品評会と秋祭り


収穫を終え三回目となる秋祭り、料理の品評会は二年連続で該当する料理が無く、今年は中止にした方が良いと相談された正太郎も悩んでいた。



「正太郎無理に開催しなくても良いのだぞ、二年連続で表彰するに値しない料理ばかりでは今年も期待が持てぬ、止めた方が良いと思う」



「では今年は料理だけではなく自作の菓子も含めて見ては如何でしょうか? それと表彰する作品には報奨金を先に周知させ、広く募集しては如何でしょうか、それと綱引きと同じ様に参加する者達は各村で予選を行い勝った者一名だけが参加出来るように絞ったらどうでしょうか?」



「報奨金と予選であるか?」



「確かに報奨については周知しておらなかった、それではやる気が出ないと言う事か、ではその報奨金は如何程にするのだ」



「そうですね、民達が喜ぶ銭となれば、米一石分の1貫(現代の10万円)ではどうでしょうか?」



「お~それ位であれば手軽であるな、名誉も付くであろうし、そう致そう、では正太郎から料理の品評会は、料理でも菓子でも良いという事で村で予選を開き勝った一名が参加する事にしよう、周知を手配してくれ、あと20日程であるぞ」





── 秋祭り ──




三度目の秋祭り、例年通り多数の露店販売が用意され年々参加する領民も増えて来た、各領内でも行われているが最大規模で行われる烏山の祭りは又特別な物であった。



料理の品評会は初日、二日目に各村から予選を通過した者、又は村を代表する者がそれぞれ参加した。


 二日間でお藤のお方を初め領主達の奥方、侍女衆による品評が行われ、それぞれ良いと思われた作品が三日目に表彰され褒賞が渡される事になる。



「その方がこれを作ったのか?」



「味噌で味付けしていると思うが、なんの魚であるか」



「魚はアジです」



「お主が考えた料理なのか」



「申し訳ありません、昔からある物で常陸の漁師たちは食しておりました」



「ネギとミョウガ・・・シソも少し入ってるのか?」



「はい、ネギだけでも問題ありませぬ」



「殿方が好む逸品であるかも知れん、この料理に名はあるのか?」



「はい、『なめろう』と申します」



『なめろう』後にも先にも酒好きにはたまらない逸品と言えよう、あまりの美味しさから皿まで舐める所から付いた名前の『なめろう』が登場した、常陸、上総、下総の漁師達が船の上でまかない料理として食していたとされる、揺れる船で作るために味噌を利用したとされる、噂ではあるが小料理屋、居酒屋であまり見かけない理由に、『なめろう』をメニューに加えると単価が安く、利益幅が無い中『なめろう』ばかり注文が入るからメニューに載らないとの噂あり(本当かどうかは不明である)。


「『なめろう』というのだな、生臭くも無い、後を引く味じゃ、魚と材料は用意するゆえ、夕餉に殿に出してみよう、済まぬが夕刻に城の賄い方に出向いてくれ、その方の名は何という?」



「はい、海と申します」



「では海よ、門番に名を伝えておく、頼んだぞ!」



「はい、判りました」



 初日から『なめろう』の登場に二日目も大いに期待したお藤の方。



「今日の品評会で漁師達が食している『なめろう』なる魚料理が出ました、夕餉の酒の肴にと用意致しました、殿のご意見をお願いします」



「これであるな・・・確かに魚が細かく切られておる・・・味噌の匂いじゃな、どれ・・・うん・・・うん・・・これは、旨い、酒も進む、米に乗せ食するのも良いかも・・・いや、これは肴に良い品じゃ」



「魚はアジだそうです、他の魚でも出来るそうです、下野の国は陸の国でしたのでこの『なめろう』という品を知りませんでしたがこれ程美味しいとは妾も驚きました、城下にはその日に獲れた魚が荷馬車で入り新鮮な魚が売られています、この品は烏山でも広がる逸品になるかと思います」



