第54話 砂竜戦前半
ミスル国南部の砂漠地帯に来ている。
ちょうどお昼くらいなのだけれど、日差しがかなりきつい。
目の前には延々と砂地が続いていて、遠近感がおかしくなる。
おそらくちょっと先は砂丘になっている。
月の砂漠って歌があったけれど、こんな感じなのだろうね。
ここまでラクダではなく、大トカゲのような魔物に乗って来た。
テイム済みらしいのだけれど、魔物に乗るのは初めてだったので新鮮だ。
結構、足が速くて乗り手の言う事もちゃんと聞いてくれる。暑さと砂漠に強い魔物らしい。
砂漠の先にボンヤリと岩山が見える。
あれがミスリル鉱山だろう。
大トカゲの足なら一時間って所かな。
ここまで連れて来てくれた案内人によると、この辺りからミスリル鉱山までの間に砂竜が出て人を襲うらしい。
この砂竜を倒してミスリル鉱山までの安全確保が必要だ。
案内人はさっさと逃げ帰ってしまった。
俺に同行しているのは、黒丸師匠と白狼族のサラと熊族のボイチェフだ。
「しかし、暑いのであるな。ボイチェフは大丈夫であるか?」
「も、もう、死んでしまうだあ……、なまら暑い……、なあまあらあ……」
あまり人化していない熊族のボイチェフは、全身毛皮で覆われている。
いや、熱中症で倒れられたらたまらない。
「ここから先は俺と黒丸師匠で飛行して行きましょう。サラとボイチェフは予備戦力としてここで待機していてくれ」
「了解!」
「わかっただあ。助かったあ」
ボイチェフの為に土魔法で仮設の小屋とプールを作り、水魔法でたっぷりの水をプールに注ぐ。氷魔法で氷塊もオマケだ。
ボイチェフがザブンと水に飛び込んだ。プカプカ浮いて幸せそうにしている。
とりあえず大丈夫だろ。
「では、アンジェロ少年! 行くのである!」
「はい!」
俺と黒丸師匠は、砂漠の上空に舞い上がった。
上空から見ると砂漠には生き物の姿は全く見えない。
一面砂だらけの死の砂漠だ。
「いくら魔物でも、こんな所で生きていけるのですかね?」
「魔物は魔力で体が構成されていると言われているのである。こんな砂漠でもピンピンしていると思うのであるよ」
「そう言えば、砂地に潜るってギルドで教わりましたね」
ここに来る前にミスル国の冒険者ギルドで砂竜について情報収集を行った。
どうやら砂竜はこのミスル国の砂漠にだけ出没する竜種らしい。
土属性の魔物らしく、砂に隠れ、砂を吐き出して攻撃して来る。
情報が少ないので、亜竜なのか、竜なのかは判断が出来ない。
これまでの討伐数は少なく、最後に討伐されたのは二百年前だそうだ。
「どマイナーな竜ですよね。砂竜って……」
「ふむ。それがしも知らなかったのであるよ。ルーナが不在なので、それがしが戦闘指揮をとるのである」
「よろしくお願いします!」
「では、アンジェロ少年は魔法障壁を展開して、上空で待機。それがしが囮となり地面近くを飛行するので砂竜が現れたら風魔法をぶち込むのである!」
「了解! 魔法障壁展開!」
俺と黒丸師匠を包み込む形で青色の魔法障壁を展開させた。
今回の討伐戦は、ルーナ先生がいない。
魔法が使えるのは俺一人だ。俺がしっかりしなくちゃ!
黒丸師匠は砂漠に降下すると砂地スレスレをゆっくりと飛行する。
右手にはしっかりとオリハルコンの剣が握られている。
嫌な感じだな。
初見の魔物、それも竜種。
さらに敵の情報が不足している。
俺は上空から注意深く砂漠を観察した。
黒丸師匠の飛ぶコースの前、後ろ、その周り。
何も動きはない。
時間が長く感じる。
ギラギラと照り付ける砂漠の太陽が、首筋を焼く。
魔法障壁を展開しても日焼けは防げないのだ。
気配が増大した!
黒丸師匠の目の前の砂地が大きく盛り上がった。
黒丸師匠が右方向へ回避コースを取るが、砂の盛り上がりが回避コースをふさぐ。
「な……! す、砂の壁である!」
黒丸師匠の目の前で更に砂地が盛り上がり、中から砂竜が姿を見せた。
「デカイ……」
今まで見た竜種の中で一番大きい。
見た目はイカツイ首長竜の様な感じなのだが、そのサイズが規格外過ぎる!
横幅は五十メートルを超えている。
尻尾まで入れた全長は三百メートルある。
大型のタンカーが砂漠の中に突然現れたようなものだ。
ド肝を抜かれるとは、この事だな。
俺が砂丘と思っていたのは、どうやら砂漠に隠れた砂竜だったらしい。
砂竜はこのエリアにまだ数匹いるはずだ。
まずいな。あんなデカイのを複数相手にするには、火力不足だ。
とっとと目の前の砂竜から倒してしまおう。
「トルネード!」
俺は上空から右手を振り下ろし、中級風魔法を砂竜に向けて放った。
もちろん、魔力大幅にマシマシだ。
俺の放った風魔法が、強烈な風の渦で砂竜を囲い圧迫する。
土属性の魔物の弱点は、風属性の魔法だ。トルネードに込める魔力は大幅に増やしてある。
この一撃で相当のダメージを食らうはず……。
「えっ! 風魔法が効いてない!?」
ウソだろう!
砂竜はピンピンしている。
砂竜の目はこちらをバカにするように細まっている。
まさかノーダメージ!?
俺が呆然としていると、黒丸師匠が砂竜に一直線に突っ込んだ。
「ならば物理で殴りつけるのである!」
黒丸師匠がオリハルコンの大剣を一閃する。
砂竜のバカでかい胴体にオリハルコンの大剣がめり込む。
「な……! 手応えがないのである!」
黒丸師匠のあの一撃を食らっても何もないのか?
だが、黒丸師匠はひるまない。
砂竜の死角に回り込みながら、二手、三手とオリハルコンの大剣で斬撃を繰り出す。
「ダメである! 手応えがまったくないのである! 砂を叩いているようである!」
クソッ!
ノーダメージかよ!
砂竜は黒丸師匠を追い回し、長い首と尻尾を振り回していたが、突然甲高い鳴き声を上げた。
辺りに地響きが起こり、そこかしこの砂丘が盛り上がり、そこから別の砂竜が現れた。
一匹、二匹、三匹、四匹……、ちょっと待て!
何匹いるんだよ!
「アンジェロ! 右だ!」
サラの声が聞こえた。
右を見ると別の砂竜が俺に向けて、口から大量の砂を吹きかけて来た。
「グアッ!」
もの凄い衝撃が俺の体を襲った。
ダンプがぶつかったのかと思う強烈な衝撃だ。
これかよ!
冒険者ギルドで言っていた砂をかけるってのは!
砂をかけるなんて可愛らしいモンじゃないぞ。
砂でブッ叩かれたようなモンだ。
俺はバランスを崩して、地面に向け落下していた。
魔法障壁を展開していたおかげでダメージはないが、完全にバランスを崩している。
魔力を地面に向かって吹き付け再度飛行しようとするが、体が回転していてうまくいかない。
グルグルと回る視界の中で、青い空と黄色い砂地が交互に入れ替わる。
だめだ。
制御不能!
俺はそのまま地面に激突した。
やばい、どこか打ったか?
平衡感覚がない。
砂竜が吹き出した砂が俺の体の上に覆いかぶさっていくのを感じながら、俺は気を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます