第36話 一射入魂


ベットの上で、頭を抱える洋一、なんで、どうして、うあ~なんでこうなった?



確かに、24才の男女が定期的にやり取りしていれば、誤解を招く、仮に恋愛に発展しても、てかまだ発展していないのに、よりによって来年の五月って・・・・状況が整理出来ない局面が二人に訪れてしまったのである、この日より、二人はお互いに連絡を取りやめてしまうのであった。



その一方で洋一は、玲子から佐竹攻略の戦略だけは、正太郎に伝える事は出来ていた、受け取る側の正太郎も、ここ二年半に及ぶ洋一からの思念のやり取りで、進化しており、受け取った情報を生かし、具体的な形にするのは自分であり、聞いた話、受け取った内容だけを行うだけでは、戦国という、この時代で勝つ事に、結果に結びつけるには困難であり、嫡子という立場だけでは限界だと、肌で感じ取っていた。



洋一からの受け取った玲子が編み出した戦略は、ただ伝えれば良いという類の物ではなく、今後、那須家が一気に生まれ変わる程の影響力のある内容であり、那須家だけではなく、日本の戦国という流れその物に多大な影響力を与えてしまう戦略であり、大いなる軍略である、と正太郎なりに理解出来た。



受け取った内容をどうすれば、那須家の重臣達に理解させ、動かし、結果に繋げるのか、一歩でも間違えてしまえば、取り返しのつかない、那須家滅亡へ追いやる事になる、その責任の重大さに押しつぶされる日々を正太郎は送っていた、誰にも話せず、日数だけが過ぎ去って行くのであった。



洋一と玲子も、お互いが連絡を取り合う事が出来ず、既に10日以上過ぎていた、苦悶葛藤する中で、心の中でやっと自分を見つめ直し整理が付き、玲子へメールを送った、玲子さんへ、良ければ15日に会って話をしたいとの、愛想のない簡単なメールが送信した。



あの野郎、いつまでも乙女な私の心を苦しめて、謝罪するならさっさと、なんで連絡を私にしないのか、私から連絡できる訳ないだろうと、父にも、洋一にも腹を立て、この感情をどこにぶつけていいか判らず悶々と日々を過ごしていた玲子。



そこへ洋一からのメールが、愛想のないメールを見て、余計に、この刀(模造品の竹光)で成敗してやるという、怒りの炎プンプンの玲子から洋一への返信メールでは、15日 AM10:00に向かいます、自宅以外の場所を指定して、これまた実に愛想のないメールが洋一に送信されたのである。





同じ頃、覚悟を決めた正太郎、父資胤に重臣『那須七騎』との評定開催を依頼した、時は同じ15日に広間評定にて、当主資胤、重臣七騎ほか少数の那須家首脳が集まっての評定が開かれる事に。



洋一は玲子との待ち合わせ場所に弓道場を指定し、時間通りに到着した玲子の顔は怒りプンプン『触ると危険という』二次元における、回避すべき用語の状態であった。



玲子は洋一と会う約束の日に、車中でこれまでの事を冷静に考えた、洋一と初めて会った日、今成が今成を聞きに来たあの日、洋一から語られた、那須与一からの不思議なメッセージ、その後、洋一に起きた出来事、那須家嫡子、正太郎と時空を超えて思念が伝わる那須の危機等々。



あの日より私は洋一の協力者として、那須が勝ち上がる為の戦略、勝つ軍略に取り組む日々、その後、洋一とは何回も会い確認し打ち合わせを行い、やっと完成させた戦略。




その間、私は、与一伝承館に、酒臭い洋一を私が運転し往復、洋一の家に訪問した時には、館林市で有名な高価な菓子折りを持参、洋一からは、与一伝承館の道の駅でのお蕎麦、時々コンビニのケーキとお菓子の差し入れ、そして膨大な野菜・・・・



乙女心が思う恋愛という感情が無いままに、いきなり親からの結婚という独身の終着点が・・・そもそもバックやアクセサリーなど女性が喜ぶ、女性のハートを掴む事を洋一は一切していない、車中で考えれば考えるほど怒りが沸いて来る、握るハンドルに力が入り・・・・あの野郎という、感情に支配される中、怒りピークの状態で弓道場に到着した玲子である。



洋一から、今日はありがとう、玲子さんに見せたい物があるので付いて来て欲しいと、いつもの様子とやや違う洋一、この野郎という感情を目力に込めて、睨みながら、取りあえずついて行く事に、通されたのは弓道場の見学コーナーへ、道場横の椅子にすわらされ、洋一からは暫く見ていて欲しいと、一言。



玲子は怒りを抑えながら、椅子に座り見学をする事に、考えて見れば近くで弓道を見るのは初めてであった、師範らしき人と、道場生と思われる数人が矢を射っている、道場内は静寂に包まれ、矢を放つ、一つ一つのゆっくりした動作音だけが聞こえていた。



弓道とは、武道であり、一つの完成された道である、日本古来の伝統ある武なのである。



礼に始まり、礼に終わる、静寂な時の流れの中で、足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会かい、離れ、残心残身という動作が弓道である。



