関八州補完計画第二章開幕


「洋一さん、ちょっとこれ見て、この構造って大砲も同じ?」



「あっ、火縄銃ですね、結婚前に玲子さんからライフルの構造調べてと依頼されていたので、銃についてひと通り調べてます、球が飛び出す原理は火縄銃もライフルも大砲も同じ原理で構造もそれ程違いはありません、火縄銃は特にシンプルに出来た飛び道具になりますね」



「やはりそうなのね、それでこれを見て欲しいの?」



「これは大砲で・・・木砲ですね、この木砲も歴史は調べました、確か明治維新まで使われている大砲ですね、鋳物技術が発達していない藩で、金欠な藩はこの木砲が使われていた様です、球の方は作れても砲を鉄で作る技術が無い藩だとこの木砲が重宝された様です、問題は耐久性が無いので、10発程でガタガタになる様で消耗品の大砲ですね」



「それで同盟を結んだ北条家を調べたら、当時の日本の中で鋳物文化の技術が進んでいる所なのよ、当時の日本で抜きん出ているの」



「どうして鋳物技術が発展したんですか? 鉄砲は堺とかだし、鉄砲鍛冶が小田原にいると聞いた事無いですが?」



「小田原の鋳物技術は仏教に使われているの、色々な観音様とか仏像とか、大きい物小さい物、仏具全般を作っていて、雅楽の楽器や銅鑼も多く作られているのよ、鎌倉幕府が作られて多くの寺院が作られたから鋳物技術が発展したの、武具もそうだけど、鉄砲だけは資料的に無いから作って無い様ね」



「それだけ作れる基礎があれば大砲は作れますね、ライフル銃の特徴を調べて分かりましたが筒の内側に螺旋状の溝があるか無いかで相当な違いがあるので、それをどうやって作るのか考えていた時がありました、大砲も同じで作る以上螺旋を施した筒にしたいですね」



「それと興味深い話なんだけど、石田三成が家康と戦った関ケ原で三成は大砲を持っていたのよ、威力については諸説あって期待出来ないけど、球の大きさもピンポン玉程度と言う話もあるから、あれなんだけど、とにかく大砲があった事は間違いない様だけど」



「ピンポン玉程度って、それ大きい玉ですよ、ピンポン玉の大きさの鉛玉が当たれば即死又は大怪我ですよ、盾も鎧も役に立たないと思います、当たった衝撃は相当あるかと思います」



「えーと、あった、これこれ、前に調べていたのですが、鉄球重さ1キロだと、直径6cmの球体を10mの高さから落とした時の衝撃は大体1.4tの衝撃になる様です、落としただけで1.4tです、それが体の何処かにあたればどうなるか想像付きます、それに飛んで来る球であれば1.4tでは済まないと思います、やはり死にますよね」



「構造が単純であれば、大砲と言うか大筒と呼ぶか別にして、正太郎に伝えて研究してもらおう、北条の方でいろいろやるだろうから課題だけ伝えて挑戦したらどうかね、史実でも木砲はもっと前から日本にはある様だし、鋳物の砲は北条に振ったらどうかね?」



「そうですね鋳物技術の基礎があれば鍛治の技術もしっかりしていると言う事ですから、仕組みを教えてみます、最初は木砲で試作機を伝えてみます」



「うんうん、戦国終盤では信長が鉄甲船てっこうせんという恐ろしい船を作るから、最初はピンポン玉の大きさの玉でも砲丸投げの玉になったら城門でも破壊出来るかもね」



鉄甲船とは、大型の安宅船に鉄板を張った船、大砲も搭載されていたとする、作られた目的は村上水軍との戦いで敗れ、その時の教訓から鉄砲、焙烙玉の攻撃を防ぐ為に鉄板を張った船を作り出した、この発想は後の戦艦へと繋がる。



「判りました、幾つか伝えてみます、間もなくですね、これからの那須はどうなって行くのでしょうか?」



「この1566年は信長側でも美濃攻略の節目があるからね、京も新しい将軍として三好が傀儡の足利義栄を担ぎ出し、勝手に将軍の御内書を大名に出して朝廷にも働きかけして翌年には本当に征夷代将軍が誕生したり、九州はもう説明出来ない程数々の戦争が起きていて悲惨な状況だし、この戦国期後半、九州の戦いを時系列に説明を何度聞いても整理出来ない程ありすぎてまさに地獄という表現しか浮かばないわ」