「絶妙じゃ、魚と味噌とネギが相性が良いのじゃ、これは立派な料理ぞ!」



「良かったのう、今年は初日から良い料理が出たのう、三年待った甲斐があった逸品ぞ!」



翌日にも常陸の海側の村から参加した女性の作品に注目が集まった。



「これは・・・・ところてん・・・なのか? 似てるが・・・・」



「そなたがこれを作ったのか?」



「はい、そうで御座います」



「ところてん、を工夫したのか?」



「はい、同じてんぐさを用いて、溶かした湯の中に牛の乳と砂糖を入れみかんを入れ固めた物になります」



「甘くてみかんとの相性も良い、食後の口直しに良い・・これは女性向きの物ぞ!」



「この品に名はあるのか?」



「いえ、ありませぬ」



「皆の者これを食して見よ、良い名があれば述べて見よ」



ところみかん、乳みかん、みかんの固・・・・



「どれもこれも禄な名では無いな」



「そなたの名はなんと言うのじゃ」



「はい、珠と申します」



「珠か・・・・これだけ良い品であれば妾の『那須プリン』に匹敵する品じゃ!・・・このみかんを花の輪のように配置してじゃな『珠華プリン』と名ずけよう、絶品の品である、そなたの名を取り妾のプリンと言う名も合体させ、さらにみかんを華として並べる事で『珠華プリン』と致す、秀作の品である、珠よ見事であったぞ!!」



みかんが入った牛乳寒天である、材料はところてんと同じてんぐさを使い、ところてんの良さを応用したデザートである、ところてんの歴史は1200前以上からあり古くからの品と言えよう。



「珠よ、この『珠華プリン』妾が広めるゆえ、そなたは、城下町に甘味屋を作るが良い、妾が費用他全てを支援する、この『珠華プリン』をさらに工夫し、種類を増やすのだ、どうだやって見たいとは思わぬか?」



「夢の様な話で御座います、本当に宜しいのでしょうか?」



「妾はそれ程気に入った品であるぞ、それと甘味屋となれば、数種類は必要であろう、那須家菓子ご意見番飯之助と公家の錦小路殿と三者にて品を選定し種類をいくつか増やそうでは無いか、店の名も必要であろう、そこは素直に『甘味処珠』と致そう店名の横に那須家の家紋も掲げ那須家が認めた甘味処とするのじゃ、さすれば領内に支店も出来ると思うぞ、妾が付いておるので安心するが良い」



あまりの話に驚き、仰天する華であったが、支店どころの話でなく、この店は小田原にも小田家の領内にも支店が出来る事に繋がるのであった。


戦国時代に甘味処という庶民が自由に甘い物を楽しめる店など画期的な出来事であり、平穏なる地で無ければ無理な事である。


そしてこの日は、もう一品菓子の類である逸品が出されていた。


「これは・・・小腹が空いた時に・・これ又、秀逸な逸品じゃ、皆の者食して見よ」



「もぐもぐ・・・もぐもぐ・・・ふっくらしてて美味じゃ・・・小麦か・・・・」



「これは小麦じゃな、それと砂糖少し入っておるのか、色が黄みなのだが、なんでじゃ」



「はい、お方様が卵の普及を図っておりましたので溶き卵を混ぜているからです」



「ほう、だから黄み色なのじゃな、この汁は砂糖を溶かし煮詰めた汁であるな」



「はい、その通りで御座います」



「その方の名はなんと言う」



「はい、みつ と申します」



「みつ であるか、先程の珠にも甘味処の話をした、その方も加わり店を二つ出す事にしよう、共に同じ様な品になると思うが『珠華プリン』を食べる場合は珠の店に、この品を食べる場合はみつの店に行く様にすれば棲み分けが出来よう、みつの品にも名が必要じゃな」



「なにが良いかのう・・・そうだ、油屋が持って来たカステラと匹敵する旨さじゃ、生地も似ているきっと同じ麦から出来ておるのであろう、であればこれもカステラの仲間じゃ、間違いない『蜜のカステラ』と名付けようではないか『蜜のカステラ』である、その方にも先程の珠と同じく店を出す、双方で研鑽を深め甘味処を普及するのじゃ、妾がその方達の後ろ盾になる」



