発展と衰退
小田原成敗を経て早や2年が過ぎた、1588年田植えも終わった初夏に新しい江戸城が完成したとの報告を受け三家の面々は江戸城に参集した、江戸とは現在の山手線内回りであり地理的には北は北区周辺、南は品川周辺、東は秋葉原周辺、西は新宿周辺と言える範囲であり東京23区の中心エリア、それ以外の下町はまだまだ未開発の広大な地が残されており、なんとか城を中心に町が形成され始めていた。
江戸城とは現在の皇居であり日本の象徴の場と言える、この時点では城本体の完成であり城郭の完成はさらに10年後となる、やっと城のシンボル本丸が完成した。
「氏秀殿! ご苦労様である立派な城が完成しましたな、お目でとう御座る!!」
「那須資晴様! お褒め頂きありがとうございます、那須様、小田様、そして本家の多大なる支援によってなんとかここまで出来ました、まだまだではありますが日ノ本の都に相応しい城にして参ります!」
「氏秀殿! 後学の為に教えて頂きたい、一番苦労している事はなんであろうか?」
「それが城作りより大変なのが水の手配なのです、築城は資材と人があればなんとか行けますが100万人が住める都となれば水の手当が一番大変であります!!」
「してその水の手当は解決出来たのでありますか?」
「今はまだ無理であります、今は精々15万人がなんとか暮らせる程度の水しかありませぬ、ただ幸いに小さい河川が至る所にあり助かっております、それらの河川改修を行い更に飲料は上水道を引き入れる予定となっております」
「確かに100万となれば相当な水が必要となります、小田原城でも10万人都市と聞いております、その10倍とは想像出来ませぬ!!」
「某の小田原は戦では領民も避難出来るようになんとか兵と併せて一時的に20万人が暮らせるようにしましたが、やはり一番の問題は水でありました、既存の井戸では全く足りず生活水は雨水を大甕に貯めて利用しておりました」
「洋一殿の世界ではその100万人の13倍まで大きな都市となります、一体どのようにして水を得ているのか某も聞いておりませぬ、後ほど確認してみます!!」
史実においても頭を悩ませた問題にこの水の手当という大問題が人口が増加するたびに江戸では起こっていた、それに伴い利用した汚水の下水処理と言う大きい問題に直面する事に、何しろ日本の歴史上100万を超える都市の開発は初めてであり河川の改修、人が住む為の湾岸地域の埋め立て、そして上下水道の確保と道路整備など人力で行わなければならなかった。
東国の地では戦が止んでから10年以上経過しており安定した内政に各家が取り組み石高の増加と共に人口の増加、町の発展等これまでに無い豊かな領国に発展していた、しかしそれとは反対に小田原成敗を機に西側の西国では発展と言えるものが見当たらず現状維持を保つ事すら大変な状況と言えた、その理由は関白による無駄な城作りによる普請の強要であった。
秀吉が作った城として有名なのが大阪城、聚楽第、伏見城等がありこれらは主に西国の者達による普請であり、ここへ来て更に名護屋城の普請まで命令された事で方々で反旗とも言える怨嗟が聞こえ始めた、その犠牲となった者が現れ秀吉の狂気に拍車がかかる事に。
その犠牲者とは秀吉の最大の天下人に押し上げた功労者と言える『織田信孝』が切腹となった。
── 織田信孝 ──
江戸城滞在中の那須資晴の下に忍びの和田衆より尾張で異変が起き『織田信孝』が関白の怒りに触れ切腹となったとの急ぎの報告がもたらされた、何故その様な事が起きたのか、一国の領主が切腹させられるなど考えられぬ変事であり只ならぬ出来事、急ぎ詳細を調べる様にと命を伝える最中第二の報告が入った、尾張の当主に織田信雄が復活したとの話であった。
「那須殿! 某が聞いていた話では秀吉が織田家を掌握した際に活躍した最大の功労者が三男の織田信孝であったかと、その恩人とも言うべき信孝が切腹に追いやられ、関白に反目していた次男の信雄が当主に返り咲くなど摩訶不思議な話かと思われる、那須殿は心当たりはありませぬか?」
「北条殿!! 某の聞いていた話も北条殿と同じであります、大阪で・・西国で異変が起きて居る証左ではなかろうか? 只某にも思い付く事柄はありませぬ、洋一殿からも何も伝え聞いておりませぬ、考えられる事は想像を超えた異変だとしか言えませぬ!」
小田原成敗の後に秀吉は天下を掌握するには東国は何れ支配すれば良いと考えるに至り、先に朝鮮王国を侵略し支配下に置こうと結論を導き出した、西国の兵と朝鮮の兵を動員し東国への東征であれば充分に勝てるという考えに至ってしまった、本来であれば朝鮮出兵を諦めさせるた為の朝廷による和議仲裁が良からぬ方向に走り出してしまった、その事で真っ先に秀吉に牙を向き反対したのが織田信孝であった、信孝にしてみれば織田家を譲った恩人であり自分の意見であれば聞く耳を持つであろうと考えての諫言であったが、それが秀吉とって許せぬ勘気に触れた結果に繋がった、秀吉は信孝が知っている秀吉では無く小田原成敗での敗北で狂人化した秀吉であり魔人へと変貌していた。
秀吉は信孝の事は大いに認めていたが既に過去の人であり今は単なる尾張の大名、その大名が天下人に諫言を堂々と述べるなど以ての外であり許せなかった、そこで信孝の下で幽閉勅許となっていた次男の信雄を赦免し当主復活の餌を与え忠実に命を聞く様にと条件で、信孝に謀反の疑いをかける罠をかけ切腹に追い込んだのが真相であった。
