氏政の咆哮


「一番太鼓を鳴らせ! 一番じゃ!」



「おい、今のは、一番だ、一番太鼓だぞ、急げ、急ぐのじゃ、戦支度を行うのじゃ」



「お城で一番太鼓がなり響いておる、急ぎ戦支度を整え、城に行くのだ、殿が待っておる」



小田原城でこの日一番太鼓が鳴らされ、城内にいる侍たちは一刻以内に城に参集する事が義務が課せられた一番太鼓であった、緊急を要する戦の知らせである。


小田殿の帆船がいる時で良かった、これで一度に多くの者が送れる、なんとか明日に間に合うであろう、三家による同盟があり此度は助かった。



「砲は港に向かっておるか?」



「はい、先程向かいました、それと風魔が先に出立するとの事です」



「流石である、本当に忍びがいるお陰で助かる、役立つ者達である」



城には続々と戦支度を終えた侍たちが集結し始め各組頭が点呼確認を行い、一刻後には1万の軍勢が参集し主な重臣と軍議が開かれた。



「掛川で朝比奈殿が徳川、武田の連合と戦っている事は皆も知っている事と思う、籠城戦で敵を退き有利に戦っているが、卑怯にも武田が掛川の農民2000名を人質にし、野戦に応じるようにと、応じない場合は農民を殺すという悪逆非道な事を言って来た、農民が危ない、掛川の民が皆殺しになる、それを防ぐ為に我らは援軍として向かい、武田を叩き潰す!」



「先に騎馬隊が船に乗り向かう、弓、槍の部隊は後続となる、騎馬隊は上陸してより袋井に向かい、そのまま参戦となる、気を抜く出ない、では出陣じゃ! 北条の力を見せる時ぞ、皆の者行くぞ!」



法螺貝かせ鳴り響き、銅鑼が打ち鳴らされ、一斉に港に向かう北条の軍勢である。




── 掛川城 ──




既に明日掛川の城を出て一戦を行うと決め詳細について軍議を行っている所へ。



「小田原から忍びが参りました、氏政様の使いが参りました」



「よし、ここへ通せ」



「ご苦労、小田原の氏政殿はなんと言っておった」



「氏政様は本日既に戦支度を行い今頃は出立したと思われます、小田原の兵1万と蒲原の兵5000を自ら率いて駆けつけるとの事で御座います、皆様に伝えるようにと仰せ仕りました」



「それはありがたい、15000の軍勢でありますか、これなら充分互角に戦える、皆の者聞いたか、氏政様が15000の軍勢で援軍として来て頂ける事になったぞ、これで大きく動くぞ、良いなこの事を皆に話すのじゃ!」



「15000の軍勢が来るとなれば、此方の陣形は変える必要がありますでしょうか?」



「那須の福原殿如何思う」



「数に頼るは危険で御座います、敵の武田も援軍が来るのではないかと思案しているでしょう、そこで氏政様の援軍は掛川の城に入って頂き、一旦隠れて頂きます、ここにいる我らは主力部隊は騎馬隊と防御中心の6800の方円の陣が予定通りの行動を致します、この点は同じです」



「次に敵本陣に密集出来た際に頃合いを見て一斉に掛川の城に逃げます、ここが違う所です、我らが逃げれば敵は勝機と判断して追いかけて来ます、我らは城正面に来た時に左右に広がり同時に大手門を開き、掛川城内にいる氏政様の軍と我らにて反転攻勢を開始します、これでどうでしょうか?」



「何故直ぐにそのような戦法を福原殿は考え着くのですか? 昨日もそうでしたが、正直この朝比奈感嘆しております」



「お褒め頂きありがとうございます、某既に那須にて同じ様な状況で同じ戦法にて勝利をしているからなのです、経験しているのです、那須の若様から授かり大勝利しているのです、今の戦法も釣り野伏せと申して、偽装退却で敵を釣り、油断させ撃退させる戦法なのです」



「なんとそうで御座いましたか、皆の者、我ら掛川の者が援軍だけを頼りにしては申し訳ない、今の話を聞いて判ったであろう、この戦い掛川の地を守るは我らなのだ、民を守るは我らなのだその事を忘れてはならない、昨日話した策でそのまま行う、違う点は先程の偽装退却を行い掛川の城前で反転攻撃を行うと言う事じゃ、良いな!」



「お~! 」



軍議を終えた後、福原は朝比奈に、反転攻勢の合図にあれを使いましょう、あれなれば敵が迫る勢いを挫くに違いありませんと話し打ち合わせを行った、あれと那須から持って来た『木砲』40機である、戦で使う初めてのお披露目である。