これにより甘味処『甘味処珠』『甘味処みつ』の二つの店が城下に出来る事になった。


『なめろう』『珠華プリン』『蜜のカステラ』の三品が表彰と褒賞を受け取り大成功となった。




そして大問題となった綱引きである。





── 綱引き ──




「某嫌で御座る、もう出たくありませぬ」



「某も同じく出たくありませぬ、もう飯富殿に尻を見せたくありませぬ」



「何を言われるか、儂の方こそ皆の尻を見たくありませぬ、好きで見ているのではありませぬ! 一番の被害者は某飯富でありますぞ!」



「ではどうすれば良いのじゃ!」



「問題なのは太郎殿の母上が鬼に変化するからあのような罰となるのです、太郎の母上をなんとかせねばなりませぬ!」



「では太郎に聞く、どうにかなる物なのか?」



「牙をむいた虎の前では犬となり、尻尾を振るだけです、飯富でさえ、腹を見せ敵意が無い事を示すだけで御座います、若様も昨年は我が母上を見て逃げておりました」



「むむむむ・・・そうであった、止め様としたが無理と悟り、とばっちりが来る前に逃げたのであった」



「え~い、ではどうするのだ! もう失格など出来ぬぞ! 判っておろうな!」



「ご安心下さい、この半兵衛今回は必ず勝つ策を授けます!」



「よしでは、こう致そう、今までの6名の中から代わりに出たい者はおるか?」



「・・・・・おのれ・・・・何故無言なのじゃ! 半兵衛はどうなのじゃ?」



「ゴッホ、ゴッホ・・・某まだそこまで身体が強くなって・・ゴッホ・・・おりませぬ‥ゴッホ!」



「へた糞な猿芝居をしおって、では最早調練じゃ、それしかあるまい、蛇行は無しじゃ、良いな!」



こうして正太郎チームは例年と同じメンバーによる三度目の綱引きとなった、秋祭りは今年も各競技が行われ大盛り上がりの中三日目のベスト8による決勝ランドを迎えた。



1、佐久山村、木こり衆(去年も決勝戦に進出、得意の木こり歌を歌い勝ち上がった)


2、からす山村(去年の優勝チームである、当主組を決勝で破り勝者となった)


3、福原村(去年下馬評とは違い正太郎組に勝ちベスト4まで進出)


4、工夫組(金山で働く工夫達、力自慢の者達去年は、力を出し切れず初戦敗退ベスト8止まり)


5、長野組(長野業盛が選んだ力自慢の者達昨年は決勝ランドに出るも所詮敗退のベスト8止まり)


6、マタギ衆(マタギ衆の熊みたいな連中、去年は人見知りのメンバーが多く初戦敗退ベスト8止まり)


7、正太郎組(山内一豊を大将にいつものメンバー、前評判であったが、蛇行綱引きを行い失格となる)


8、当主組(当主資胤が選抜したチーム、去年は決勝でからす山村に負け二年連続の準優勝に)




「おい今年も昨年と同じ顔触れの村じゃな?」



「ひとつの村で力自慢6人を用意して勝ち上がるのは至難の業よ、おれんとこの村にも凄い奴がおるが六人もいなくて予選で落ちてしまったわ」



「今年もからす山が優勝するんでねぇーか?」



「でもあの長野組が去年より凄く強いって噂が立ってるぞ!」



「ほう、それは見物だな」




「これより八組による勝負を行う、呼ばれた組は前に出よ!」



「長野組対福原組、用意せよ!」



「良し、我らの本当の力を見せる時が来たのじゃ! 昨年とは違う所を見せてやれ」



長野業盛の箕輪衆は武田と戦をしなかったこの一年間、2000名の箕輪衆に綱引きの練習をさせていた、近くの河原にある大きい石を綱で引き城に運び城の強化に使い、堀を深く掘り綱で石を下ろし設置する、綱が関わる作業を綱引きに例え一年間も鍛えたのである。


長野業盛曰くチーム名を『シン・グンマ』に改名した。


群馬県の群馬とは、およそ1300年前(694~710年)の資料によると、現在の群馬県の中に『車評くるまのこおり』(「評」は大宝律令によって「郡」となる)と呼ばれていた地域があったとされています。


