砂糖きび


琉球王国は1429年~1879年の450年間存在した国家とされている。


明国に従属し、1600年代からは日本に従属すると言う二重の形態を取っていた、実態は1609年の薩摩による侵攻で傀儡国家に、一説には薩摩が侵攻する15年後程より豊臣秀吉、さらに徳川幕府からの締め付けが強くなり日本が侵攻して来ると言う噂が流布される、明国は琉球に対して軍備を整えるようにと忠告をしていたが、琉球王は我らには神が付いており、そのような事にはならないと忠告を蔑ろにしていた。 (所説あり)


1609年、島津氏の渡航朱印状を帯びない船舶の取締りを出来ずにおり更には徳川への謝恩使の再三の要求に最後通牒を突き付けられてもなお応じず黙殺、結果家康・秀忠の許しにより、薩摩藩は琉球侵攻を開始、3000名の兵を率い3月4日に軍勢は薩摩を出発、3月8日に奄美大島に進軍、3月26日には沖縄本島上陸、4月1日には首里城へ、琉球は4000名の兵士を集めて対抗するも敗れ、四日後の4月5日には尚寧王が和睦を申し入れて首里城は開城したとされる。


1611年、尚寧と三司官は、『琉球は古来島津氏の附庸国』であると述べた起請文に署名させ薩摩は掟十五条を発布し突きつけ、この掟による締め付けが琉球の繁栄を奪ったとされる。



一 薩摩御下知之外、唐江誂物可被停止之事、薩摩の命令なしで、唐へ誂物あつらえもの(注文)をしてはいけない。


一 従往古由緒有之人たりといふ共、當時不立御用人知行被遣間敷之事、現在官職についていない者には知行をやってはいけない。


一 女房衆江知行被遣間敷之事、女には知行をやってはいけない。


一 私之主不可頼之事、個人で人を奴僕ぬぼくとしてはいけない。


一 諸寺家多被立置間敷之事、諸寺社を多く建立してはいけない。


一 従薩州御判形無之商人不可有許容事、薩摩の許可がない商人を許してはいけない。


一 琉球人買取日本江渡間敷之事、琉球人を買いとり日本へ渡ってはいけない。


一 年貢其外之公物、此中日本之奉行如置目可被致取納之事、年貢、その他の公物は、薩摩の奉行の定めた通りに取納すること。


一 間三司官、就別人可為停止之事、三司官をさしおいて、他人につくことはいけない。※ 三司官とは琉球王国の宰相職。


一 押賣押買可為停止之事、押し売り押し買いをしてはいけない。


一 喧嘩口論可令停止之事、喧嘩口論をしてはいけない。


一 町人百姓等二被定置諸役之外、無理非道之儀申懸る人あらは、到薩州鹿児府可被致披露事、町人百姓等に定めおかれた諸役のほか、無理非道を申しつける人があったら鹿児島に訴える。


一 従琉球他國江商船l切被遣間敷之事、琉球から他領へ貿易船を出してはいけない。


一 日本之京判舛之外不可用之事、日本の桝以外用いてはいけない。


一 博突僻□有間敷之事、ばくちや人道にはずれたことをしてはいけない。



右條ゝ於違犯之輩有之者、速可被虜厳科之者也、仂下知如件、

慶長十六年辛亥九月十九日





── 砂糖きび ──




「義堯よしたかどん、見えたぞ、あれが琉球ぞ、ついに来たぞ義堯どん」



「お~あれが琉球か、やったのう勝貞どん、ついに来てもうたぞ、やったやった、ついに琉球まで来てもうたぞ、愉快じゃ、愉快じゃ、あっはははは~♪」



海軍士官学校の学長、菅谷勝貞と副学長の里見義堯は抱き合い喜び合った、油屋から三家に砂糖が入らなくなり、那須家は蝦夷に、北条家と小田家は連合で琉球に向かった、三家には政を行うには既に砂糖がなければ成り立たぬほど領民に浸透しており、生活必需品であった、その為500石船の帆船で琉球に向け大航海を出港した、夏真っ盛りの八月である。



「おう、あれが港ぞ、あれに入ろう」



琉球は貿易立国であり、港は整備されており湾内で一旦停止すると水先案内人の船がついて来いとの指示に従い港に停泊した。



「役人が来た様です、では清水康英やすひで殿後は頼みましたぞ、我らは船にてお待ちしております」



清水康英は伊豆水軍衆の頭であり、北条家の現役の重臣である。



「判り申した、では暫くお待ち下さい」



役人に呼ばれ、どの様な目的で来たのか、どこの者かを説明する清水、日ノ本の国の大大名の北条家と小田家の貿易船だという事で、上役の外交窓口トップの鎖之側さすのそば幸地こうち親方と言う者が現れた。



「私、琉球王国の外交を司る《つかさどる》鎖之側幸地親方と申します、和国の北条家様と小田家様で御座いますな、ささこちらにお座り下さい、この度は遠くの琉球にようこそおいで下さいました、此度は貿易でお越しで御座いましょうか?」



