関ヶ原・・・2


「如水様!! 商人の風間という者が面会を求めておりますが如何致しますか?」



「その者なら見知った者じゃ、儂の私室に通す様に!!」



「はっ、判り申した!」



「よう参られた、その節は何かとお世話になり申した、遠路某にお役目でもありましょうか?」



「如水様!! 此度幻庵様から話を聞き私も大変に驚きまして御座います、まさかお二人でこの日に備えた策が施されていたとは、幻庵様より風魔の配下10名をお連れ致しましたので自由に手足としてお使い下さい、それと銭を些かお持ち致しました、こちらもご自由にとの事です!」



「本当でありますか? 間もなくであろうと準備をしておりましたが、忍びの者と銭までご用意下さるとは実にありがたい、黒田如水心より感謝していたと師であります幻庵様にお伝え下され、して風魔殿!! 戦はどのように動いておりましょうか?」



「三家及び東国は那須資晴様の御下知の下一糸乱れずに動いております、既に関ヶ原にて迎え撃つ準備を整えております!」



「して関白殿下側はどうなっておりますか?」



「大阪城にて念入りに準備を整えている様です、後七日もすれば関ヶ原に向かうとの調べが付いております、七日前となりましたので私が来たのであります!」



「時期が到来したという訳でありますな、この城には約1万の子飼の兵達がおります、銭雇の兵も沢山おりますが如何様にでも出張る準備は整っております、では我らも七日後に出陣致します!!」



黒田官兵衛は小田原包囲網での敗戦時に北条家に一時捕虜として身柄を捕縛させていたが実際は幻庵によって庇護されていた、両者は軍師という役目柄意気投合しており今後の在り方についても師が弟子に教える様に官兵衛の近い未来まで生き延びる術を手ほどきしていた、そして小田原での敗戦の責任と言う名目で自ら隠居し名を如水と改め黒田家は息子の長政に譲り長政は秀吉に従って従軍していた。


官兵衛は隠居に伴いこれまでの功労として豊前国6郡12万石を与えられており長政が従軍している関係で留守居役として城代を務めていた、そして事前に関ヶ原合戦に備えた役目を密かに幻庵より授かり子飼の兵達と銭雇の兵を用意して時が来るのを待っていた、既に如水の心は秀吉から遠くに離れており一日も早くこの九州の地を東国と同じく戦の無い地になる事を望んでいた、その元凶である秀吉を成敗する事は避けて通れないと覚悟していた。


黒田官兵衛は史実でも朝鮮出兵について秀吉に諫言したとされている、その諫言によって秀吉から勘気を被りこれ以上は命の危険があるとの判断が隠居に結び付く理由の一つでもあったようだ、又、有名な話として、秀吉が私に代わって、次に天下を治めるのは誰であろうか? と家臣に尋ねたことがあった、家臣たちは、即座に徳川家康や前田利家の名前を挙げたが秀吉は官兵衛であると言い、官兵衛がその気になれば、私が生きている間にも天下を取るだろうと、しかし家臣たちの反応は官兵衛が小身の大名に過ぎない無理であると述べたところ、秀吉は官兵衛に100万石を与えたらすぐにでも天下を奪ってしまうだろう」と答えたという。


官兵衛はこの話を伝え聞くと秀吉が自分を恐れていると判断し『我家の禍なり』と悟り、剃髪して如水と号したという逸話が、広く知られている話と言える。


その黒田如水が遠く九州の地より動き出す、秀吉を天下人に押し上げた軍師が此度は天下を秀吉から奪う為に動く事に。




── 秀吉出陣 ──



大阪に戻り念入りに準備した秀吉は全軍20万を率いて関ヶ原に向け出陣した、大阪城には控えの予備軍5万を残しての大軍勢となっていた、軍勢が膨れ上がった理由の一つに此れまでに改易させられていた大小の大名の残党達に戦で活躍すれば軍功としてお家再興を認め東国の地に領地を与え、更に三家の敵将を打ち取った者には10万石を与えると欲で浪人達を釣った事で大軍となっていた、秀吉は欲で釣った者達は最前線で人柱として利用する考えであった。



「これより諸悪の根源を退治致す為、豊臣朝臣秀吉が関ヶ原におる那須家を誅する、前進せよ!!」



秀吉は語る言葉とは裏腹に敵の中心は那須であり此れまでに二度大敗した経験をしている一つは上杉家を相手に織田信長が大敗した加賀大戦であの信長が危機に陥り秀吉がなんとか和議に持ち込んだ戦と二年前の小田原成敗であった、小田原成敗は秀吉が指揮を執った戦であり朝廷の仲裁が無ければ関白として存命出来たかどうかも怪しい程の大敗を喫していた。