奈良時代に入るとすぐ、和銅6年(713年)の諸国の風土記編集の勅令により、国・郡・郷名はその土地にあった漢字二文字で表すこととされ、国名『上毛野国かみつけのくに』は『上野国こうずけのくに』に、郡名『車くるま郡』は『群馬くるま郡』に改められました。


この群馬郡くるまぐんにちなみ群馬県の県名が初めて使われるようになったのは、第1次群馬県が成立した明治4年10月28日のことです。これは、明治4年の廃藩置県を受けて、高崎・前橋の大部分を含む大郡であった群馬郡を県名とすることがふさわしいと判断されたことによります。これにちなんで、10月28日は群馬県民の日となりました。という事が群馬県のHPに紹介されていました。



ここで長野業盛より審判に長野組では無く『シン・グンマ』で紹介するように依頼され再度。



「シン・グンマ対福原組用意せよ!」



「我らシン・グンマの力をみせるのだ、新しいグンマの力を見ている奴らに見せつけろ、この一年間の苦労を思い出せ、勝つのは我らグンマだ! 行くぞ お~! 」



「な~にびびる事はねぇー、たかが去年一回戦負けしたグンマだ、いつもの調子で行くべえー、お~! 」



「良し、では、勝負開始! 」



「シン・シン・シン・シンぐんまシン・シンぐんまシンぐんま、俺達ぐんまシンぐんま~ぐんまー、ぐんまぐんまぐんまー、俺達ぐんまぐんまシンぐんまー、俺達ぐんまぐんまシンぐんまー」



「えっさ、えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ! えっさ、えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ!」



「おっ、グンマの奴ら掛け声が去年と違うべ、シンとか言っているぞ! なんか調子狂うな」



「俺達ぐんまぐんぐんま、シンシンぐんまーシンぐんま! えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ! 俺達ぐんまぐんぐんま、シンシンぐんまーシンぐんま えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ!」



「勝負そこまで、勝者シン・グンマ! 勝者シン・グンマ!」



「おっ、長野組じゃねぇーシン・グンマが勝ったぞ、業盛殿の組が勝ったぞ、大丈夫か、うちは?」



「若様大丈夫です、何しろ調練の際に絵師に飯富が尻を拭いている絵と、他に必殺の絵を書かせ、調練の際に絵を掲げ緊張感を持たせましたゆえ、問題ありませぬ」



「ははは、半兵衛よ、飯富の絵はともかく、必殺の絵とは儂までとばっちりを喰らわぬであろうな!」



「何、勝負とは勝って官軍と申します、戦功があれば許されます!」



「なんか恐ろしい話であるのう、まあー儂が半兵衛に任せたのである、お主を信じよう!」



「次からす山対工夫組、用意せよ!」



「優勝候補のからす山が出て来たぞ、相手は工夫だ、こりゃ~からすの勝ちだべぇー」



「良し、位置について、勝負開始!」



「よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ」



「からすのよいしょが始まったぞ、あのよいしょが厄介な音頭なのよ」



「コウフ、コウフ、コウフ、俺達コウフ、コウフ、コウフ、俺達コウフ、コウフ、コウフ!」



「なんか綱が動かんぞ、工夫の奴ら~、強ぇーぞ、からすの奴らが押されているぞ!」



「俺達コウフ、コウフ、コウフ、俺達コウフ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、よいしょ、俺達コウフ、よいしょ、、俺達コウフ、よいしょ、、俺達コウフ、よいしょ 」



「勝負そこまで、勝者コウフ! 」



「番狂わせが起きたぞ、二年連続のからす山村が負けたぞ、こりゃ~大変だ!」



「次、正太郎組対佐久山村、用意せよ! 」



「良し一豊頼んだぞ、今年こそ勝つのだ!」






相変わらず綱引きが人気ですね、料理の品評会ついに禁断の『なめろう』が出てしまいました、ある噂では料理対決で禁断の品であると、これに勝てる肴が無いと言う・・・本当かどうか判りませんがそんな話を酒好きな私は聞いた覚えがあります。

次章「勝負の行方」になります。


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