第54話 『関八州補完計画』決戦・・・1-2


 ── 那須騎馬別動隊 ──



騎馬隊100と足軽50計150名が芦野城から棚倉に向けて進軍していた、現在の福島県棚倉町である、棚倉は1561年には佐竹が白河結城家が領としていた棚倉を侵略、この時点で棚倉の半分は佐竹領となっていた、そこに寺山館を作り、白河結城家に圧力を加え、白河結城家も対抗する為に、寺山館から北側4.5キロ離れた場所に赤館館あかだてやかたを作り対峙していた。



棚倉の位置は那須を正面に見て、現在の福島県白河市(やや白河市より)と右の海側いわき市の中間地点にあり、佐竹はこの時点で常陸国を超えて福島県国境30キロも侵略しており、福島県の矢祭、塙という町も既に佐竹領になっていた。



史実通りの状況であり、その後、棚倉全体が佐竹領となり棚倉城が築城される、この時点では棚倉城は存在していない、寺山館と赤館館だけであった。



那須騎馬別動隊は佐竹の寺山館を急襲する為に進軍、棚倉まで26キロ、山と谷を越えての険しい隘路、騎馬での移動でも大変であった、5月3日午後に芦野城から進軍し棚倉近くに到着した時は既に日も落ちており、夜半深夜に急襲した。



鞍馬の配下が門を開け、一気に館を制圧をした、寺山館は、見張りという位置付けであり、30人程しか兵もおらず、150人の兵に一斉に襲われ何も出来ずに制圧されてしまった、佐竹側で負傷した者は10名、死亡者は無しである、那須側には負傷者も無かった、兵を武装解除し、全員を幽閉、30名の足軽を残し、次の拠点に向けて進軍したのである。





── 佐竹本軍 ──





芦間から棚谷に移動中、野盗に襲われたと勘違いした佐竹軍、馬廻役10名と足軽100名を急ぎ護衛に回すも、荷駄隊に到着した時には、野盗は既に居らず、荷駄を運ぶ足軽達は負傷者多数、死傷者も10名を超えており惨たる状態であった、とても荷駄を運べる状態ではなく、駆け付けた護衛の足軽が負傷者達と交代し、負傷した者は芦屋の村に置いていく事になった。



棚谷に向かうには左側に久慈川の支流が流れ、その川沿いの道を行くしかない、荷駄隊を襲った部隊とは違う騎馬隊が今度は久慈川の右岸から川の向こう側から、またもや荷駄隊に矢を放ち襲った。




暗闇の中、鏑矢と矢が飛び交い、またもや何も出来ずに次から次と犠牲者を出す佐竹軍、軍列はこの襲撃により動けなくなり、矢の攻撃に対処するために用意していた盾を足軽に持たせ、足軽を後方に移動させ、荷駄隊を守り軍列の中央に移動させる事にした。



盾を持たせた足軽500名を後方と隊列の両側に配置し、矢の攻撃を防ぎ、松明を軍列全体に多数持たせ、夜襲警戒の態勢でなんとか棚谷に付き、ここで負傷した者達を置き、高倉に向けて進軍を開始、この時点で負傷者は100名を超えており、死傷者も30名となっていた。



前当主の佐竹義昭は、野盗ごときに襲われて、この有様はなんという事であるかと、周りにいる重臣達を叱り飛ばし、殴られた者も、鉄砲隊150名に命じ、軍列全体に配置し、盾隊も荷駄隊中心に守る体制を再度整え進軍を開始、この時点で亥の刻夜の10時になっており予定より大幅に遅れていた。



その後も何度も襲われる佐竹軍、騎馬隊からの襲撃がある度に、鉄砲隊も発砲し、逃げる騎馬隊に佐竹側の騎馬隊も追いかけるという事を何度も行い、防御態勢を整えたおかげで、犠牲者は減り、やっとの事で宿営地、高倉に到着した、時間は丑の刻午前2時であった。



高倉は小さいながらも宿場町であり、前当主義昭、現当主義重、他重臣達は一番整っている宿に、他の者達も宿屋、商屋、民家等に、入りきれない3000名は路地で野宿である、夜襲対策も整えるも、真っ暗な闇からの鏑矢、時には火矢も飛び交い、高倉での攻撃が本格的となり、もはや、高倉を守る防衛線となってしまった。



燃え上がる松明に向けて矢が飛び交い、悲鳴が響き渡る高倉、鉄砲隊は闇に向かって咆哮を上げていた、高倉で逃げ惑う佐竹軍、暗闇の中で飛び交う矢、物陰に隠れても、3000の兵が隠れる場所もなく、次から次と犠牲者と負傷者が増える羅生の町と化していた。



襲撃が止んだ朝方、高倉では、死傷者多数が路地に伏せており、声も当てられない状況であった、高倉での死者、負傷者を合わせ300もの犠牲を出してしまった佐竹軍、義昭は、重臣達を集め、怒りを撒き散らしながら、指示を出した、物見として騎馬隊を四方に放ち、鉄砲隊を前方、中、後方にそれぞれ配置し、盾隊を充実させるため、高倉の家々を打ち壊し、戸板を盾代わりに代用させ、隊列全体を弓攻撃から守り、進軍する事としたのである、哀れなのは、高倉の民達であった。



