第155話 ブラックホークは、ダウンしない!

 メロビクス王大国軍が王宮に侵入しだした頃、白狼族のサラはアンジェロの母を警護していた。


 第三王妃の宮、橙木宮は、広大な王宮の中心部にある。

 敵兵は王宮の防壁近くにいる。

 まだ遠い。


 それでも鋭敏な獣人の耳は、不審な騒ぎ声をキャッチしていた。


「オイ! 何か変だ!」


 だが、人族の耳には、何も聞こえない。

 アンジェロの母、第三王妃カテリーナは、息子の婚約者であるサラに聞き返す。


「サラちゃん、どうしたの? 何が変なの?」


「お袋様! 王宮の様子がおかしい! ちょっと見てくる!」


 言うが早いかサラは窓から飛び出し、屋根に飛び乗った。

 サラの耳がピクリ、ピクリと動き、音が聞こえる方向を正確にとらえていた。


「あっちか……西門の方か……」


 サラは、防壁西門の方に土煙が上がるのを視認した。

 チラリ、チラリと見える兵士の装備には、見覚えがあった。


「あれは……メロビクス王大国軍の装備か?」


 サラは、メロビクス戦役で戦ったメロビクス王大国軍の装備を思い出していた。

 そして、風に伝わり遠くからフリージア王国兵士の声が聞こえてきた。


「……てき……しゅう……敵襲……」


「!」


 サラの両目がカッと見開かれ、獣耳がピンと立った。

 部屋に戻ると大声で怒鳴った!


「敵だ! メロビクス王大国軍だ! お袋様は、ここで働いている人を全員集めて! 私は様子を見てくる!」


 サラは橙木宮の外へ飛び出す。

 庭を改造した臨時の飛行場に駐機している垂直離着陸機ブラックホークに飛び乗った。


「敵だ! 上空から偵察する!」


 パイロットのリス族が、素早く離陸させ高度をとる。

 すると王宮に攻め寄せるメロビクス王大国軍の様子がわかった。


 既に王宮防壁の内側に大量のメロビクス王大国軍が侵入し、市街地にはさらに多くの兵士が続いていた。


「これは……」


 絶句するパイロット。

 サラも眉根を寄せ、言葉を失う。


(これはダメだ……。敵は大軍だ……。おまけに防壁を突破されている……)


 サラは瞬時に脱出を決断する。

 それは判断力というよりも、獣の生存本能に近い。


 橙木宮に戻るとアンジェロの母、第三王妃カテリーナに脱出を呼びかけた。


「お袋様! もう、敵が王宮に入っている! ブラックホークに乗って逃げろ!」


「ええっ!? ここに敵が!?」


「そうだ! もう、防壁は破られている。すぐにブラックホークに乗って!」


 そう言うとサラは、第三王妃カテリーナを抱えて走り出した。

 外で待機するブラックホークに強引に乗せ、護衛の白狼族特殊部隊三人を同乗させると空に上げた。


「他の者は南門へ走れ! 南へ! ザムザの方へ逃げろ!」


 ほぼ直感である。

 南はアンジェロ派、つまり味方の貴族が多いだろうと。

 ただ、それだけである。


 続いて、サラは、第二王妃の宮、黒耀宮に飛び込むと同じように第二王妃をブラックホークに無理矢理ねじ込み空に上げた。

 第二王妃はアルドギスルの母親である。


「兄貴殿のお袋様もヨシッ! 後は親父様だ!」


 だが、王のいる城は既にメロビクス王大国軍に取り囲まれていた。

 陸上からは近づけそうにない。


 サラは、三機目のブラックホークに乗ると残りの白狼族五人に脱出を命じた。


「オイッ! オマエたちは、南門から商業都市ザムザに逃げろ! 弱いヤツの面倒を見ろよ!」


「「「「「ハッ!」」」」」


 白狼族たちは、一斉に駆けだした。

 一瞬、後ろ姿を見送ると、ブラックホークに乗るリス族の二人に命じた。


「これから親父様を助けに行くぞ!」


「アンジェロ殿の父上なら、助けなくてはなりませんね……」

「王様だよな? 人族には恩がある……。やらないと!」


 リス族の二人も決意をみなぎらせて、シートに座った。

 一人はパイロット、もう一人は後部席のガンナーである。


 三人を乗せたブラックホークは、垂直上昇をすると王のいる城を目指した。

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