伏線


 ── 伏線 ──



「洋一さん正太郎にしっかり伝えて欲しいの、佐竹の包囲網に大きい穴を見つけたよ、この穴を、敵の隙を突けばきっと大丈夫、やはりこの時の為に武田太郎は必要だったのよ、今回の戦では太郎と別動隊の芦野伊王野千本隊が勝負の行方を左右するの、佐竹が小田を破る前に援軍として間に合うかで、攻略の手口が見えたから説明してね」



「白河結城の居城小峰城から芦野城まで12キロ、白河の関から10キロに芦野城があるので徒歩で二時間の近距離になるの、道は奥州街道1本だけ、道幅もあるから移動も楽な所に芦野城がある、そこで城から進軍した白河結城家の居城を乗っ取りましょう」



「簡単に言うけど居城を乗っ取るって大丈夫なの?」



「この時の居城小峰城を調べたけど、全然整備されていない平城で本丸の他に曲輪が一つしかないの、城と言うより砦に近い城なの、三の曲輪まで出来るのが1590年で天守閣もその時なの、だからこの時は本当に城と呼べない砦だったのよ」



「その理由は佐竹に矢祭、塙、棚倉の半分という穀倉地帯を取られていたので相当貧乏だったの、そこへ那須が棚倉の領地半分と交換に3万貫も支払う事になったから、現状では史実より酷い状態よ、そこへ佐竹からの誘いで那須に侵攻する事になったから家の台所事情は火の車なんてもんじゃないは、兵糧の用意で商人から借金しまくりよ、サラ金に手を出して、にっちもさっちも行かない自転車操業なのが白河結城家よ」



「だから銭がある那須に魅力を感じて参加したのも理由の一つ、この砦を正太郎配下の騎馬隊で一気に掌握するの、イメージ沸いたでしょう」



「それなら正太郎の騎馬隊は武田太郎も入ったから、忠義は芦野城に参加するから残り200位はいるのかな?」



「200は居ると思うわ、鞍馬の者達もいるだろうから、充分戦力はあるよ、それにもう一つ遠慮する必要が無い理由があるの、残念だけど史実ではこの白河結城家も秀吉に改易にされるの、結局滅亡しちゃうのよ、だったら那須に吸収した方が家の再興が出来るのよ、那須と小田は北条に遠慮して秀吉の小田原参陣に中々参加しないから、秀吉によって改易になるけど、白河結城家は伊達家に遠慮して小田原参陣しないの、ある意味同僚みたいな家なの」



「成程、秀吉はいろんな家を改易にするんですね、その事も伝えておきます、戦いについては具体的にどう伝えますか?」



「正太郎の別動隊で戦が始まったら白河小峰城を占拠する、城には30~50名程しかいないと思うよ、占拠したら見張りだけ残し、二キロ先にある白河の関を押さえ、白河結城軍の帰り道を塞ぐ、そしてそのまま10キロ先の芦野城に向かって、芦野伊王野千本隊と上と下から白河結城軍を挟撃する、道は奥州街道だけ他に逃げ道ないから一気に勝負がつくと思うよ、当主の結城晴綱はるつなは捕縛した方が良いと思うからその事も伝えて」



「白河結城軍を撃破したらそのまま奥州街道を南下し45キロ先に烏山城があるから山にある城に戻らなくて正太郎の村に全軍が泊り翌朝小田の援軍に向かう、その道も奥州街道だから楽に移動出来るよ40キロ先が小田側の戦場だと思うから、佐竹軍に別動隊1500名と正太郎の騎馬隊380名が一気に襲い掛かるのよ」



「佐竹の居城は襲わないでいいの? 前回は小田軍が襲って撤退する所を攻撃したけど、今回はいいの?」



「今回は必要ないの、佐竹は全兵力を投入するから、そのまま撃破し降伏させれば全てが終わるから城は攻撃しなくてOKかな、それより那須本軍には宇都宮と小山が残っているから、そっちに手を打たないと」



「結城の隣8キロ先に小山の城があって、小山から25キロ先に宇都宮城があるの、小山は宇都宮に向けて進軍し合流してから烏山に向かう、その帰り道を別動隊が塞いで那須本軍と宇都宮小山を挟撃出来れば完全勝利が見えて来るかな」



「玲子さんこの戦は全体で何日間位の合戦になるんですか、話を聞いているとなんだか早く終わりそうですが」



「合戦そのものは一週間もあれば終わるよ、籠城戦や遠征で戦う訳ではないから、戦う場所もほぼ決まっているから、三ヵ所とも広い平地での戦いだから、人間って全力で戦える時間は半日も続かないのよ、命のやり取りだから敵が目の前にいたら全力で戦わないと殺されちゃうから、野戦の戦いって戦国でも短時間で終結する戦が多いの」



「合戦が終わった後が大変だと思う、どうやって纏めるのか、領地が増えるだけならいいけど、敵だった領主も含め相当な人数が残る訳だから、内政で失敗したら味方になった者から暗殺とか、そっちの方の対処が戦より至難かも知れないね、そのあたりは当主初め正太郎達に頑張ってもらうしかないけど」



「判りました、今の話を伝えておきます、正太郎も最近は、子供から少年になっているから理解が速いのでこの話が伝われば向こう側で道筋を付けるでしょう」




── 正太郎館 ──




「今話した様に戦を進めて行く様にと洋一殿から伝わった、大体考えていた内容に近いのだが忠義達の別動隊が最後の宇都宮小山も挟撃する事になったので、ちと大変であるが勝利に結びつけてもらいたい」




