海軍士官学校・・・2


── 小田原北条家 ──



「父上、幻庵様こちらをご覧下さい、正太郎殿より文が来ております」



「ほうーどれどれ、この度は忍びの者をお借りし助かっております、お礼に北条家が富める話をお伝え致します、伊豆国の土肥大横谷、日向洞、楠山、柿山、鍛冶、この図に示した所より大量の金が取れます、試して見て下され、それと常陸小田殿の霞ヶ浦に那須と小田にて海軍士官学校を開校します、宜しければ10名程将来の戦船を指揮する有望な若者をお送り下さい、明船の帆船を作りました、操船術を学ぶ事になっています、和船より数倍足早い船となります」



「幻庵様もお読みになって下され、又もや驚きの文が入りました」



「うむ・・・・・・・・・・・・まさに460年先の者と繋がっておる、我らもこの流れにしっかり乗らねばなるまい」



「氏政よ、海軍士官学校という事は正太郎殿は何れこの先、海を制すると考えているのであろう、五月に戦があると聞いているのに、先の先を見据え動いている、北条家の石高は150万石あるに、更に金山の位置まで教えて頂くとは、那須がおよそ20石、小田も20万石とか言っておった、両家で40万石であるのに、石高に関係なく、他家に富める話をするなど考えられん、どうであろうか、その海軍士官学校の費用を北条で出しては如何であろうか、幻庵様は如何思われる」



「当主氏政が決める事であるが、その位の事せなんだら我らの立場が無いのう、両家に取って頼もしい北条と言う後ろ盾があるという事を示さねばかっこつかぬ、その意見に儂も賛成じゃ、氏政どうじゃ?」



「父上、幻庵様、某とてその様に考えておりました、某がケチっている様に話さないで頂きたい、その位の事をして当然と思っております、では文を書いて両家に届けます、当家でも有望な者10名を選び送ります、それと明船の帆船とやらも気になります、北条家には海賊衆もおります、相当良き話かと思います」



「他に文と一緒にこの箱も来ております、これを見ると又、驚かれると思います」



木箱を開け二つの品を取り出して確認する二人。



「何々この文の説明だと、この丸い筒は遠眼鏡なる物で遠くが見える筒です、絶対に日の光を見てはなりませぬ、目が潰れますと書かれておるな、どれ・・・・お~~お~・・見えるぞ氏康あの舟の船頭の顔が見えるぞ、見てみい、お主のちっこいその目で見てみい」



「ちっこい目で悪う御座った、代々ちっこいのじゃ、どれどれ・・・・・お~~本当で御座る、これは便利な物である、戦で役立つぞ、こっちのは何じゃ?」



「説明では中にある針がどこに居ても北を向く方位箱です、陸でも海でも使える品です、何処にいても北の方位が解り陸の位置、敵の位置が判る物です、と書かれておりますぞ」



「この文には正太郎殿が作られた、那須の騎馬に小さい方位箱を持たせ調練していると書かれておる、2月に入りましたら稲作に詳しい者を寄越して下され、田の収穫が増える方法と、飢饉に強い芋の苗を株分けすると、秘事の話ゆえ他言無用で願います、と書かれていますぞ」



「米の収穫が増える方法と飢饉に強い芋とは、恐ろしい武器であるな、籠城しても食料が調達出来るという事になる、この城なれば何年でも戦えるぞ」



「本当に役立つ話ばかりです、父上が最近力を入れて増やしております湯河原のみかんの苗木を分けて宜しいでしょうか、実が美味しい梅の木も共に、那須には無い物と思われます、寄木細工など喜ばれそうな品を選びお礼に送ろうかと思います、些か海軍士官学校の費えだけでは心細いゆえ、如何がでしょうか?」



「お~あのみかんか、甘いみかんゆえ喜ばれるであろう、那須の地なれば育つであろう、小田の家にも渡すが良い、互いの家に取って利になる事ならやった方が良いであろう、幻庵様それでよろしいな」



「金の出る場所、米が増える方法、飢饉に強い芋、遠眼鏡、方位箱、それに海軍士官学校と明船の帆船、これら数十年以上掛けて知る知識ぞ、それを一度に教えて頂くなど、今凄い事が起きておるのよ、みかんであろうがなんであろうが、小田と那須であれば何も心配などいらん、鋳物なども喜ばれるであろう、氏政北条の心意気を見せ時ぞ、けちってはならん」




「だから某けちってはおりません(笑)」 




── 海軍士官学校 ──




「ほう北条殿も10名の者を選び送ると書かれている、それと学校の費えを全て北条家で出すと書いておるぞ、流石大家であるな、学び舎と寄宿所の方はどうであるか小太郎」



「はい、間もなく完成します、菅谷一族がやる気になっておりますが、海軍士官学校の話を聞き付け、隠居しておりました、政貞の父上、菅谷勝貞殿が学長になると騒ぎ出し同じ隠居衆を集めており言う事を聞かずに困ったと泣きが入っております」



「おいおい勝貞だと、もう70にもなるであろう、隠居して10年以上経っておるぞ、大丈夫なのか?」



「なんでもやる気が漲っており浦で泳ぎ鍛錬を始めたそうです、隠居衆と徒党を組んで連日浦で騒いでおるそうです」



「大丈夫かのう、勝貞では儂の言う事も碌に聞かんぞ、儂が幼き頃より口煩く儂を怒っておったから儂も苦手じゃ、勝貞に付いてる隠居衆も勝貞に似ており煩い爺達であるぞ、政貞では太刀打ち出来ん、こうなったら彦太郎、お主が爺達の面倒を見るしか方法がないぞ、彦太郎の元で海軍仕官学校を置き、その学長に勝貞を正式に評定で任命すればなんとかなるか!?」



