第17話 洋一の模索・・・3


 玲子の狙った獲物は逃がさない、この極上の生餌は私が食さねばならない、という悪魔の囁きに支配された玲子は、洋一に容赦なく襲い掛かる。




「戦国時代の1500年代は北条家、関東管領上杉家、長尾家、宇都家、佐竹家、小山家、結城家等と言った戦国の大名家が、あなたの住んでいる川越や、ここ群馬県も含めて関東中が戦乱で荒れた時代が、かっこいい言葉で言えば群雄割拠って奴が入り乱れて起きて荒れたの」



 玲子が戦国の説明をしているのに、目が点になっている視点が合わない洋一。



(玲子の中の声、えっ、なにこの人、聞きたがっていたのに目が点になっている、私の勘違いだったかも)



 洋一から。


「那須家もその中にいますか?」



 と予想外の家の名前が、実にとぼけた質問が・・・


(那須なんていう吹けば飛ぶような大名家もいたけど、それが何よ、この人は的ハズレね、とがっかりしている玲子)




「えー確かに小さい那須家と小田家は戦いに巻き込まれて割拠されてしまうので、ほぼ存在が無くなりますね」



 玲子からの冷たい一言。



 えっーえっー、と、突然大きい声で那須はなんとかなりませんか? と述べる洋一。



 という突拍子もない声がお店に響く。



(えっ、那須・・・450年以上も前の話なのに、なんとかって?)



 店内に声が響いた後に。



「あっ、すいません」



 と頭を下げる洋一・・・二人は沈黙という名の恥ずかしさで声が出なくなる。



 玲子は静に。



「えーと、今成さん本当は何を知りたいのですか、なんだか私も解らなくなりました」




 暫く無言な洋一、考え込む洋一


(本当の事を言って警察でも呼ばれて連行されてそのまま精神病院とか・・言った方がいいのかな? 本当は何を聞きたいのか伝えた方が良いのか思案する洋一)



「今成さん、洋一さん、本当の目的は別にありますよね?」



「他に調べたい事があるのではないですか? 仕事上もそうですが、知りえた内容は誰にも言わないのでよろしければお話下さい、話せば気も楽になりますよ」


(もうどうでもいいけど、話さないならこのまま解散した方が私も楽だわ)




「わかりました、私が知りたい事をお話ししますので、警察とか絶対に呼ばないで下さい、頭の狂った人ではありませんのでどうか冷静にお願いします」




 と頭を下げて語り出したのだ。


 玲子に意を決して話す事にした洋一、洋一から語られた話を聞き始める、じっと耳を傾けて聞いていた玲子だが、いつしか、それで、次は、うんうん、それで次は、その正太郎とは、どこまで今進んでいるのと、ふむふむ鞍馬天狗なのね、平家の里か、行って見たいそこ、与一の伝承館で倒れたのね、ふむふむ、それで今成を聞きに来たのね、頭を上下に振り、ほほう、なるほど、それから、椎茸も教えたのね、と、聞いている内にだんだんと興奮し鼻の穴がとても大きくひろがった玲子であった。




 お店の奥で気になってしょうがない玲子の父は、先程から二人の様子を観察しており、初めて会った割には、意気投合して玲子は頭を抱えたり、上下に頭を振って話し込んでいる、青年の方は、玲子を信じ切ってなにやら親密な話をしてお願いをしている様だ。



 玲子も24才だし、相手の青年も苗字が今成だと言ってたから、これは案外いいチャンスかも知れない、嫁に行こうが婿に向かえようが名前は変わらず今成のままだ、青年の家がどんな家なのかは知らないが、二人の様子ではお互い一目ぼれして付き合う話になっているのでないかと勘繰る父であった。




