駿河侵攻と西上野


「城内に誰もおりません、敵兵は退散しております」



「やはりそうであろう、この軍勢が迫れば200の兵では何も出来ない、退散しか無いであろう、ではこれより予定通り各組頭の指示に従い、作業を初めよ」



箕輪城は1512年に築城され1598年に廃城となる、主な歴代の城主は、長野業正、長野業盛、真田幸隆、内藤昌月、滝川一益、北条氏邦、井伊直政になる、城主を見ると、長野氏→武田氏→織田氏→北条氏→徳川氏と主家の移り変わりの激しい城であり最後廃城となる。


城は平城、西に榛名白川が流れ自然の堀としてその水を利用し全体を外堀が作られ囲むように作られている、曲輪は五つ、三の丸、二の丸、本丸から構成されている。


榛名白川を外堀として見ると東西約600m、南北約1200mといった大きい広さである。


この城に出丸の大きい曲輪を三ヵ所作り外壁を石で作る、(イメージは真田丸である)曲輪の外にも広い外堀を作り敵の侵入を防ぐ事に。



「凄いのう! これだけ多くの人が作業に着くとこれはこれで壮観であるのう、人とは凄い」



「ゲルはこの辺りとそれぞの作業場に併せて設置せよ、先に段取りを、それと甲斐へ続く道には物見を」



武田が本格的に駿河侵攻を開始するも駿府に通じる峠道で落石が起こり通行出来ずに仕方なく一旦甲斐に戻る、徳川が掛川城攻めで苦戦していると判断し、遠江から駿府を目指す事にした。


武田が徳川に合流し、共に掛川城を攻めるも、五峰弓と『てつはう』による火薬爆発にて大きい被害を生じた事で攻撃を停止し兵を陣に戻し掛川城の攻防が次の段階に移ろうとしている中、那須正太郎が西上野へ別の動きを開始した。


那須正太郎は武田が上野に戻り攻め入らないと判断し一気に行動を起こしたのである。


武田が戻れない間に一気に箕輪城を取り戻し強固な城に改築し変貌させる事にした、箕輪城の位置は現在の群馬県高崎市の西側となる、栃木県、埼玉県、長野県に挟まれ中間的な位置にあり、この地を誰の領地にするかで重要な意味を持つ城となる。





── 掛川城 ──




「敵が退きました、陣に戻っております」



「福原長晴殿やりましたな、弓も見事ですが、この『てつはう』は恐ろしい武器ですな」



「敵が門前に密集しておりましたので、効果を発揮致しました、あれでは逃げようがありませぬから、川底に沈みました兵は如何致しますか?」



「浅瀬は引き上げますが、後は川の流れに任せるしかありませぬな、引き上げる為に入れば深さがあるのでこちらも危のう御座います、片付けは我らにお任せ下さい」



「では我らは一旦曲輪に戻ります」



「徳川殿如何致す、あのような武器があれば雨が降らねば攻め込むは無理で御座る、何か良い策はありませぬか?」



「まさか火責めをして来るとは、城兵も多くなんとか野戦に持ち込む方法があれば良いのですが、これでは先が見えませぬ」



「では我らが野戦に持込み致す、ただやり方は一切口出しはご遠慮頂く事になります、この策であれば必ず城から出て来るでしょう、そこで徳川殿の軍勢は今の内にここから離れ、敵が野戦に出て来たら挟撃出来る様に後方に回って頂きたい」



「我らは掛川の兵をこの地図のここ袋井に誘います、ここになります、この場に朝比奈は布陣します、ですからこの後ろに回り、我らが攻撃を始めたら徳川殿も挟撃を行って頂きたいのです、よろしいでしょうか?」



「それは宜しいが、どのような策にて城から誘うのですか?」



「それは聞かぬがよろしいでしょう、ちと荒い手になります、我らにお任せ下さい」



「そうですか、判り申した、攻撃は何時頃になりますか?」



「準備を致して、敵を誘い込む事を考えれば七日後になります、戦を始める時は狼煙をあげますので、それを合図にして下され、それと徳川殿の本陣はあくまでもここにあるという事になりますので陣幕、幟をそのままに願います、攻め入る時は幟を上げて頂いて問題ありませぬ」