高倉から大子、大子から烏山というルートであり、昼までに大子に、夕刻までに烏山手前に到着するのが本来の予定である、高倉では全ての者が一睡も出来ず、疲労を溜めたままの状態で進軍を開始、この日もほとんどが山間部の移動である、義重は父に。



「あれは本当に野盗なのでしょうか? 別の者ではないでしょうか?」



「儂も野盗ではないのではないかと考えていた、その場合、我らに恨みを持つ者、又は、白河結城家の可能性もある、数年前に白河結城領を我らの領地にしており、野盗と見せかけ襲ったやも知れぬ」



「昨日は特に隘路であったゆえ、被害は大きかったが、物見も放ち先行させているゆえ、ゆっくりではあるが、今日はなんとかなるであろう」



後方からの物見からは変わった様子が無いとの報告を受けるも、前方に放った物見からの報告が入って来ない。




「一体どこまで物見に行っておるのだ、進んで良いのか、判らんでは無いか、その方様子を見てまいれ!」



「はっ、ではゆっくりと歩を進めていて下され、急ぎ見て参ります」




馬廻役数名が急ぎ前方に駆け出す、半刻後に戻る馬廻役、前方に放った物見が何者かに殺されておりました、と声を荒げ報告を伝えたのである。




「何、前方に10名は物見を送ったではないか、全てが殺られていると申すのか?」




「はっ、皆な弓にて倒れております」



・・・・・ 一体何が起きているのか? 報告を聞き動揺する義昭、だが動揺する姿を見せる訳にはいかない・・・・・




「よし、物見に鉄砲隊を付け、再度放つのじゃ、物見の距離は、10町約1.1キロ程度で良い、襲撃を受けた場合は鉄砲を放ち騎馬隊が駆けつけるのじゃ、良いな」




「その方が申す通り、これは野盗ではない、何者かが、我らを襲っている、そちと儂が近くにいては狙われ危険やも知れぬ、少し離れて中程にいる様に」



耳打ちし息子の身を案じる義昭、佐竹義昭は、百戦錬磨の猛将である、臨機応変に指揮が取れる将であった、重臣達を呼び寄せ、この襲撃は野盗ではない、我ら佐竹の軍を狙った、計画された襲撃である、その方達は臨戦態勢を整え、敵が現れたら迎撃するのだと指示した。



その後も何度か小規模の襲撃はあったものの、被害はほぼ無く大子へ到着、大子は比較的大きな宿場町である、久慈川支流から本流に交わる場所となり、街道の主要宿場の一つであった、よし、ここで、休憩し、昼餉とすると指示を出す義昭、時刻は、未の刻午後2時となる、3200の大きい部隊である、周りに散らばり即席の竈を作り火をくべ雑炊を作る兵達。





── 騎馬別動隊 ──





芦野城から出発した騎馬別動隊は棚倉の寺山館を衝撃確保した後に30名の足軽を残し、海を目指し突き進む。




那須の領国には海は無い、塩の道が無い国、全ての民は他国から高値で買うしか塩を得る方法が無かった、今その数百年に渡る念願の、塩を得るべく、一気に海を目指していたのである。



その場所とは、大津である、大津は常陸国最北端に位置しており、奥州三大関所、勿来の関なこそのせき手前の場所になる。



奈良時代以来の関所として有名な関の南側に大津がある、勿来の意味は くるなかられ という意味で、こないで下さい という意味である。



勿来の関は岩城家領地であり、手前の大津は佐竹の領地である、浜沿いに陸前浜街道が通っており南下すれば高萩、水戸、土浦まで一直線で繋がった主要街道である、大津を押さえれば那須家の未来が開くとの使命を正太郎から、大切な使命であり死命であると指示を受けていた忠義、一気に海まで走りぬき、忠義は旭日が昇る中、全身を震わして大津の浜に到着し、海の中に入り、海水を口に含んだのである。



「殿~若~若様~しょっぱいでござる、しょっぱいでごいます、塩でございます!」



・・・大泣きの叫び声を上げる忠義。



「塩です、若様塩水です、塩水を手にいれましたで御座います」



咽び泣き、雄叫びを上げた忠義、共に駆けつけた騎馬隊も泣きながら海水に浸かった、この瞬間に那須家待望の塩の道を確保したのである。



正太郎が佐竹軍を迎撃するとは別に、別動隊を遣わした大きな理由は塩の道を得る事であった、忠義は、大津の陸前街道両脇に、那須家の幟旗数十本を刺し、ここは那須家の領地であると宣言し、足軽20名と騎馬隊20騎を残し、陸前街道を南下した、次の目的に向けて、80騎の騎馬隊を率いて進軍した。





ついに忠義が使命を死命を果たしました、感動しました。

次章「『関八州補完計画』決戦1-3」になります。

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