「日本中が何かに呪われている様ですね、なんとか那須は勝ち上がって欲しいですね」



「そこは要かなめの北条が史実と違って少しは物事が見える様になったから残れる可能性が増えたわね、問題はこの後の流れを掴むことだね」



「では正太郎には大砲の件、他に少し伝えたい事があるのでそれもしておきます」





 ── 陣触れ ──




4月初旬に白河結城家、宇都宮家、小山家、結城家に佐竹より陣触れについての日時が示された文が届く、それとは別に隠してある奥の手となる家にも陣触れと合戦について詳細に書かれた文がその大名にも届いた。



「ほう、本当に動きまするな、面白い事になりましたな、御屋形様、佐竹からこの様に動いて欲しいと書かれておりますが、どの様に扱われますかな? 某の読みですと、従う振りをして大きく得ようとしておりませぬか?」



「ふっふっ、長年お主と悪だくみを行っておればお主には判っておろう、佐竹に付き従うは利があるからよ、まあー此度の包囲網を築いた事は褒めてやらねばならん、だが褒めるだけよ、ここで佐竹を大きくさせて見よ、力が戻った佐竹は包囲網に参加した家を次々に襲う事は目に見えている、ならそれを利用しなくてどうする、この包囲網を生かして大きくなるは我らぞ、小田を喰い、佐竹を喰らい、徐々に包囲網に参加した家を喰らい尽くすのよ、さすれば常陸、下野二国は我の物よ、白河結城も含めれば残りは北条だけよ、どうだお主に儂の考え読めたか?」



「流石御屋形様です、それでこそ仕えかえがあります、佐竹には某が上手く立ち回りますので安心して隙を狙らうて下され、しかし、佐竹の驚く顔、きっと見もので御座いますな、誘い入れた家に乗っ取られるのですから、乗っ取りは御屋形様の得意技だと言う事を知らぬのでしょう」



「馬鹿を申すな、人聞きが悪いではないか、乗っ取りではないぞ、民の事を思うて頂くのじゃ、民の安寧の為に喰するだけよ、まあー見ておれ」



各家で陣触れが行われ、那須小田でも同様に陣触れを発した、芦野別動隊と那須本軍も4月25日までに芦野城、烏山城にそれぞれ参集する事になった、武具兵糧も全て揃えており、後は出陣を待つだけの体制となる。




正太郎の館にも鞍馬の配下が参集していた。



「お初にお目に掛かります、某、申の父親で大申と申します、こちらが修行中の者ですが伝つて要員として某の子、子申で御座います、此度親子三名正太郎様の元にて働きますのでよろしくお願い致します」



「お~お、大申殿と言ったな、では申の父上であるな、いつも申には助けて頂いておる、それに弟であるな、子申であるな、幾つになるのじゃ?」



「はい、某、15になります、よろしくお願い申します」   



「うむ、こちらこそよろしく頼む」



「それとこちらは誰であろうか?」



「はい、某の弟、颯はやてに御座います、普段は里と私達の伝を行っている者です、某と同じく足早になります、お見知りおきお願い致します」



「うむ、颯であるな、頼りにしておる、頼むぞ」



「それと小太郎、敵包囲網には抜かりなく忍ばせているかと思うが大丈夫であるか?」



「はい、敵包囲網の指揮は父天狗が行っております、佐竹には特に多くの者が潜伏しております、動きは逐一入る事になっております」



「うむ、安心した、それとこの小さい竹筒を高林にいる儂の部隊と芦野別動隊に渡して欲しい、それとお主らにも二本渡す、それの使い道であるが、全兵士に疲れた時に食する麦菓子を与えているが、それよりも一段上の疲労回復の飲み物じゃ、数がそれ程用意出来なかった、なんとか芦野別動隊と儂の部隊とお主達の分を用意した、疲労が溜まり麦菓子が喉を通らなくなったり、急ぎ回復させたい時に飲む様に伝えて欲しい、駒にはこれまで通り砂糖で充分じゃ、儂も飲んで見たが疲れていたのに疲れが飛んだわ、役立つと思う」




「それと長野殿の上野はどうなっておる?」



「農民の移動も終えており兵も問題なく終えております、風魔の話では、武田の斥候部隊が時々見える様になっているとの事です、斥候部隊を時々長野殿の騎馬隊が追いかけ仕留めている様子と報告が入っております」



「では、上野の者達の移動は露見しておらぬと見て良いのだな」



「はい、城外から見ても多数の長野家の幟旗が林立しております、まさかもぬけの空とは思われて無いでしょう」



「そうか良かった、では皆の者、世話になるお主達の働きが勝利を与える事になる頼むぞ」




正太郎は前回と違って何故か胸騒ぎが止まなかった、いくら令和の洋一達から軍略などの話が伝わっても9才の少年には荷が重すぎる戦であった、石高が増え、兵士が増えても、敵も又、大きい力で攻めて来る、戦場に参加した事が無い正太郎には人が死ぬという事を頭では理解しても、殺した者、殺された者という死者をまだ見ていない、今回の戦でも大勢が亡くなるという事を理解しても、それを平然と受け止められる少年ではなかった。



