第351話 獣人の弱点

 俺が執務室に戻ってくると、リス族のパイロットリーダーが押しかけてきた。

 毛を逆立てて、俺に協力出来ないと言う。


 俺は両手を前に出して、とにかくリス族のパイロットリーダーを落ち着かせようとした。


「待て! 待て! 一体、どうしたの? 落ち着いて話そう」


「我々リス族は、水が苦手なんです!」


「えっ!? そうなの!?」


 知らなかった。

 リス族が水を苦手にしているなんて、初めて聞いたぞ!


 俺は、フーフー言うリス族のパイロットをなだめながら会話を続ける。


「でも、湖の上を飛んだり、海の上を飛んでエリザ女王国へ行ったりしているよね?」


「向こう岸が見えてるでしょう。向こう岸が見えていれば、グースを上手に操作すれば大丈夫です。湖や海峡を飛ぶのは良いんですよ。ですが! 新しく開発する飛行機は、だだっ広い海の上を飛ぶんですよね?」


「うん。大海原の上を飛んでもらうよ」


「ああああああ! そんなの怖い! 怖い! 怖い!」


「ちょっと! 落ち着いて!」


 リス族のパイロットリーダーは、パニックを起こした。

 俺、黒丸師匠、ルーナ先生の三人でなだめ、応接ソファーに座らせる。

 よほど怖いのか、全身の毛を逆立ててブルブル震えている。


「アンジェロ少年。これはダメである」


「黒丸師匠。獣人は水が苦手なのでしょうか?」


「うーん……。種族によるのである。リス族は全身毛皮であるから、水をかぶるのを嫌がるのであるな」


「あー……」


 黒丸師匠を聞いた限りでは、あまり人化していない獣人はダメっぽいな。

 ビーバー族とかいれば良いけど、水辺に住む獣人は聞いたことがない。

 海に住んでいる獣人は、大型だからパイロットは無理だ……。


 動物に置き換えて考えてみると、水を嫌がる動物は確かにいる。

 となると、他の獣人も――。


「アンジェロ陛下! お話があります!」


 執務室の入り口に飛行帽をかぶった狐族のパイロットがやって来た。

 狐族は獣人の中では小柄で頭が良い。

 グースのパイロットに狐族は沢山いる。


 狐族は、あまり人化していないので、狐のぬいぐるみが二足歩行しているような見た目だ。


 ということは……。


「狐族は、海の上を飛行することに反対しますぞ!」


「あー……」


 狐族、オマエもか!

 俺はリス族と狐族をなだめ、無理はさせないことを約束して追い返した。


 俺は執務室の椅子に座り天を仰いだ。

 新型機シーホークの技術課題があるだけでなく、パイロットの確保も課題になった。


 俺の慌てた様子を見ていたルーナ先生が、お茶を淹れてくれた。


「アンジェロ。これは無理だ。海の上で活動するパイロットは、人族に絞った方が良い。それに……」


「それに?」


「パイロットである前に、船乗りでないと」


「なるほど!」


 俺はルーナ先生の言葉に深くうなずいた。


 そもそも、海上で活動する海軍パイロットであれば、船に乗れなければ話にならない。


 水を怖がるのは、もちろんダメだ。

 船に慣れていないのも、ダメだろう。


「ルーナのいうことは、もっともであるな! 船酔いして飛行機に乗れないようでは、困るのである」


 黒丸師匠もルーナ先生の意見に同意している。


「海軍パイロット養成所が必要ですね。体力、気力、操作能力、船上での生活能力、機体の整備能力……。人族のパイロットを集めてシゴキ上げるしかない!」


 俺は早速人族のパイロットに、海軍パイロットにならないかと募集をかけた。

 同時に、王都キャランフィールドの町で、海軍パイロット候補生を大々的に募集した。

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