琉球と三家


 ── 謁見 ──



首里城正殿二階の間にて琉球王尚元王と三家代表の使者清水康英と配下達数名による謁見が行われた、国王が鎮座する椅子の左右には琉球王国を支える大臣達が立ち並び国家を上げての謁見となった。



「ご使者殿ようこそ琉球王国にお越し下さった、王国を上げて歓迎致します、私が国王の尚元王です」



「尚元王様初め各大臣の皆様にお会い出来る事、恐悦至極で御座います、北条家、小田家、那須家の三家を代表とします使者の清水康英と申します、よしなに願います」



「使者殿先程、鎖之側幸地大臣より聞きました、琉球と三家との商いの同盟を行いたいとの話でありますが、商いの同盟とは如何なる同盟なのでしょうか? 初めてお聞きする同盟となります」



「国と国であったり形式は多々あるかと思いますが同盟とは対等な関係でありお互いに上でも無ければ下でもありませぬ、お互いがお互いの為の同盟でありその根幹は商いと言う事になります、失礼ですが琉球国の財政を支えているのは貿易かと思います、その貿易を柱とする同盟であります」



「では同盟する事で琉球はどのような得があり、三家の皆様にもどのような得があるのでしょうか?」



「鎖之側幸地大臣殿にもお伝えしましたが、我ら三家が必要としているのは砂糖きびの苗と栽培方法を教えて頂きたいのです、代わりに日ノ本にはまだ無い穀物の新しい種を差し上げます、種があれば栽培は簡単な穀物です」



「その穀物の種は砂糖に匹敵する品なのでしょうか?」



「はい、間違いなく匹敵する物でしょう、長く保存が出来、家畜の肥料にもなる優れた穀物です」



「各大臣よ、聞きたい事があれば使者殿におお聞きするが良い」



「使者殿なぜそこまで砂糖が必要なのですか、交易で得るだけではダメなのでしょうか?」



「不思議な話ではありますが、三家の領民には砂糖の甘味が広く伝わっており、交易で得るだけでは足りませぬ、そこでもはや自ら作るしか手立てが無いのです」



「領民とは民百姓の者達でありますか?」



「はい、その通りです、領内の者全てになります」



「失礼ですが、砂糖は高価な品です、それが領民に行き渡っているのですか?」



「その通りです、三家は大変に豊かな国であり民達にも砂糖が買えるのです」



ざわざわ・・・ざわざわ・・・



「なぜそのような高価な品が領民に渡る様になったのですか?」



「それは豊かな食生活の中で徐々に広まり、砂糖が持っている効果が知れ渡ったからです、身体が疲れている時、療養で食が進まぬ時に白湯に砂糖を混ぜ飲む事で疲れが取れ、療養の者にも栄養を与える事が出来る事が広まり、又は、特別な菓子にも利用した故に広まったのです」



「どうやら本当のようですね、尚元王様、ご使者殿の話は本当の様です、それで一つ提案がありますが宜しいでしょうか?」



「うむ、その提案とやらはなんであるか」



「今の話ですと砂糖の事は三家の方も良く知っておりますが、その交換するという種については我ら琉球の者は知れませぬ、そこで先に種を頂き、本当に交換するに値するものであるのかを知った上で、確かに値するとなれば、きびの苗と栽培のやり方を教えるという事にしたらどうでしょうか?」



「お~それであれば我らも安心である、今の話で如何かな使者殿」



「ではこうしましょう、まだ8月です、早速種を蒔きましょう、そうすれば二ヶ月半後には結果が出ます、本当に良い物かどうかを判別出来ます、但し秘密裏にやらねばなりませぬ、誰にも見つからない場所でお願い致します」



「そうであるな、ではその様に取り計らいましょう、今宵は皆様を歓迎する祝いの場を設けております、皆様と誼を結びましょう」





── 信長包囲網 ──




この年、織田信長は京を主軸に敵対勢力と激しい戦闘を繰り広げる事になる、敵とは、浅井朝倉連合、六角、本願寺の門徒一向宗との戦いに明け暮れた年となる、また、足利義昭将軍とも徐々に齟齬そごが生じ始める。


