第18話 軍師玲子の戦略・・・1


父と弟がどいう訳か、洋一と深夜まで今成家万歳と何回も叫びいつまでも騒いでいたので、私と母は呆れて先に寝たのである。



よし明日から私の力、軍師玲子の力を見せつけてやるぞ、とパックをして寝たのであった。



いつもより早く起きた玲子、時間はまだAM5時半、よし、今の内に調べ物を・・・歯磨きを終え、コーヒーを淹れPCを起動させ、オタクに睡眠という安眠は必要ないのだ、趣味に向き合える、二次元に浸れる方が大切である。



スイッチの入った玲子、那須家の確認、近隣大名の確認、特に那須家については念入りに情報をクリックして開きまくる玲子。



あっという間に8時を過ぎて、そっと弟の部屋を覗くと、酒臭い部屋の中で、まだぐっすり寝ている二人・・・、と思ったが・・・・父親まで寝てやがった。



台所にいる母親に聞くと、朝方の四時頃まで、飲んでいたので、寝室の鍵をかけて寝たと、だから父親は誠一の部屋で三人して寝たのだろうと、バカな三人であると呆れていた、初めて会った男性が父親と弟と朝方まで飲んでくたばっているとは。



そう思っていると、母が玲子に向かって。



「あの洋一さんって、逃がさない方がいいわよ、明るいし、初めて来た家に泊まれる度胸は今時の青年には珍しいよ、当たりかもって」



真顔で言う母親であった。



いや、私はそんな事考えてないよ、彼氏じゃないよって、私は軍師としてあの人を勝つ側に導くだけよ、と心で説明する玲子であった、そして洋一が起きて来るまで戦略を練る玲子であった。



10時半頃に目覚める洋一、ぼーっと、しながら、そうだいきなり誰かの家に泊まった事を思い出す、横を見るとおっさんと若いあんちゃんが倒れこんで寝ている。



うー頭が痛い、あっ、そうだ、役場であった女性の家で飲んだぐれて名前は確か、良子じゃなくて玲子だ、玲子さんの家でバカ騒ぎをした記憶が戻り、この後どうしたらいいかわからず部屋から出る洋一。



起きた洋一を見つけ母親が。



「おはようございます、そこに歯ブラシあるのでどうぞと」



渡され、洗面所はそこですと言われ、歯を磨き、顔を洗う洋一、トイレを済ませ、コーヒーと軽い食事を用意した母親であった。



「母が洋一さん起きたわよ、コーヒーと食事出したから、後はお願いね」



とタッチされた。



少しして、声をかける玲子。




「昨夜は無理言って泊まって頂いて、父が強引に飲ませた様で、すいませんでした」




 と挨拶する玲子に対し。



「こちらこそ厄介になってしまって申し訳ありませんでした」



と話す洋一であった。




 さらに玲子は。



「これから一緒に出掛けたいのですが、大丈夫ですか?」



と言うのであった、夜中まで父親とバカ騒ぎをして迷惑かけた洋一に断るという選択肢はなく。



「はい、大丈夫です」



と返事を、それから20分程して玲子の車で走り出す、軍師として見ておきたい場所へ向かうのであった。



「どちらに行くのですか?」



と聞くも。




「あの最初に洋一さんが気を失った所に行こうかと」



「えっ、大田原市の与一の伝承館ですか?」



「そうです、私も初めて行く所です、どの様な人形劇なのか、与一についてネット以外の情報も必要です、現場確認が大切です、軍師と名乗る以上、洋一さんが見知った事も含めて知る必要がありますので向かっている所です」



「わかりましたと」



車中では、まだ昨夜のアルコールが抜けておらず、酒臭い洋一と移動する事にだんだん苦痛となる玲子。

(こいつどんだけ飲んだんだ、すき焼き食べて親父と朝方まで騒ぐとか、それにしても酒臭い、ファブリーを途中で買って、この人に向かって消臭してもいいかな?)



