第55話 『関八州補完計画』決戦・・・1-3


── 佐竹義昭 ──




義昭は生涯を戦いに身を投じ、戦の経験は数知れず誰よりも豊富であった、その佐竹軍か烏山に到着する前に何者かによって、翻弄され、手の平で転がされている事に動揺するもなんとか耐えていた。



この襲撃は明らかに計画されており、どんな犠牲を払ってでも凌ぎ、息子である新当主、佐竹義重には被害を与えず、那須との戦いで勝利する事を、自らの命に代えて息子に勝利をもたらすと覚悟を決め進軍をしていた。



信頼のおける馬廻役5名に至急太田城に戻り500名の精鋭を連れて、合流する様に厳命した義昭、太田城には控えの兵700名が詰めており、精鋭が抜ける分、周辺の国人領主に300名の兵を太田城に参集する様指示を出した。



佐竹軍は5月3日に進軍を開始し、4日夕刻には烏山城近くに布陣する予定であったが、この何者かの襲撃によってやむなく、5日夕刻に変更し、襲撃による被害軽減の防御態勢でゆっくりではあるが烏山城に向け進軍し。



高倉を出発し、大子で体制を整え、進軍、右側は久慈川支流、上沢から山田に差し掛かった所で騎馬隊多数が突如現れる、時刻は午の刻昼の12時である。



昨夜まで襲撃した騎馬隊とは違って、騎馬隊の背には家紋の幟が掲げられていた、その旗を見た、義昭は、全身から怒りの炎を一気に燃え上がらせ、顔面を真赤にし、咆哮を上げる。



「あ奴らを全軍で殲滅せよ、一人も残らず、叩きのめせと、首をはねよ!」



これまでの冷静さを失い、喚きしらし、怒りを露に重臣達に指示を出した、騎馬隊の背には、那須家の家紋の幟があったのだ、昨日から襲撃していた夜盗は那須の騎馬隊であった事に抑えていた感情が爆発し、怒りが頂点となり、全軍で襲う様に指示を出す義昭。



那須騎馬隊に向けて佐竹騎馬隊が突撃する、足軽歩兵も昨日までの鬱憤を晴らすべく、襲い掛かる、しかし最初からこうなる様に計算していた那須騎馬隊、追いかける佐竹軍、引き付けては遠ざかる那須騎馬隊、佐竹軍の軍列はいつしか、一キロ以上の長い隊列となり、その時を待っていた別の騎馬隊が後方の佐竹軍に一斉に襲い掛かった。



距離150間からの弓攻撃に、佐竹側も鉄砲を放つも騎馬隊に弾が届かずその為に、否応なしに、騎馬隊に近づく為に走り出し、近づこうとするも騎馬の脚は早く、余計に隊列は伸びる佐竹軍、そこへ新たな騎馬隊が現れ、襲撃されるという悪循環に陥ってしまった。



目に見えて犠牲者が増えている事に冷静さを失った義昭に代わり、若き当主義重が、声を張り上げ、伸びた軍列に戻り密集する様に指示を出す。



若き当主、義重は史実で40万石の大名から54万石へと佐竹家最大の領国にした当主である、その若き当主が父に代わり、指揮を執ったのである。



佐竹軍が襲われている場所は大子を出発して近くの上沢という谷間の集落という事もあり、佐竹軍は一旦大子まで戻り、太田城から駆けつける精鋭500を待つ事にした。



500名が来る前に義重は鉄砲隊10名と騎馬隊10名を一組として大子周辺の雑木林に潜ませ、矢での襲撃を防ぎ、大子宿場町に那須騎馬隊が侵入した際には、騎馬が抜けられぬように馬防柵で道を塞ぎ殲滅を図る様に指示した。



「父上、これより某が指揮を執る事お許し下さい、ここで体制を整え、憎き那須の烏山城に向かいましょう、それまで父上はお休み下さい」



宿場町大子で父に告げ、的確な指示を出す佐竹義重、ここまでの被害は負傷者は500名を超え、亡くなった者は100名を超る、計600名以上の犠牲である。



鞍馬の配下より那須騎馬隊に、佐竹が大子にて厳重な防御態勢を整えている事、宿場町に侵入した場合、道々に馬防柵で抜け出せぬ様に手配りを佐竹が行ったと報告された、報告を聞き、那須騎馬隊は次の攻撃地、相川と言う隘路険しい場所に移動する事とした。



義重が大子にて防御態勢を整えた事により、那須騎馬隊から襲撃が止むも、警戒態勢は厳重に行い、弓攻撃に対して、不足している盾を大子の宿場町の家々の戸を外し簡易盾を作成させ、進軍して来た道々に馬防柵を設置させ、後方からの襲撃対策を指示したのである。



大子に太田城から駆けつけた精鋭500名が合流したのは、4日、間もなく子の刻夜12時になろうとしていた、これにより佐竹軍は当初の軍勢にほぼ回復した事になる。



5日早朝には、これまでの遅れを取り戻すべく進軍を開始、一路烏山に向けての行軍となった、この行軍こそ、佐竹がより一層追い込まれる事になる。




── 鞍馬の活躍 ──




佐竹軍が新たに500の兵を補充し、大子を出発した事を受け、相川手前に鞍馬の配下が集結し、佐竹軍が通り過ぎたのを確認した後に、鞍馬の忍び達が燻いぶしの術にて佐竹軍に打撃を与える事とした、山での狩猟術の一つである、煙で獲物を混戦させ、一度に何頭もの獲物を狩る方法の一つ、燻すという煙での攻撃方法である。



