第160話 ヒドイ……王都奪還作戦
俺たちは、王都にある祖父の店にゲートをつないで転移をした。
転移先は祖父の仕事部屋だ。
室内はオイルランプに照らされて、うっすらと明るい。
「じいちゃん!」
「おお! アンジェロ!」
良かった。
祖父は元気そうだ。
「街の様子はどう?」
「うむ、今のところひどい目にあった者はおらんよ。ウチの従業員も全員無事だ」
祖父の話によれば、メロビクス王大国軍は市街地を巡回しただけで、王宮に引っ込んだそうだ。
「商業ギルドには、食料品の調達について相談があったそうだよ」
「調達ですか? 徴発ではなく?」
「うん。調達と聞いている。ちゃんとお金を払うから、食料を売ってくれと。紳士的な話し合いだったそうだよ」
強制的に物資を吐き出させるのが徴発だ。
メロビクス王大国軍は、徴発ではなく、通常の商取引をこの街の商人ギルドに持ちかけた。
「ということは、占領を長期的に行うつもりだね……」
「そうさね。短期の占領なら、もうとっくに王都は略奪されているだろうさ」
「じいちゃん、ありがとう! 参考になったよ!」
祖父に礼を言って、窓から外に飛び出した。
背の高い民家の屋根の上に立ち、王都を見渡す。
ルーナ先生が魔法で辺りを探索し、夜目の利くドラゴニュートの黒丸師匠が、目視警戒を行う。
辺りに敵兵の姿はない。
「普段とあまり変わらない……?」
「人通りは少ないが、街は平穏」
窓に明かりがついているし、火事も起きていない。
王都は平穏に見える。
人通りが少ないのは、王都の住民が、メロビクス王大国軍を警戒しているからだろう。
「ふむ……。酔って騒ぐ兵士もいないのである。メロビクス王大国軍は統制がとれているのであるな。恐らく中央の軍なのである」
なるほど、黒丸師匠の言うことも一理ある。
我がフリージア王国でも、中央の騎士団と田舎の領民兵では、月とすっぽん。
号令のかけ方一つからして違う。
それだけ、訓練の行き届いた敵軍が王都にいる。
厄介だな……。
戦闘になったら強い敵と相対することになる。
王宮に目をやると沢山のたき火が見えた。
「王宮にたき火が見えますね」
「メロビクス兵が、野営しているのだろう。王宮は宿泊できる部屋が多いし、野営できる広い場所もある」
「お行儀良くして欲しいですね……」
王宮で多少の略奪は仕方がないと思うが、その辺りに用を足したりするのは止めて欲しい。
俺の疑問にルーナ先生は淡々と答えているが、気持ちは俺と同じじゃないかな。
王宮にはルーナ先生が世話をしていた花壇もある。
眉根を寄せ、目がキッと上がっているのは、怒りを抑えている表情だ。
黒丸師匠は、アゴに手を当て冷静に王都奪還作戦を考えている。
「ふむ……。王宮に敵が集まっているのは、好都合であるな。一気に夜襲をかけるのは、どうであるか?」
黒丸師匠は、速攻を提案した。
ルーナ先生が、黒丸師匠に賛成する。
「うむ。魔法で吹き飛ばすか? 私とアンジェロなら、ここを更地にする事も可能だ」
さらっと恐ろしいことを言う。
俺は、過激な年長者二人を慌てて止めた。
「いえ、それだと市街地に被害が出ます。王都を取り返しても、民衆の支持を得られません」
「確かに。更地にすると、政治的に不味いのである」
「では、どうする? アンジェロは、何かあるか?」
俺は、しばし考えた。
現在の状況としては――。
・アルドギスル兄上が守っているアルドポリスの敵軍
・王都を占領した敵軍
――この二軍をやっつければ、この戦争は俺たちが圧倒的有利になる。
もう、勝利確定だろう。
そこまで考えて、俺は引っかかりを覚えた。
やっつける……やっつける……。
あれ?
敵軍を全滅させる必要ってあるのかな?
撤退させるのでも、良いのか?
ないし、降伏させるとか……。
無力化するとか……。
「そうか……敵を無力化すれば良いのか……」
俺はニンマリと笑った。
ルーナ先生が片方の眉毛を上げて、面白そうに俺を見る。
「アンジェロは、面白そうなことを考えている」
「どうしてわかりましたか?」
「今のアンジェロは、イタズラするときの顔」
「先生には、かないませんね」
子供の頃から、一緒だからな。
黒丸師匠も、楽しそうにウインクをした。
「なんであるか? 面白い作戦なら、それがしも『のる』のである」
二人がワクワクした顔をしているので、俺は考えた作戦を発表する。
「壁で囲いましょう」
「「えっ!?」」
「魔法を使って王宮を石壁で囲うのです。メロビクス王大国軍を、王宮に閉じ込めて無力化します」
「「なにー!?」」
「二人とも声が大きいですよ!」
俺は作戦の主旨を説明する。
「メロビクス王大国軍は、この街の商業ギルドに食料取引を申し出ました。奇襲攻撃だけに、物資や補給に不安があるのではないでしょうか?」
「絶対ではないが、その可能性はある」
「ならば、王宮に閉じ込められ、補給を絶たれると、メロビクス王大国軍は困るでしょうね」
「あー。それは困る」
「きっと困るのであるな」
二人ともニヤニヤし過ぎだろう。
豊臣秀吉が毛利方に対して行った兵糧攻めだな。
それを攻め込んだ先でやられては、メロビクス王大国軍もたまらないだろう。
ルーナ先生が、さらにヒドイ提案をする。
「それなら、敵の食料を奪いたい」
「それ……敵は困るでしょうね……」
「困らせたいの」
嬉しそうなルーナ先生。
両手を頬にあててクネクネしないで!
「なら、王宮にこっそり忍び込んで、捕虜を取るのである。尋問して食料の保存場所を吐かせるのである」
「良いですね」
「それがしに、任せるのである」
「黒丸師匠! 捕虜ですからね? 捕まえる過程で殺さないでくださいよ?」
「カカカ! 大丈夫なのである!」
高笑いする黒丸師匠だが、『手が滑ったのである!』とか言って、敵兵を殴り殺しそうだからな。
手加減を切に望む。
俺たちは、その場でざっくりとした段取りを決めた。
「では! 行動開始です!」
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