玲子の家から僅か一時間強で到着し与一伝承館へ入る、人形劇は決まった時間に行われる為、先に那須に伝わる数々の歴史的な宝物を見学する事に、そこには甲冑や刀、刀も与一が屋島の戦いで身に付けていた物であったり、豊臣秀吉からの領地安堵のご朱印状まで、その他いろいろな文が、当時の生活様式など、ただその中には、平家の里や鞍馬についての資料は無さそうであった。



そもそも当時のいろんなやり取りした手紙の文字も書かれている解説を読まない限りイミフである、くずし字で書かれており、文字も小さく、くずされた文字も書く人の癖が強く、別名、ミミズ文字なのである、書かれている文字の3割~4割程理解出来ればいい方である。



現代であの様な文字が書かれた文章をもらった方は直ぐに、ゴミ箱に直行だろうと歴オタである玲子でもそう感じていた。



やがて人形劇の開演時間となり場内に移動する二人であった。


場内は40人は入れる立派なホールであった。



場内は暗転となり、人形の琵琶法師が登場し、べべベンベンと琵琶が鳴り響き一気に物語が始まった。



琵琶法師が、平家物語を語る。



『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす、奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし、猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ』



琵琶を打ち鳴らし歌いだす、これから始まる屋島の合戦、ワクワク感満載の人形劇のスタートであった。 



人形劇では源氏に追い詰められ、屋島での戦に供える平氏、やがて場面は流れ、天下の弓士として与一が名を示す場面へと移る。



平氏が源氏に、海に浮かぶ小舟に平氏の姫が扇を掲げ、扇を射抜いてみよとの源氏への挑発が。



その扇を見事に一射にて射抜くクライマックスとなる。

(使われた矢は鏑矢という合戦合図に使われる音の出る矢であり、横風に弱い矢を使ったのであった)



弓矢を持って愛馬 鵜黒に跨りまたがり海に入って10mほど進んだ那須与一。



心静かに、与一は。



『南無八幡大菩薩、日光の権現様、宇都宮大明神、那須の温泉大明神、この一矢を扇に命中させ給え!もし射損じたら腹をかき切って自害せん!』



と八幡神と宇都宮大明神に祈り、一心に矢を放ったのである。



渾身の一射の場面が人形によって上映されるのであった、気持ちが通じてか、矢は見事に扇の柄を射抜き、空中に舞い上がった扇は春風に揺られ、そっと海に落ちる。



この様子を見た源氏の皆はもちろん、平家の兵士たちも、敵ながら天晴れであると舟の端を叩いて感嘆したという。



与一が日本第一、天下第一の武威を示し、この事によって平家が滅び、天下をたった一射で源氏の勝利に導いた与一の物語の上演内容であった。



この屋島の戦いで扇を射ち落とし、次の戦場、壇ノ浦の戦いで勝利した源氏、あれから838年後が今の令和である、この一射の物語は今後1000年以上も、語られる日本が誇る名場面であろう。



「ここの伝承館は与一に特化した、資料としても立派な資料館なんだね」



感想を洋一に伝えるも、洋一は暫く振りに来たので、何しろ高校の時に来た時は気を失ってしまい、今更ながらこんなにも充実した所であった事に感動すらしていたのである。



そんな事を話す洋一に。

(この人ではダメだ、那須家は消滅してしまう、むしろ消滅を早めると確認した玲子)



帰りの車中で。



「私なりにこれから色々と、どうすれば那須の家が戦国を乗り越える事が出来るか思案するので、検討した内容を意見交換して行きましょう」



「それと時々お会いして、その正太郎という那須の嫡子に戦略なり大切な事を伝える様にしっかり作戦を練りましょう」



という事で、玲子の家に戻り別れたのである。


(そういえば二人の出会いのきっかけとなった、今成家についての説明はいつの間にか忘れられ、どこかへ追いやってしまったのである、その事に一切気づかない二人であった、今成家の謎はこのまま迷宮入りしてしまうのか・・・)



今成家の謎は、与一との繋がりは、誰もが予想できない、誰もが全身から鳥肌が立つ謎が最終章で語られます、一先ず、今成家の謎はここで暫く封印となります。


 読者の皆さん、今成を忘れないで下さい。


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