燻された煙を吸うと人間でも呼吸困難となり、身体が痺れ、一度に大量の煙を吸った場合は気を失いその場で死亡してしまう、燻された煙は大変に危険が伴う攻撃になる、その為、どこで煙を上げるのか、山間に流れる気流の動きを知る鞍馬達がその作業に入った。



那須騎馬隊は燻す煙から逃げて来る佐竹軍に対して両脇の山の斜面から矢を撃つために配置し、後は逃げて来る獲物を待つだけでとした、佐竹軍が来るまでに馬達に飼葉と砂糖たっぷりの麦菓子を与え、それぞれも麦菓子の兵糧丸を食し、体力の回復を図った。



5日早朝これまでの遅れを取り戻すべく、佐竹軍は進軍を開始、昨日までとは違って順調に相川に達した、相川で久慈川支流も終わり、両側は標高200m程の山の谷間が続く道となる、ここより両側は山の斜面となり、大那地という村まで約5キロの隘路となる。



佐竹軍は相川に達するまでに後方から奇襲を防ぐ為に、所々に馬防柵を設置し、その結果後方からの奇襲は一度も無く、馬防柵の効果が表れていると考える義重、よしこのまま行くべしと指示を出し、相川を通り過ぎた。



相川を過ぎたあたりで、後方より、後ろから何やら煙が迫って来ていますと報告を受け、義重自ら確認するも、煙との距離もそれなりにあり、被害が無かった為、このまま行軍を急ぐ事にし、進ませた、そこへまたもや、後方から、両側の斜面からも煙が流れて来ますとの報告、振り返り見るも、軍列まで距離がある為、そのまま急ぐだけであった。



鞍馬達は退路を、佐竹軍の退路を塞ぎ、戻れない様に煙で追いやっていた、徐々に迫る煙、煙の特徴は、燻されて出た煙は空気と違って重い煙である、谷間の道にゆっくりではあるが斜面を流れる様に佐竹軍の後方部隊を目指して来るのである。



後方部隊より、煙が迫っている、行軍速度を上げて欲しいと要望が伝えられ、より早く進む様に指示を出す義重、その直後に前方と隊列の両側の谷間の斜面からも大量の煙が流れて来た、徐々に後方も煙に包まれ速度も遅くなり、口に布をあてがい煙を吸わない様に進む中、鏑矢が飛んで来た。



燻す煙に包まれた軍列、そこへ軍列の両側の斜面に隠れていた騎馬隊が現れ、鏑矢で脅し、矢を撃ち出したのである、呼吸困難になる程の濃い煙ではないが、視界が悪い中飛んで来る矢が見えずに、騎馬隊に一方的に攻撃される軍列、悲鳴の叫び声が響き合う佐竹軍。



大那地の村まで2キロの地点、全速力で駆け抜ける様に指示を出す義重、この燻煙での攻撃被害は、煙を吸って痺れて動けなくなった者が50名、矢による死傷者は350名、計400名もの大きい犠牲者を出してしまった。



佐竹軍は精鋭500を追加したが、結局3000という軍勢となり、ここから馬頭の宿場まで残り4キロ、あと1里という地点となった、馬頭からは道も広く、馬頭から烏山城まで3キロである。



時刻は、夕闇が迫る、申の刻夕方4時義重は、ここに留まる事は危険だと判断し、一気に進めば馬頭で宿営できる、既に兵も馬も疲労が限界を超えているが、危険を回避する為に全速力で進軍すると指示を出した。




── 那須本陣 ──



5月3日に那須烏山城から進軍を開始した当主資胤、本軍は馬頭の宿場手前で佐竹軍を迎え撃つ布陣を整え、本陣前方に馬防柵を設置し、高さ10間の櫓を組立て、200名(槍兵)からなる鋒矢ほうしの陣を横3列、当主資胤を守る200名の槍兵を配置し、騎馬隊が佐竹軍を追い込みながら馬頭に到着するのを待つだけの状態とした。



高櫓の上で馬頭方面に近づく沢山の兵が向かっているとアウンより報告、アウンの報告より半刻後に更に到着した模様であると告げられた。



時刻は、戌の刻夜8時に佐竹軍が馬頭の宿場に到着したと、馬頭へ移動中も騎馬隊から攻撃され150名の死傷者を出し、馬頭に流れた来たと報告を受けた、この時点で佐竹軍は2850名となった。



資胤は騎馬隊に戻る様に伝え、後は鞍馬の配下に任せ、騎馬隊に休憩する様に指示を出し、代わりに鞍馬の配下40名が深夜に動き出した。



馬頭の宿場での佐竹軍は、人馬共に疲れ切っており、夜襲警戒態勢を整えるも、警戒が緩いところが多々あり、丑の刻~寅の刻午前2時~午前4時にかけて、時に火矢を放ち脅しては、佐竹兵達を休ませず、馬を50頭盗み、荷駄隊の車輪に細工を施し動けない様にしてしまったのである。




ここに至り佐竹との決戦は目前であった。





フルボッコの佐竹軍、オリジナル戦記なので茨城県の読者の方怒らないで下さい。

次章「『関八州補完計画』決戦1-4」になります。

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