信雄と信孝とは異母兄弟でありこれまでに何度も信雄による誘いで被害を受けていた信孝であったが最後は秀吉の罠でこの世を去る事になった、秀吉に必要な者とは傀儡であり命を聞く者だけが周りに残るようになって行った、小田原成敗の後に秀吉の下に戻った黒田も敗北の責任を取り隠居となり代を息子の黒田長政に譲り秀吉から去っていた、秀吉に諫言出来る者は弟の秀長と正室のねねと母親の大政所だけと言える、他の者達は追従するだけであった。
信孝の切腹という知らせは西国を心肝させる事態に、一国の当主であっても何かしらの疑いをかけて殺害に至る秀吉の強権政治に静まり返るしか無かった、各大名には抗う力は削ぎ落されており毛利であっても見知らぬ振りしか出来なかった、那須資晴の下には経緯が詳しく調べた内容が届くと同時に公家の山科からは朝鮮出兵が避けられない事態に発展しているとの文が届いた。
「北条殿! 小田殿!! 関白は密かに朝鮮に渡る船の造船を九州の家々に命を発した様である、我ら東国は従わぬと判断して西国の者達だけで出兵を行う様である、山科殿より何とかならぬかと、帝が我らに会いたいと申しているようじゃ、如何致せば良いであろうか?」
「京は敵地でありますぞ、見つかれば我らは殺されますぞ、我らが殺されれば東国の維持は難しくなります、行く事は反対であります」
「某も北条度と同じであります、那須殿! 行ってはなりませぬ!!」
「では山科殿に此方に来て頂きましょう、三河であれば京より近くとなります、徳川殿に一役買って頂きましょう、確か奥三河の地で秋から冬にかけて各地で花祭りが昔より息災を祈る祭りが行われております、山科殿と他に何組かの公家衆を招待して頂きましょう、三河の地であればこちら側の地となります、如何様にも取り計らう事が出来ましょう!!」
「それは良い案じゃ、公家衆を招待する形であれば疑わられぬであろう、秋口であれば今から手を打てる、船を造る命を出したからと言って簡単には完成せぬ、何十もの大船であれば時間も要する、年内に我らが何らしかの計を考えても時間があるでありましょう、それまでに某も西国の情勢を調べましょう」
「では北条殿、家康殿と計らって下され!!」
── 軍師玲子の力技 ──
「玲子さん小田原成敗で三家が勝利しても朝鮮出兵が強行されるようです、歴史が変更されずに刻が早まっています防ぐ方法はあるのでしょうか?」
「私もこんな結果になるとは思わなかった、勝利した事で歴史よりも早く朝鮮に侵攻する事になるとは残念で仕方が無い、歴史の修正力は本当に凄い力だと思い知らされたは、信孝まで史実と同じように切腹してしまうとは・・・これは秀吉との戦いではなく歴史の修正力との力と力の戦いに変更しないとダメかもしれないね」
「え、敵は秀吉じゃなくて歴史の修正力と戦う? なんの事? はぁー・・・」
「こう考えればいいの、歴史通りに進ませようとする力に対してこちらも修正出来ない程の事を行うと言う事、歴史を知っている私ならこの流れを強制的に力技で歴史を捻じ曲げてやるの、修正力が追い付けない事象を湧現すればいいのよ!!」
「それは・・・どんな大それた事をしようとしているんですか?」
「一気に関ケ原合戦が起こるように三家を中心に秀吉の西国と雌雄を決してしまうの、秀吉が止まらない以上、こちらから無理やり行動を起こすのよ、どうせ関ケ原合戦も後に控えている訳だからそれを利用してあげるのよ、朝鮮出兵を逆に利用してあげれば歴史の修正力もびっくりする筈よ!!」
「私もびっくりしてますが、強引過ぎる様に思います、三家は此れまでに一度も大阪を初め西国に攻め入った事がありませんが大丈夫ですか、大義名分とか問題ありませんか?」
「侵略する為の戦じゃないのよ、朝鮮出兵という愚かな戦を回避する為に行う関ヶ原なんだよ、大義は充分にあるは、秀吉にこそ大義など何処にも無い愚かな戦なんだよ、今回は強引に歴史に介入して修正力が及ばない現象を自ら作るの、此れ迄は待ちの姿勢でその都度対応して来たけど、それではダメだという事がはっきりしたのよ、仮に何もしなくて、秀吉が朝鮮に勝った場合は本当に三家は倒されるよ、修正力を甘く見ていると大変な事なるよ!!」
「そうなると歴史では朝鮮に負けた事実はどこに行くの?」
「仮に朝鮮が一時的に負けた事で秀吉に従って三家と戦った後にきっと朝鮮の兵達は反旗を翻して今度は秀吉側が負けるという修正力が働くんじゃないかな、想像だけどね、それほど修正力はやっかいな代物、そのやっかいな修正力を強引に捻じ曲げてやるのよ!! 私に任せなさい!!」
「・・・確かに既に史実より時間が早まって動いていますから修正力でも追い付けない事象が起きてます、秀吉が止まらない以上・・手を打つとなれば余程の計画を実行しないとダメなのかも知れません、軍略と言うか戦略が決まりましたら教えて下さい、それを資晴に伝えます」
小田原成敗が予想に反して結果的に歴史より早く朝鮮出兵へと突き進む秀吉、それを止めさせる為に次に起こる関ヶ原合戦を利用しようとする玲子の戦略、歴史は突き進む、史上空前の規模で日本が二つに分かれての天下分け目の大合戦『関ヶ原』朝廷を巻き込んで歴史は大きく動き出す。
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