第22話 正太郎の政と戦準備


 その夜は資胤主催の平家の里の者への歓迎の宴であった。



「ささ今宵は無礼講であり大いに疲れを癒してくれ、わしの奥である、藤である」

(史実では名前が不明である為、藤とする)



宴では那須にて流れる那珂川より名物の鮎が特別に甘露煮として振舞われた、鮎の甘露煮は鮎と砂糖を煮詰めた、甘い香りであり、鮎の香魚としての香りと口の中で溶けていく、なんとも言えぬ美味なる食べ物である、砂糖にて煮詰めている為とても高価な逸品である。



「ささこれなる鮎の甘露煮は、儂ですら滅多に口に出来ぬ魚ゆえ、今日は特別よ、堪能してくれ」 



正太郎も滅多に口に出来ぬ甘露煮を二匹も食べ、三匹目に手を出そうとして、母上より、これ正太郎、母上の分まで食べるでない、と怒られ、侍女百合より、そうです、若様はいつも甘い物から先に食べ、さも食べていない振りをして又食べるのです、と皆の前で言われてしまった。

(おのれきっと父上に寝しょんべんを告口したのは百合であったか、後で成敗してやると、子供心に顔を赤くして聞こえない振りをした)



暫くしてより、男衆は勝手に盛り上がり、やはり母上と女衆とに分かれ、翌日は平家の者と村へ田の稲の状態を見に行った。



「村長どうであるか、稲穂の状態が良いと聞いているが、どうであるか?」



「はっ、この田とほぼ同じ大きさの田7枚に正太郎様からのお言い付けのやり方で田植えを致しました処、この通り実りが豊かに頭を垂れた稲穂が実っております、あと三週間ほどで稲刈りの作業に入ります」



「見たところ例年こられの田から約35俵取れますが、確実に40俵は充分行けるのではないかと思いまする」



「ふむでは、新しきやり方で収穫は増えると考えて良いのじゃな、では来年の田植えでは、この村全部に新しき田植えで行えるようにしようではないか、増えた分、そちたちに取っても実入りが増えるゆえ、良い事になる」



「はっ、実入りが増える事であれば皆喜び、行いまする」



「どうであるか女将、天狗よ、これなれば、里でも行えば些か、米の取れ高も増え、親のない子への糧にも充てられるのではないか?」



「ありがたい話です、既に里には10名の親無しの子を、我が子として、鞍馬の者達として育てております、これであれば、引き取る子を増やし、里も幼子の笑いに溢れた里として希望が見えて来す」 



「平蔵よ、父上が近き内に、某に村をふやして頂けるとおっしゃっていたので、その村にも同じ様に行うゆえ、田植えの際は平蔵から皆の者にやり方を伝授してあげて欲しい、来年は一気に収穫増を目指そうぞ」 



「はっ、承知致しました、先ずはこの田の収穫を楽しみにして御座います」




「そう言えば、天狗殿、椎茸はどうなっておる?」



「はっ、言われた通り木を切り準備し、なんとか椎茸を5つ見つけ、約50程の穴に、植え付けておりまする、まだ芽は出ておりませぬが、期待したい所です」



「おおそうであったか、それは良かった」



その後、村長とも別れ、領内を案内し、翌日に女将と鞍馬天狗は帰った、その夜に、就寝している所へ洋一から、ある危険な意思が伝わり、翌日、朝餉を終え、取り急ぎ忠義と父上の元に行く正太郎、父上の私室行き、扉の前でよろしいでしょうか、と声をかけ入室し、正太郎より。



「洋一からの新たな意思が伝わり、急ぎ参りました」



「うむ、何があった、どの様な内容であるか?」



「はい、洋一から伝わる内容は後二年程で佐竹が那須へ侵攻してくる様であるとの、意思が伝わりました」



「なんと、どうしてその様な事が・・・よりによって又、佐竹が来るというのか」




 「洋一からの意思では最近、那須家の為に、軍師を得たそうです、その軍師によれば佐竹との長き争いが二年程で始まるとの意思でした」



「おのれ、またもや佐竹が性懲りもなく先の戦いで、大関高増との連合で攻めて来た際も追い返したと言うのに、懲りない奴目、今度はその首落としてくれん」



「正太郎も良く聞くのだ、あの佐竹は自分の都合に合わせ、これまでにも、味方の振りをして近づいて来たり、敵になったりと蝙蝠の様に飛び回り、これまでにも、何度も那須と争って来たのよ、洋一殿の軍師からの情報が、洋一から伝わったのだな、それなれば間違いなく来るのであろう、それにしても軍師を得たとは、なんと心強い事であるか、諸葛孔明なる様な軍師なのであろうか、無理とはいえ、是非お会いしたいものじゃのう」



「父上それが、洋一からの意思では女人の軍師の様であります、洋一も逆らえない程の深き力ある軍師の様です」



「なんとそれは460年先の時代には、我らには考えられない英傑の女傑がいるのであるな」



「あい解った、今より二年後なれば、『那須五峰弓』もある程度揃っているであろう、五峰弓のお披露目を佐竹の者どもに食らわせてやろうではないか、正太郎、これより鞍馬の弓之坊と那須家の弓師と図り急ぎ弓の数を整え、いつでも迎え撃つ準備を整えようぞ、良いな!」



「はい、忠義、鞍馬の者五名を呼ぶように手配じゃ」



夕方には正太郎の私室に集まる、正太郎、忠義、百合、侍女見習い梅、弓之坊、小太郎、戌、飛風、申の10名にて、談合を行なった。



「今より大事なる話がある、心して聞く様に、今より二年以内に、我が那須家に佐竹が侵攻して来るとの大事な知らせが入った、父上と相談し鞍馬の者とこれより準備に入る、一切他言無用である、よいな!」



「忠義と弓之坊は、さっそく那須家の弓師と計り『那須五峰弓』の作成に入ってくれ、矢もしっかり用意する様に手配してくれ、佐竹との戦時にお披露目として、痛い目に会わす事になった、ふふふ・・佐竹を逆に叩き伏せようぞ」



「百合はそのまま梅を従え、私と奥を支えてくれ、佐竹の忍びが那須家にも入り込んでいるやも知れず、一応、母上を支えている侍女たちにも注意をしてくれ、この事は母には内緒である」



「戌いぬいは二年間で私は鷲の扱いを教えて欲しい、特に遠くにいる敵を上空から見る俯瞰の目として手名付けたい、小太郎は父上が城外に出られる際に、付き従い父をお守りし、飛風はこの件を鞍馬に伝え、数人でも良いので出来る事なれば、佐竹領内に配下の者を忍び込ませ動きを探るのじゃと、伝えてくれ、申はワシの側にていつでも動けるようにしていて欲しい」



「この度の我らの動き誰にも察知されては行けない、何も起きていないという普通の生活に努め静かに動くのだ、村回りもこれまで通りに行い政は続けて行くのだ、以上である!」



史実にある佐竹との長き戦が、洋一との影響もなく行われようとしているのであった。





正太郎の打つ手に注目、勝利に導けるか。

次章「関八州補完計画発動!」になります。



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