第58話 政


 那須軍は5月3日に烏山城を進軍してより、一週間後に凱旋帰国した、烏山城の賑わいは空前絶後の装いであった、正太郎は、那須が勝ったと知った時に近隣周辺の村々に那須の大勝利祝いを領民と共に行うと振れを出し、臼とツキを用意して10日後に集まる様に指示を出した。



それと菓子職人飯之介に大豆を挽いてきな粉を作る様に命じ、麦菓子の次はきな粉との戦いに突入に、集まった領民にきな粉餅を振舞うと計画し、一万人は食べれる粉を用意しろと、指示を出したのである。



お抱え商人茶臼屋には、一万人分のもち米と酒を整える様に手配させた、酒を飲めない者には、麦茶に砂糖を入れた特別な飲料を用意する事にした、開催された那須大勝利のお祭りは過去最高の人出となった。



各武家の奥方衆総出で、鹿肉の干し肉と猪の干し肉入りの巻き狩り鍋が用意され、兵士達による100ヶ所で餅つきが行われ、きな粉のお餅、酒飲み放題と甘い麦茶が振舞われ、太鼓あり、踊りありと、領民共々が那須の地に新しい時代が来た事に、譜代の民達が総出でお祝いの祭りとなった。



これが後の烏山、山あげ祭りである、尚、町のHPにはこの様に紹介されている。


『永禄3年(1560年)時の烏山城主那須資胤が、当地方の疫病防除・五穀豊穣・天下泰平を祈願し牛頭天王を烏山に勧請しました。その祭礼の奉納余興として、当初は相撲や神楽獅子等が行われていました。』と紹介されている。



大勝利お祝い祭りは、身分の上下に関係なく、誰もが喜び会った、翌日に城の広間で喜びの評定が開かれた。



評定では、今回新たに得た領地は那須家本家の領地とし、各七家より棚倉、塙、大津には芦野、伊王野家から代官を派遣、馬頭、大子、高倉、荒川(高萩)を大関家、大田原家、千本家、福原家で代官を派遣し、代官は那須本家の下に付き、政を行う事とした、先ずは佐竹領から那須の領地なった所には、ベテランの代官を配置し治める事にした。



各七騎の家に、褒美として、芦野、伊王野、千本、福原の家に各500貫(5000万)、大田原に700貫(7000万)、一番大きい、大関に1000貫(1億円)の褒美を渡す事を告げ、亡くなった兵の家にそれぞれ5貫、負傷者には見舞金1貫を別に支給する事とし、計4000貫の支出になった。



各家で今後を見据え、那須全体として、4500名の軍勢を整える様に兵士の採用を整備する事に、特に内政が弱いとして、政の基本である、内政の者も採用する様に指示を出し、その後評定の間は宴会となり、大騒ぎの楽しい賑わいに。




那須七騎の芦野が喜びの声を上げた。



「此度なにしろ嬉しい事は海の領地を得たと言う事です、これは途轍もなく凄い事になります」 



と、言えば、本当です、如何にも、快挙で御座いますと、皆が感嘆し、そこへ忠義が海の浜に着いた付いた時の話をした。



「某、若様が言われていた通り、棚倉を抑え抑え、大津の浜に辿り着いた時に大泣きいたしました、皆で泣いたのです、知ってはいましたが、本当に海の水はとても、しょっぱくて飲めませんでしたが、何度も何度も飲んでみました」



その話に評定の間にいる者達もその光景を浮かべ涙を流していた、当主資胤も、その方の活躍は皆が知っている事ぞ、ささ、忠義、此度はようやった、ようやった、と言って盃に自ら注いで上げた、それを見ていた他の者も、次から次と、資胤に某にも頂きとう御座いますと、甘え、それぞれに注いで、皆で乾杯した。



その夜は、朝まで、宴会が続き、笑いが絶えない評定の間であった、翌日に正太郎は、自室の部屋に、忠義、天狗他いつものメンバー10人程を呼び、そこへ明智十兵衛、竹中半兵衛も招き入れ、軽い食事とお酒を用意し、慰労の声を掛けていた。



