烏山評定




── 烏山評定 ──




「皆の者今話した様に佐竹以外にも我ら那須を接している大名が愚かにも那須と小田を攻撃して来る事が判明した、これより敵を殲滅する軍議を開く、那須七家の者が戦の中心となる心して軍師の戦略を聞く様に」




1566年、年明け烏山城大広間にて戦評定が開かれた、那須七家の当主及び重臣他に正太郎を支えている配下も参加しての評定である。



「今、申しました通り、那須と小田に向けて佐竹が中心となり攻めて来ます、この連合を纏めた中心の者こそ佐竹になります、佐竹の戦略は大きく二つに分かれております、佐竹には卑怯者が考えた策が隠れております、では具体的にお話して行きます」



「佐竹は、隣の結城と手を組み小田を攻撃します、佐竹は家の再興の為に全兵力を投入します、佐竹兵数6000、結城兵数2600、計8600名 になります、対する小田家兵数6000との戦いになります、但し佐竹の兵数はもう少し多いかも知れません、忍びの報告では銭雇での浪人を集めているとの話です」



「小田様には佐竹側の戦略を伝えております、備えの策を話し、動かれています、しかし、小田様にはまだ話していない先程の佐竹の戦略に隠れた策については話しておりません、隠れた策は那須に向けられた策だからです、その策とは攻撃の力ある佐竹が最初小田に向けて攻撃を行い、先に小田を叩き潰す策です、小田を叩き、白河結城、宇都宮、小山、結城、そして佐竹で那須を叩き潰す策が本来の策となります、先ずはこの点を頭に入れて下され」



「那須に対しては小田への進軍と同時に白河結城、宇都宮、小山の三家が攻めて来ます、那須が小田に援軍を出せない様にし、時間を稼ぎながら北からは白河結城、下からは宇都宮と小山が合流して攻めて来ます、その兵数は白河結兵数2600、宇都宮兵数4000、小山兵数1800、計8400名 と見ております、対する我ら那須兵数6000名となります」



「8400で攻めて来る以上当家も小田へ援軍を出せませぬ、白河結城2600に対して芦野殿、伊王野殿、千本殿がお持ちの騎馬隊1050名と足軽450で戦う事になります、宇都宮小山5800に対して騎馬隊3200と足軽1300名の4500で戦う事になります」



「白河結城は芦野城に向かい芦野殿、伊王野殿、千本殿の兵を足止めする様に戦うと思われます、宇都宮小山に対しても時間稼ぎのダラダラした戦いをする物と考えます、時間稼ぎをしている最中、佐竹は小田を叩き潰し、芦野殿、伊王野殿、千本殿達を動けない様にし、攻撃力のある那須の4500に対して宇都宮小山の8400と佐竹結城の8600の計17000が揃った所で一気に殲滅を図る計略と見ております、ここまでの流れ宜しいでしょうか?」



「お聞きしたいのですが、仮に我らの芦野側が白河結城を退け本軍に合流しても那須の兵力は6000です、6000で17000と対峙するには相当無理な事をしないと中々先が見えませぬ、何か手当があるのでしょうか?」




「今芦野殿が言われた事は最もの事で御座います、皆様も同じかと思われますが、それ以外に懸念する事あればお話しください」



「では某、大田原が二つ程あります、一つは我ら那須も銭雇で兵を集めて見ては如何でしょうか? もう一つは白河結城も宇都宮小山も時間稼ぎしている間に一部を小田様へ援軍を出し敵側を17000という兵力を防ぐ事が出来ますれば光が見えて来るかと思います」



「この大関もその意見賛成で御座います、確かに良き思案かと思われます」



広間の重臣一同頷く。



「では意見が出ましたので私の話を続けます、銭雇の兵ですが、七家皆様の判断で行っても良いと思います、但し条件があります、銭雇の兵を雇う場合は、戦に勝った時はそのまま那須の侍、武士として七家の家に忠臣するとの覚悟がある浪人でなければなりませぬ、もう一つの敵側が時間稼ぎしている間に小田様に援軍を送る件ですが、これは危険です、佐竹もその事を考慮していると思われます、援軍を那須が出したと察知すれば兵力が少なくなった那須に宇都宮小山の8400で攻める様に指示を出すでしょう、某が佐竹ならそうします」



