田植えじゃ田植えじゃ

100話になります、なんとか無事に投稿出来ました、読んで頂き大変に感謝致します。感想コメント並びに誤字脱字のご連絡助かっております、ありがとうございます。これからもよろしくお付き合い願います。




『高砂や、この浦船に帆を上げて。 


月もろともに、入汐いりしおの。


波の淡路の 明石潟。


近き鳴尾なるおの 沖行きて


はや住吉すみのえに 着きにけり』



3月下旬竹中半兵衛と芦野百合が祝言を挙げた、この日より正式に竹中家は那須親族衆となった、妻の芦野百合は那須七家の当主芦野資泰すけやすの弟の娘であり、当主芦野資泰の妹が那須家当主資胤の正室 藤である、正太郎から見たら芦野資泰は叔父であり、その叔父の娘と半兵衛は結婚した事になる。



二人が住む居宅は正太郎の重臣でもある事から正太郎の職人村に館を構える事になった、婚儀を結ぶにあたり百合は侍女の任を解かれ数ヶ月前から実家に戻り武家の娘としての奥に於ける嗜みを身に付ける事になり修行を行っていた。



婚儀の式終盤、正太郎の使者として二人の元にお祝いの品が届けられ披露された、竹中半兵衛には那須家の家紋が入った陣羽織が送られた、この陣羽織が送られた事により、正太郎の元で堂々と軍師として指揮が取れる証となった。



百合には油屋に手配させた見事な西陣織の着物が、半兵衛の陣羽織も西陣織である、式には芦野一族の重臣達、竹中家の者達と正太郎の主な配下が招かれお祝いの祝言となった。



竹中家は半兵衛が正太郎に従臣した事により、美濃に残された一族が斎藤家より度々嫌がらせを受け先行きが見いだせず、母の妙海大姉、弟達久作、重隆、与右衛門、彦八郎、妹3名他従者多数が美濃を離れ那須の地に身を寄せた。



無事に祝言を終え、那須の全領地は田植えの準備に追われる事に、田植え準備で重労働なのが田起こしと代掻き《しろかき》である、田んぼは収穫を終えると翌年の2月過ぎまでは放置される、放置されていた水田は水分が乾き粘土質の高い土に戻っている、その乾いた粘土質の土を掘り下げ砕く、砕く事で土の中の微生物に酸素が行き渡り、疲れを取り眠っていた土に力が戻るのである、この田起こしという作業が終われば田に水を入れ代掻きを行いより微生物の活性化が行なわれる、大変な作業である。



農耕馬、又は牛が田の中で土お越し(荒越しとも言う)をしている昔の風景を写真などで見た事がある方も多いと思う、田んぼの田起こしが終わると水を入れ田全体を潤し、より土が柔らかくなり、4月に入れば田植えとなる、その一方で畑も同じく土お越しを行い、眠っていた土に力を与える、理屈は同じであり、水を入れるか入れないかだけである。



この過程で那須では米の籾殻から大量の燻炭を作り肥料として撒き、より力を与え豊作を目指す、那須の領地となった常陸の海側の農村では、食した魚、食に適さない小魚を天日干した魚を砕いて肥料にする様にと教えられていた、現代でも使われている肥料である、注意点は天日干しした骨には多少の身も付いており、猫や小動物が匂いに誘われて食べられてしまうのである、その味は、ふりかけにも利用出来る出来栄えである、保存食にもなり便利な肥料と言えよう。




那須が田植え作業に追われている時期にある大名の元に佐竹より使者が訪れていた、使者が話す内容は小田家に止めを刺す奥の手であった、佐竹側から見れば最善の手と言えよう、佐竹による奥の手は令和の軍師玲子も読めなかった一手になる、その一手は全ての局面を佐竹側有利となる奥の手であった。



読者も軍人将棋という言葉を聞いた事があると思います、別名、戦争将棋である、一般的な将棋と同じく敵と味方に別れ全体的な地形が書かれた碁盤の上で敵がこう動けば、こちらはこう動き攻撃する、攻撃されたら、こちらも攻撃する又は防御するとかの、将棋と同じ様な碁盤を使って戦略を練る道具である。



戦略を練る時に使われる道具であり、佐竹はこの軍人将棋に描かれていない場所に一筋の棋譜を見つけた、常陸国佐竹家十八代当主佐竹義重19才、若き当主、史実で40万石から54万石へ、佐竹家を大きくした天賦の才を持つ武将、その義重が小田に止めを刺す一手を、ある大名の元に使いを出した。



一昨年の戦いで大敗した佐竹、その時はまだ当主に就任したばかり、前当主の義昭が実質指揮を取り敗戦してしまった反省から、敵である那須と小田を観察し、攻撃の那須、防御の小田を破る手立てをあの敗北より臥薪嘗胆の故事に習い復讐を誓っていた、その奥の手は誰にも悟られずに一手を指し動き出した。




── 正太郎 ──




4月に入り正太郎の館にいつもの主要メンバーが揃い話が行われていた。



「いよいよ一ヶ月後と迫った、戦とは関係ないが上野の長野殿はどうなっておる、十兵衛、小太郎詳しく教えてくれ」



「はい、上野からの農民達の避難もほぼ終わり烏山周辺の村々に避難しております、共に農作業に参加しております、武田が通る道々の村では農民がおらず田植えも行われておりませぬので、上野に来ても得る物は無いでしょう、籠城兵については小太郎殿が詳しいので、小太郎殿からお願いします」



