第57話 「ときは今 あめが下知る 五月かな」


 小田軍が佐竹居城太田城を攻撃しているとの報に接し、那須との戦いを諦め、急ぎ撤退する事になった佐竹軍、殿は前当主佐竹義昭を中心とする600の兵である、佐竹義重は1700の兵を引き連れ急ぎ戻る事となった。



 那須本陣に物見櫓から、アウンが敵の本陣に動きがありとの知らせ、確認すると、鶴翼の陣から長蛇の陣という、正面からの攻撃に耐える、防御専用の陣へ移行中、佐竹軍全体が馬頭の後方に移動している、道幅の狭い場所に移動し、両側からの攻撃を防ぐ布陣を敷きながら後方に下がっていた。



 那須資胤は、小田軍が太田城に攻撃している事が伝わり、撤退を開始したと判断、全軍で追撃戦に入ると指示し、全軍を前に前に推し進め殿を務めている佐竹の兵600に襲い掛かった。



 鞍馬の配下より佐竹が撤退戦に入った事が正太郎に伝わり、その知らせは瞬く間に那須烏山城に広がり大歓喜に包まれた、正太郎も全身を震わせ歓喜に包まれていた。



 これにより殿の佐竹兵は一斉に襲われる事になる、防御に適した陣形とは言え、騎馬隊からの遠射という真上からの矢と、直射による矢の攻撃を防ぐには盾兵の数が不足しており、被害は徐々に広がっていた、それでも前当主義昭を逃がす為に踏ん張るも、陣形は半刻程で崩壊した。



 義昭は30名程の馬廻役に守られ、いち早く殿しんがりから離れ大子に向けて急ぎ撤退してたが、相川の先で、先に太田城に向かった義重の撤退したはずの軍勢が見えてきた、一体何事が起きているのか確認させるも、烏山城に向けて進軍した際に自ら設置した馬防柵に邪魔をされ、先頭集団が柵を破壊し進めるも、何ヵ所も設置していた為に、中々進む事が出来ないという最悪の事態が生じていた。



 あと、半刻もすれば那須の追撃の兵達に襲われてしまう、このままでは全滅の憂き目にあうと考え、撤退している後方の兵達に急ぎ、木を倒し、道を塞ぎ時間を稼ぐのだと指示を出し、後方にいる部隊が両側の斜面に上り木を枝を折り、倒木などで道を塞ぐも、中々思う様に進まず、ここでも殿の兵を用意し、時間を稼ぐ事にした。



 大子に抜けるまでの道は隘路であり、幸い道幅は狭く、守りやすい地形ではある、至急殿しんがりの兵200を配置に就かせ、那須の軍勢に備えた、そうこうしている内に前方の部隊が馬防柵の撤去が終わり、撤退の兵が動き出したが、殿に追いついた那須の騎馬隊が襲い掛かった。



 ここでも熾烈な攻防となるも四半刻30分程しか保てず、急ぎ撤退する佐竹軍、それを追う那須軍、太田城を目指し帰還する佐竹の軍勢、大子を抜け、前進するも、追い付かれては殿を作り、突破されては、殿を作りと時間を稼ぎ、撤退時に義重が率いた1700の兵は、残り1100まで減らし、太田城目前に、しかしそこには既に城手前増井村に小田軍が布陣していた。





 ── 佐竹VS那須小田連合軍 ──




 太田城目前には小田軍、後方から那須軍が迫り佐竹軍を挟撃する事になる、軍略で描かれた通りの場面がここに湧現した、佐竹側の選択肢は、降伏か、このまま小田側に突撃し、活路を見出し、城に向かうかの二通しか無かった。



「父上、ここまで来たら、城に戻りましょう、このまま降伏したのであれば、亡くなった者達に顔向け出来ませぬ、あと一戦、小田を突破すれば活路が見えます、よろしいでしょうか?」