「某福原も意見があるのですが宜しいでしょうか?」



「福原殿遠慮ぜず意見をお願いします」



「では、那須から小田殿に援軍を出せないのであれば、小田様側で銭雇の兵を求めては如何でしょうか? 又は佐竹側が攻めて来ると判っておりますれば、籠城で時間を稼ぐなどしたらどうでしょうか?」



「今福原殿からの銭雇の件ですが、これは他家の事なので、同盟を結んでいるかと言ってこちら側から話すには失礼になります、小田様が籠城で時間を稼ぐ件ですが、小田様には失礼なのですが、この城とは違って平城なので防御力が弱く、これまでにも落城が何度かあったそうです、最初から籠城すると場合によってはその方が先に叩き潰されてしまう可能性があるのです」



「しかしそれでは中々良き案が出ませぬね、困り申した」



「では某の戦略についてお話致しましょう、先ずこの戦いの重要な柱になります、芦野伊王野千本殿にて白河結城を倒す事を先とします、那須本軍も宇都宮小山と同時に侵攻が開始されますが、白河結城を先に叩き潰します、先に潰せば芦野伊王野千本殿の兵1500が小田殿の援軍に向かいます、具体的な戦略はここに居ます、竹中半兵衛が詳しく後程説明致します」



「次は小田殿に援軍が到着すればどうなりますでしょう?  そうです佐竹が動けなくなります、今度は逆に小田殿と那須の援軍で佐竹の動きを封じます」



「佐竹の動きが封じられた宇都宮と小山は二家だけで那須と戦う事になります、兵数は敵側の方がありますが、那須には攻撃力があります、戦場は先の佐竹と戦った馬頭より広い所になります、那須得意の騎馬が活躍出来る戦場になります、元々宇都宮と小山は佐竹が小田様を撃破し合流してから那須に対して戦う予定ですから、二家だけの状態では本気になっておりませぬ」



「やる気のない宇都宮小山を本気の那須が一気に攻撃し殲滅させてしまいます、恐らく敵側に2000もの被害が発生すれば瓦解致します、瓦解した敵は城に撤退しかありません、那須は半数の騎馬で追撃します、残り半数は小田殿の戦場に向かいます、もう想像出来るかと、那須を包囲殲滅する佐竹の戦略は露と消え、那須が小田殿の戦場に到着すると、北からは芦野殿達からの攻撃、横からは小田殿の本軍、反対側からは那須の本軍が佐竹を三方向から殲滅致します、これにて詰みとなります」



「皆さま頭の中で絵図が描かれましたでしょうか?」




暫く沈黙する評定・・・・・福原が>



「若様その様に簡単に説明されますと先程の私の不安など、どこ吹く風と言った事になり申した、その様になる為に若様は既に動かれていたのですね、ここにいる者の不安は恐らく消え申した」



「皆様が安心された様で私も安心致しました、此度の戦いは我らから起す戦いではありません、向こうから攻めて来るのです、一切遠慮は入りません、敵を叩き潰し、叩き潰したらその領地を那須の領地と致します、敵に情けは入りません、降伏時に此方の条件を飲むか飲まないかだけで御座います」



「小田様が佐竹と結城を叩き潰し新たに得る領地は23万石増える事になります、既に小田様にはお伝えしております、では那須の私達が新たに得る領地は・・・・になります。」



ざわざわ・・・・ザワザワ・・・



「申し訳御座らん、なんか良く判りませんでしたもう少し大きいお声でお願いします」



「おっほん、エッヘン、ではもう一度言いますのでお静かにお願い致します」




広間は静まり正太郎の口元に一同の視線が集まる。



「私達が新たに得る領地は最大で40万石になります!」



「今の領地と合計致しますと凡そ63万石となります!」



・・・・・し~ん・・・・えーえーえーえー!!!!!!!



