第56話 『関八州補完計画』発動・・・1-4


5月6日早朝、佐竹軍は鞍馬に追いやられる形で馬頭宿に流れ込んで来た、そこへ佐竹の物見から前方に那須の軍勢が攻撃態勢を整え、今にもこちらに攻撃を仕掛けてきますと報告を受けた佐竹義重。



佐竹義重は急ぎ布陣を敷く様指示を出し、方円の陣を敷き、奇襲攻撃対処の布陣を指示した、義重は父義昭からは鶴翼の陣で那須烏山の軍勢を城へ追いやり、籠城戦を行い、那須を下すと聞いていたが、これまでの襲撃と既に那須が待ち構え攻撃態勢を整えている事を見て、方円の陣、奇襲を防ぐ陣を敷いたのである。




── 小田軍 ──





小田軍は佐竹が進軍を開始した5月3日に常陸太田城に向けて行軍を開始、予定通り5日夕刻には太田城手前6キロの額田に陣を構えた。



6日卯の刻朝6時に佐竹が馬頭から烏山に向けて進軍した事を、辰の刻五つ半朝9時に報告が入り、小田軍はすぐさま太田城に向けて進軍を開始した、道は直線、陸前浜街道と言う主要街道であり、半刻一時間もあれば太田城に着く距離である。



太田城では、精鋭500が本軍に向けて城を出た後、5日の日中には、小田の兵が太田城方面に進軍して来ると、報告は入っていたが、まさか弱小の小田家がこの城に攻撃を仕掛けて来るとは予想すら出来ていなかった。



城には500名の兵がおり、平城と言えども、たかが小田の軍である、何も恐れる必要は無いと、小田の動きだけを警戒せよと指示が出ていた、そこへ、小田の軍勢が太田城に向けて動き出したとの知らせが入り、籠城に向けて兵を配置、太田城前に布陣した小田の軍勢はこれまでに見た事のない兵数であった、その数、優に2000を超えている事に驚く城内。




小田軍は布陣するや否や、小田家当主、小田氏治は攻撃せよと号令を発したのである。





── 激突 ──




馬頭では佐竹が方円の陣を敷く中、那須は、鏑矢を放ち、法螺貝が鳴り響く中、騎馬隊が一斉に佐竹に襲い掛かる。



精鋭の騎馬隊15隊が前後左右から150間の距離を取り弓を放ち、攻撃を開始。



馬頭は、標高が100m~140m前後、左に武茂川があり、その川に沿って、幅300m~1500m、奥行き4000mの胃袋の様な地形をしており、両軍が戦うには充分な広さがあり、騎馬が自由に動ける広さであった、ここに本格的な両軍の戦闘が開始されたのである。



佐竹軍も方円の陣を固め、前面に鉄砲隊を配置し、鉄砲を次から次と放つも距離がある為、那須騎馬隊に被害は確認できず、盾兵を前面に配置している為、佐竹側にも被害は軽微であった、資胤が騎馬隊に遠射と直射を指示すると状況は変化し始める。



遠射で上空に矢を放ち、佐竹軍の真上から矢を打ち下ろしたのである、真上から降って来る矢に対して盾兵も盾を上に向けざるしかなく、盾を上に構えた処へ、今度は別の矢が直射で盾が横から、正面からと盾が無い所に襲い掛かった。



盾は多くあれど盾兵が持っている盾は1人で1枚であり、上空から来る矢を防げば、直射で飛んで来る矢を防げないのである、上空に向けて遠射攻撃が始まると被害が出始める佐竹軍、その状況を冷静に判断し、佐竹義重は。



「前面の盾兵は正面から来る矢にたげ対処し、二段目、三段目にいる兵は上空から来る矢に集中せよ」



徐々に那須騎馬隊の攻撃にも慣れ、被害が減少したと判断した義重は、全体を馬頭の中心に押し出し初め、一番広い、胃の形の地形の中心地に向けて、方円の陣構えから翼を広げ初め鶴翼の陣に移した。



佐竹の動きを見て、流石であると感心する資胤。



「敵が間もなく鶴翼になる、足軽兵に鋒矢ほうし三隊(鋒矢の陣形3隊、1隊200名)は両翼の翼と、佐竹軍本陣に向けて陽動突撃せよ」



この3隊の動きは鶴翼の翼に対しての陽動作戦である、向かって来る鋒矢ほうしの陣は、攻撃力に特化した、一点突破の陣形であり、伸びきっている翼、兵の厚みが薄い翼に対しては、弱点を突かれる事になる、翼を壊され突破されてしまえば、被害は甚大となる。




似た様な戦いで、三方ヶ原の戦い、徳川家康が鶴翼の陣、武田信玄は魚鱗の陣(攻撃特化の陣)で対峙した時に兵力の少ない家康が鶴翼の陣を敷き、兵士の多い武田軍がよりによって攻撃に特化した魚鱗の陣で対決したため、家康が全滅の憂き目に遭い、惨敗した戦いがある。



本来は兵が多い方が鶴翼で敵を包み、兵が少ない方が攻撃を主にした陣形で戦わなければ互角に持っていけないのである。



佐竹軍は兵法通り、定石通りに那須軍を包み込む様に鶴翼の翼を広げ、対する那須軍は攻撃特化の鋒矢の陣形を3隊作り、翼に鋒矢「↑」の形に兵を配し、突撃させた、向かって来る突撃に対して鶴翼の翼の周りの兵達は突破される訳には行かないので、兵を集結させ厚みを持たせるのである。



