第53話 『関八州補完計画』決戦・・・1-1


 ついに『関八州補完計画』が発動しました、この題名どんな計画なのか『人類補完計画』と、どう違うのか?

 



 5月2日佐竹太田城大広間にて重臣達による前祝が行われていた、主催の中心は前当主佐竹義昭である。



「皆の者、此度は我が息、当主、義重の威風を天下に知らしめる戦いである、那須を叩き破り、佐竹の風下に置き、関八州に躍り出る戦ぞ、勝は決まった様なもんじゃ、軽く前祝と行こうぞ!」



「おーー、前祝じゃ、飲め~ お~~いいぞその調子じゃー」



「父上、余り飲んでは、大丈夫ですか?」 



「な~に、これ位の酒なぞ飲んだ内に入らん」



「そうです、大殿が言われている様にまだ飲んだ内に入りませぬ、御屋形様もご安心下され」



「でも父上、余り飲みすぎると御身体に障ります、せめてごゆるりとお飲み下さい」



「判った判った、気にせず大丈夫である、此度はお主が当主となって初めての大きな戦ゆえ、それも那須を下す戦いとなれば、ついつい嬉しくなってしまうのじゃ」



「そうです、大殿の言われる通りです、我らも大殿の御心を察し、新しいき御屋形様に勝利を差し上げられる事に、大殿と同じく嬉しいのです、ここにいる者達は大殿のお気持ちを充分理解している者達です、酒に飲まれる事にはなりませぬのでご安心下され」



「ただ勝った暁には、酒に負ける程飲みまする、酒に飲まれる事をお許しください」



「わっはははー、その通りぞ、ささ、皆の者勝利の前祝の乾杯じゃー!」



「それから那須の領内に入ったら那珂川、小川周辺は乱取りし放題、獲物は速い者勝ちじゃ、自由に取り合ってよいぞ、烏山周辺も乱取り自由じゃ、わっははは、楽しもうぞ」




 同じ頃、那須家広間でも重臣達が、当主資胤の元に参集し、水盃を交わしていた。



「明日我らは出陣ぞここにいる者一人でも欠ける事無く、自身に与えられた使命を全うせよ」



 正太郎が、重臣達に向かって拝礼し。



「我らの心は一つで御座います、敵は異体異心、我らは異体同心で御座います、異体同心の我らは必ず勝ちまする、心が一つで御座りまする」


 

「では、またここに集おうぞ、とっ言って、一同水盃を交わしたのである」




 5月3日早朝、常陸太田城より3500の兵は、当主佐竹義重の号令の下、進軍を開始。



「これより那須を下す、全軍出陣じゃー!」




 鞍馬飛風が佐竹軍が城正門から進軍を開始した事を見届け、疾風の如く走り出す、那須烏山城に向け、道無き道を一直線に突き進む、川を越え山を越え谷間を走り抜ける一陣の風となる、その姿、形を確認する事は出来ないまさに疾風である。



 昼前に飛風は烏山城に到着し、当主資胤に敵が動きましたと報告した、報告を受け、これより出陣をすると言って兵士達は正門前に整列し、正太郎は後方から此度の戦を観戦する事に、明智十兵衛と竹中半兵衛は、那須の武装に驚いていた、この武装は、これは、我らの戦支度とは違う、敢えて言うならば、帝を、御所をお守りする宮中の弓兵に近い狩衣武装である。



 狩衣武装ではあるが、色合いが黒に統一されている威圧感が半端ないと感じる二人、驚いている二人を見て、正太郎より。



「那須は弓のお家です、与一様から伝わる騎馬弓兵が中心の軍となります、その為、弓での攻撃が行いやすく工夫がなされた狩衣武装なのです」



「黒基調の色合いは此度私から進言し作らせていたものです」



「若様、見た所、那須の軍には鉄砲は無いのでしょうかと?」



「笑いながら鉄砲を買わずに砂糖を買ったゆえ、全くないのじゃ、あっははは」



「当主資胤が正太郎に吉報を待っておれ! 出陣せよ!!」




 号令と共に法螺貝と出陣太鼓が打ち鳴らされ、本丸から進み正門から出陣した、二の曲輪、三の曲輪には大勢の避難した農民達が溢れかえり、その威風に歓声を上げ見送る事に、前日には騎馬隊10組200名が侵攻路に向けて出発し、3日より那須騎馬隊による攻撃が開始される。



 鞍馬飛風は、佐竹が進軍した事を烏山城に伝えた後に、すぐさま、芦野城に向けて、同じく一直線に山を越え、谷を越え、疲れを見せずに、一陣の風となり疾風となり、夕刻前には忠義に佐竹が動いたと報告を伝えたのである。



 報告を受け、芦野城城主、忠義の父である、芦野盛奏と伊王野城主、伊王野資信にすぐさま伝え、夕闇が迫る中、芦野伊王野別働が出陣となった。



 当初の計画では、佐竹側が那須領に入ってから攻撃を行う事としていたが、正太郎は、それでは、烏山城から近いと判断し、佐竹の進軍が開始され、道半ばに差し掛かった所で攻撃を行う様にしたのである。



 常陸太田城からの侵攻ルートは。


 1日目、太田城 → 磯部 → 大平 → 芦間 → 棚谷 →天下ノ → 高倉 


 太田城から大子までは久慈川沿いの道である。


 太田城から高倉までが、一日目の往路になる、ここまでの距離は約38キロになる。



 2日目、高倉 → 大子 → 馬頭 → 小川 → 烏山城 という計略路になる。


 大子から烏山城までは途中から那珂川沿いの道となる、


 高倉から烏山城までが二日目の往路となる、距離は同じく38キロである。



 那須軍は、昼に出陣、馬頭に向けて進軍、那珂川を超え、馬頭の手前に本陣を構えた、本陣から騎馬隊5隊(100名)が大子の手前、相川周辺に潜伏するために進軍し、本陣では急ぎ高さ10間の高櫓を組み、そこへ鷹の目アウンを配置した。



