秋

 突如アイヌの事を調べましたが、簡単に少数民族という言葉で表現しますが、少数に追いやったのは間違いなく私達の先祖の仕業です、それとアイヌが交易していた地域を見ると驚く程の広域でした、交易の民、シルクロードと匹敵する距離かと、北海道全域~樺太の真ん中あたりまで、根室からは千島列島を越えカムチャッカ半島まで辿り着く訳ですから感嘆しました。





「御実城様、無事に北条が謝罪し和解されました事御目出とうございます」



「これで関東の地より争いが無くなった、管領として面目が立つ、長い戦続きであったが日ノ本の中で一番最初に平穏となれたは嬉しい事よ、後はあ奴ら一向の者どもだけである、後ろで手を引いている者は判明したか?」



「まだはっきりと言えませぬが後ろに本願寺かいる事だけは確かで御座います、その本願寺を動かしている者がまだ掴めませぬ」



「やはり本願寺で間違いないのか、何故我らを狙って一向の者達が一揆をこう度々起こすのだ、我らから宗門に事を起こしておらぬぞ!」



「それが隣の朝倉にも一揆が度々起きておりそれも朝倉と此方で交互に起きております、煽動する者が同じ者では無いかと思われます」



「解せぬ、何者が我らに仕掛けておるのか、他の地ではどうであるか?」



「本来なれば三河でも一向が騒いでも不思議ではない三河では一向の動きがありませぬ、三河の地にも一向の者多くあり一揆が起きても不思議では無いのですが、三河では平穏な事になっております」



「となると裏で糸を引くは武田かも知れぬ、一向を使い我らの動きを止めているやも知れぬ」



「我らの動きを止めて何になるのでしょうか?」



「悪の権化である、我らの動きを止めて何処かを狙っている筈よ、あの卑怯者のする事ゆえ、きっとそうに違いない」



「今川の寿桂尼様が亡くなった事と関係がありますでしょうか?」



「それは判らぬが、軒猿を使い、今川と武田を見張らせよ、何か企んでいる事は間違いないであろう」



「判りました」



史実では北条家とはいろいろと争いが絶えないが、三家同盟により北条も他国への介入をする必要もなく、管領上杉家とこれまでの事を謝罪する事で和議が整う事に、それにより北条家は内政と駿河侵攻に備えるだけであった。



小田家では千葉家での原親子によるお家乗っ取りの影響も無くなり離反し様子見をしていた国人領主達も小田家に臣従する事になりこの年は全ての領内で塩水選による田植えが行われ収穫を待つだけであった、それと嫡子彦太郎を柱とする帆船の士官学校も菅谷学長と里見副学長と隠居衆の活躍で帆船操作を行える者達も増え既に200名が卒業していた。



造船も船大工達が北条家、安房からも結集しており150名を超える陣容で300石の帆船が5隻が完成、さらに増産に取り組みと、一回り大きい500石船の造船に取り組んでいた、木材も連日那須から荷馬車により大量に運ばれておりこの一年で大きく様変わりしていた。



那須の国の石高が70万石を優に超えているという事は途轍もない力があるという事であり、この時代技術的に出来る事であれば大概の事は出来るだけの財力があると言っても良い、造船を数隻造る事など問題無い事であり、それが三家で行っている事を考えれば戦で使用される銭を考えれば大した事では無かった。



この年も三家で石高の増産も充分期待できる実りであり、その喜びを噛み締める時が間もなく訪れる。




関東の平穏な動きとは違い京周辺は騒然としていた。



永禄111568年9月26日、信長は朝倉で庇護を受けていた足利義昭を朝倉から織田の元に身を引き取り京を目指し、奉じて尾張、美濃、北伊勢の5万とも6万ともいわれる軍勢を率いて上洛した、この上洛戦には義理の弟、浅井長政も参戦していた。



この上京により織田信長は戦国史の主役となる、三英傑の最初の一人織田信長。


足利義昭は朝倉に何度も上京要請を出すも中々動かず、業を煮やし織田信長の元に身を寄せた、信長は明確に京に上る事を公言しており、義昭を手に入れ上洛を開始。


京を抑えていた三好三人衆、三好長逸・三好宗渭 ・岩成友通は上洛を食い止めようと反攻するも相次ぎ敗退し阿波に敗走してしまう。


本来、京には第14代征夷大将軍、足利義栄が三好の傀儡将軍として存在してはいたがこの時期、腫物を患って病床にあり身動きも儘ならず三好と阿波に共に敗走し、この9月に亡くなってしまった。


偶然にも義昭が京に上り将軍も敗走し亡くなった事により朝廷も足利義昭に対し10月18日、朝廷から将軍宣下を宣旨を受けて、室町幕府の第15代将軍に就任した。


上京を果たした事で畿内五ヵ国を制圧した(大和44.5万石、山城22.5万石、河内24万石、和泉14万、摂津35万、計140万石)織田信長は石山本願寺に京都御所再建費用に5千貫、堺に矢銭2万貫、尼崎にも矢銭を要求した。