「勿論である、今一度皆に声を掛け、突撃しようではないか、お主の背中は儂が守るゆえ、皆を引き連れて突撃せよ」




「皆の者よく聞け義重である、我らは見事太田城目前まで帰って来たぞ、俺達の勝利である、目の前にいる小田を突破し、見事城に帰還しようぞ、いくぞ皆の者ついて来い~! 」



 お~お~、城に帰るぞ~! と雄叫びを上げ、小田軍に突撃する佐竹軍。



 しかし、どんなに鼓舞しようとしても、身体の疲労は限界に達しており、小田の布陣を突破出来ず、後からは容赦ない矢による攻撃を受け、佐竹兵の屍を増やし、佐竹軍は瓦解してしまう、もはや戦う兵も残り僅かとなり、佐竹兵に降伏を呼びかけ、投降する者を捕縛し、それでも逆らい刃を向ける者達には容赦なく始末するしかなかった。



 最後に佐竹の軍勢は残り200の一塊が身動き出来ない状態で中心にいる者を必死に守ろうと円陣が組まれていた。



 小田那須の両軍は静かに100間程離れた位置に留まり、相手の出方を待つ事に。



「義重ここから先は儂に任せよ、ここにいる者の命は儂が預かった、静かに見ておれ」



 前当主義昭は、重臣の一人に何かを囁き、槍の穂先に布をかけ、那須軍に向かった。



「某、佐竹義久と申す、当主義重の使者として参った、降伏の話し合いに参った」



 と告げ、当主資胤の元に通された、通された陣幕の中に資胤と重臣達複数が床几に座ってた、使者の佐竹義久は出された床几に座り。



「此度の戦、これにて降伏致します、前当主佐竹義昭様の腹にて収めて頂きたい、残りの者の命はお助け頂きたい」



「では佐竹殿の命を持って降伏の証として他の者の命を助けよという事であるな」



 はい、と答える使者であった、暫し思案する資胤、では、降伏の条件を前当主佐竹義昭、現当主佐竹義重と重臣代表を伴ってここに来て頂きたい、それと小田家当主小田氏治殿も同席となる、佐竹の兵は武装解除に速やかに応じるようにと伝えた。



 半刻後、武装解除も終わり、那須軍の陣幕に、資胤ほか重臣数名、小田氏治他重臣数名が控える中、佐竹義昭、佐竹義重、佐竹義久が通されそれぞれ床几に座り降伏の条件が話された。



 那須家重臣、大関より、那須小田側の条件が佐竹に提示された、その条件を聞き、顔色を鉛色に変える佐竹親子。



 条件とは既に那須家にて押さえている領地、馬頭、大子、高倉、小菅、荒川高萩の海から北側大津浜、棚倉寺山砦から矢祭、塙、までを那須の領地と認める事。



 小田家にて既に押さえている、霞ケ浦北側の、行方郡なめかた、鹿島郡を領地と認める事という思いがけない条件が伝えられた。



 そこで声を上げたのが、佐竹重臣、佐竹義久が今言われた領地を既に那須と小田にて押さえていると言う話は本当の事なのでしょうか?、全く信じる事は出来ませぬ、いつその様な事をされたのでしょうか?と興奮して訊ねた。



「そちらが那須に進軍を開始されたので、こちらも動き既に先程述べた領地は那須、小田の兵にて固めています、お疑いするのであれば急ぎ早馬を出し、確認するがよろしい、それまで御三人はこのままここにいて頂きます」



「領地はこちらが戦にて取った物であり、降伏の条件ではありません、これまでに何度も、那須、小田に戦を仕掛け、此度は佐竹の完全な負けで御座います、よってこれまでの仕置きとして両家に銭1万貫を詫び料として差し出す事が条件となります」



「義昭どの、これまでの数々の戦、我らには恨み辛みがありますが、そなた義昭殿の命は入り申さぬ、そなたが亡くなれば、若き当主の義重殿もこの先、立ち行きならず国内が荒れるでしょう、それらを押さえ、政を行うには、父であるそなたが、必要であると考える、よって此度は義昭殿の命はいり申さぬ」



 暫く無言の中、声を上げる義重、父上、ここは、戦で取られた領地は致し方ありません、銭1万貫を詫び料として支払い、国へ戻りましょう、資胤様、負傷し取り残された兵達が多数いるかと思います、と当家に戻りたい兵に温情を頂けないでしょうか? 佐竹の国に帰還させて頂けないでしょうか?



