第179話 平和への願い 新しい国への願い
「アンジェロ少年! 行くのである!」
「はい! 黒丸師匠!」
俺たちは、メロビクス王大国の王都メロウリンクに入った。
既に王宮は包囲している。
戦力差は圧倒的だが、王宮には防壁がある。
無理に攻めれば、犠牲が増える上、時間が掛かってしまう。
そこで、じいが一計を案じた。
俺が、王宮前の広場で兵士や民衆たちに語りかけるのだ。
そして、感動した兵士が王宮の中から門を開く……。
「じい……。そんなに上手く行くか?」
「ご安心を! アンジェロ様なら、必ず成功します!」
どうも、じいは何か企んでいるようだが……。
無血開城の方が、戦後の統治もやりやすい。
じいの提案に乗っておこう。
王宮前の広場には、フリージア王国第二騎士団とシメイ伯爵領軍、メロビクス王大国反乱貴族軍がズラリと並ぶ。
その中を俺が馬に乗って進み出ると、ギュイーズ侯爵、フォーワ辺境伯が下馬し、俺にひざまずいた。
それを合図に、王宮前広場に居並ぶ貴族、兵士たちが一斉にひざまずく。
これで王都の住人たちも、王宮を守る兵士たちも、フリージア王国が勝利した事を理解するだろう。
俺は馬から下り、ケッテンクラートの荷台に上がった。
そして、ゆっくりと王宮を守る兵士と王都の民衆に呼びかけた。
「兵士諸君! 王都に住まう人々よ! 私はフリージア王国第三王子のアンジェロ・フリージアだ!」
ルーナ先生が風魔法を使って、俺の声を遠くまで届けてくれる。
王宮を守る防壁から顔をのぞかせている兵士たちは、俺が何を話すのかと注視し、王都の住人たちは、広場に集まり怖々と見ている。
俺は力む事なく、自然体で語りかける事が出来た。
「私は戦いに来たのではない。平和を作りに来たのだ。私たちが争う必要などないのだ!」
俺の言葉に、広場の民衆からヤジが飛んだ。
「ウソつけ!」
「侵略しに来たのだろう!」
この位の反発は想定内。
俺は動揺する事なく、ヤジが聞こえてきた方に語りかけた。
「ウソではない! 争う必要は、本当にないのだ!」
俺の強い呼びかけに、ヤジを飛ばした若い男が押し黙った。
俺はすかさず争わなくて良い理由を、ゆっくり丁寧に説明する。
「ここメロビクス王大国では、農作物が沢山とれるようになった。私の住むフリージア王国では、新しい酒を造るようになった。我々は、君たちの作物を買う。君たちは、我々の酒を買う。争わずに取り引きをすれば、君も、私も、幸せだ! そうだろう?」
納得したのか若い男は、何度かうなずいていた。
俺がヤジにちゃんと答えた事で、広場にいる民衆は安心したのか、次の質問が飛んできた。
「じゃあ! 何で、戦争をしたんだよ?」
想定内の質問。
俺は声のした方を見て、ゆっくり回答する。
「我々フリージア王国から戦を仕掛けた事はない。メロビクス国王が、戦を仕掛けて来たのだ。我々は和平の使者を何度も、この王宮に送ったが、国王は和平を結んでくれなかった! そして、大軍で攻め込んできたので、我々はやむなく反撃したのだ!」
俺の正当防衛アピールに、広場のあちこちでヒソヒソ声が聞こえる。
「そりゃ、しょうがないな……」
「やっぱり国王が悪いのか?」
「そこの王子様は平和って言ってるぞ?」
「いやあ……信用出来るか?」
大分、俺の言葉を信じてくれるようになってきた。
あと一押しだ。
俺は心を込めて、全ての人に伝わる事を願って、言葉を紡いだ。
「メロビクス人もフリージア人も、
全ての人が幸せに暮らせる国を作ろう。
人族も、獣人も、エルフも、ドワーフも、
全ての種族が争わずに過ごせる世界を作ろう。
私に力を貸して欲しい。
あなたの力が、
あなたの協力が、
あなたの勇気が必要なのだ!」
俺が、民衆に語るべき事を語り終えると、広場から拍手が上がった。
最初はまばらな拍手だったが、さざ波が広がるように拍手が増えた。
俺は手を上げて、拍手に応える。
「ありがとう! ありがとう! だが、平和な国を作るのを邪魔する者がいる。それは――」
「国王だ!」
「そうだ! 国王だ!」
「戦をする国王が悪い!」
俺がメロビクス王大国国王を断罪しようとすると、民衆側から国王を非難する声が上がった。
ヨシッ!
これなら、いけるかもしれない。
俺は民衆が国王を非難する声に乗って、王宮を守る兵士たちに呼びかけた。
「その通り! 王宮にいる国王を私は討つ! 王宮の兵士たちよ! 門を開け、投降してくれ! 君たちを罪には問わない! 共に国王を討とうではないか!」
俺の呼びかけを、広場の民衆も後押しする。
「そうだ! 門を開け!」
「門を開けろ!」
「国王を出せ!」
ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯も門に近づいて、兵士や騎士たちを説得し始めた。
防壁からのぞいていた兵士たちは、今は身を乗り出してギュイーズ侯爵たちとやり取りをしている。
ここで投降してくれた兵士は、本当に罪に問わないつもりだ。
そのことは、ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯にも言い含めてある。
「アンジェロ様!」
じいが、広場の方から駆け寄ってきた。
「じい! どうだった?」
「大変よろしかったと……。後は、同じメロビクス人の説得に期待しましょう」
「そうだな……」
ギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯は、しばらく騎士や兵士たちと交渉していたが、長い時間はかからずに、王宮の門が開いた。
「開いた!」
「やりましたな!」
俺は広場で控えている諸将に命令した。
「突入!」
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