石山本願寺の矢銭要求はその後大きな災いとなって信長に襲い掛かる、この時点では何も起きてはいない。




「如何する銭2萬貫を出せと言って来ているぞ!、今まで三好が堺を庇護していたから腹いせにそのような大金を要求したに違いない、如何するか、ここが会合衆の瀬戸際ぞ!」



「銭の要求は我ら堺だけなのか?」



「どうやら石山本願寺と尼崎にも要求している様じゃ」



「がめつい話であるのう」



「一旦銭を払うと何かと要求されぬのでは無いか、我らは何処にも属さない堺ぞ、ここは強きに出るべきでは無いか?」



「そうよ、いざという時の為に堀を巡らし、柵を作り賊が入れぬようにしていたのはこの為ぞ、会合衆の我らが弱気になれば他の者に示しが付かぬぞ、ここは断る事にしよう」



結果信長からの矢銭の要求を堺と尼崎を断るのであった。



信長が矢銭を要求するのには伏線があったようである、それは足利義昭を第15代将軍に擁立した信長に、義昭から管領・斯波家の家督継承もしくは管領代・副将軍の地位を勧めらるが、足利家の桐紋と斯波家並の礼遇だけを受け取り、それ以外を遠慮した、また、将軍から草津と大津、堺の土地を貰った、とある、この堺を将軍が信長に渡したとある、そもそもどんな理由で義昭にそのような事が出来たのか?、三好勢力を阿波に敗走させた事で堺を自由に出来る物と判断したのだ。



信長が足利義昭を担ぎ正式に将軍となった事で、将軍の命は絶対であり逆らう者は逆賊である、その将軍を支えている織田信長に逆らう事は将軍に逆らう事と同じであり、逆らう者へ武力による行動が始まった。



少し時間は遡り、山内一豊が秋の収穫前に根室より帰還した。



「よう戻った、どうやら無事に事が運んだ様であるな」



「はい、お陰様で滞りなく運びました、助殿が思いの他活躍されまして蝦夷人と事が運んだのです」



「そう言えば助の姿が見えぬが、家に戻ったのか?」



「それが助殿は蝦夷に残りました、本人の希望を聞き入れ残しました」



「一体何があったのだ?」



「ある程度話が出来る助殿、逗留している内に蝦夷の人達と一緒に狩に出かけたのです、その際に大きい蝦夷熊と遭遇し、助殿が仕留めたのです、蝦夷の人達が助殿を褒めたたえ、娘の婿になって欲しいと、やんや、やんやとモテはやされ、結局村長の娘と結婚する事になったのです」



「助殿は幾つであったのだ?」



「助殿は24才と申しておりました」



「えっ、そんなに若かったのか? てっきり父上より上と思うていたが」



「ええ、某も50位かと思っておりました、それと蝦夷人と見比べても相貌が似ており違和感がありませぬ、そんな事もあり、英雄となった助殿が残ったのです」



「結婚は助殿の両親に某が了解を得る事になっており、明年トペニを引き取りに行った際に婚儀を執り行う事になっております」



「それと助殿の事もあり、あの若者二人の村と隣の村、更に根室より少し離れた所に島があるのですが、その島にも蝦夷人が住んでおり三つの村と誼を通じる事が出来ました」



「それは良かったのう、彼らが欲しい物とはどんな物であった?」



「はい、米、穀物、織物類、糸類、針、酒、鍋、陶器、茶碗、鉄器、刃物、まさかり、鎌、鉈などです、特に鉄の刃物は多く欲しいと言っておりました」



「で、彼らから交易で頂ける物は何であろうか?」



「トペニは冬に女性が採取する仕事だそうで、問題なく集める事が出来ます、それと彼らからは、ヒグマ、エゾシカ、キツネの皮、海獣の肉と油、干鮭からさけ、干鯡ほしにしん、干鱈ひだら、串鮑くしあわび、串海鼠くしなまこ、昆布、魚ノ油、干鮫ほしさめ、塩引鮭しおびきさけなどです」



「干し魚であれば我らも手に入るが所違えば味も違うかも知れぬ、酒飲む者達には喉から手が出る物なのであろうな」



「土産に頂いて来ましたが絶品で御座いました、歯が折れるほど固く干されております、極寒の中で干した魚はとんでもなく旨味が凝縮されておりました」



「幸地達はどうであった?」



「それは皆重宝されておりました、長の家と助殿の住む家と大きい蔵を作りました、それと馬小屋を作り喜ばれておりました」



「蔵には持って行った米等酒も入れております、交換する品が揃えば渡す事にしました、それと那須家の幟も多数渡し、我ら以外の和人が嫌がらせをしに来た場合には那須の家に従っているので我らに手を出せばどうなるか知っておろうなと、脅せと、相手も引くであろうと話しておきました」