信長より新たに足利将軍へ五ヶ条が通達。


一、諸国へ御内書を命じることがあるならば、信長に報告し信長の書状を添える事。


一、これまでの命令は全て破棄し、考え直した上で定める事。


一、公儀に忠節を尽くした者に恩賞・褒美を与えようとしても、領地がないので、信長の分領の中から将軍が命令を申し付ける事。


一、天下の儀、いかようにも信長に任せ置かれた上は、誰かに従わず、将軍の上意を得ることもなく、信長の判断で成敗する事。


一、天下静謐になったので、宮中の儀は将軍が常に油断なく行う事。



しかしその前年には殿中御掟9ヶ条が言い渡されている。


一、御用係や警備係、雑用係などの同朋衆など下級の使用人は前例通りをよしとする。


一、公家衆・御供衆・申次の者は、将軍の御用があれば直ちに伺候すること。


一、惣番衆は、呼ばれなくとも出動しなければならない。


一、幕臣の家来が御所に用向きがある際は、当番役のときだけにすること、それ以外に御所に近づくことは禁止する。


一、訴訟は奉行人(幕臣)の手を経ずに幕府・朝廷に内々に挙げてはならない。


一、将軍への直訴を禁止する。


一、規定は従来通りとする。


一、当番衆は、申次を経ずに何かを将軍に伝えてはならない。


一、門跡や僧侶、比叡山延暦寺の僧兵、医師、陰陽師をみだりに殿中に入れないこと。足軽と猿楽師は呼ばれれば入ってもよい。



さらに追加で7ヶ条が言い渡される。


一、寺社本所領を押領することを停止すること。


一、請取沙汰を停止する事。


一、喧嘩口論の禁止、違反する者は法をもって成敗する。これに合力するものは同罪理不尽に催促する事の禁止。


一、将軍が訴訟を直接取り扱う事を禁止。


一、もし訴訟をしたいのであれば奉行人を通すこと。


一、占有地については関係を把握して差配すること。



この一連の信長による掟により天下の大将軍足利義昭に出来る事は・・・・手紙を書く事だけになってしまった、兄義輝に続き『お手紙将軍』の誕生となる。


金ヶ崎の戦い、信長の命に従わず上洛しない朝倉討伐が4月に開始された。


信長の軍勢3万(織田本軍、徳川家康、三好義長、松永久秀、池田勝正)、4月25日敦賀に進軍、柴田勝家、木下藤吉郎らが手筒山城を落城、1370名を打ち取る。


信長は、金ケ崎城を攻撃、城主朝倉景恒は降伏し、城を開放。


意気揚々と初戦を勝ち越前国に侵攻を開始すると突如信長の下に信じられない緊急の知らせが入る。


それは『浅井長政の裏切り』であった、信長は緊急の報に接し、是非に及ばざること、と言い放ち、金ヶ崎城に殿軍として木下藤吉郎、明智光秀、池田勝正を置き、撤退戦に入る、逃げる信長軍に対し追撃し攻撃を行う浅井軍、4月30日、2000名余りの死傷者を出して織田軍が京へ帰還する事になる、浅井が裏切った事により、信長の天下取りは考えていた計算とは大きくずれていく事になる。


このズレた計算の中に将軍義昭の手紙が加味されて行き、信長包囲網が作られて行く。 


5月19日信長は鈴鹿山脈を越え岐阜に帰る中、甲賀の六角義賢が忍び鉄砲の名手、杉谷善住坊から暗殺を狙われる、二度発砲するも弾が当たらずかすめる程度であった。


そして6月19日、有名な『姉川の戦い』が開始された。


朝倉景健の援軍8000と浅井長政本軍5000、計13000の兵が布陣、対する信長は、徳川3000と本軍10000の計13000のほぼ同数(諸説あり)で姉川を挟んで両軍が布陣する。