── 徳川家康 ──




「間もなく掛川の後ろに出ます、そろそろ軍勢を止めた方が良いかと、これ以上進みますと発見されるかと思われます」



「よしでは停止させよ、今夜はここに留まる、皆に伝えよ」



「武田と約束した日は明日であるが上手く事が運ぶであろうか、それにしても武田殿はどのような手にて城から兵を誘い出し野戦に仕向けるのであろうか?、その方如何思う」



「なにやら策については聞くなと申しておりましたので、殿であれば使わぬ手かと思われます」



「一体どんな手であろうか、忍びでも使い、城から追い出す策でもあるのであろうか」



「殿、野戦となれば勝てましょうか、これまで掛川の兵は此度の事、充分に備えていたように見受けられます、野戦なれば有利と思われますが、それと掛川から先の駿河で御座いますが、我らも武田に援軍を出さねばならぬのでしょうか?」



「掛川までが徳川、その先が武田であったが、掛川を得るに武田の兵も多くが血を流しておる、掛川が得られたからと言って、そのままで済まい、何らかの支援を求めて来よう、その際は応じる事になるやも知れん」



「全ては明日の戦次第である、狼煙を見過ごす出ないぞ」




── 武田信玄 ──



「掛川から文が届きました、御屋形様に渡すようにと言って帰りました」



「ほう、どれ・・・狙い通りよ、掛川の奴らが野戦に応じるとの事だ、明日城より出て戦うと書かれておる、これで勝ったわ、そこでじゃ、農民を離すのじゃが簡単に離してならん、最後まで役立ってもらわねばならん」



「如何致すので御座いましょうか?」



「良いかこれから話す事は、誰にも漏らすでない、500程農民の中に兵を紛れ込ませ、城に向かわせるのだ、そこで・・・・・・で・・・何々を行い、敵を混乱させるのだ、さすれば掛川の者は動きが分断され我らの勝ちは決定となる」



「しかし、それでは掛川を徳川に渡した後に問題になりませぬか?」



「な~に、農民が我らに逆らったと言えばよい、掛川を渡せば、我らには何も得する物が無い、そんな所の農民など、どうでも良い事である、駿河さえ手に入れればいいのよ、掛川の事は徳川でなんとかすれば良いのだ、ここで我らの血を流す必要はないのだ、判ったな、その方は言われた通りの事を行えば宜しい」



「判り申した、では紛れ込む兵を用意致します」



本当に恐ろしいお方である、結局集めた農民を殺す事などなんとも思っていないのだ、あのお方に逆らうと言う事は、農民と同じ事になるという事なのだ、儂ですら寒気と吐き気を覚える事を平然と命を下すとは、御屋形様は人の子では無いのかも知れん。




── 時間軸 ──




「玲子さん、ちょっと気になる事があって、言いずらい事なんだけど、いい?」



「えっ、何?」



「前にも一度感じた事があって、勝手に戻ったから気のせいかと思っていたんだけど、暦が合わないんです、今まで正太郎達とは460年の時間のずれがあったたげで、私達の生活する時期と年数以外は合致していたのが、合わなくなって来たんです」



「具体的にはどういう事?」



「一カ月程正太郎達の方が時間が進んでいる、此方が一ヶ月遅れているという感じです」



「じゃー、今こちらが1月末だけど向こうでは2月末って事?」



「はい、その通りです、以前は一週間程正太郎達が速かった時があったんですが、自然に戻っていたので気にして無かったんですが、今回は一ヶ月もズレているので、どうなのかなって?」



「う~・・・・前からその460年先の正太郎達の事が、どうして洋一さんと繋がったのかという事がずーっと疑問だったんだよね」



「今の科学では解明出来ない事だし、他の人に言えば変人扱いされるだけだよね、そこで色んな仮説を立てて考えたけど、やっぱり回答らしき答えにたどり着けなかったけど、最近ある映画を見てこれにヒントがあるかも知れないという事があったの」



「玲子さんが時々甘い物食べながら映画見てますね」



「甘い物は別腹だからいいの、それより私って昔からSF物や宇宙物に歴オタとは関係なく、好きだったのよね、明和村って夜空が綺麗で子供の頃星空を見るのが大好きになって、その影響なんだろうけど、宇宙って言葉に反応して星の誕生とか、SF映画に関心を抱くようになって、今も時々新作が出ると見たくなるのよ」