 本陣前方に念の為に佐竹騎馬隊の急襲を防ぐため馬防柵を設置し、足軽200が当主の周りに配置、残り800名を三組に分け、三組の鋒矢ほうしの陣を作り体制を整え、佐竹本軍が来るのを待つち構えた。



 鋒矢の陣は攻撃特化の陣である、本来は一組を本陣前方に布陣するが、那須の足軽にも多数の和弓を持たせており、防御に使う足軽ではなく、攻撃する足軽として配置した、那須軍には槍をもった部隊は本陣にいる200名だけとなる。




 ── 那須軍騎馬隊 ──



 2日に先発した騎馬10隊(200名)は20名を1隊とし、佐竹進行ルートの棚谷周辺に潜伏し配置された、棚谷から高倉にかけて両脇には東金砂山、標高481mと西金砂山、標高412mという山に挟まれた山間の道であり、移動するには長い隊列でないと移動が出来ないルートになる、夜目の効く鞍馬の配下も騎馬隊に複数配置され、3日夕刻から攻撃を開始する事としていた。




 ── 小田軍 ──




 小田軍は小田城に5月2日に集結する様に陣振れが出されていた、予定通り2120名が勢揃いし、翌日3日に佐竹が那須に向けて進軍を開始したと鞍馬の配下より報告が入り、同日昼に常陸太田城に向けて進軍を開始した。




 小田城から常陸太田城への道程は現在の国道6号と同じ道として繋がっており、古くからある、浜街道と言われている道である、距離は約60キロ、2日の道程、5日までに久慈川手前、額田に布陣するとし、太田城手前6キロに本陣を築く予定である。





 ── 佐竹軍 ──




 太田城から進軍を開始した佐竹軍は順調に行軍するも、久慈川沿いの道は主要街道ではなく、村と村が結ぶばれた道であり、横道であり、隘路も所々あり、軍列は徐々に長くなっていた、隊列は先頭に主要騎馬隊、次に鉄砲隊、佐竹親子他重臣達、前後を馬廻役、足軽、荷駄隊という隊列であった。



 城から磯部、大平を抜け、芦間からは、久慈川支流の道となる、棚谷に近づいた頃は隊列は500m程の長さとなり、時刻は夕刻に差し掛かった時に、遠く前方の山から、一筋の煙が立ち上がった、佐竹義重は横にいる父に。



「父上あそこに煙が見えまする、あの様な所に人は住んでいるのでしょうか?」



「ほう、あの煙か、山の中には、マタギなど少数ではあるが人は住んでいる、間もなく日も落ちる、夕餉の支度などしているのであろう、我らは、高倉にて野営するので夕餉はその時だな、しかしこの細い道では後ろがさっぱり見えん」



 馬廻役に声を掛け様子を見て来る様に指示を出す、大殿の義昭。




 ── 那須騎馬隊 ──




「狼煙が上がりました、間もなく芦間から棚谷へ向かって来ます」



「よし、皆の者支度を整えろ」



 騎馬隊は那須家の家紋の幟をある場所に隠しており、夜襲では一切身元が分からない様にしていた。



「佐竹の先頭が見えて来ました」



「よしゆっくり迎え」



 山の稜線に隠れながら移動する一組の騎馬隊、佐竹軍先頭が通り過ぎ、長い隊列が移動し後方、荷駄隊に向かい歩を進める騎馬隊。



「あれが最後尾だな、では150間以上離れた処から攻撃を開始する、敵が体制を整えこちらに攻撃が向かう前に撤退するぞ、いくぞ!!」



 荷駄隊だけでも100mの隊列である、そこへ一本の鏑矢が、音を立てて飛んできた、鏑矢は音を立て、不幸にも荷駄を押している足軽に命中してしまった。



 なっなっ、何事だと騒めく荷駄隊、そこへ見る見る迫る馬の群れ、よく見ると人が乗っており、次々と矢を放ち初めた、一人が叫ぶ、盗賊が来たぞ、盗賊が現れたぞ!



 一斉に荷駄隊に矢が襲い掛かる、時には鏑矢も交じっており、音が聞こえれば首を竦め、身を低くして逃げ惑うしか方法が無い荷駄隊、一人やられ、二人やられ、腕に刺さり、背に刺さり、向かって来た矢をよける為に、手を出せば、矢が手に刺さり、混乱する荷駄隊、そこへ先ほど義昭から荷駄隊の様子を見て来いと指示を受けた馬廻役がただ事ではない事態が起きておると判断し、急ぎ反転し、前当主義昭の元に駆けつける。



「大変です、大殿、荷駄隊が盗賊に襲われております、荷駄隊が取り残されております」


 

「何~なんとこの佐竹に対し盗賊が出ただと、ふざけおって、盗賊は何名ほどいるのじゃ」



「見た処20名ほどかと」



「それなら少数じゃ、その方馬廻と後ろの足軽100名ほど連れて、盗賊どもの首を切り取って来い、佐竹に刃を向けた奴らは、全て首を切り落とせー! 」 



 急ぎ周りにいた馬廻10名が隊列から離れ、足軽100名を引き連れ荷駄隊に向かった、時刻は日が落ち夕闇が迫っていた。、ついにここに、那須騎馬隊が動き出したのである。





 いよいよ始まりました、ドキドキして来ました。

 次章「『関八州補完計画』決戦1-2」になります。

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