「もちろんです、押さえた地でも戻りたい者にはその様に致します、ご安心して下され」



 結果、降伏の条件を飲み和睦となった、これにて那須は新たに10万石の領地を得、小田家も10万石の領地を得たのであった。



 無事に太田城に帰還した佐竹兵は200、負傷者の中でその後佐竹領に戻った者700、負傷した者の中で、新たに得た那須小田の領地に留まった者、1000、死亡者が2100という大きい犠牲であった、那須小田の被害は死者数十名負傷者併せて100という、佐竹に比べて如何に少ない犠牲であった。





 ── 今成洋一と玲子の披露宴 ──




 時は数日遡り、洋一と玲子の結婚披露宴、サプライズが山場を迎えていた、あの場面です、洋一は犬のぬいぐるみ(九尾の狐)に向け、矢を射るも外し、司会者が外してしまいました、新郎が見事に外しました、と笑って話し、場内からは、ばか野郎~、時間をかえせ~、そんなにキスしたくないのか~とか、接吻はどこに行った~など叫ばれ爆笑の渦が巻き起こっていた。



 置いて行かれた玲子、私はどうすれば? 恥ずかしさ一杯であった、洋一の顔は血の気を失い、青い顔に変化していた。



 この流れは最初からこうなる様に桜先輩が仕込んでいた、司会者より、このままでは二人には幸せは訪れません、会場の皆さん新郎洋一さんにもう一度チャンスをお願いします、と声をかけ、大盛り上がりの中、再度挑戦となったのであった。



 ここで司会者より、新しい弓が渡され子供用ではあるがちゃんとした別の弓が渡され司会より大きい声で『一射入魂』と叫ばれた。



 再度挑戦をする事になった洋一に、戦国の正太郎より、那須が勝った、佐竹を破り、勝ったという意思が伝わる。



 先程とは違う洋一の顔、玲子を見つめ、顔を上下に、唇から勝った、勝ったと玲子に伝えた、唇を読み取った玲子、勝った事に安堵すると共に涙を流す玲子、そこへ洋一が矢を構え、『一射入魂』と叫び、見事犬(九尾の狐)を射止め、それを見届けた玲子が洋一に寄り添い熱いキスが交わされた。



 司会初より、もう結構です、もう止めて結構ですと、友人知人達からも、バカ野郎いつまでやってんだ~、見てる方も顔が赤くなる接吻という名のキスであった。



 その後は、恒例の新婦が両親に感謝を変な感謝を述べていた、お父さん、お母さん、これまで育ててくれてありがとう、涙声と鼻水どばーっと出しながら、私は今日から洋一さんと新しい人生を歩みます、今成玲子から、今成玲子になります、という会場中が? になった感謝の言葉であった。




 無事に披露宴も終わり、誰かが、今成万歳!~、叫び、その声に反応した80名を超える今成が一斉に今成万歳!~今成万歳!~今成万歳!~~ と会場中に今成が響き渡っていた、その様子に桜はこれはまるで、今成万歳じゃなくて、今成漫才だね~と笑っていた。



 休憩を挟み、友人知人達による二次会が式場の別会場でその後行われ、テンションマックスの玲子は、特技のこれだけは出来るという、ムーンウォークを披露し拍手喝さいを受け、楽しいひと時を過ごし、全てを終了した。






 玲子のムーンウォーク面白いです、他の章でも出す予定です。

 次章「政」になります。

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