「貿易の目的もありますが、北条家と小田家、今はおりませぬが那須家の三家による琉球王国との正式な商いの同盟を結びたく使者として訪れました」



「なんと、なんと、そのような大きい話で参られたのですか? 些か私、和国の事は色々と聞き及んでおりますが、今は戦乱がくり広げられておると聞いております、三家の皆様は戦乱とは関係ないのですか?」



「我ら三家は日ノ本国の中で東国に位置する家です、我らの東国は戦乱が止み国土が豊かになり平穏であります、戦乱の場は残念ながら帝がお住いの地になります」



「そうで御座いますか、それでどの様な商いの同盟をお求めなのでしょうか?」



「我らは琉球王国で栽培されている砂糖きびの苗と飼育法を教えて頂きたい、当面は砂糖を仕入れます」



「えっ、砂糖をお渡しは出来ますが、砂糖きびは琉球王国の特別な品であります、どの様な事があっても苗と飼育方法を教える訳には参りませぬぞ!」



「判っております、そこで皆様の砂糖きびの苗と飼育方法を教えて頂く代わりにそれと同等の穀物の品の種と飼育を伝授致します、こちらの用意した品も今はどこにもありませぬ、貴重な種になります」



「なんとでは、貴重な品同士の交換を提示されるという事なのですね」



「いかにもその通りで御座います」



「この話は王に諮らねばならぬ話の様です、暫く滞在頂きお落ちま下さい、それと三家の皆様の石高はどの程度あるお家なのでしょうか?」



「三家で400万石を優に超えております、今は日ノ本一の石高になります」



「ななな・・・・判りました急ぎ宿を手配致します、何名様で御座いましょうか、船についてはこちらで責任を持って管理致しますので陸に上がりお休み下さい」



「こちらは全部で35名となります」



「判りました、至急手配致します、船に戻り皆様にお伝え下さい」



鎖之側さすのそば幸地こうち親方とは、琉球王国の外交と貿易を預かるトップであり大臣という事になる、三家の石高が400万国を優に超えると聞き、既に琉球王国より大きい規模の者達が来たという事に驚き、失礼があってはならないと判断した。


この時代の琉球の石高は資料的に見当たらなく、1644~1651年の資料では奄美群島を含め約25万石に満たない程度と言う資料しか無かった、同等の石高と考えた時、三家の石高が400万石を超えていると聞き、その衝撃は余程の事であろうと推察出来る。



「尚元王しょうげんおう様、鎖之側幸地親方様が至急の様で面会を求めております」



「判った、広間に通せ!」



「尚元王様、火急の事態が生じましたのでお休みの所、申し訳ありませぬ」



「どうしたのだ、何を慌てておる」



「先程、日ノ本国、北条家、小田家、那須家という三家連合の使者が参り、我ら琉球王国と商いの同盟を結びたいと申し来ました、話を聞きますと、我らの砂糖きびの苗と飼育方法を教えて欲しいと、代わりに三家の特別な種と飼育方法を教えるので交換して欲しいとの話でした」



「何を言う、大臣ともあろう者が、砂糖きびは国の根幹と成る品であるぞ、渡せる訳が無いであろう、断るしか無いであろう」



「それがその三家の石高は400万石を優に超える家であると、あの島津より全然大きい家であります、島津でさえ困っておりますのにそこへ400万石と言う家が現れたのです、簡単に断れば戦になります、ですから私も慌てておるのです」



「なんだと・・・一大事では無いか、大臣を集めよ、皆を至急集めるのだ!」



「今、鎖之側幸地親方様が話した通りである、如何いたせば良いか!」



「彼らの言う交換する種とは何であろうか? それがどれ程の価値のある物なのか、それが解らねば判断出来ませぬ」



「ではお主は価値があれば交換をしても良いと思うのか?」



「はい、今でこそ砂糖きびは琉球の宝ですが、これ程広まれば、何れ自ら栽培する所が現れます、既に同じ様に砂糖を南蛮では取引をしております、栽培が広まれば砂糖きびの価値も下がります、下がってからでは、その種との交換も出来なくなるかも知れません、値が高い内にこちらも好条件で取引する方が良いと思われます」



「お~流石三司官様であります、私もそれが良いと思われます」



「相手が400万石を超える家と言うのは、こちらにも相当な利がある話かも知れませぬ、例えば我らが必要としている金もあるかもしれませぬ、明からは何度も金での支払いを要求されております、金があれば明から得る品の値を下げて強気の交渉も出来ます」



「尚元王様どちらにしても使者に会わねばなりませぬ、その際に相手側が提示する秘密の種とやらもお聞きしましょう、我らも同席致します、話を聞き、それからと致しましょう」



「判った、では使者達をもてなす準備を致せ、明日正式に使者に会い歓迎の祝いを宮殿にて行うと伝えよ、失礼があってはならぬ、鎖之側幸地親方様よ、その方が此度の饗応役である」