「判りました、勝貞殿は私には優しく接してくれます、爺を頼ると言えば喜んで言う事を聞いてくれます、隠居し退屈だったのでしょう、そこへこの学校の話となれば眠っておりました火に油が注がれたのでしょう、隠居衆にもやる気が伝わり、良い結果になるかと思います」



「無理はいかんぞ、70近い者達じゃ、最後の使命と考えておるのであろうが無理をさせてはいかんぞ、評定に勝貞と隠居衆も呼ぶ様に手配致す、戦評定も行うゆえ気を抜いてはならん」



その後、小田家評定が開かれ、正式に彦太郎の元で運営される海軍士官学校の学長に菅谷勝貞が、取り巻き隠居衆10人も教官として正式に任命された、ここに初めて日ノ本に海軍士官学校が開校する事になった。



その後評定では、那須より伝わった新しい田植えを全領域で行う、籾殻を燻製し、田と畑に撒く、飢饉に強い新しい芋を苗を植える、モロコシの種も植える、4月中旬までに終え戦支度を整え4月末までに全軍が小田土浦城に集結する事を確認した。



新しい田植え方法は画期的であるがその下準備が大変であった、特に苗の桝板を何万枚も作る事になり、足軽から全ての兵が参加して作成した、田起こしも手伝い、芋も植える等途方もない作業を続ける事となった小田家中であった、しかし、これを行えば米の石高が2割以上増える事を考えれば、全領民が喜んで参加した。




この賑わいは二年前の那須と同じであり、喜びを隠せない爽やかな作業であった、いよいよ小田家も両翼にて飛び立つ時を迎え様としていた。





── 那須烏山城 ──




「京より、御所をお守りしている騎馬から文が来たぞ、見てみると良い」



「お~御所警備の任から解かれると、三好が朝廷に詫びを入れ、責任を持って治安警備を行う事になったとして任が解かれたのですね」



「4月に入れば150名の者達が帰還する、丁度良い所に帰って来る、正太郎その方達で150名を組み込み別動隊として使うが良い、芦野も儂の本軍も配置を確認済みじゃ、此度は別動隊の働き次第で流れが変わる、忠義の騎馬隊を芦野に入れたから丁度良い、補うには充分じゃ」



「はい、助かりました、私の隊には260名、鞍馬が40程ですが、鞍馬は各隊に分散されますので助かります、これで400名は動かせます、私はまだ戦に出れませんので指揮は十兵衛に任せます」



「十兵衛であれば心配いらん、あの者は戦の事を良く知っておる、内政にも詳しい、半兵衛と言い良い配下を従臣に出来た者よ、ここだけの話であるが、ちと耳をかしてみよ・・・・・・と考えているのじゃ、どうじゃ?」



「それは良き事です、他から来た者が那須の地で日の目が出る報奨となれば他の者達にも良き見本となります、父上感謝致します」



「戦の結果次第ではあるが、譜代の者達にも良い刺激となり好ましい結果となろう」



「公家の所で作っておった学び舎はどうなっておる? 間もなく始まるのであろう?」



「4月より始まります、公家殿と五藤、林、特別講師に幕臣の和田殿が入り40名程の子達が習う場になります、ほぼ親無しの子です、今は農家にて養って頂いておりますが、何れ、兵になる者、農民になる者など本人達に任せますが、那須に役立つ者となりましょう、最初は40名ですが、教える者が増えれば増員して行きます、それと公家殿が知り合いの公家に那須に来る様にと誘っており2家程良い返事を頂いているとの事です、それらも揃えば充実した学び舎になるかと思います」



「家が大きくなるという事はその様に人を育てる場が必要であるな、当家に公家が身を寄せるなど力が付いた証であり良い事じゃ、錦小路殿の時告げ鳥の卵から作った料理を食したが美味かったのう、鳥の飼育と牛の飼育も自由にして良いと申し付けておいた、物知りがいると助かる」



「はいその通りです、半兵衛も牛の乳を好む様になり顔色が良くなっております、親無しの子にも飲ませており丈夫に育っております、南蛮では牛は食にも使われており他にも変わった獣も食されている様です」



「那須では五峰弓を造る上で鹿と猪の筋を多量に使っておるから獣肉には困っておらんが、役立つ獣なら油屋に言い付け仕入れるのも良いかも知れん、あの南蛮の馬は本当に大きいのう、日ノ本の馬とは全く違うのう、あの二人も喜んでおろう、アウンとウインとか言っておったな」



「はい、二人とも無事に祝言が終わり安堵しております、福と万の二人がいてくれて助かりました(笑)、泣きつかれた時は、この様に大きい者でも泣くのだと驚きました」



「あの者達の国では大きい女子が立派で健康な子を産むので取り合いになると言っておったな、面白い話ではあるが、確かにそうであろうな」



「はい、嬉しい事です、半兵衛の祝言もあと10日程で御座います、南蛮の馬を見せましたが大きすぎるとの事で他の物を用意しております、此度の戦いで半兵衛にぴったりの物を用意しました、それがあれば見事な活躍をされるでしょう」



「そうか、お主が一番接しておるからお主の選んだ物なれば間違いないであろう、それと和田殿には戦後の事伝えたか?」



「はい、幕臣であった和田殿しか出来ませぬ事なので大丈夫です、些か費用を要しますが無事に大役を致す事と思います」







伊豆金山ですね、徳川家の財政を支えた金山です。

最後久しぶりに和田殿の話が出ました、忘れていた方もいたのでは。

次章「田植えじゃ田植えじゃ」になります。

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