第29話 評定


 無事に年明けを迎え、急速に那須家と小田家による連携が密となり、1562年2月初旬、那須家と小田家による軍事同盟が締結された。



 これにより一気に両家は対佐竹という40万石の大国との戦いに向けて動き出す。



 軍事同盟を結び両家で行える戦力補強が図られたのである。



 小田家は兵力数は那須家より多いが騎馬隊の数が不足しており機動力に劣る為、那須家より那須駒30頭が贈られたのである。



 騎馬隊を率いる優れた指導者も教官として送る事にした。



 小田家からは那須家には馬の代金相当を上回る塩と矢が3万本贈られる事になった。



 那須は海に面した領地が無い、敵国である佐竹より割高な塩を買うか、又は白河結城家、岩城家より那須山を越え、白河の関を通り関税を支払うなどして塩を得る方法しか無かった。



 小田家との同盟により、塩が手に入るという事は大変に意味が大きいのである。



 軍事同盟が結ばれた事により、那須家の方針を決めるべく重臣達による評定が開らかれた。



 当主資胤筆頭に那須家を支えている各地の国人領主達『那須七騎』の面々、大関家、芦野家、伊王野家、大田原家、千本松家、福原家、他重臣達の代官、文官、計30名と初めて正太郎が参加しての評定を行った。



「皆の者面を上げ、これより評定を行う、皆も聞いていると思うが、此度正式に小田家との軍事同盟が結ばれた、3月1日より同盟となる、これにつき何か意見がある者はおるか、遠慮せずに意見を言う様に」



「では某大関より確認したくお尋ね致します、某の大関家は那須家を支える家中で一番石高も高く、那須家に次ぐ兵力を持っております」



「此度の軍事同盟の経緯において、戦時では我が大関家は誰よりも影響を受けます、であるならば、なにゆえ、我らに何も諮らず事を勧めたのか些か疑問を感じます、その説明を聞きとうございます」



「うむ、そちの言う通りよ、此度の軍事同盟、那須家を支えている重臣に諮らずに勧めた事には苦渋の決断があったのだ、此度の評定には嫡子、正太郎が初の参加である、この正太郎より持たらされた話により、そち達に諮らずに軍事同盟を結んだのである」



「その説明を正太郎より致すゆえ、しっかり聞いて貰いたい」



「では説明せよ!」



「はっ、正太郎です、此度の軍事同盟の経緯は、私が知りえた情報を基に父上である当主に極秘に勧めて頂きました、この軍事同盟は私が父に進言し取り図って勧めた同盟です」



「なにゆえに密かに諮り同盟を結んだのか?」



「今から言う事を覚悟して聞いて下され、明年5月に佐竹が3000強の兵力を持って那須家に侵攻して来ます」



「何故そのような時期まで判ったのですか?」



「ここにいる皆様は私、正太郎には10人程の配下がいる事を知っていると思います、半数以上は当家と所縁の無い者達です。その者達は私の指示により敵対している家の事情を探るなどの任に付いております」



「当家は何年も前から佐竹による攻撃を受けております、皆様の活躍により、その都度退けておりますが、関東管領上杉家が長尾家に身を寄せられから佐竹の攻撃回数が増えた事を考えれば、次は何時、攻撃を仕掛けて来るのかという事を懸念し、私が配下の者を佐竹領内に忍び込ませ私が探っていたのです」



「そこで掴んだ情報では明年5月、佐竹がこれまでにない大規模な大軍で攻めて来る事が判明したのです」

(洋一からの知らせと、鞍馬の事は伏せて、私が忍び込ませた者からの情報とし辻褄を合わせての説明を行う)



「若様は、なぜそう断言出来るのか、情報を得た配下の者はどこで知ったのか? をお教え願いたい」



「当家にもお抱えの商人が居ります、佐竹にもお抱えの商人がおります、それも軍備を揃える商人の所へ、配下の者を使用人として忍ばせ、そこからの情報となります」



「佐竹より明年3月までに武具を揃える様に、攻撃する領国は那須家であると、3000強の兵士、三か月分の兵糧と城に蓄えている武具不足分を奉行と図り用意する様にとの内容が、当家に取って重要な情報が入り、その商家では、兵糧と武具を揃え始めたと知り得たのです」




