第222話 馬賊の正体に、俺は呆れる

 ――翌日。


 悪党のマイムマイムは、継続中だ。


 まあ……チンコを数珠つなぎにすることで、マイムマイム度と悪質度がアップしてしまったが、気にしたら負けだ。


 とにかく世の中から悪党が減るのだと、色々な感情をのみこんでおく。


 悪党のマイムマイムは、ルーナ先生と黒丸師匠にお任せしているので、俺はキャランフィールドに帰ってきた。


 今日は、じいから報告を聞く。

 じい配下の情報部が、逮捕した馬賊や盗賊たちを尋問している。


 誰かさんたちが、下半身スッポンポンの悪党たちを次々と捕まえてくるので、人数が多くてキリがない。


 そこで、現時点でわかったことを報告してくれるそうだ。


 俺は執務室のいつものデスクに座り、じいはデスクの向こうにある椅子に座った。


「じい、ご苦労様。人数が多くて大変だろう?」


「お気遣いありがとうございます。早速、馬賊たちを取り調べた報告をいたします。馬賊たちは、ミスル王国の脱走兵でした」


「脱走兵!? じゃあ、元兵士!? 一体、どういうこと!?」


 じいの報告に俺は混乱させられた。

 この異世界で、兵士の脱走は死刑だ。

 脱走して捕まれば、必ず死ぬ。

 負け戦で兵士が逃げることはあっても、脱走はないのだ。


「元兵士と言っても、田舎で無理矢理徴兵されて、ろくに訓練も受けさせてもらえず前線に投入された連中ですじゃ」


 そりゃ、モチベーションや倫理観が低そうな兵士だ。

 俺は少し考えてから、謀略の可能性を指摘する。


「謀略の可能性は? 兵士が馬賊に偽装して、国境地帯を荒らし回っていたとか? 捕まったら、脱走兵と答えるように命じられているとか?」


「ワシもその可能性を考えました。ですが、ウソをついている様子はありません。みな、その……。エルフ殿とドラゴニュート殿にされたことが余程こたえたらしく……」


「さもありなん」


 確かにな。

 そもそも戦闘力だけでも、ルーナ先生と黒丸師匠は災厄レベルだ。

 その上、下半身スッポンポンにされて、連行されるとか……。


 普通は、逆らおうとは思わない。

 素直に尋問に応じるよな。


 じいは、逮捕した馬賊たちから聞き出した話を報告した。


「ミスル王国軍では、給料の支払いが度々遅れているそうです。食料などの補給も途切れがちとか」


「そりゃ、やばいね……」


 金をもらえない。

 メシがない。


 そりゃ兵士としては、嫌になるよな


「じい。兵士を監督する士官は?」


 士官は騎士、つまり貴族だ。

 貴族は一族の名誉や貴族としてのプライドがあるので、平民よりは倫理観がある。

 少なくとも脱走はしない。


「その士官も脱走して、一緒に馬賊をやっておりましたのじゃ」


「ミスル王国……終わっているな……。貴族が脱走かよ……」


「まあ、脱走したのは下級貴族や平民から貴族に取り立てられた一代限りの準貴族ですが」


「それでも士官が脱走って、あり得ないぞ……」


 絶句する俺。

 ため息をつくじい。


 隣国が巨大で強いのは困るが、隣国が統治されていないのは、もっと困る。


「ふう~。アンジェロ様のおっしゃる通りです。つまり、国としてあり得ないことがミスル王国で、起こっておりますのじゃ」


「ギガランドと停戦すれば良いのに……」


「まったくですじゃ」


「そういえば……。ミスル王国大使のアクトゥエン子爵もメチャクチャだったな。俺に売り込みをするし」


「はい。それで、大使のアクトゥエン子爵に逮捕した馬賊の扱いについて相談したのですが……」


「何と言っていた?」


「好きにして良いと。ミスル本国は、馬賊として逮捕した貴族たちを買い戻す金を払わないだろうと」


「まあ、そうなるわな……」


 エルハムさんの時もそうだった。

 この話をすると黒丸師匠が、またブチ切れそうだから黙っておこう。


 俺は今後の行動とミスル王国への対処に頭を切り替える。


「じい。とりあえずアマジク地方から、馬賊や盗賊をある程度排除したら、ルーナ先生たちを呼び戻そう」


「そうですな。サイターマ領の安定、治安の維持が目的ですから、十分でしょう。これ以上ミスル王国に深入りするのは――」


「政治的に面倒だね」


 ミスル王国の無能っぷりは、よく分かった。

 俺としては、巻き込まれたくない。


 俺は新しい領地の統治や開発で手一杯なのだ。


「アンジェロ様。それで、逮捕した馬賊や盗賊は――」


「使う」


「やはりですか……。普通は、即死罪ですが……」


 俺は逮捕した馬賊や盗賊を死罪にしないで、戦力として使うことにした。

 一種の懲役刑だ。

 兵士や労働者として働いてもらう。


 何せあちこちで人手不足で、猫の手も借りたいのだ。


「じいの言いたいことは、わかるつもりだよ。けど、我が国は、本当に人手不足だから。悪党でも使うよ」


「わかりました。では、予定通り尋問が終わった者は、冒険者ギルドに預けます」


 本当は騎士団にぶち込んで、しごきまくって、悪党どもの性根を入れ替えてもらいたい。

 だが、騎士団も多忙なのだ。


 そこで、冒険者ギルドから訓練教官を出してもらうことにした。


 黒丸師匠が不在だが、厳しく鍛えてくれとお願いしたので、冒険者ギルドの方で上手くやってくれるだろう。

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