「念の為助殿には五峰弓と矢を100本渡しておきました」



「貴重な体験をする事が出来たようである流石一豊である、那須に来たい者などおらなかったか?」



「助殿を通じて今後来たい者がいれば受け入れる長と話して来ました、それとやはり和人と似ておりますが結婚すると女性が口の周りに入れ墨をするので最初見た時は驚きました」



「口の周りにか?」



「理由は判りませぬが結婚した証だそうです」



「油屋が琉球だったか、南蛮だったか忘れたが入れ墨をしている者がいるとか話していた、国が違えば風習の違いがあるのであるな、船はどうであった」



「やはり和船より船足が速く揺れ方も少し違う感じでした、足が速いと言う事で確かめると波をかき分けて進むようでした、和船は波に煽られながら進む感じですが、かき分ける感じで進みました」



「帆が多く速く進む事が証明された、この事は士官学校に伝えておい欲しい、今500石の船を造船していると聞いておる」



「300石船でも和船の500石程大きく、帆船の500石となれば勇壮で御座いましょうな、明年はその500石船で蝦夷に行きたいものです、300石で馬6頭運びましたから少々船内が狭すぎました、帰りは広すぎる程でしたが」



「次回は馬30頭は連れて行きより広く蝦夷に那須の旗をなびかせたいと思うが (笑)」



「それであればその新しい500石船と此度の300石の船があれば、50頭は連れていけますぞ、蝦夷の人達も馬を羨望の眼差しで見ておりました」



「お~どうせなら蝦夷に駐屯する兵もいた方が良いかもな、如何思う?」



「いろいろと蝦夷の人と商いで交換できる場を作り、そこに兵も駐屯させれば治安も安心で御座いますね」



「役人も数人おれば那須家蝦夷代官出張所とすれば明確に蝦夷が那須の地になるぞ、それは良い案である、父上にも相談致そう、それと一豊、忘れておらぬであろうな?」



「なんで御座いましょう?」



「そちの汚名を返上する時が間もなくよ、今年はぬかる出ないぞ、半兵衛が必勝の策を伝授すると申しておった」



「汚名とは・・・もしや・・あれですか?」



「そうよ、太郎が槍突きの調練で腕を腫らしたにも関わらず、三条のお方様から追加の500回を槍突きを命令され、ついに両腕が麻痺し、便にてお尻を拭けなくなり飯富に拭かせ、この年になってまで若の穴を拝むとは情けないと、太郎の武威が地に落ちたあれよ」



「あれは某の責では御座いませぬ、我が妻まつもあれは運が無かっただけであると・・」



「えーーい、うるさい、今年は断じて勝たねばならん『綱引き』で勝つのじゃ、二年連続で太郎の尻を拝む事に成ったら飯富殿が哀れである」



「判り申した、見事この一豊、若様の期待に応えて見せましょうぞ」



夏の盆踊りも各地で定着し今年は三家の領内で大小100を超える地で開催された。

9月下旬から収穫が始まり、蘆名会津領も塩水選を行い四年振りに豊作となった。


那須正太郎の弟武太郎が元服し蘆名へ養子となる事も近隣諸国に知らせ、特に伊達家が横槍を入れない様な手を打ち正式に臣従となった、又、佐野家でも従来7万石であったのが9万石と豊作になり、正式に那須に臣従する事を申し入れ那須へ組み入れる事になった。



その結果三家の石高は。


那須が従来の81石が87万石に増え、そこへ蘆名28万石、佐野9万石が加わり124万石となった。


小田家が昨年より千葉家から離れていた国人領主も戻り118万石から140万石に。


北条家は昨年170万石から185万石となった、これにて三家の合計は、449万石になった。



戦が無いという事が如何に領内を豊かにする事が出来るのかという証明であった。

この石高は特に諸国に発表する訳でもなく、諸国にはここまで三家で大きな石高を得ているのかを知る者はいなかった。



当時全国1850万石と言われている中、約25%を占めている事になる。


しかし石高=兵数と言う訳ではない、国力に見合う兵数が整うまでには時間を要する、石高を背景に三家では常時用意出来る、常備兵の数を整える改革が進められる事になった。


三家の目標は10万という兵を常備兵に計画し推し進める事に。


通常この石高を基に計算すれば12万~13万強は兵数として用意出来るが、それは農兵の足軽を計算に入れた場合である、農繁期でも10万が動けるとなれば実に大きい戦力となる。




「よし徳川に密書を遣わせ、我らも総力戦となる兵糧武具整えよ、収穫が終わり、油断しているであろう師走に駿河に攻め入る、抜かるでないぞ!」






早い物で138章まで来ました、まずは目指せ150回です。

上洛した事で三好を追い払い得た石高って凄い数字です、これに尾張と美濃という基礎が加わります。まさに信長が主役に躍り出ました。

次章「富国」になります。


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