「上野箕輪城に籠城する予定であった兵2000名の内1800名は、那須で整備した城に移動を完了しております、今箕輪城に残っております兵は、当主の長野業盛様と馬廻役、騎馬200名が残っております、それと風魔100名が周辺に配置され、武田の動きを監視しており、上野侵攻となりましたら、城にいる長野殿初め残った者が籠城戦を装い最後まで残り、城を総攻めの前夜に撤収を図り『偽計空城の諮り』を行う予定になっております、撤収の際に井戸に毒を投入し、箕輪城を使用出来ない状態にする予定であります、尚、城にありました備蓄の食料、武具等備品も全て移動させており何も残っておりませぬ」



「では順調に進んでいるという事であるな、何れ取り返す地である、余計な物を与えず、無理に籠城して滅亡するなど見ておれん、これで良かったと思う、武田が上野を手に入れ力を付ければ隣にあるこの下野国まで狙われてしまう、これで計算が狂うであろう、良い事じゃ、十兵衛、小太郎よくやってくれた」



「それで今度は佐竹との戦だが、忠義は最初から叔父上の元に戻り白河結城との戦に備えてくれ、芦野伊王野千本隊の軍師に半兵衛が指揮を取るので助けてあげてくれ、残り儂の騎馬隊と武田殿の騎馬隊を引き連れる別動隊は十兵衛が指揮を取り、白河結城を取るのじゃ、取った後は予定通り忠義たちと合流し南下して小田軍に援軍に駆けつけるのじゃ、ここまでに何か問題は無いか? 見落としている事は無いか? 」



「此度は戦場が芦野殿の地と小田殿の土浦、それと烏山近くという大きな三角点となり離れております、そのどれかが予定より違った事になった事を知らずに戦っておりますれば中々知るまでに時間を要し、手が打てませぬ、その手当はしておいた方が良いかと思います」



「流石半兵衛である、確かに予定より時間を要したり変化があるやも知れん、小太郎よ三ヵ所に足早の鞍馬を配所出来るか、人数は足りるか?」



「足が速いのは飛風が一番ですが、それぞれ距離がありますので、三ヵ所に伝用の忍びを用意致します」



「頼む、儂の手元にも2名程大丈夫か? どこかで異変が生じた場合、儂の所にも報告が欲しい、それを聞き儂なりに打てる忍びが必要じゃ、儂はどうしてもまだ戦場には行けぬゆえ、状況を聞くしか判断が出来ん、鞍馬達だけではなく早馬をだして知らせる場合もある、三ヵ所との連携は特に密の方が確かな判断が出せる、天狗殿と話してくれ」



「はい、判りました、あと2年程で鞍馬一党で実践投入出来る忍びが50名程になります、足早の者だけであれば二年待たずに役立つ者がおります、父上に確認して見ます」



「うむ頼む、他に見落としなどどうであろうか?」



「長野殿から那須の幟旗を借用したいと言付けが来ております、10本程度は那須に移動する際に必要と言われ渡してありますが、追加が欲しいとの事です、如何致しましょうか?」



「なるほど、長野殿達が暫く逗留する城に幟を上げて、ここにも兵がいると見せ兵を行ってくれるという事かな? 実際にその城には2000名もの兵がおるから宇都宮小山に対しては効果があるやも知れん、どうであるか十兵衛」



「流石長野殿です、見せ兵がおれば、それだけで敵は躊躇します、その場合、大殿が実際に宇都宮小山と対陣してから旗揚げされる方が良いかも知れません、先に旗揚げされると敵は恐れをなして戦もせずに帰るやも知れません」



「判った、それではこちらも計画が狂う、領地が増えなくなってしまう(笑)、それでは困るゆえ、小太郎今の話、長野殿に伝えて欲しい、旗を揚げる時は戦が始まってからにして頂きたいと、100程持って行くが良い」



「はっ、判りました」



「他は大丈夫かのう?」



「宜しいでしょうか? 戦とは関係がありませぬが、某おかげさまで百合殿と祝言を滞りなく済ませました、若様、皆様のおかげで御座います、いろいろとご配慮頂きまして感謝申し上げます、ありがとうございました」



「いや~よかったのう、儂も何故か安心した、百合が最初の侍女であったから余計に嬉しい、儂も遠の昔に寝しょべんを卒したので安心して家を支えてほしいと伝えてくれ、時には館に遊びに来る様にと、美味しい物を用意しておくと伝えて欲しい(笑)」



「若様本当に寝しょべんを卒したのですか、時々早起きしてお一人で褌を交換しておる事梅は知っておりますが?」



「あはははは、あれは、ちびっただけじゃ、出そうになって急いで起きてほんの少し、ちびったから交換してのじゃ、あはははは、あれは寝しょべんではない(笑)」



大笑いする一同、では頃合を見計らい忠義と半兵衛は出立する様に十兵衛達も武田殿と合流し整える様にと話し、一同館を後にした。






佐竹義重の奥の手とは・・・・

次章「関八州補完計画第二章開幕」になります。

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