 かれこれ四時間は話し込んでいた二人、一通り話を聞き、大体の事情も掴み、玲子は洋一に告げるのであった。



「わかりました、今成さん、洋一さんは歴史に詳しい訳では無い様なので、この問題を解決するには洋一さんには絶対に必要なものがあります」



「必要な物・・・そっ、それはなんでしょうか?」



 と聞く洋一。



 答える玲子。


『それは軍師ですと断言』



「えっ、軍師ですか?」



「そうです、洋一さんに必要なのは軍師です」




「軍師・・軍師と言われても、どうすればか?」



「ふっ、ふっ、ふっ、ふ・・まだ気づきませんか、もっとちゃんと前を見て下さい」



 じっと玲子を見る洋一。



「そうです、これで大丈夫です、私が洋一さんの軍師になります」



 と、高らかに宣言する玲子であった。



 宣言された洋一は、暫くして、黙って玲子に頭を下げた。



「よろしくお願い致します」




 と、テーブルに額を付けるのであった、その場面を見ていたカウンター奥からは、ニヤケタ父親の姿が、さすが我が娘だ、とニヤニヤする父であった。



 父親が。



「今日は店じまいするから、なんか話が盛り上がっていた様だし、夕食をうちで食べて行きなさい。」



 と二人に声をかけると。



「そうね、もう夕方だしね、じゃーそういう事で家に行きましょう」



「えっ、それではご迷惑になるので」



 帰ると言う洋一に。



 父親が。



「いいじゃないですか、同じ今成同士ですし、先祖と血が繋がっているかも知れませんよ、遠縁の親類だと思えば問題ない」



 と半ば強引に連れ去られた洋一であった。



 父親は急いで店を片付け、娘の車で帰る事に、車中父から、なんかいい感じの青年だなと振られ。



「私もそう思うは」



「なんか頭を下げられて頼まれていたな、これから付き合うのか?」



 と聞かれ。



『そう軍師になったのよ、洋一さんの軍師に今日からなった』



 と言う娘の玲子であった。


(娘の玲子は歴史オタクだったなー、専門用語で歴女とか言ってたな、歴女の言葉で彼氏の事を采配するから軍師という言葉なんだなと勝手に理解する父親であった)



「そして良かったな軍師になれて、じゃー軍師なら勝負に勝たなければならないな!」



 という父に対して。



「もちろん必ず勝つは、私なら負けないよ」



 と宣言を、嚙み合ってない会話する親子であった。


(玲子の奴一気に結婚まで突き進む気だ、父親として援護射撃しないと、ここは父に任せろ)



 後からついて行く洋一、自分の中で誰にも相談できずにいたので、なんかほっとした感があるが、いきなり初めてあった女性が軍師になるとか言い出したけど、これって、これでいいのかなーと考えても仕方が無いので流れに任せる事にした洋一。



 玲子の自宅に案内され、母親を紹介、いきなり男を父親と連れて来た事に驚くも父親が連れて来たのだから、問題ないか、母親に。



「突然のお邪魔で申し訳ありません、川越から来た今成洋一と申します、お世話になります」



 と挨拶を受け。



「川越の今成さん?」 



 遠くの親類かなにか、かなと思う位であった。

 弟も高校の部活を終えて帰宅となり五人での夕食となった。



「弟の誠一です、おねえちゃんの彼氏さんですね、初めまして」



 と言われ、父が横から。


「そうそうお姉ちゃんが今日から軍師になったんだ、彼氏の洋一さんだ」

(イミフの説明)



「なんでも川越市に住んでいるという同じ今成と言う苗字だぞ」



 と玲子が説明する。



「今成って名前は発祥は川越なのよ、そこの今成だからうちより由緒正しい今成さんよ」



 へえーそうなんだと感心する弟の誠一である、夕食ではすき焼で歓迎、この父親が調子に乗って。



「洋一さんは明日は休みかね」



 と聞いて来たので。



「はい明日は休みです」



 と、つい答えてしまった。



「じゃー良かった良かった、もっと川越の今成さんの家の事も聞きたいので一杯いこう」



 と、ビールを出したのだ。



「えっ、お酒飲んだら運転して帰れないじゃん」



 と玲子が言うも。



「なんで帰る必要があるんだ、誠一の部屋で泊まっていけばいいだろう」



「誠一もそれでいいよな?」



「うん、折角だし、それにお姉ちゃんの初めての彼氏だし記念に乾杯しなくちゃな、俺も付き合うから、いいよな親父」



 と返す誠一、おうさすがは我が息子だと笑う二人の話に置いて行かれた母と玲子と洋一。


 逃げられずに乾杯する洋一。



「軍師就任おめでという!」



 と言われなんか顔が赤い玲子であった、父親から。



「洋一さんの家は先祖の事はどう聞いているんですか?」



「私の家は一応その今成家発祥の今成館に住んでいた今成が先祖だと父からも祖父からも聞いています」



「家は両親が専業農家でそれなりに田んぼや畑もあります、聞いた話では昔は川越では大名主だったそうで、戦後の農地改革で小作人に土地を分けてしまったので、今は私の両親と祖父、祖母の四人で農業をしています」



「あと弟が一人います、来年受験の高校三年生です、私は両親が専業農家でしたので、農家の手助けが出来ないかと思い農業機器メーカーの〇ンマーに努めています、最近24才になりました、社会人二年目の新米です」



「おっ、年は24才ですか?」



「はいそうです」



「それはそれは、うちの玲子も24才なんですよ、私のレストランで洋一さん家で作られる農産物を扱うのもこれはありですね」



「ちょっとなに勝手に話が進んでいるよ」


 と笑っての楽しい夕食であった。





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