相手が那須資晴である以上関ヶ原で待ち構えているという事は策を練り陣を敷き時が満ちるのを待っているであろう、これは余程警戒して陣を組み対処が必要と判断していた、その為に大阪城に籠り多くの忍びを放ち情報を得ていた、当然と言えば当然である。


一方の那須側の配置は史実における関ヶ原合戦の配置を洋一から詳しい情報を得ており対処していた、史実と一番違う事は相手が秀吉であり西側の諸大名に調略をしていない点であった、その為史実では本来重要な拠点となった筈である毛利側の陣地、南宮山を那須資晴の陣地とした、史実では毛利秀元が輝元の名代として西軍の大将として関ヶ原に布陣したが既に毛利家は家康の調略の下最後まで南宮山に籠り戦に参戦しなかった、家康が勝利したきっかけは小早川秀秋の裏切りと言われているが毛利軍1万6千が動かなかった事が呼び水となり小早川が裏切りを行えた理由でもあった。


史実での関ヶ原は寝返る家が多数あり三成は大敗する、それまではむしろ西軍側が有利に戦っていたと多数の記録が残されている、那須資晴はその事を知った上で寝返りの調略は一切行わずに戦に勝つ布陣を行っていた、その地こそ南宮山であり、南宮山より1.5キロ程西側の桃栗山に副将忠義と軍師竹中半兵衛の戦闘指揮所を配置した、史実では桃栗山に家康の本陣がある。


関ヶ原は伊勢街道と東山道(中山道)が交わる地であり丁度Xの字のように交差する地であった、中心のXから見て東側に大きい南宮山と桃栗山、西側は南に笹尾山、北天満山、南天満山、松尾山の陣地となる小高い山がある、Xを中心として東側が那須軍、西側が秀吉軍が配置出来るように資晴は布陣を整えていた、合戦の中心となる場はXの地点と言えるが、そのように成るように仕組んだ資晴と言えた。


処で何故秀吉は伏見城を焼き払われたにも関わらず大阪城で日数を費やしていたのか? 実は相手の主力が那須である以上九州から朝鮮攻略用に用意していた大砲の到着を待っていたのであった、当初船で運ぶ予定であったが小田の海軍に出会った場合船が沈められる可能性があるという事で陸路で運ぶ為に日数を要していた、この大砲は球状の鉄弾を飛ばすタイプの対船用の大砲であり破城用に南蛮から取り寄せていた国崩しと呼ばれたカルバリン砲であった。


史実ではこのカルバリン砲を国友村で作らせ大阪冬の陣で家康が使用している、砲弾の重さは約14キロ程の鉄球、飛距離は6キロ程も飛ぶ恐ろしい破壊力の大砲と言えた、その大砲を南蛮から10門取り寄せ、同じく国産で作らせた小ぶりの大砲50門を陸路で用意していた秀吉であった。


秀吉はこの二年余りの期間で那須の五峰弓についても調べ尽くしていた、小田原成敗での戦で敗れた主原因は那須の強力な弓と判断し、戦闘時に数本の五峰弓を手に入れていた、この五峰弓の強さの秘密を弓師に解明させ同じ構造の弓を作らせていた、結果弓自体の性能はほぼ同じ物が作られ、五枚の板から作られている五峰弓に対して日光弓と名を付けていた、名の由来は、秀吉は太陽の申し子であるがゆえに天下人になる資格があり仏の眷属である日光菩薩の力である諸苦の根源たる無明の闇を滅尽するとされる光明を発する弓という意味をこじ付け『日光弓』と名付けていた。


絶大な権力を維持するには目障りな三家を葬る以外に方法は無く、その中心である那須家を凌ぐ戦力を築くしか事が必須である、兵数だけ多くても敵に優れた武器が整っていれば勝てないとの教訓から二年余りの期間を利用して大砲と日光弓を用意した秀吉であった。


一方の那須資晴は武器という点では既存の兵器である木砲と北条家で造っていた鋳物の大筒を改良して新しい砲弾を完成させていた、新しい砲弾と言っても既存する技術を取り入れての砲弾であるが現代の戦争時にでも同様の目的で使用される砲弾と言えた、小田原戦で用いた砲弾は鉄球を火薬の爆発力を利用して飛ばし的に当てた物、又は者に対して被害を与えていたが、一発の砲弾による被害は小規模と言えた、そこで洋一から伝えられた新しい砲弾は命中した所を中心に広範囲に被害を広げる榴弾と呼ばれている砲弾を完成させていた。


飛距離では秀吉が南蛮から取り寄せた国崩しの方が有利と言えるが一発の砲弾としての敵に与える被害は榴弾の方が一回りも二回りも上の性能と言えた、それと五峰弓の封印を解き大筒の新しい砲弾である榴弾を用意した資晴、武器ではどちらが有利となるのか、国崩しによる大筒も日本史上初の登場となる、此度の戦で日本の運命は大きく変わる事になるであろう、関ケ原合戦開戦は目前へと迫った




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る