第九章 グンマー連合王国
第185話 父上ご乱心!
――十二月末。
困った。
非常に困った。
国王陛下、つまり父上が、昨日トンデモナイ事を口にしたのだ。
「国王をやめる! 退位する! 後は、息子たちに任せる!」
昨日の昼ごろの出来事だ。
――国王退位!
俺はキャランフィールドにいたのだが、異世界飛行機グースが全力で王都から飛んできて、この報告をもたらした。
すぐに転移魔法で王宮へ飛んだ。
「父上!」
「アンジェロ、後は頼む」
「ちょっと待って下さい!」
部屋にこもろうとする父上を何とか引き留めて、話を聞いた。
父上曰く――。
・王都失陥の責任を取る。
・占領地域が広すぎて、自分の手に負えない。
・王としてやっていく、自信がなくなった。
――というのが、退位する理由だった。
「父上! 王都は取り返しましたから、何も問題はありません」
「いや、一時的とは言え、王都を失ったのだ。私に王の資格はない」
「私とアルドギスル兄上が補佐しますから!」
「おまえたちが国を治めれば良い。私より、おまえたち息子二人の方が、統治能力がある。父としては、嬉しいがな……」
そう言うと、父上は寂しそうに笑った。
父親としては、息子が優秀なのは嬉しい。
しかし、自分に国を治める能力がなかった事に、自分自身にがっかりしているのだろう。
宰相エノーに国を壟断され、裏切りにあい、長男であるポポ兄上が死んだ。
並の人なら寝込んでしまうだろう。
精神的なショックが多すぎて、心が耐えられなくなったのかな?
あまり、父上を追い詰めない方が良さそうだ……。
俺は、そんな風に考えた。
「わかりました……。アルドギスル兄上と話し合います」
「すまん」
俺は、アルドギスル兄上を訪ねることにした。
政治的な話だから、守役のじいとアンジェロ派領地貴族の代表としてシメイ伯爵とルシアン伯爵を連れて行く。
ルシアン伯爵は、アンジェロ派領主貴族軍を率いてくれた人物だ。
王都と商業都市ザムザの中間地点に領地があり、貴族連中からの人望もある。
アルドギスル兄上は、『裏切り者のイカ臭い魚野郎』こと、ニアランド王国を北へ押し込み、ニアランド王都ウェルハーフェンの街を包囲している。
なぜか、ニアランドの悪口が増えているが、気にしないでおく。
「やあ! アンジェロ!」
「アルドギスル兄上! お元気そうですね。これは……何をしていらっしゃるのですか?」
アルドギスル兄上の軍は、ウェルハーフェンの周りで土木工事を行っている。
それも、かなり大規模だ。
「ふっふーん。アンジェロの真似をしているのさ!」
「俺の真似ですか……? まさか!」
「そう! あいつらが出てこられないように、ウェルハーフェンを壁で囲うのさ!」
アルドギスル兄上も、思い切ったな!
ニアランド王国を雪隠詰めにするつもりか!
「ニアランド王国に、降伏勧告は?」
「何度もしたさ。けど、あいつら『歴史的上位国である我々が、なぜ降伏などしなくてはならないのだ!』と、毎度この調子なのさ。いやあ、面白いねえ……」
「現実を受け入れて欲しいですね……」
この戦争の元凶メロビクス王大国は、もう、滅んだ。
ニアランド一国だけでは、何も出来やしない。
既にニアランド王国の領土は、アルドギスル兄上の軍によって削りとられている。
残っているのは、目の前の王都ウェルハーフェンだけだ。
ニアランド王国が無力化されるのなら、文句はない。
ここはアルドギスル兄上の持ち場だから、兄上にお任せしよう。
「それで、アンジェロの用件は?」
「実は――」
俺はアルドギスル兄上に父上の言葉と様子を伝えた。
「それは――」
絶句するアルドギスル兄上。
いつもの笑顔はなくなり、眉間に深くしわが寄った。
アルドギスル兄上の衝撃が収まったところで、俺が話を切り出した。
「兄上。父上は精神的なショックが強くて、国王を続けるのは本当に無理だと思います。無理をさせれば、心が病んでしまいます」
「まあ、ポポ兄上も死んだしなあ……。あんな死に方だったし。息子同士が殺し合ったのだから、平静ではいられないよね」
「ええ。ですので、今後どうするか協議を!」
「わかった! こっちもヒューガルデンを呼ぶよ!」
本来、父上の退位は五年後のはずだった
それまでに、俺かアルドギスル兄上のどちらに王位を譲るのか、働きぶりや功績を見て決めるはずだった。
だが、わずか一年弱で、事態は急展開を迎えた。
メロビクス王大国との戦争に勝ったとはいえ、戦後処理はまだ終わっておらず、統治体制は確立されていない。
早くフリージア王国の政治を安定させなければ、状況がどう転ぶかわからなくなる。
――俺とアルドギスル兄上、どちらが王になるのか?
俺とアルドギスル兄上は、図らずも政治的に対決するハメになった。
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