「次に皆様に秘した大きな理由がもう一つあります、皆様のお家に仕えております家臣が佐竹に通じておりました」




「その者の名を申せば、皆様の中で面目を無くしまするお方がおりますので告げませぬ、私が調べましたる所、その仕えていた者の奥方が佐竹氏の領内より嫁いで来られておりました、その縁を狙われての間者となっていた様です」



 ここまで告げると、この場にいる重臣達は顔を青ざめ自分達が知らぬ事を、佐竹の那須家に対する侵攻計画、佐竹に通じていた間者がいた事を聞き、重臣としての面目を失ってしまった事に恥じ入る一同であった。



「これらの理由により、敵である佐竹に、小田家との同盟について決して漏らさぬ為にも、秘して勧めたのです、重臣の皆様、特に領国の大きい大関殿にも諮らずに勧めました事、不快な思いをさせてしまい、この通り正太郎の不徳の致す所です、お許し下され、大関殿」



 嫡男正太郎に、6才とは言え、ここまで那須の将来を案じ、配下の者を佐竹に潜り込ませ、事前に情報を得、間者まで見破るという正太郎に誰もが敬服するのであった。




「若様にして頂いた此度の事は、この大関、頭を下げて感謝致します、我らこそ若様にご心配をかけさせてしまった事に恥じ入るばかりです、佐竹との戦い必ず大勝利を持ってお応え致します、皆の者頭を下げよ」



 若様に誓うのだと言って、この場にいる重臣達が一斉に頭を下げたのである。



「うむ、皆の者その様な理由により、皆に伏して事を進めたのじゃ、済まぬが此度は許してくれと、当主が頭を下げ、この件は不問となったのである」



 大関からは、佐竹に通じておりました、間者はどうなりましたか、と、聞かれたが、正太郎が、その者はこちらにて対応するからなにも心配ない、それより間者がいた事を誰にも言わないで欲しい、私に考えがあるので。と語る正太郎であった。

(ここまでの話は事前に父、資胤に相談し、聞かれるであろう事について、無難に回避できるよう話を作り上げていたのである)



 一通り同盟の件が話された後に芦野家より戦について話す事になった。



「では佐竹がこれまでにない3000強の兵力で来年5月に那須に侵攻してくるとの事ですね、それでは佐竹を破る方策を練る必要がありますね」



 うむ、当主資胤がさらに、その事についても正太郎が勝つ軍略を既に練り上げておるぞ、と言えば、場内が驚き、誰もが鳥肌を立て、身震いする程の衝撃を受けていた、誰もが声を出せない中、七騎重臣の大田原氏が恐る恐る声をあげた。



「若様一体どの様な事なのでしょう、先程からの話で、恥ずかしながら、心ここにあらずで冷静でおられませぬ、若様が神童との噂は聞いておりましたが、既に勝つ軍略まで描かれているとの御屋形様からのお話に、頭がくらくらしております、この際なので、若様におすがりする気持ちでその軍略をお教え下りませ」



「大田原殿、大それた話ではありませぬ、皆様の武威を示せば佐竹など倒せます」



 はっきり述べる正太郎、場内の者達は聞き耳を立てて、正太郎が話す軍略に聞き入る一同であった。



「今話した通り整えれば大丈夫です、今新しき弓なる『那須五峰弓』を騎馬の方々に渡る様に作らせております、その為に昨年領内の弓師を集め、秘密が漏れない様に作らせていたのです」



「その弓はこれまで使用している和弓とは違い、より遠くへ飛び早く撃てる弓です、但し、これまで通り、今使用している和弓による調練が、その弓でも的に当てる調練が一番良いとの事です、和弓の腕の良い者がやはりその弓でも的に当てる事ができる様です、ですから弓の調練を練度を上げて下され」



「そして最大限の数の騎馬隊を編成して下され、大切な事はその二つが、騎馬隊の数と弓士達の腕に勝負が掛かっております」



「弓なれば那須家が日ノ本一のお家です、家紋の〇に横一字とは、一射にて戦いを制するという与一様を祖にする我らの御旗である、その誇りを天下に示す戦いを皆様にお願い申しあげます」



 当主資胤より、今述べた新型の弓『那須五峰弓』も正太郎が作り上げた物である、その強さに驚くであろうと述べると、一斉に、ははーと頭を下げるしか無い一同。



「我ら御屋形様に、嫡子、正太郎様に必ずや勝利する事をお誓い申し上げ致します」



 ここで一旦お開きとなり、ここからは正太郎抜きで評定が再開されたのである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る