第217話 黒丸師匠をあおってみた

 ――翌日。


 俺は、ルーナ先生、黒丸師匠、じいを連れて、サイターマ領都オオミーヤの街へ来た。

 じいを連れて来たのは、外交的に不味いことになった場合に、フォローしてもらう為だ。


 ついでといっては何だが、グンマークロコダイル四匹――マエバシ、タカサキ、イセサッキ、ミドリも連れて来た。


 サイターマでは、第二騎士団団長ローデンバッハ子爵が迎えてくれた。

 天幕に入り、早速、打ち合わせを始める。


「陛下。馬賊のアジトには、交代で上空から監視を行っています」


 ローデンバッハ子爵の手配に遺漏はない。

 二機を一組として、グースを交代で飛ばしているそうだ。

 馬賊が移動しても、上空から追跡できる。


「ご苦労様。動きはある?」


「はい。それが……かなりの数が出入りしているそうです。我が国だけでなく、ミスル王国内も荒らし回っているようです」


「なるほど……。それは、そうだよね」


 馬賊のアジトは、ミスル王国内にあるのだ。

 そりゃ、ミスル王国内を襲うよ。


 俺は自分の考えの至らなさに、自らの未熟を感じた。

 トップに立ったのだから、もっと、こう……見通せるようにならないと……。


 黒丸師匠が、愚痴をこぼす。


「なんだかなあ~である。ミスル王国の為に、我々が馬賊退治をするみたいで、嫌なのである」


「黒丸師匠。俺もそんな気分ですよ。けれど、サイターマ領に馬賊が侵入してきているのですから、やらざるを得ません」


「そうで、あるか……」


 いかんな。

 黒丸師匠のやる気ゲージが、どんどん下がっている。

 少しやる気を出してもらおう。


 俺は黒丸師匠を、あおってみることにした。


「グンマー連合王国は、おっかない所だと馬賊たちにわからせてやりましょう。そうすれば、二度とこちらに来なくなるでしょう」


「なるほど……! ただ倒すだけでなく、悪党どもの中に『グンマーは恐ろしい』と噂が流れるように仕向けるのであるな!」


「そういうことです」


 俺と黒丸師匠は、目を合わせてニヤリと笑った。


「アンジェロ少年。具体的に、どう対応するのであるか?」


「まだ、考えていません。馬賊のアジトを見てから、策を練りましょう」


「そうであるな~♪」


 黒丸師匠が、ニヤニヤと楽しそうにしている。

 隣のルーナ先生も、ご機嫌だ。


「楽しそう♪ イセサッキも喜ぶ!」


 俺たち三人の様子を見て、じいとローデンバッハ子爵が額に手を当ててため息をつく。


「お三方……ほどほどにお願いしますよ……」


「ローデンバッハ子爵は、面白みが足らないのである。人生はエンジョイした者の勝ちなのである。人族は人生が短いのだから、もっと楽しむのである」


 黒丸師匠の言葉に、ローデンバッハ子爵が呆れ顔で応じる。


「黒丸さん。普通は、馬賊討伐をエンジョイしません」


「それがしたちは、エンジョイしまくるのである」


「そーだ! そーだ!」


 ルーナ先生も加勢して、なんだか真面目なローデンバッハ子爵が悪いみたいになってしまった。


 俺は手を叩いて、会議の終りを告げた。


「はい! はい! それくらいで! じゃあ、偵察に出かけますよ!」


 俺は、黒丸師匠、ルーナ先生、じいを連れて、上空から馬賊のアジトを偵察に出かけた。

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