「こないだ一緒に見た、インターステラーを覚えてる?」



「ええ勿論、観たばかりですから」



「あれの中で時空を超える場面があったでしょう、主人公が時空を超えて戻るけど、戻ったら娘は既に100才を超えていた最後の場面があったよね」



「確か最後そんな場面でした、それがとうしたんですか?」



「説明しずらいけど、宇宙船がブラックホールに飲み込まれてその中の道ワームホールの中に入って最後戻れたのを覚えている?」



「ええ、確かトンネル見たいな所に入ってましたね」



「あれと、洋一さんの460年が似ているなって思ったの」



「全然意味が解りませんが、何が似ているんですか?」



「現代の科学は今の世界は三次元でしょう、四次元だとそれに時間を加えた考えとか、現実には頭の中でしかイメージが出来ない次元になって行くけど、ネットの世界だと五次元をパラレルワールドって言う呼び方で、時間を飛び越えた非現実的な事が出来る事を言うけど」



「洋一さんの460年先の正太郎と繋がっているという事は、ネット世界ではパラレルワールドに洋一さんの思考と正太郎の思考が繋がっている事になるの、非現実的な現象ね」



「ごめん、もう既になんの説明をされているのか、頭がパラレル状態です」



「あっははは、でも非現実的って事を覚えればいいだけ、問題はそこじゃないの」



「あの映画で隠されたヒントはワームホールを使えば時間を飛び越える事が出来るという事、映画の中で重要な要素が何回も登場していたけど、気付かなかったかな?」



「えっ、何度も登場ですか・・・・ロボットとか?」



「あっ、もう洋一さんには無理ね、重力よ! 秒針の腕時計も出ていたよね、針がモールス信号の役目してたよね、進んだ針が戻ったりと、覚えている?」



「ありましたけど私には意味不明な場面でした」



「じゃーこう説明したらどう、あの場面は時が進むのを重力が止めたの、三次元の時計の秒針が止まったよね、あの場面は重力の力を使って秒針の動きを止めたのよ、そう考えれば、ブラックホールが作ったワームホールは重力で出来たトンネル、そこを通れば時を止めた状態でワープ出来たの、でも時が止まっているのは通り抜けた宇宙船に乗っていた父親で、娘がいる地球では時は止まっていないから、親子で対面した時に娘は100才を過ぎていたという事なの」



「なるほど、映画の意味は何となく理解出来ましたが、正太郎達と1ヶ月間のズレはどお考えればいいのでしょうか?」



「これからもズレて行くと思うよ、心配しなくても大丈夫だよ、全体は史実に沿って進行しているから、それより洋一さん私の説明を」



「本当に全然理解してないの? 洋一さんは三次元、正太郎も三次元、両者を繋いでいるのは時を超える事が出来るワームホールの存在があった、そもそも最初から460年という時間の差があるから、ホールを利用している内に、ほんの少しのズレが生じたと考えるのが妥当かもね、でもこれは仮説よ、両者を繋いでいる何かが必ずある筈だと思うの、何しろあの映画では重力が大きい存在だったのよ、もう一度観てみる?」



「要は460年の開きは元々安定していないと考えれば納得出来るし、安定している方が不思議な話なんだと思うの、だから多少のズレであれば気にする必要はないと思うよ」



「じゃーそう言う事で、そろそろご飯にしましょう」



「もう、自分で聞いておいて、投げ出しちゃダメよ、ご飯なら冷蔵庫に入っているよ」



「いや、あれはご飯ではありません。(フルーツサンド)(笑)」




── 氏政の咆哮 ──




野戦前日の夜間に掛川の城に到着した氏政、先に騎馬隊が入り、深夜早朝まで続々と兵達が城に飲み込まれて行く。



「状況はどうであるか、朝比奈殿説明を頼む」



これまでの経緯、明日の野戦での武田徳川との戦い方などこれまでに決めた事を一通り説明した朝比奈であった。



「なるほど、敵をこの城まで誘い込み決着を図るという事だな、その策を既に那須の地では行い大勝利したというのだな、兵力はほぼ互角であれば、敵に一泡吹かせ反撃に出た方が良いという事なのだな、それと木砲40機もあるのだな、我らも10機の新しい砲を持って来た、一度に砲を打ち込み敵の肝を冷やしてやるが良い、先ずは布陣した後に農民を開放させよ、それから開始するように武田に使者を送るのだ、質が解放されねば城に戻ると言えばよい」



