第245話 革命戦士万歳! インターナショナル万歳!(大丈夫ですか?)
ブンゴ隊長は、ケッテンクラートの荷台に飛び乗り、馬車の後を追った。
荷台で攻撃用魔道具を構えるガンナーが、ブンゴ隊長に問う。
「隊長! 撃ちますか?」
「待つッス! 情報が欲しいから、生け捕りにするッス!」
ブンゴ隊長は、先ほど戦闘した二人――奴隷狩りをしていた二人の男が、叫んだ言葉『革命万歳!』が気になっていた。
(なんか普通の悪党とは、違う感じッスね……)
そんな感覚が、ブンゴの行動を慎重にした。
南メロビクス王国の南部は、ミスル王国と接している。
馬車は南、つまりミスル王国の方角へ走っていた。
野原の中にあった街道は、やがて乾燥した荒れ地に、そして岩肌むき出しの砂漠へと続く。
ブンゴたちが乗ったケッテンクラートは、馬車の後ろにピタリとつけ、攻撃の機会を狙っていた。
ケッテンクラートの運転手が叫んだ。
「隊長! グースです!」
合図の魔道具が発した光球を見て、哨戒していた異世界飛行機グースが駆けつけたのだ。
グースは、馬車の前方を右から左へ横切るように飛行した。
馬車に乗る二人の若い男の視線が、目の前を横切るグースに移る。
二人の男の意識がグースに移り、スキが出来た。
「今ッス!」
「あいよ! 隊長!」
ブンゴの合図にケッテンクラートの運転手が反応した。
一気にアクセルを踏み込み加速すると、馬車に併走し車体を近づけた。
ブンゴは、ケッテンクラートの荷台から馬車に飛び乗る。
「テメエ!」
馬車の荷台にいた男が、ナイフを顔面に向かって振り回したが、ブンゴは低く沈み込んでナイフをかわした。
そして左ボディアッパーを放つ。
「フッ!」
ぐぼう!
ナイフを振り回した男は、体が『くの字』に曲がり、馬車の床に白目をむいて倒れた。
間髪入れずに、ブンゴは、御者をつとめる若い男の側頭部に右フックを食らわした。
「ホイッ!」
「キュウ……」
御者の男が倒れるとブンゴは、手綱を握り馬車を停車させた。
「ふう……。上手くいったッス!」
*
しばらくすると、続々と仲間たちが集まってきた。
黒丸、ルーナ、イネスたちも、ブンゴに合流した。
ブンゴは、全員に悪党を捕らえた経緯を説明した。
「――と、いう訳ッス!」
ブンゴの説明を聞き終えると、黒丸が奴隷狩りをした男たちに腹を立てた。
「なるほどである。少人数で女子供を狙い撃ちして、さらっていたのであるな……。控えめにいっても、クズであるな!」
ルーナも同調する。
「性根が腐っている。イセサッキに食べさせる」
「そうであるな。グンマーの刑である!」
プンスカと二人は腹を立てているが、ブンゴはそれよりも捕まえた二人の男が気になっていた。
「いや、それより……。こいつら変ッス!」
「何が変なのであるか?」
「軽く尋問したんスけど……。なんで奴隷狩りをしたのかって聞いても、カクメイがどうとか……。労働者がどうとか……。わけわからないことを怒鳴るだけなんスよ……。カクメイってなんスか?」
黒丸もルーナも首をかしげた。
二人は長命種のドラゴニュートとハイエルフである。
長く生きている上に、冒険者としてあちこち旅をしている。
人族よりも、物知りだ。
だが、『革命』という言葉は、この異世界にはない。
この異世界では、国王や貴族が国を治めている。
労働者、一般市民が王政を覆し、政治の実権を握る『革命』の概念がないのだ。
その為、『カクメイ』と、いわれても何のことだかわからなかった。
「カックメイであるか? 初めて聞くのである?」
「カクメーイ? 食べられるの?」
「いや、食べ物じゃないっぽいッス!」
黒丸とルーナは、ブンゴの様子から、普通の盗賊や人さらいの類いではないのだと理解した。
では、この男たちは何者なのか?
何が目的で、奴隷狩りを行ったのか?
二人の男は、縛られ地面に座らされている。
黒丸は、男にゆっくりと近づき、首をコキリとならした。
二人の男を見下ろし、圧をかける。
「オマエたちは、何者であるか? ただの盗賊ではないのである……」
「「……」」
二人の男は、強く口を結びしゃべろうとしない。
黒丸は、淡々と二人の男に告げる。
「大人しく話した方が、身の為である。それがしは、拷問をなんとも思わないのである。むしろ、拷問がしたいのである」
「「……」」
黒丸の物騒な言葉に、二人の男は恐怖していた。
だが、ギュッと口を結んだままだ。
「そこにいのは、グンマークロコダイルとサーベルタイガーである。生きたまま、食われてみるか?」
黒丸の紹介を受けて、サーベルタイガーのラモンが低くうなり声を上げた。
「ぐるるる!」
「ヒッ!」
一人の男が悲鳴を上げる。
その様子をみて、ルーナがイセサッキをけしかける。
イセサッキは、大きな口を開けながら男たちに向かってゆっくりと歩みを進めた。
「グアアア!」
「や、やめろー! ヒイイイ!」
もう一人の男も、悲鳴を上げだした。
(案外アッサリと、おちるであるか?)
黒丸は、そんな風に感じたが、二人の男は予想外の行動に出た。
震える声で、歌を歌い出したのだ。
♪
おお! 我らが国を!
人民の意思によって建国しよう!
我らの革命に!
我らの団結に!
万歳! 旗を高くかかげるのだ!
革命の旗を!
人民の旗を!
我らの旗を!
インターナショナル万歳!
♪
突然の歌に黒丸は困惑した。
「ちょ……! 静かにするのである!」
黒丸は、二人の男にオリハルコンの大剣を突きつけた。
だが、男たちは、黒丸の大剣を怖がりながらも二番を歌い出した。
♪
おお! 雷鳴の剣!
支配者を打ち倒そう!
我らの革命に!
我らの団結に!
万歳! 剣を高くかかげるのだ!
革命の力で!
人民の力で!
我らの剣で!
インターナショナル万歳!
♪
歌っている間に、自らを勇気づけたのか、二人の歌声は力強く、革命の歌が荒れ地に響いた。
二人は歌い終わると、また一番から歌い始めた。
黒丸は、厳しく尋問する必要性を感じた。
ルーナは、自分たちの立場を理解せず、朗々と歌い続ける二人の男にイラッとしていた。
「黒丸。グンマーの刑?」
「ふむ……」
黒丸が南の方に目をやった。
遠くに岩だらけの砂漠が見える。
黒丸はしばらく砂漠を見ていた。
そして、何か思いついたのか、口の端をつり上げ、ニマリと笑った。
「いや……。サソリ固めの刑である! それがしに任せるである!」
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