「皆の者、本当にようやった、皆のお陰で、那須に新しい光が射した、これにより道も開けるであろう、ささ先ずは乾杯じゃ」



「明智殿、竹中殿、此度の戦い、しっかり観戦は出来であろうか? 如何であったか? 思う所を教えて欲しい」



では某からと明智十兵衛が話しはじめた、正直申しますと、小さきお家の那須家と大きいお家の佐竹との戦、良くて負けない、籠城にて時間を掛け、佐竹が引き下がればこれ以上ない所であろうと思っておりました、しかし、結果は、想像できない、石高が三倍となり、海まで手に入れてしまう、織田と今川の桶狭間の戦いを超える戦となり、今も興奮が冷めておりません、と言えば、竹中が、これ程見事な軍略は古今何処にも無き戦かと、佐竹の犠牲は計り知れず、立て直すのに相当な年月を伴い、もはや那須にあがなう事は出来ないかと、それに、海の道を手に入れた那須のお家は、福運計り知れず向上する事間違い無し言えますと褒めたたえた。



うむうむ、そうかそうかと聞く正太郎、そこへどうやってこの様な軍略が描かれたのか、正太郎殿はどの様にしてここまで勝つ絵を描く事が出来たのかと聞いて来る二人であった。




正太郎より、その秘密を明かすには、二人が私に仕えるという返事が無いと秘事を教える訳にはならないのだと話す、ここにいる者と、私の父は、その秘事を知っている、説明するには、二人が私に仕えるという覚悟が無ければ言えぬのだと説明した正太郎。



正太郎からの秘事は簡単に教えられぬという話を聞き決意を述べる二人。



「今日この場を持ちまして、若様に仕え、臣下になる事を誓います」



「うむ、大変に嬉しい、では私の秘事を話そう・・・・460年の先の洋一から・・・・軍師玲子・・・という訳なのである」




沈黙する二人、竹中半兵衛が、これで全て筋が通りました、与一様から流れる系譜の正太郎様、これは時の流れを超えた魂の繋がりが無ければ起き得ぬ事柄、必ず那須が世に出る証です、正に納得出来る話です、と答えた半兵衛。



すると十兵衛が、その460年先から洋一殿の話では、この後、那須の家はどうなっていくのでしょうか? と質問され、笑いながら説明する正太郎であった。



その事よ、那須の領地が広がり、家は今まで小さい家であった為に問題が無かったのだが、大きい家になるので、その洋一から、そち、十兵衛を雇う様に言われてその方に接触したのじゃ、そうしたら竹中殿まで仕えて頂ける事になり大助かりになったのじゃ、と笑う正太郎であった。



「では、我らは、当の昔に若様の手の上で転がされていたのですな」



すまんすまん、儂も考えてみれば460年先の洋一と軍師玲子殿に転がされているのよ、と大笑いとなる、そこへ、実はまだこの戦終わっておらぬ、もう一つ大掛かりな仕掛けがあるのじゃと説明する正太郎であった。



忠義が、まだ何か他にあるのですか? と聞く、実はな、佐竹から取った大子という宿場があるだろう、その近くの山から金が取れるというので、今回その場所を千本が父から、佐竹を追撃する時に兵を借り、あの押さえた山が金の山だそうなのだ、と説明し、皆一同驚愕する。



「この事はまだ父しか知らない、いずれ金が出れば、七騎の重臣には伝える事になっている」



既に山師の松男が数名を引き連れて調べに入っておる、正確な場所を洋一殿から聞いておるので大丈夫であろうかと思うと説明した正太郎、石高が三倍、海を得、金まで手に入れれば、と考える正太郎の配下・・・各自で色々と勝手に考え、にやける一同。



