第28話 那須七騎


「では、洋一さん時期は今から再来年の5月初めに必ず佐竹が3000強の兵で那須に侵攻して来る、あと、1年と五ヶ月間だからね、ここまではいいね」

(この日は12月24日クリスマスイブ)



「今はその事が伝われば後は那須の方で準備を開始するだろうし、もう一つ大切な事なんだけど、これまで小さい大名勢力の那須が合戦で負けなしで連続で勝利しているのは洋一さんも知っていますよね?」



「でも強い弓騎馬隊の他に那須家が負けない理由を洋一さん解かりますか」



「・・・なんだろうね、戦上手なのは確かだと思うけど、今更言われて見ても玲子さんの前では適当なこと言えないし、強い武将がいたとか?」



「おっピンポンだよそれ、今日は調子いいね」



「笑い・・那須家の強い秘密が本当に優れた武将がいたのよ、勢力が小さいにも関わらず戦場での独特な空気の流れ、弱点を見通せ指揮を取れる武将が全部で当主を含め七人も」



「七人というか、それぞれが重臣として配下を持ち戦場で戦える武将がいたのよ」



「那須家は他の戦国大名とは違って、国人領主が集いあっている寄合所帯の色合いが強い大名なの、那須本家を入れて七家なの、独立した六家にて那須本家を支えている大名なの、他の戦国大名は支えるというより国人領主に逆らえないから臣従しているという感じが多い中で」



「この違いは大きくて、国人領主が臣従した形の多い国持大名は主家の力が弱くなると、お家乗っ取りとか、離反してしまうとかの主家の力に左右されてしまい、下剋上が発生する度合いが強いの」



「那須家は支えている六家が自分達が支えている、那須家には自分の家が必要と言う使命感を持った六家で構成されているのよ」



「その理由は『那須与一』という祖の偉大な誇りが影響していて、与一様の那須家を支えているという誇りが、数百年に渡り六家に遺伝されているの、又、那須の領域に住む農民たちも数百年以上前から住んでいる譜代の民なの、その民達も与一が築いた領国に誇りに持って住んでいる」



「那須家の強さの秘密は、強い七家から構成されていて本当に小さい国人領主達がそれぞれが立派な武将として活躍しているの」



「あの有名な武田信玄でさえ、戦場で軍を率いて指揮が取れる武将が10人ほどなのに、那須家には七人を中心とした軍将がいたのよ、その名前が『那須七騎』と言われた家なの」



「七騎または七家という、意味なんだけど、頂点は那須家当主資胤の那須本家、次に大関家、芦野家、伊王野家、大田原家、千本松家、福原家、という家が那須本家を支えている国人領主達が立派な武将なの、強い秘密は、その家々が騎馬隊を持っているのよ」



「騎馬隊のイメージって洋一さんどんな感じですか?」



「そうだな馬に乗って戦うのは知っているけど、どこまで強いのか正直解らないな」



「じゃーアメリカの西部劇に出て来る騎兵隊はどう?」



「そうですね、映画では数十人規模の騎馬隊でピストルを撃ってインディアンと戦っているイメージかな」



「そうよね、騎兵隊の戦いは兵士達が混みあった中で槍を振り上げて戦っていては、負けなの、敵兵から離れた所から攻撃するからこそ意味があるの」



「馬は大きく重量があるから、ぶつかっただけでケガもするし、歩兵の足軽には馬が近づいて来るだけで怖いの、現代でも歩兵が戦車と戦う様なものよ、それだけ騎馬というのは、重要な戦力なのよ」



「那須家は那須駒が那須高原という広大な地域の中で自然に繁殖して育った馬でなので、素晴らしい環境なのよ、それも昭和初期まで普通にいたそうよ」

(ネット確認できます)



「それで正太郎さんに伝えて欲しいのは、騎馬隊全部に行き渡るように那須五峰弓をなんとか揃えて欲しい事、那須家の戦いの中心は騎馬で戦国時代の大きい和弓であれだけ強いのだから、新型の五峰弓になったら、火縄銃より大きい戦力になると思う」



「それは凄いですね、火縄銃より強いのですか、うん、火縄銃って弾を飛ばすだけなら上に向けて角度を付ければ遠射で約500m、直線的な有効射程距離は遠くて150mよ、戦国時代後期の優れた火縄銃でも射程距離は250mよ」



「それと比較して五峰弓の有効射程距離は鞍馬の話では364mもあったと報告があったよね、殺傷能力は火縄銃の方が上かも知れないけど、敵兵を殺さなくても、弓で怪我を負わせればそれだけで、相手の戦力が削減出来るのよ、腕を刺され、足を刺され、どこかを負傷するだけで、大怪我してしまう、だから前線に立てない」



「当時の火縄銃の弾は球体、弓の矢は長く遠くに直線的に飛ぶように羽がついているよね、どう考えても弓の方が有利なの」



「そう考えれば、とてつもない武器よ、それともう一つ、火縄銃では弾込めに時間が必要で一回で30秒らしいよ、熟練者で20秒ってネットに紹介されていたよ、弓だと洋一さんなら専門家なのでどうでか?」