「では七日後で御座いますな、では我ら見つからぬ様に掛川より離れます」



「馬場、今の話、聞いておったな?」



「はい、聞いておりましたが、如何して掛川の兵を野戦に持って来るのですか?」



「耳を貸せ、良いか他言無用である・・・・・集めよ、それと・・・・を100台用意するのじゃ、良いな」



顔色から一気に血の気が引き、真っ青になる馬場。



「本当に・・致すので御座いますか?」



「仕方無いであろう、そうでもしないと掛川の城から奴らは出て来ぬであろうが、他に良い策がお主にあるのか?」



「確かにその方法であれば・・・間違いないかと」



「判ったなら、配下を使い行うのだ! 四日間で集めよ!」



「殿、武田から矢文が届きました」



「何だと、どれ・・・何々~、三日後に野戦に応じろ書いてあるぞ・・・応じ無ければ多数の掛川の農民を殺すと書かれているぞ、あ~なんだと・・・明日袋井に物見を寄越し確認せよと書かれているぞ」



「なんの事だ、これはどおいう意味だ?」



「城攻めを諦めたので無いですか、野戦で決着を付けようと言う事では無いでしょうか?」



「なんだと、それでは、此方の方が兵数が少なく不利では無いか、敵は25000はいるぞ、我らは約10000ぞ! なんでそんな賭け事をしなければならぬのだ、風魔をこれに」



「野戦に応じれば掛川が危ない事になる、しかし、ここに書かれている農民を殺すとは・・・なんの事を示唆しているのだ?」



「これより評定を開く、皆を集めよ、那須の福原長晴殿もお呼びするように」



「皆の者、武田から矢文が届き、野戦に応じるようにと書かれた文が来た、そこには野戦に応じ無ければ掛川の農民を殺すと書かれておる、皆の意見を聞きたい」



「何ですと、城攻めが出来ないから野戦に出て来いという話ですか? それも農民を人質にして脅して来たのですか?」



「そんな事が許されるのですか、某そのような話を聞いた事はありませぬぞ、単なる脅しではありませぬか?」



「それが明日、袋井に物見を寄越せと、書かれておるのだ」



「では明日になれば証拠を示すという事なのですか?」



「証拠を見たとて野戦に応じれば、此方の方が兵が少なく敵が有利となります、城があるから我らが有利に戦っておるのです、城から出るなど考えらませぬ、この城を守る事が一番の大事なる事です」



「その通りです、一年以上前から備えて来たのです、簡単に野戦に出る事は出来ませぬ」



「那須の方はこれをどう読みますか?」



「もしこれが那須の地であれば、例えどのように不利な形であれ、武田が本当に農民を殺すと言うのであれば必ず野戦に応じます、不利とか有利とか関係ありませぬ、必ず城から出て敵を殲滅する覚悟で応じると断言致します」



「信虎様は如何思われますか?」



「武田晴信は某の息子なれど心には悪鬼が住んでおります、あ奴なら勝つ為に農民だろうが何であれ、躊躇せず殺します、血に飢えた悪鬼です、野戦となれば某に兵を預けて頂きたい、某の槍で乾坤一擲を喰らわし見事勝利を呼び込みましょう」



「判り申した、その時が来たら兵をお預け致します」



「では皆の者は城から出ずに籠城が一番良いという事であるな、儂は正直判断出来ん、明日、武田が袋井で示す証拠とやらを見てから判断する、それで良いな!」



「はっ、それでよろしいかと存じます」



「風魔よ今の話をそのまま小田原に伝えよ氏政様に全て話すのじゃ、では急ぎ使いを頼む」



「馬場、用意は整ったか?」



「はい、全て整いました、農民達も揃っております、しかし、本当に宜しいのですね?」



「くどい、こうする他無いのじゃ、戦に勝つという事は、策を弄して敵に勝ち勝って初めて策が正しいと言えるのじゃ、負ければ全ては意味のない策となるのじゃ、お前なら判るであろう、これ以上言うのであれば甲斐に戻れ、戻って蟄居致せ」