そこへ厚みが出来た鶴翼部分に那須騎馬隊が弓で攻撃を仕掛ける、弓攻撃の始まる前に「↑」の形で突撃した鋒矢兵は急ぎ反転し後方に下がりる、これはあくまでも陽動である、その攻撃が繰り返される中、佐竹義重も那須側の意図を読み、盾を上手く用い、被害を軽減させながら徐々に進軍し陣を前に前に押し上げ、那須軍を包み始めた。




既に戦闘開始より、数時間を経過し、未の刻午後二時を過ぎ、このままあと一押し、押し込めば那須軍は烏山に押し込めると判断した佐竹義重。




那須軍の犠牲者は数える程度の少数であるが、翼の圧力に徐々に劣勢になりつつある状況であった。




一進一退の攻防を繰り広げる馬頭の地、このままでは佐竹軍に押し込まれる、資胤は鶴翼の翼に鋒矢の陣形の兵に、陽動ではなく、実際に突撃させ、その後ろに騎馬隊がなだれ込み乱戦に持ち込むしか無いと判断した。



鋒矢兵に突撃させた後、楕円を描いて本陣に戻る様に指示し、乱戦となっても留まらず何処までも突き進むだけの攻撃とし、騎馬隊には崩れた翼に徹底的に矢を打ち込む様に指示を出した。



資胤の指示のもと突撃する鋒矢の陣、その距離100間に迫っても迫る勢いが留まらず、より速度を上げる鋒矢の陣に、後ろから騎馬隊各100騎の騎馬が続く、その勢いは、目前に途轍もない大きい岩山が迫る迫力があり、防御する佐竹の翼は、その突撃に一気に崩れてしまった。




鶴翼の翼三ヵ所が土石流に襲われ、一気に駆け抜ける鋒矢兵と騎馬隊になすすべが無く、この日1番の被害が生じた、瞬く間に3ヵ所で300人が犠牲になってしまった、しかし数の優位は圧倒的に佐竹にあり、この犠牲でも佐竹軍は2300を超える戦力を維持していた。



鶴翼の陣形で押し進む佐竹軍、鋒矢兵と騎馬隊による攻撃で犠牲を出すも直ぐに本陣から予備兵が補充され、翼は修復された、しかし、佐竹軍の騎馬隊はこれまでにほとんど活躍が出来ていなかった、その大きな理由は、馬頭に到着するまで、既に馬達は疲れ果てており動きが遅く、那須の騎馬隊に全く追い付けなかった。



そんな中なんとか奮闘していたのが、鉄砲隊の150名であった、盾兵と一緒に弓の攻撃を防ぎながらもなんとか翼を押し上げ行動していた、鉄砲隊の攻撃で那須側に被害を与える事は出来ないが、鉄砲がある事で那須側も佐竹側により近づき強い攻撃をしたいのだが、それを防いでいた。



そこへ無情とも言うべき事態が生じる、一進一退の夕闇が迫る申の刻目前午後四時前に佐竹本陣に、佐竹親子に全くの予想外の知らせが太田城より早馬が駆けつけ報告された。



小田氏治が太田城を攻撃をしている、その数2000を超える兵力で太田城が攻撃を受けていると知らせが届く、太田城が攻撃を受けているとの知らせを聞き、顔色を変える親子の義昭と義重。



報告を受け、義重は、父に兵1700を引き連れて城にお戻りください、私が殿を務め、馬頭の出口を残りの兵で塞ぎます、その間に父上は急ぎお戻り下さいと告げるのであった、その話を聞き、父、義昭は。



「なにを言う、その方こそ急ぎ戻るのじゃ、ここまでの戦い見事であった、父として安心して見ていられた、ここよりは経験豊富な儂に任せよ、な~に那須どもに一泡吹かせようぞ、儂も無事に帰還する、此度は運がなかっただけじゃ」



「しかし、それでは、父上が危険です、某より今の佐竹には父が必要です、父上がいなければなりませぬ」



目に涙を浮かべ父上に話す義重である、父義昭は、よく聞くのだ、儂の父上も何度も負け、何度も勝ち、時には命を投げ出す戦いをして来た、その度に、次の勝利を信じ、若者達を信じ、年寄達が若者達に自分の命を、命の灯を次の者に授け、託し、今があるのじゃ、仮に儂が死んでも、儂の命はそちに繋がれる。



大切な事は勝ち負けだけではない、亡くなった者達の命を繋ぎ、次に備え、その方達に夢を託し亡くなった者達の命の意思をしっかりと受け継ぐのだ、儂の命はそちぞ、命をそちに託すゆえ、そちは見事帰還せよ、ここで亡くなった者達の命の意思を継ぐのじゃ、それが当主ぞ、分かったな、さあ、よし行け!



周りにいる重臣達に当主義重を守らせ、急ぎ1700の兵を引き連れ戻る様に指示を出す父義昭、残りの老兵及び、前当主佐竹義昭と運命を共にする事を、命をここで散らす事を決意する殿の兵600を残し、急ぎ撤退戦へ佐竹軍は移るのであった。






敵もさる者然る者、ですね、佐竹義昭の父から子へ命を託す思いは感動しますね。

作者でありながら、親子の会話に私まで、うるうるしました。

次章「ときは今 あめが下知る 五月かな」になります。

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