「某も父上の芦野伊王野千本殿の別動隊も問題御座いません、活躍出来る場がありますので喜ばしい事です、武田殿がおりますので力強いです」



「誠にそうよ、当てにしては申し訳ないが誠に頼もしい事である」



「はっ、ありがとうございます、少しでも御恩をお返し出来ればと思います、飯富も長い間温泉に浸かり痛めていた膝も治り、最近は遠出をして鍛えています、武田の者達は力が有り余って捌け口に困っておりました(笑)」



「あははは、それは良かった流石戦い慣れた猛者の集まりよ、我らも見習わなくてはならん、それと油屋から間もなく南蛮の馬が届く、那須駒より一回りは大きいそうだ、そこで、忠義、千本、一豊、十兵衛と太郎殿に頂ける事になった、それとあの巨人のアウンとウインに祝言の祝いとして送る事になった、他の者にはもう少し先となる、先ずは騎馬を率いる者が先となる」



「それは騎馬を預かる者としては誉で御座います、那須駒も木曽馬と同じく強き馬で御座います、南蛮の馬が騎馬に向くか判りませぬが良き話だと思います」




「大きいという事は力が大きいであろうから荷馬車に向いているかも知れるな、それならそれで全く問題ない、この春には新しい芋とモロコシも沢山植えるから駒達も喜ぶであろう」



「確かにあの芋は美味しいですな腹持ちが良くて、それにあの芋菓子も作れ直ぐに皆平らげてしまいます、折角頂いた砂糖が直ぐに底を尽きます」



「その砂糖も一緒に運ばれて来るのだが、実は父上に叱られてしまった」



「それは若様の責任です、悪だくみを行うから叱られたのです」



「何を言うか、その方も儂を止めなかったでは無いか、梅も共犯じゃ、お前も一緒に反省するのじゃ」



「どの様な悪だくみを行ったのですか?」



「あははは、あれが露見したのよ、鉄砲50丁を勝手に売ってしまったのがバレたのよ、油屋がチクったのよ」



「えっ、御屋形様に報告されていなかったのですか、とっくに報告されたと思っておりましたが、それでは若様に責任がありますな、我らは誰も加担してはおりませんでしたぞ」



「何を言うか、儂に責任を押し付けるな、その方達の酒代も渡した砂糖もあの鉄砲で買ったのだ、それに南蛮から買い付けた馬もその鉄砲が元手であるぞ、鉄砲を売った代金で得た馬に乗る十兵衛も共犯である」



「あっははは、ぬかりましたな、で、御屋形様は何と言われたのですか?」



「もう勝手に売るなと、蔵の荷が無くなれば蔵奉行の責任になる所だぞと、必要な物があれば銭は出すからとお許し頂いた、油屋も調子に乗って鉄砲50丁だけでは不足で追加で200貫請求があったので、請求書は父に渡したわ(笑)」



「御屋形様も太っ腹ですな、勝手に50丁もの鉄砲を売り払ったら普通なら、切腹であろうな止めなかった者も斬られるでありましょうな(笑)ここは御屋形様に感謝しかありません」



「いい訳では無いが、豊穣祭り、砂糖代、酒代、火薬代と南蛮の馬に消えたので、儂が贅沢の為に使った訳では無いから許してくれたのであろう」



「若様言い訳はその通りなのですが、あの鉄筒と取り換えたは誠に悪だくみでした」



「何ですか梅殿その鉄筒とは?」



「若様は鉄砲50丁を蔵から取り、露見しない様に代わりに鉄の筒を鉄砲がしまわれています箱に入れたのです」



「梅、終わりかけた話に火を付けるな、お前は百合に似て来たぞ!」



「若様それは悪手で御座います、この半兵衛でも思いつかぬ悪だくみで御座います(笑)」



「判っておる、しっかり蔵奉行にも謝った、手紙でも入れて置けば良かったかも知れぬのう、書く内容は鉄砲50丁返して頂く佐竹と書いて」



笑う一同で会った。



「処で半兵衛が住む家の方は間もなくか?」



「はい大方完成しました、若様のお陰を持ちまして百合殿と結婚する事になりましたので、百合殿のお家が芦野様の弟殿のご息女であり忠義殿の従妹でもあります、失礼が無い様に手配しております」



「そうであるのう、これで忠義と同じ芦野一門という事になるのう、芦野殿も嬉しいであろう」



「はい、この忠義も嬉しくて仕方がありませぬ、それにあのアウンとウインも来月と聞きました、そちらはどうなっておりますのでしょうか?」




「あの二人には仮親に十兵衛になって頂き、新しい住まいをやはり作っておるはずだがどうなっておるのかのう?」



「それが我らと育った事情が違いまして、嫁方の福と万の家に住むというのです、家が農家ですので、部屋が二間なのでとてもあのでかい二人が寝る所がありませぬので、今の農家を母屋とし、その両隣に家を作る事になりました」



「二間の家にあの巨人が二人追加されたら、土間に寝るしかなくなるぞ、想像すると笑える話であるが福も万も大きい体であるから天井の高さも必要であるな」



「事情は大工棟梁にも伝えておりますので、大丈夫でしょう、あの二人は騎馬隊の中で一番強き者になっておりますので、何れ一隊を率いるかと思われます」



「本当にそうよなあ~、二人して泣きながら福を嫁に欲しいと懇願された時は、この様にでかい巨人がその様な事で泣くのかと驚いたが、祖国を離れこの地で家族を築くという事は我らより深い意味があるのであろう、嫁親の両側に住むとなれば孝行となり頼もしい話であるな」



「では滞りなく役割を進めて欲しい」





三月に結婚式が3組行われるんですね、いい事です。

次章「海軍士官学校」になります。

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