「はい、そのように取り計らう事になっております、農民は掛川の民ですので見捨てる訳には参りませぬ」



「最もな事である、では我らは城にて其方らが偽装撤退を始めたら城から出るとしよう、なんとしてもここ掛川を明け渡してはならぬ」



翌朝掛川城に法螺貝が鳴らされ出陣となった、袋井に向け進軍を開始した、城には11000の兵が待機していた。



「掛川城から兵が出て来ます、袋井に向かっております」



「やっと来たか、面倒な奴らよ、しかし、それも今日までよ、良いな皆の者、気を抜く出ないぞ、もう少しで掛川を超え駿府へ行くぞ」



「掛川兵が袋井手前1里のところで停止しました、馬が一騎此方に来ます」



「矢文が放たれました」



「回収せよ」



「こちらか矢文になります」



「よし、馬場農民を掛川の城に行くように放て、城に向かわせろ!」



「殿どうやら此方の要求を飲みました、農民が此方に向かっております」



「福原殿上手く生きました、では方円の陣を敷きまする、では我らは円内に入ります」



「信虎殿いよいよです、よろしく頼みます」



「お任せあれ、馬鹿な倅に一泡吹かせて見せましょう」



6800人による方円の陣が築かれ、その輪の中に信虎と福原率いる騎馬隊が身を隠した、6800の長柄足軽は槍衾を幾重にも展開し簡単には外から攻撃出来ない防御特化の陣を構え、戦が開始されるのを待った。



「農民が城に向かっております、敵陣は方円の陣を展開中です」



「最初から防御とは、戦いが始まったら即座に逃げ帰るつもりであろう、そうはさせぬ、その為に農民の中に500名の兵を忍ばせたのよ、幼児の使う手などお見通しである」



「鶴翼の陣を敷け、鶴翼である、騎馬隊は横陣に並べ、間もなく開始するぞ」



「氏政様敵陣より農民が城に向かって来ております、あと一里の所に農民が来ております」



「ほう武田も農民を離したか、当然である、農民が来たら搦手門に回し向かい入れよ、大手門は使うな、搦手門に回せ!」



「判り申した」



「よしでは法螺貝を鳴らせ、出陣じゃ、鶴翼を開き陣を押し上げよ」



「朝比奈様、法螺貝が聞こえます、敵が動きます、こちらはどうしますか?」



「まだ動くな、農民が通り過ぎるのを見届けてからだ、そのまま留まれ!」



両軍の距離は凡そ1里、農民達が掛川の軍を通り過ぎる時にはその距離2キロとなった。



「農民達に早く城に向かえと言え、戦に巻き込まれるぞと言うのだ、急ぎ城に向かえと!」



「距離半里を過ぎました!」



「良し、我が陣も法螺貝を鳴らせ! 敵陣に向かいを押し上げよ!」



「ほう、掛川の者供が此方に来るか死地に向こうから飛び込むか、良い心がけである」



「氏政様、農民が城半里手前で止まりました、何やら騒いでおります」



「ここからではよく判らん、物見を放て!」



「どうやら上手く行っております」



「良し、このまま距離を詰めよ!」



「間もなく敵全容が見えます、距離残り600間で御座います」



「信虎様頃合いかと思います」



「良し、そろそろ行くぞ!」



その時、後方で大きな悲鳴が響き渡る城に避難に向かう農民の方角から悲鳴が聞こえ響き渡った。



「何事か、なんだあの悲鳴は、どうなっておるのだ?」



「大変です氏政様、農民が殺されております、農民が次から次と殺されており、農民達が逃げ回っております」



「何だと、武田は農民を殺して混乱させる気じゃ! 大手門を開け農民を助けよ! 兵を送り殺している者供を八つ裂きにしてしまえ、おのれ何処までも民の命を蔑ろに、卑怯千万である、おのれ信玄め、絶対に許さん!」



信玄の計画は農民を城の中に入れずに城前で混乱を作り、さらに農民が逃げ惑う事で城にいるであろう兵達の参戦を妨害したのである、城の前には農民2000と紛れ込んだ敵兵500が時間を掛けながら農民を殺戮していた。



氏政は途轍もない悪行に唇を噛み締め血を流し、叫んでいた『絶対に許さん、天地に誓って武田を許さん!』と天に向かって叫ぶ姿は、まさに北条氏政の咆哮であった。





皆さんもSF映画 インターステラー を是非ご鑑賞下さい、面白かったですよ。

次章「駿河と北条氏政」になります。

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