが、俺も、まさか敵に王都を直撃されるとは、思ってもみなかった。


 じいも、情報部も、アルドギスル兄上も、ヒューガルデン伯爵も、第二騎士団も、誰もが予想をしていなかったのだ。


 せめて、俺だけでも……。

 父上を責めまい。

 息子の俺がしっかりしなくちゃ!


 俺はニッコリと笑顔で父上を励ました。


「父上! ご安心ください! このアンジェロがおりますれば、王都はすぐに取り戻します!」


「アンジェロ……そなた……」


「それに、先ほどキャランフィールドへ迫っていた敵の連合海軍を撃滅いたしました。商業都市ザムザに迫った獣人たちは駆逐され、シメイ伯爵領を襲った敵は全滅。メロビクス王大国南部では、第二騎士団らが逆襲に出ています!」


「う……うむ……」


 父上の顔に血色が戻ってきた。

 こうして戦況を話していて気が付いたけれど、全体では我が軍の方が押しているのでは?

 俺自身も父上に話している間に、大分冷静になってきた。


「残る敵は、アルドギスル兄上が対しているニアランド王国軍と、王都のメロビクス王大国軍だけです。問題なく片付きます」


 そうだ。

 一見すると……、敵軍はフリージア王国王都を抑えて有利に見える。

 敵軍が北上すれば、アルドギスル兄上は挟撃されてしまう。

 そうなれば、我が国北部は敵に奪われてしまう。


 だが、そうなる前に手を打てば……。

 我が軍の勝ちだ!


 メロビクス王大国南部は、既に第二騎士団やじいたちが抑えている。

 さらに北上し、アルドギスル兄上が守るアルドギスル領アルドポリスで、ニアランド王国軍を挟撃可能なのだ。


 そこまで行けば、大河を渡って敵の王都直撃も見えてくる。


 俺の話を聞いて、父上がゴクリとツバを飲んだ。


「それは……可能なのか?」


「我らなら可能です」


 俺の言葉に、ルーナ先生と黒丸師匠も同意する。


「国王殿。アンジェロが語ったことは、絵空事ではない。実現可能」


「そうである。我ら『王国の牙』がいるからには、心配ご無用であるな!」


「というわけです。父上。お心を安んじ、ゆっくりとお休みください」


 父上も安心したのだろう。

 ほんの少しだが、笑顔を見せてくれた。


「うむ……。では、万事アンジェロに任せる。王命である! 王都からメロビクス軍を追い散らせ! 後は良きに計らえ!」


「謹んでお受けいたします!」


 俺たちは膝を折って、父上からの王命を拝領した。


 父上たちが、執務室を出てお休みになった所で、俺は矢継ぎ早に指示を出す。


「キューちゃん。グースを飛ばして、アルドギスル兄上や主立った連中に伝えて。『王都は落ちたが国王、王妃は無事。王都はアンジェロが、すぐに取り返す』とね。夜間飛行になるけど、頼むね」


「かしこまりました!」


「ウォーカー船長。ギュイーズ侯爵の所まで急いで頼む。『連合海軍は壊滅。王都は俺が奪還する。手出し無用』とね」


「よっしゃ! 『愛しのマリールー号』の快速を見せてやるぜ!」


「ジョバンニとエルハムさん。クイックの生産やミスリルの採掘は、いつも通りに。動揺する者がいても、生産や商取引は止めないで」


「お任せを! 戦争資金は稼ぎ続けます!」

「キャランフィールドは、お任せ下さい!」


 これで、ヨシ!

 次は、王都奪還だ。


「ひとまず王都へ少数で潜入しましょう。俺とルーナ先生と黒丸師匠で、どうでしょう?」


「了解した」


「しかし、どこへゲートをつなぐのであるか? 王宮はメロビクス王大国軍に押さえられてしまっているのである」


 黒丸師匠が疑問を口にする。


 もっともだ。

 転移魔法で王宮にゲートをつないで、ゲートから出たらメロビクス兵と鉢合わせ……なんてことになれば、大騒ぎになる。


 そこで――。


「じいちゃんの所へ行きます」


 俺の祖父。

 王都で商会を営むフランチェスコ・モリーノ。


 モリーノ商会の祖父の仕事部屋には、何回か転移したことがある。

 あそこなら安全だろう。


「なるほど。それは名案。メロビクス王大国軍も商人の所までは、兵を回していないなだろう」


「賛成なのである!」


 ルーナ先生と黒丸師匠からOKをもらえた。


 俺は、転移魔法でモリーノ商会にゲートをつないだ。


 さあ、王都を取り返すぞ!

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