「はい、承りました」





── 真田家 ──



「殿、唐沢玄蕃がお目通りを求めております、如何いたしますか?」



「うっ、昌幸の身に何か変事が生じたか? 急ぎ広間に呼べ!」



「玄蕃よ、如何した、顔色が悪いではないか、何があった?」



「それが・・・こちらが昌幸様からの文と常陸小田家の嫡男様からの文になります」



「ふむ、貸せ!・・・・・何!・・・・なんと・・家を出ると言うのか?・・・何! 小田家で預かると言うのか?・・・その方、玄蕃はその場に居たのか?」



「はい、おりました、一緒におり経緯を知っております」



「何故この様な事になったのじゃ、玄播全てを話せ!」



息子の真田昌幸が常陸小田家に仕官した経緯を詳しく話す玄播。



「ではその嫡男との仲介は真壁という重臣が行ったのだな?」



「いえ、若様から真壁殿に強引に頼み込んだのです」



「そして嫡子に会い、魂を奪われたと申すのか?」



「はい、その通りです」



「では玄播よ、お主から見てその嫡子はどう写ったのだ?」



「小田の重臣真壁殿が嫡子の事を『上宮之厩戸豊聡耳命かみつみやのうまやとのとよとみみのみこと様、又は厩戸豊聡耳皇子命うまやとのとよとみみのみこのみこと様』であると言った言葉は紛れもない事実でした、それにより昌幸様は決断され申した、当初は出奔するとまで言い、それに対して嫡子殿が態々その文を書いて下さったのです」



「なんと・・・・それでは自ら飛び込んだのか? 親にも相談せずに我から離れたか・・・」



そこへ父親の真田幸綱の元に長兄の信綱と次男の昌輝は広間に急ぎ現れた、真田家は結束の強い家柄であり兄弟の仲は特に強い絆で結ばれていた。



「父上、昌幸に何かあったのですか?・・・父上どうしたのです? 玄番何があった?」



父幸綱から文を二通渡され、急ぎ読む二人。



「はぁ? えっ! 昌幸が家を出たというのか?・・・何故じゃ・・・何事が起きたのじゃ?」



「あの馬鹿は・・奥方を置いて出て行ったのか? 何を考えているのじゃ・・・」



「玄播、その方はこの後始末の事、何か昌幸から聞いておるか?」



「それが言いずらいのですが、その内迎えに来る、それまでここにいろ、言っておりました」



「なんという野放図な振る舞いであるか・・・・破門じゃ、あの馬鹿は絶縁じゃ! 父上絶縁で御座る、それしかあり得ません」



「御屋形様には何と言って申し開きをするのですか父上、一大事ですぞ!」



「まあー慌てるな、それよりお前達に聞くが、昌幸の事を本当に愚か者と思っているのか?」



「いや、しかし、勝手に家を出るなど・・・・」



「あ奴の普段の行いを思い出して見よ、お前達より物事を慎重に見ておるぞ、三男故に身の振り方を常に考え行動していたのであろう、あ奴の才はお主達に劣らぬぞ、優っていると言っても良い、その昌幸がこの様な形で家を出たのだ、将来はお主達より出世するやも知れぬぞ」



「まさか・・・」



「いやこればかりは判らぬぞ、相手はここ数年で100万石を越えた小田家であるぞ、その嫡子に見出されたのだぞ、ひとかどの武将になるやも知れんぞ、御屋形様へは儂から説明するから心配は要らぬ、それよりも相手は100万石の大大名家であれば昌幸に臣従する者を付けねば格も上がらぬであろう」



「玄葉お主は昌幸と一緒におるか?」



「出来る事なれば昌幸様と同じくと思います」



「よくぞ言った、それこそ忠義じゃ、その方に配下の者達がおったな、何名おるのだ?」



「はい、某を入れて10名となります」



「よしその者達を引き連れ、昌幸の正式な配下となれ、父からの土産じゃ、一筆書く故、その嫡子様に渡す様に、それと落ち着いたら奥方を送るとからその時は知らせよ!」



「はっ、ありがとう御座います、昌幸様にお伝えいたします」



唐沢玄蕃は真田家の忍びであり昌幸の配下である、配下の者達も皆忍びであり、昌幸の耳となり目となる者達である、父、信綱は敢えて貴重な戦力を付けたのである、一日でも早く昌幸の芽が伸び大きくなるようにと、親の温情でもあり先を見据えた策でもあった、策が成す意味は真田家が別の家でも生き残る芽を育てようとしていた。


真田家は代々の当主が主家を守り自らの家を存続させる為に知恵を使い今日の地位を手に入れていた、だからと言ってその地位が安泰という訳では無い事を長兄の信綱も充分理解していた。



「では我らこれより昌幸様の下に向かいます、皆様暫くさらばで御座います」





いろんな方向に展開しおり、原稿を書くのも頭の切り替えが大変です。

見落としが沢山ありそうです。次章「琉球と三家」になります。

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