第225話 ミディアム出世す
「いや、ウソじゃねえぞ。それどころか、仕事を教えてもらってよ。みんなこの街で働いてるぜ。鍛冶師になったやつもいたな。まあ、それで、俺たちは冒険者になったのよ」
ミディアムは、誇張することなく、さらっと事実を告げた。
周りで聞き耳を立てていた二百人を超える悪党たちは、ミディアムの話しぶりを見て『本当かもしれない……』と、ミディアムの話を信じ始めた。
メトトは、何度かうなずいた後に、一番気になっていることを質問した。
「なあ、俺たちは、どうなるんだ?」
「どうなるって――」
口を開きかけたところで、ミディアムは、周りの視線が自分に注がれているのに気が付いた。
(そうか! こいつら自分たちが、どうなるのか心配なんだな! それなら――)
まず、安心させてやろう。
ミディアムは、ゆっくりとした口調で、遠くからも見えるように身振り手振りを交えながら話し出した。
目の前にいるメトトだけでなく、二百人を超える悪党たちに聞こえるように。
「あははははっ! 安心しろよ! 訓練が終わったら、働いてもらうことになっているぜ!」
「ほ……本当か!?」
「ああ、本当だ。えーと、何年かタダ働きになる。懲役って刑罰だそうだ。それが、終われば普通に働ける。給料も出るぞ!」
「死罪じゃないのか?」
「ねーよ! 人手不足だって言ってるだろ? ウチの王様は、殺すより働かした方が得だって思ってるのさ。ホレ、その証拠にこの手紙を見ろよ」
ミディアムは、懐から黒丸の手紙を取り出した。
メトトに渡したが、どうやらメトトは字が読めないらしく困っている。
「誰か、字が読めるヤツはいないか? 元貴族もいるって聞いたぜ! 手紙の内容をみんなに伝えてやれよ」
ミディアムが、悪党たちに呼びかけると一人のすらっとした若者が立ち上がった。
「俺が読もう!」
メトトから手紙を受け取り、目を通す。
「本当だ! 訓練をして、使い物になるようにしろ、と書いてある!」
「だろう? アンタみたいに読み書きが出来るヤツは、文官候補として推薦させてもらうぜ!」
「文官!? 良いのか!?」
「マジで人手不足なんだよ。冒険者の俺だって、読み書きを習わされているんだぜ? アンタみたいに、読み書きが出来る元貴族なら、仕事はよりどりみどりだ! ひょっとして、活躍次第じゃ、貴族に返り咲けるかもよ?」
「本当か!?」
「マジだ。ウチの王様は、仕事が出来れば、うるせえことは言わねえ」
若い元貴族の男は、希望に目を輝かせた。
ミディアムは、横目で周りの様子を確認する。
元貴族の男に羨望の眼差しが集まっていた。
(よし! このやり方だな! 上手く行くと言ってやれば良いんだ!)
ミディアムは、近くにいた地味な男に声をかけた。
「よう。オマエは、馬賊になる前は何をやってんたんだ?」
「おれか? 兵士だ……」
「兵士の前は?」
「農夫だ……」
「ああ! それなら、仕事はある! 耕す土地が増えて、農民が足りないらしいぞ!」
「ほ、本当か?」
ミディアムは、近くに座る男に声をかけて、経歴を聞いては、『仕事はある!』『即戦力だ!』『使えるぞ!』と希望を持たせた。
二百人を超える悪党たちのほとんどが、安心し、将来に希望を見いだし始めた。
彼らのほとんどは、ミスル王国の脱走兵で、元農民や下級貴族なのだ。
食料不足や給料の遅配などが原因で、脱走したのだ。
ちゃんとした仕事があって、安定した生活が送れるならば、願ったり、かなったりであった。
ミディアムの狙いを察したジンジャーたちも、悪党たちの慰撫に努めた。
「メシは朝昼晩と三食出るぞ。ここのメシは旨いからな。おかわりも自由だ!」
「ミスル人で働いているヤツらもいるぞ。今度、引き合わせるから、話をしてみろよ」
「そういやエルハムさんていう、ミスル人で貴族になった人がいるぞ! フリージア人じゃなくても、出世できるさ!」
場の雰囲気が良くなった所で、ミディアムが話をしめた。
「まっ! とにかくよ! 訓練を続けるぞ! 訓練が終われば、それぞれ仕事をもらえるんだ! 何をするにも体力は大事だからな! さあ、走るぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
今度はミディアムたちが、ランニングの先頭をきった。
*
二週間の訓練が終わり、逮捕された馬賊や盗賊たちは、それぞれの適性に応じた職場に配置された。
ミディアムたちは、教官として立派に勤め上げたのだ。
馬賊退治から帰ってきた黒丸は、ミディアムを呼び出した。
「ミディアム。ご苦労だったのである。元馬賊の連中は、配属先での評判が良いのである。再教育は大成功である」
「そうか! そいつは良かった!」
ミディアムは、魔物が相手の仕事とは、また違った手応えを感じた。
こういうのも悪くねえな、と。
「ミディアムは、人を動かすのも上手いのである。そこでである! ミディアムをキャランフィールドの副ギルド長に指名するのである!」
「えっ!? 副ギルド長!? 俺が!?」
突然の話にミディアムは、驚いた。
まさか自分が、役職をもらい人の上に立つとは思っていなかったのだ。
「ミディアムは、こういう仕事に向いているのであるよ。それがしは、アンジェロ少年を助けなくてはならないし、あちこち出歩かなくてはならないので留守がちなのである。よろしく頼むのである」
「お……おう! 任せとけよ!」
こうしてキャランフィールドに、強面の副ギルド長が誕生した。
砂利石のメンバーも、ミディアムをよく助けて、キャランフィールドのギルド運営は円滑に行われた。
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