「失礼致しました、御屋形様が言われる通りに致します」



「では明日にそなえ休め」





── 小田原北条家 ──




「殿、急ぎとの事で掛川より風魔が来ております、如何致しますか?」



「広間に来る様に」



「掛川からの急ぎの話であるな」



「はい、こちらを朝比奈様からの文になります」



「・・・・武田が野戦に応じよと、応じぬ場合は農民を殺すというのか詳しくはそちから聞いて欲しいと書かれてあるが、一体どうなっておるのか?」



「はっ、武田と徳川が合力し、連合で掛川城を攻めるも攻略できず、徳川と武田は一旦引きましたが、今度は農民を質に取り野戦に応じろと脅して来ました、本日袋井で脅しでは無い証拠を見せるとの事です、そしてこれより二日後に野戦を行うようにとの話で御座います、城にて評定を開くも、野戦では兵力に差があり不利となる為籠城と言う声が多く、朝比奈様は本日の袋井の証拠を見てから判断を致すようです」



「どうした? 氏政、掛川から知らせが届いたと聞いたがどうなっておる?」



「それがこれを見て下され」



「なんと農民を質に取り野戦に応じよ脅しが入ったのか?」



「はい、なれど本当に武田は戦に関係ない農民を殺すのでしょうか?」



「馬鹿者、お主は知らぬのか、あ奴の本性は悪ぞ! 善など全くない、人の命をなんとも思わぬ極悪人ぞ、修羅の武将ぞ! その昔あ奴は降伏した3000もの兵士の首を取りそれでも足りず多くの首を刈っておる極悪人ぞ!」



1546年、武田晴信は信濃国佐久郡を治める為に、志賀城に籠る兵士の士気低下を狙い、城の周りに打ち取った首級三千を掛け並べさせたと伝えられている、やがて城は落城し、笠原清繁、高田憲頼ら城兵300余りが戦死し、生け捕りになった者は奴隷労働者とされ、黒川金山などへ人身売買された。



「あ奴に取って掛川は他国であり敵の国ぞ、敵の国の農民など躊躇うことなく殺すぞ、野戦に引き込むために農民を根絶やしするかも知れん、氏政その方急ぎ陣触れを行い城にいる兵を集め掛川に向かうのだ、取り返しが突かぬ事になるやも知れん」



「その方はこのまま港に行き、小田の軍船にこのまま留まり兵を掛川に送ると伝えよ」



「それと風魔を使い朝比奈殿に小田原が援軍を送る旨を伝えるのじゃ、野戦で決着を行えと伝えるのだ」



「小田原の兵10000だけでは心もとない、蒲原の城に詰めて居る兵5000も持って行くが良い」



「はっ、判り申した」



「氏政、抜かるなよ、ここが正念場ぞ、敵もなりふり構わず向かって来るは追い詰められている証ぞ」



「では某、北条の名に恥じぬ戦いをして参ります」



「そうじゃ、あれを持って行くが良い、まだ10門しか作れておらぬが、試すに丁度良い」



「お~では遠慮なく使わせて頂きます」





── 袋井の地 ──




「掛川の農民よ、お前らは実に哀れである、その方達が死なねばならんとは、恨むなら掛川の城にいる朝比奈を恨むが良い、我らは苦しまずに一突きにして冥途に送るゆえ安心いたせ」



「さあー聞くが良い、ここに居る100名の農民達が死ぬは掛川の卑怯な者達の代わりに仕置を受けるのである、ここにいる小さき童、女子、皆、掛川の卑怯なる者達の仕置にて亡くなるのである、この者達が亡くなる姿を見届け城の者に伝えるが良い、二日後正午までに袋井のこの地に城にいる兵が来なければ、残り2000の農民が死ぬ事になる、我らはどちらでも良いぞ、農民を見捨て城に籠るも自由である」



「さあーあの世に旅立つが良い祈れ祈れ、今生と別れるのだ、恨むは掛川の朝比奈であるぞ」



「やめてくれ~、なんで関係ねぇーおらたちが死なねばなんんのだー、助けてくれー、皆な目を瞑るのよ、かあちゃんが付いているから、とうちゃんもいるぞ、目をつぶれ、槍を見るな」


(何故関係無い者達を殺すのだ、どうして民が死なねばならんのだ、忍びの俺でさえ、忍びの俺でさえ・・・・お頭、無辜の民が殺される所をみたくねぇー、小太郎のお頭~辛い・・辛すぎで御座います)