6月28日、早朝六時、戦闘開始、浅井の軍勢が姉川を渡り攻撃を行う、信長記には、『火花を散らし戦ひければ、敵味方の分野は、伊勢をの海士の潜きして息つぎあへぬ風情なり』という激戦になったと記されている、一時織田軍は危機的状況に陥いるも、浅井・朝倉連合軍の陣形が伸びきっているのを見た家康は榊原康政に命じて側面から突撃し軍勢を分断、それにより攻撃を受ける事になった朝倉が敗走し、織田徳川両軍から攻撃を浅井だけで受ける事になり敗走となる、結果的に織田・徳川側が1,100余りを討ち取って勝利した。


敗退した浅井朝倉連合軍はまだ余力を残しており、やがて宗教勢力を巻き込んだ織田包囲網が築かれていく。




── 那須蝦夷同盟締結 ──




大酋長ナヨロシルクから信じるに値する後ろ盾が必要であるとの言葉を重く受け止め、義兄弟となる事を決断した正太郎、当主資胤も承認し、ナヨロシルクを那須家の養子に、形式的に正太郎の兄とし、治める地を蝦夷とそれに繋がる北方の島々とした。


それにより確かなる裏付けを得たナヨロシルクは『那須ナヨロシルク』と名を変え、蝦夷に帰還する事になった。


那須に訪れてより、乗馬の扱い、五峰弓の扱い等を学び、一ヶ月以上の長期滞在となった。


「ではこれより、儂からの土産として、那須ナヨロシルクに武具を差し上げよう」



資胤が用意した見事な馬具一式と鎧兜一式、壮麗な太刀一組と那須家の陣羽織が当主から送られた、又同じく同盟者であるイソンノアシにも同じく立派な馬具と経ち及び陣羽織が渡された。


同盟を正式に結び那須本家と、那須ナヨロシルク、イソンノアシにて今後の蝦夷について戦略を決めたのである。


函館方面の和人、蠣崎には今は手を出さない、蝦夷のアイヌ人達は函館から離れるように仕向ける。


イソンノアシは蝦夷の根室半島、屈斜路湖、阿寒湖、サロマ湖、北方諸島~カムチャッカ半島までを支配下に置く様に村々の長と誼を通じ同盟を広げる。


那須ナヨロシルクは夕張、旭川~稚内に至る大酋長達に同盟を呼びかけ、大きい一つのアイヌ連合を作る事を戦略とした。


那須からは年に二回、交易の品と一緒に馬を50頭を渡し、アイヌの人達の機動力と戦闘能力を上げる事とし、必要な武具を渡す、それに伴い、那須からも主に開拓と駐屯の兵を派遣する、派遣する者達の指揮権は那須ナヨロシルクが取る事とする。


アイヌの者達を配下に置く体制ではなくあくまでも那須ナヨシルクが頂点であり、蝦夷王国の頂点とした、ただ蝦夷が広い為に現段階では先に同盟した根室の長も根室半島方面の頂点という体制にした。


この時代のアイヌ人同士の揉め事は狩場で衝突した場合が主で、武力で解決する事は稀で長が話し合い解決していた。




── とうもろこし ──




「王様、大臣の皆様、これがとうもろこしで御座います、砂糖の苗と栽培方法を教えて頂き交換する品です、こちらがお湯で温めた物と、それを焼き砂糖を少し入れた甘醤油で味付けした物です、先ずは食してくだされ」



「ほ~鮮やかな色だな、では皆の者折角だ食して見よ、最初に、鎖之側幸地大臣から食するが良い!」



8月に植えたとうもろこし、10月後半に入り充分に育ち収穫し評価をしてもらう事に、沖縄の地は年間を通して本州とは季候が全く違い、温暖でありこの時期でも充分育つ事が出来た。



「これは・・・王様も食して下さい、これは身も柔らかく確かに美味しい物です、大臣の皆様も遠慮せずに食して下さい、一口で美味しさが判ります」



「どれ、儂も食してみるか、この焼いている方が香ばしい香りがして食をそそる・・・・うっ・・・・お~確かに・・・・うんうん・・・・ではこっちはどうかな・・・・・なるほど・・・もごもご・・・」



「皆の者、如何であるか?」



「では某が、砂糖は確かに貴重な品でありますが腹は膨れませぬ、この品は美味しさもさることながら、しっかりと腹が膨れます、どのような食し方があるのか解りませぬが、これは大変に貴重なる穀物と言えましょう、それと栽培した場を何度も確認致しましたが、砂糖きびと似た様な枝より何本ものとうもろこしなる物が出来ておりました、私は此れなれば充分に見合う品と考えまする」