「十兵衛と半兵衛の親兄弟それに元領民など希望する者達を呼ぶ様に、私の持っている5つの村と今作っている職人の村とは別に、一豊の騎馬隊一同が住める家屋も全部そこへ作る予定なのじゃ、そこに新しい村を幾つも作り私が自由に政が出来る様に父からも資金をたっぷり頂いておる」



「領民も増やし、職人も増やし、戦闘部隊も増やし、那須の国を下支えする町を作る予定なのじゃ、間もなく私が住む館も完成する、それを拠点に作るのだ、この拠点造りは十兵衛に任せたいがどうである?」



それと父上に上京して頂き、帝と将軍の元に行く予定である、その時に十兵衛には供をしてもらう予定じゃ。



「半兵衛には、今後10年20年先を見据え、内政に明るい者、軍略に明るい者等那須に取って必要な人材の育成と、460年先の洋一から伝わる軍略を今の時代に適する軍略に変えて行く、私の軍師になって欲しい」



今後の未来を見据え、それぞれが希望を持って語られた、ここに明智十兵衛と竹中半兵衛が正太郎の配下となり、いよいよ次の章が開幕して行く事に。



正太郎と父資胤は此度の戦いで、横槍が入らない様に近隣の大名家に手を打っていた、佐竹が那須を侵攻して来たので撃退し、逆に佐竹が支配していた領地を戦にて取った事、あくまでも佐竹が先に戦を仕掛けて、それを退け領地を得たと言う事の説明の使者を送り、事なきを得た。



ただ、白河結城家からは、苦情の横槍が入ったのである、使者の口上は棚倉の町は佐竹が侵略し半分を無理やり取られた地である、もともと白河結城家の領地である、塙、矢祭は烏山に近い所なので致し方なしとて認めるので、棚倉の半分を白河結城家に戻す様にとクレームが入った。



この使者との話し合いでは、資胤はこれまでの経緯を良く知っており、元々白河結城家の領地である事は充分に理解していた、又、白河結城家では、これまでに、塩を融通してくれる等、それなりに友好的な関係であった、その為、正直頭を痛める内容であった。



使者への返答は直ぐに回答せず、そのまま滞在させ返事を待つ様にし、正太郎は父にある提案をし、それを持って回答とする事にした。



翌日使者に正太郎から使者殿言われた事は理解出来るが、そもそも佐竹の侵攻を許し、棚倉の町半分を取られた事は当家には全く関係が無い事であります、それを我ら那須の兵が血を流し佐竹から取った半分の領地を返せとは、戦国の世で甚だ恥ずかしくて言い出せぬ事を言われるとは実に驚きであります、まして塙と、矢祭は認めるとは、それこそ当の昔に佐竹に白河結城家が取られた領地で御座います、それを今更認めるとか。



使者殿よ、某の様な童でも、物事の善悪、道筋は知っております、と話すと、顔を真っ赤にし、恥じ入る事を交渉している自覚に青ざめる使者であった。



「だが、これまでの我が那須と白河結城家とは、塩を融通して頂けていたという恩も御座います」



正太郎からの話を聞くうちに明るくなる使者に、此度戦で血を流し、得た領地です、その者達に納得のいく説明が無ければ棚倉をお返しする事は出来ませぬ。



我ら那須は此度新たに、大津まで手に入れております、そこへ行くには棚倉を通らねばなりませぬ、そこで、棚倉への通じる道は、那須家の者が通る場合は関税は無し、荷物改めも一切行わず通行の自由を認める事、血を流した領地である以上、それに見合う領地返還の代償として銭3万貫(30億円)を支払い買い戻す、という条件を使者に伝えた。




使者は大津までの関税と通行の自由は問題無いが、銭3万貫は途方もない銭ゆえ、一旦この話を持ち帰り当主の判断を仰がなければならない、と話し一旦帰還する事に。





きっと楽しい祭りだったと、他人事の感想です。

取れる所からぶんどる気満々の正太郎、意外とやり手です、次章「波紋」になります。

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