「良し、祈れ、やれー! 一突きに殺すのだ!」



この日、100台の磔台に縛られた農民の親子100名が理由も解らずに一瞬にして無残にも殺された。





── 掛川城 ──




「なんと農民の親子100名が柱に縛られ、槍で突かれ殺されたというのか、二日後に袋井に来なければ残り2000名の農民を殺すというのか?」



「・・・・・もはや考えている場合では御座らん、城にいる全兵力にて雌雄を決する、反対の者は城を去って良い、二日後に全兵力にて城を出る、これより異議を唱える者を許さん、引き続き軍議を行う、地図を用意致せ!」



掛川の地は代々、朝比奈家にて今川の主要な地として任され守って来た、それがこの様な残虐な行為で掛川の大地を、民を虐殺する武田に体中の血が逆流した朝比奈であった。



「では軍議を行う、意見ある者は遠慮なく申し述べよ」



「敵は20000以上です、こちらは野戦するにもどの様な陣形が宜しいでしょうか?」



「信虎殿武田の軍勢の内訳はお判りですか?」



「騎馬隊が2割、後は長柄足軽が6割、弓は多くて1割、残りが荷駄隊他であろうか」



「では数で考えれば騎馬隊4000、長柄足軽12000が主力で御座いますね」



「我が方は騎馬隊600に那須殿の騎馬隊が200で計800、他は主に長柄足軽8000となります、他に城に残る老兵1000名です」



「敵は数多くでありますが、兵数だけで勝負は決まりませぬ、良い策などありますでしょうか?」



「では足軽の中で槍上手の者はどの位おりますでしょうか?」



「そうですね、槍上手となれば、なんとか1200でしょうか」



「では某、那須の戦いで経験上知り得た事を申します、騎馬隊800騎と槍上手の者だけが攻撃を行う部隊とします、残り6800は防御専門の陣で本陣を組み、その本陣が敵陣に近づくようにしてください」



「本陣が敵陣に近づく意味はなんでしょうか?」



「敵20000の処へ10000が密着すれば動きが制限されます、敵は本来攻撃に特化した武田です、その攻撃力を敵味方が入り乱れた中であれば動けなくなります、こちらの槍隊は本陣の6800に入らずに敵の弱い所を突き崩し、敵本陣に一気に向かい打撃を与えるのです」



「成程、密集すればするほど敵の攻撃が乱れるという事ですな」



「その通りです、そこで信虎様にお聞きします、某飯富殿に騎馬隊の戦について教えを乞うた者です、武田家にて騎馬隊を作られ、あの攻撃に特化した動き『蛇行』は信虎様と飯富殿で考案されたと聞きましたが本当で御座いましょうか?」



「(ニヤリ)お~、飯富を知っているか、あの『蛇行』は儂が見抜き、共に築いた動きよ」


「では信虎様に槍騎馬隊を編成願います、某の騎馬隊は弓に特化しております、使い道は広がりより強い部隊となりましょう、後は我らの陣形になります」



「6800の防御専門とした本陣の陣形は方円しかありません、こちらが方円となれば武田は鶴翼で構え包み込むようにして来る筈です」



「鶴翼で包まれてしまえば、こちらは対処出来ませぬと思いますが?」



「それで正解なのです、此方の方円を包むという事は敵の翼の兵達が向こうから近づいて来ます、近づくと同時にこちらも敵本陣に近づけます、こちらの方円の陣も真ん中に密集した分、敵も近づき包まれます、どうでしょうか絵が書けましたでしょうか?」



「6800の方円の本陣が包まれ、敵本陣に密着した時に一斉に方円の陣を崩し武田の本陣に襲います、全ての兵で本陣だけを狙い攻めるのです」


那須騎馬隊の隊長が話す策に希望を見出す掛川城の軍議、戦は数ではないという事を自覚する軍議となった。





いよいよ決戦に向けて大一番となります、それにしても許せない武田軍、関係ない農民を虐殺しやがって、私にこのような原稿を書かせやがって、お陰で血圧が上がってしまったじゃないか、ハイボール飲んで虐殺の原稿書くとは思わなかった、許せん、成敗してくれる!。次章「氏政の咆哮」になります。

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