「そうですね、五峰弓なら矢を撃つだけの連射で5秒間隔で1分間、10射出来ると思う、的をしっかり狙ってなら、やっぱり一射10秒程欲しい所かな」



「手慣れた人だと矢を二本持って二本同時に放つとか、五峰弓の短弓だとやれるかな、よく動画とかで別々の的に向けて二本同時に放つ動画が紹介されているし手慣れると連続で連射はもっと早いかも」



「それって相当凄いよ、足軽は集団で槍を両手に持っているから、仮に、30人の騎馬が1分間撃つだけで1人で10射と考えたら、1分間で300本も矢が飛んで来たら敵兵は、相当な被害を受けて逃げ出すよ、この意味がどんなに凄い事なのか、戦国の歴史の転換点になるわ」



「弓が凄すぎて私ですら声もでない」



「洋一さんが、与一様から最初に受け取った、那須家を助けよ、蒙古弓にて再興せよと、言っていた意味はきっとこの事よ」



「実は僕も蒙古弓が気になって調べたら現代のアーチェリーの原型らしくて、弓の世界では合成弓って呼ばれていて、蒙古弓と同じ様に何枚もの板で合成されている現代の弓と同じ仕組みだったよ、長さが短くて扱いやすい合成弓だから、連射も出来るという事だね」



「戦国の戦いの歴史が変わる程の大転換になる戦になるかも・・今日はここまでね」



「佐竹の攻撃開始時期を伝える事、攻撃してくる道は最短の道、騎馬隊全員に五峰弓を揃える事、出来れば騎馬隊の数は出来るだけ多くだね」



「あとの戦略はもう少し色々と考えたいから時間が必要だから又、次の時に」



 時間も昼時となり、昼食となった、農家の田舎料理だから口に合うかわからないけど、どうぞ言われたが、ここまでやるのか、これのどこが田舎料理なのかという見事な料理が。




 農家の大きいテーブルには、メインにちらし寿司が他にもお祖母ちゃんが作った煮物が大皿にたっぷりと、自家製の漬物、そして今日はクリスマスイブという日に来た玲子の為にケーキも用意されていた。



「どんどん食べて、これもどうぞ、こっちも美味しいのよ」



 楽しい会話が続く中、洋一の父が。



「息子に笑顔で聞く、どうだ洋一、時期は決まったのか?」

(突然結婚の時期を聞く父親)



 あっ、時期?、なんの時期かと考えていると、玲子が横から。



「再来年の五月だよね!」と何気に答えてしまったのだ。

(おおーやった、再来年の五月に玲子さんと結婚する予定なんだな、妻を見るとお互い目と目が笑っている夫婦であった)



 再来年の五月と聞きだした洋一の父親、その言葉を聞いた母親は玲子に向かって。



「こんな不束な息子だけどよろしくお願いね」



 と母親が、食事に夢中の玲子に頭を下げた、玲子はなんの話をしているのか判らなかったが、煮物がとても美味しいのでうんうんと頷いて、返事をしていた。



「おじいちゃんが一言、今成家と今成家だし、目出度い事だと、お祖母ちゃんは、煮物の追加を皿に付け足していた」



 食事も終わり、畑とか案内して散歩してくると言い、玲子と散歩に出たのである。




「お母さん良かったな、じんさん、ばあさん、これでこの家も安泰だ」



 いい人に巡り合えたねと会話する洋一の家族。



「年が明けたらこちらから玲子さんのご両親に挨拶に行こう」




 と話は纏まるのであった。

(・・・その結果、洋一も再来年の五月に・・・なったのである)



 玲子から納屋には、なにがあるのかと聞かれ。



「納屋には昔から使っていた古い農機具とか、古いものだと木で出来た足踏み式の脱穀機が多分100年以上も前のが、他にもいろいろあったと思う、後は現役のトラクターを初め大きい農機具が入っているよ」



「蔵には何をしまっているの?」



「蔵はほとんど入らないから判らないけど、なにしろ埃が凄いから多分の先祖からの物が沢山あるよ、何代前の先祖か知らないけど、でかい木箱に嫁入り道具って書かれた箱が四つはあったな」



「鎧とか、槍とか刀は無いの?」



「どうなんだろう、今度少し見てみるよ、埃が凄いから掃除しないと入れないから年末の休で掃除かな」



「ふーん、そっかー、なにかの役立つ物があるかも知れないから洋一さん一応時間がある時にお願いね」  

(鎧と刀があったら私の物にしようと密かに考える玲子であった)




「わかった玲子さん」




 散歩を終え洋一宅に戻ると玄関前に置かれたお米と野菜の山が・・・・



「ご家族にって、えっ、こんなに、これ車に詰めるかな~ 農産物の行商人か」

 (・・・相当な量だぞ、常識の領域を超えている)



「凄い、こんなによろしいのですか?」



 ご迷惑じゃないかと断ろうかとする玲子に、少しばかりだけど、と言ってトランクと後ろの席に荷運びを始める洋一と父親、車に米袋30キロ一袋、大根20本、白菜10個、ネギ等々野菜に埋め尽くされた玲子の軽自動車であった。

(連日鍋が続きそうな予感が)



 八百屋さんの車となった、玲子が無事に帰宅した。

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