全てを分捕る気である正太郎の話に驚き、それぞれが勝手に妄想を描き、戦ってもいないのに勝利の余韻を味わう重臣達であった。



「まだ戦は行っておりません、笑顔になるのは些か早いです、その笑顔はもう少し後半年程先に取っておいて下され」



「ではもう少しお付き合い下され、芦野伊王野千本殿の白河結城との戦いでは、私の配下芦野忠義が率いる騎馬隊120名が入り、軍師として先程の竹中半兵衛が就きます」



「那須本軍はそのまま4500名で対処致します、父上の本軍には軍師は必要ないので総指揮は父上になります」




「私は直属の配下を要し皆様を助ける動きを致します、此度の戦評定はここまでとなります、もう少し戦が近くなりましたら詳細を詰めて参ります、今年の田植えは常陸側も全て新しい田植えです、それと正月祝いで食しました新しい芋、かぼちゃ、モロコシをしっかり植えて下され、籾殻の燻製をしっかり田と畑に入れて下さい、二月まで田を増やす作業が残ってます、あと一ヶ月は開墾をお願いします、以上となります」



一通り話が終わり、戦意を高める為にこの後懇談となり酒が振舞われた、皆の表情は明るく、敵が1.5倍の兵力であっても打ち破る強い意志が重臣達に自覚が出来た評定となった。




資胤と正太郎は翌日二人で色々と確認を行っていた。



「父上長野殿達が一時入ります廃城の整備は如何でしょうか、農民達は徐々に来ております、城兵も間もなく移動が始まります」



「修繕の方は大丈夫である、既存の井戸が思ったより水の出が悪いので新たに3つ作らせておる、それも間もなくであろうから問題なく受け入れも大丈夫である、長野殿が何れ上野に戻られても廃城を使う予定であるから手抜かりはしておらん、長野殿に安心して来られる様に伝えるが良い」



「5月の戦いが終わり領地が増えると隣が上野、その先に武田が見えて来る、今の内に備えるしかあるまい、重臣達には北条家との極秘同盟の件、武田がその先にいる事などまだまだ話せぬ、儂と正太郎だけで対処するしかない、幸い大子の山から金が取れる事で銭には困っておらん、その方も佐竹連合との戦が終わればこれまでとは違いどこかの城を任せるゆえ、考えて置くが良い、お主が言った通りに60万石を超える家となれば、内政を行える手勢が全く足りぬ、それと油屋から変な文が届いたぞ、これを見よ」



油屋の文を見て、脂汗が顔から滲み出る正太郎。



「正太郎が・・・これはこれ・・は、父上が昨年の豊穣祭りで酒の手配など私に頼まれましたので、その費えに蔵に眠っておりました、使い道のない鉄砲を油屋に買わせ、それであの様に沢山の品を・・・という事でありまして・・・父上に相談せずに鉄砲50丁売ってしまいました、お許し下さい」



「やはりそうであったか、蔵奉行に確認させたら、鉄砲が減っており代わりに鉄の棒があったと報告があり、きっと隠れて何やらしたのであろうと察したのよ、銭が必要な時は正直に言うが良い、その方も沢山持っておろう、至急の場合は立替れば良いのじゃ、これからは勝手に売ってはならんぞ、しかし、油屋からこの文も来ておる、見てみよ」



「これはいい話です、流石油屋です、何なら後50丁程渡してもっと買い入れたら良いかも知れません」




「お前も調子が良いな~しかし油屋も役立つ者よ、流石堺の商人である」




油屋からの文には南蛮で使われている馬が30頭買い付けたので送ります、日ノ本の馬より一回り大きい馬となります、二月に入りましたらお届けします、砂糖、火薬も送ります、代金は先に頂いた鉄砲50丁と不足分200貫になります、お届の際に200貫頂戴願います、と書かれていた。



「大きい馬と書いております、騎馬に使えるなら那須駒に種付けすれば大きい那須駒が出来るやもしれません、良い話かと思います、それにしても更に200貫支払えとは油屋も一枚上手の者です」




一緒に笑う親子であった。





重苦しい評定を笑顔の表情に変えた正太郎、9才となり現代の小学校三年生でしょうか、子供から少年に成長した正太郎です。

次章「伏線」になります。

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