いつしか玲子は洋一の完成された動作、一つ一つに、静寂さの中に時の流れが一体となって動く美しい動作に感動すら覚えたのである。




『一射入魂』という弓を代表する言葉がある、一射の中に己の魂を込め放つ、自身の全てをこの一射にという、那須与一が扇の的に向けて、己の命を放った一射が『一射入魂』である。




洋一は自分が持っている己の全てを一射に込めて放つ瞬間を、玲子に見て欲しかった。



その頃、正太郎は、父資胤と重臣達、那須七騎との評定を始めた。



「これより評定を行う、先ず嫡子正太郎より話があるという事なので皆も聞く様に」



父資胤の言葉を聞き、厳しい顔付の正太郎が、真横を向き、父に向って、床に額を付けた、父資胤と重臣達はその行動に度肝を抜かれ、床に額を付けた正太郎が今度は重臣達に向かって、同じ様に額を床に付け、これ以上ひれ伏せないという拝礼をした。



広間では、正太郎の行動に、資胤も重臣達も声を出せず、その行動に圧倒されていた、静寂に包まれた広間、正太郎より。



「これより私から皆様にお願いがございます、佐竹攻略の戦略を皆様にお話しする前に、私も含めてここにいる皆様の覚悟を持って成就を得る話になります、ゆえに、私、正太郎より、お願いがございます、今日この場を持ちまして、私を那須家の『軍師』としてお認め頂きたいのでございます。



声を出せない父資胤・・・嫡子とは言え、僅か6才半の童、この小さき子供が、那須家の軍師に認めて欲しいと突如話したのである。



突然の正太郎からの軍師として認めてほしいとの言葉に、那須家親類縁者である重臣、那須七騎の1人、大田原おおたわら 綱清つなきよが声を上げた。



「正太郎殿が話される軍略をお聞きしてから軍師として認めるのではなりませぬか、何も聞かずして我らは、どうお応えして良いか、御屋形様も判断出来ずお困りかと思われます」



「勿論、那須家当主は、父であります、佐竹との合戦では全ての指揮は当主の役目であり、指揮官となります、軍師とは、合戦において、勝つ為の戦略を指揮官にお伝えする役目となります」



「戦とは、その場での命のやり取りとなります、私の様な童が、いざ合戦の場では口出しを行える者ではありませぬ、事前に勝つ戦略を指揮官である当主に伝え、その戦略の細事に渡り合戦場で行う七騎の皆様とは、一糸乱れぬ戦いが必要となります」



「合戦が始まれば、全てを当主と皆様にお任せするしかなく、戦の流れで相手の急所を突き、勝つしかありません、そこで私が軍師として事前に戦略を皆様にお知らせしてから、皆様が判断するという事があってはなりませぬ」



「軍略を話す以上、当主がその軍略を採用すると判断した場合は、必ず実行して頂きます、当主が否という判断であれば、それも仕方なきものです」



「私を、童が述べる戦略だと侮れば、必ず隙が生じ綻び始めます、だからこそ先に、私を軍師として認めて頂いた上で佐竹との勝つ戦略を述べる必要があるのです、私の意見を先に言い、皆様が意見を言い出せば、当主は混乱致します、迷いが生じます、採用するしないは、当主だけの判断です」



「それほど軍略を述べる責任は重く、軍師には必要となります、童成れど命を懸けての戦略の話なればこそ、軍師として認めて頂かねばなりませぬ、皆様方、私を軍師として認めて頂けますでしょうか?」



父資胤は、ここまでの成り行きを心静かに見守り、息子ながら、6才半の子供が命を懸けて、この場に臨んでいる事に、父として、当主として覚悟を決め、正太郎に話しかけた。



「正太郎よ、そちの覚悟褒めて遣わす、もとより合戦での全ての責はこの当主の使命である、そなたが話した戦略を儂が用いた場合は、全て我が責任である、我は祖、与一様の子孫ぞ、源平との戦いで放った『一射入魂』とは、己の魂を矢に乗せ、命そのものを放つ一射である」



「この戦いを一射入魂と致す、それが与一様のお心である、戦に敗れれば我が命を捧げようぞ、皆の者は如何いたす、はっきりと答えを申し述べよ」




洋一から並々ならぬ気迫が全身から溢れだし弓道場で玲子に己の全てを見せるべく、最後に玲子に一礼し、正面を向き直り『一射入魂』が放たれた。



矢を放ち一礼し、ゆっくりと玲子のもとに歩む洋一。



玲子は立ち上がり、玲子の視線は、ただ一点、目の前の洋一の顔へ、その口元から玲子に。




「僕は玲子さんが好きです、僕と結婚して下さい」



『一射入魂』の言葉を玲子に伝えたのである。



洋一からの魂の声を、入魂の告白に、ゆっくりと、頷き。



「洋一さん、私もあなたの事を愛しています」



と言って胸の中へ飛び込む玲子、時を同じくして、那須七騎重臣達も、正太郎に向かって。



「正太郎様を軍師として認め、我らも命をかけて戦に臨みます、この矢にかけて、『一射入魂』致します」





後書き編集

えーと、皆さんの想像通り、最後やはりこうなりましたけど、洋一が最後かっこ良すぎなんですけど、この場合は、これでOKでよろしいですよね?


是非ご感想などあればお願いします。

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