「王様、某も良い案かと思われます」



「使者の清水殿、一つお聞きしたい、これ程美味なるとうもろこしとの交換ですが、皆様の地ではどのような食し方をされているのですか?」



「一番多く食されている方法は今皆様が食した方法です、それと乾燥させると長期保存が出来ます、他にも石臼で粉にし湯と混ぜると美味しい汁になります、家畜の肥料にも干し草と混ぜると家畜も喜んで食します、それとこのとうもろこしであれば、この琉球の地であれば、3、4、5、6、7、8月に種を月毎に分けて植えれば6月~この10月まで新鮮な物を食する事が出来るかと思われます」



「それは嬉しい話です、琉球の地は倭国に比べて土地は小さく耕作出来る地に限りがあります、それだけ沢山の期間栽培出来るとなれば実に交換するに見合うかと思います」



「私からも一言お聞きしたい、仮にどうしても砂糖との交換を断ると如何致しますか?」



「断られる事になれば我らは月氏国インドの方にも砂糖きびを作る国々が沢山あると聞いております、琉球王国に断れましたらそちらに向かう予定であります、琉球とは古来より日ノ本の国とも誼あり、言葉も通じます、それで最初に訪れたのです」



「皆の者今の話を聞いた上で決を取る、砂糖との交換を承認する者は手を上げよ!」



「使者殿見て下され、反対する者がおりません、では砂糖きびと交換と致す」



「尚元王様、大臣の皆様、ご承諾頂き感謝申し上げ致します、それと私達は遠く蝦夷の地とも交易を増やして行き来行きしております、その品を琉球にもお持ちしましょう、又こちらでも必要な品を明から回して頂ければより大きな交易となりましょう、何しろ我ら三家は400万石を超える大きい石高を持っております、島津などより何倍も大きな商いとなりましょう」



このとうもろこしは今の沖縄でも沢山栽培されており親しまれている穀物である、現代の日本社会には無くてはならない穀物であり食品です。


これにより琉球王国と商いによる同盟が結ばれた、国家同士の同盟ではなく商いの同盟となった、史実では王国側に取って今後徐々に島津、秀吉、徳川からの締め付けが強くなって行く事を考えれば大きな味方となる同盟と言える。


時期は間もなく9月という事もあり、砂糖きびの苗と育てる方法については翌年の3月に来訪した時に職人も含め王国側で用意しておく事になり、今回は砂糖を沢山買付けた。



「琉球王様にもう一つ仕入れたい品があります、火薬についてはどうでありますか?」



「その件なれば、某鎖之側の役割となりますのでお答えします、明からは火薬を仕入れる事は問題ありませぬ、但し、明では硫黄を欲しがります、明の国では火薬の原料はあるそうですが、原料の原料となる硫黄が不足している様です、硫黄を用意すれば多くの火薬を仕入れる事が出来ます、三家で硫黄は手当出来ますでしょうか?」



「硫黄でありましたら、幾らでも手当出来ます、では次回来訪時に多くの硫黄をお持ちしましょう、代わりに多くの火薬をご用意下さい」



「如何ほどあれば宜しいですか?」



「そうですね2000貫~3000貫、それより多くても大丈夫です」



驚く一同。



「それ程となりますれば硫黄だけでは明の者達は渋りましょう、他に与える物が無いと些か難しいかと思われます」



「では、不足分を、彼らが一番喜ぶ金を用意致しましょう、それでどうですか?」



又もや驚く一同。



「金であればどんな物でも交易の品として喜ばれましょう、一番欲しがる金であれば何も問題ありませぬ」



「ではその様に致します」



無事に同盟を終え帰還する事になる三家連合の帆船、船内には2000貫の砂糖(7.5t)が積まれていた。







1570年の三家は大きい動きでしたね、小田家には真田昌幸という傑物が来ました、それとなんとか砂糖も目途が着きそうです。

次章「500万国」になります。

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