当主の嫡男という立場である以上その事は誰にも言えず独りになった時は大声で泣き出したい、叫びたい気持ちとなり、深夜一人で咽び泣く事があった、しかし、正太郎の行動を一人だけ見ている者がいた、忍びの心得がある侍女の梅であった、その咽び泣く正太郎の様子を鞍馬の女将伴に告げ、伴より当主の奥方様にこの話を伝え、その事に対し、この様に手配して欲しいと梅に告げた。



その数日後、陣触れの集合10日程前に正太郎の元に母の藤が館に訪れた、正太郎元気にしておりますか? お寝しょは大丈夫ですか? と、明るく話掛ける母の藤。



「あっ、母上、何を言っておるのですか、もうお寝しょは卒しております、それより何か用向きがありましたか、あれば私の方が城に行きましたのに、何かありましたか?」



「今日は正太郎を伴って一緒に行きたい所があったのです、時間はありますか?」



「はい、大丈夫です、どちらへ行かれるのですか?」



「皆戦前なので知らせていませんでしたが、伴殿のやや子が生まれたのですよ、四日ほど前に生まれたゆえ、伴殿とやや子の顔を見に行きましょう」



「えっ、知りませんでした、天狗殿も小太郎も知っているのでしょうか?」



「ええ、知っていると思います、戦前ゆえ誰にも伝えていないのでしょう、正太郎は何かとお世話になっているので知っていても問題ないでしょう、それと伴殿からやや子が生まれた事を伝えて欲しいと頼まれたのですよ、いっしょに参りましょう」



「そうでしたか、喜ばしい話です、気にしておりました、私が堺に遣わしてしまって、やや子がいる事など分かりませんで、ずーっと気にしておりました」



「それは仕方無い事です、本人も解らなかったのですから、ささ行きましょう」



母藤と侍女を従えて伴の懐妊が判明してより寝起きしている家に向かう正太郎達、館より近くに居を構えており15分程で訪れた、先触れを出しているので屋敷では当主の奥方を向かい入れる準備を整え門前に伴の侍女が控えていた。



「ようこそおいで下さいました、ありがとうございます、伴殿もお待ちしております、こちらになります」



「伴殿、正太郎と一緒に来ましたよ、ご無事の出産おめでとうございます、よう頑張られましたな」



「態々のお越し痛み入ります、安産にて生む事が出来申した、ありがたきご配慮感謝致します、正太郎殿もよく来て下さいました、見て下され、やや子で御座います」



「これは目鼻立ちがしっかりした綺麗な女子ですね、ほう可愛い、正太郎もよく見てみなさい、可愛い女子ですよ」



「うんうん、本当に可愛い、うんうん」



 赤子をじーっと見つめる正太郎・・・・顔を赤子に向けたまま、涙をこぼし袖で拭き始める正太郎、泣き出した正太郎に慌てる母と伴であったが、優しく正太郎の目元の涙を拭きとる藤。



「赤子を見て感動致しましたか、そなた正太郎もこの様に可愛い赤子で生まれて来たのです、全ての人は赤子で生まれて来るのです、母は生まれて来たそなた正太郎を見て、幸せになって欲しいと毎日願ったのですよ、父も同じです、子が健やかに育ち幸せな生涯を送って欲しいと願ったのです」



「正太郎様、この生まれた赤子を見て下さい、正太郎様のお陰で平家の里で隠れて生きる事無く今は表の世界で生きられる様になりました、この子は自由に生きて行ける子なのです、正太郎様が自由にして下さったのです、ありがとうございます」



「儂は儂は、何もしておらん、皆が皆が懸命であるから儂も儂も・・・・」



「正太郎あなたは頑張っていますよ、あなたは独りではありませんよ、私も伴殿も貴方の味方ですよ、苦しい時は共に苦しみます、喜びも共に幸も共に分け合いましょう、其方がどんなに大きく成ろうとも私の子です、私が其方を守ります、今日は良かったですね、伴殿お疲れの所我侭で押しかけて済みませんでした、戦が終わりましたら又遊びに寄させて頂きます」



「奥方様ありがとうございます、正太郎様ありがとうございます、何時でもお寄り下さい」









母とは大海なのでしょうか、子の幸せを願い自らの命を使い守ります。

この私、今も時々叱られます(笑)。

正太郎が渡した麦菓子を上回る疲労回復の飲み物とは、赤マムシでしょうか?

次章「出陣」になります。

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