思えば遠くに行ったもんだ!


1575年秋目前にその年の収穫石高が判明した、三家は順調に米の収穫増となったとなった。


北条家 245万石から260万石

小田家 212万石から224万石

那須家 216万石から240万石(相馬、田村家の石高12万石も含む)

三家の石高673万石から724万石と大幅に増えた。


※最上、伊達、南部は含まず、那須に逆らわないというだけであって、臣従とは違う、敵対した三家は飽くまでも独立した大名である、それと岩城家も同じく相馬を援軍したが那須に臣従する目的では無かった岩城家独自の判断での援軍であった、ただこの援軍により相馬と田村に急接近していく事に。


石高が増えると言う事は人口増という現象がはっきりと表れる、これは三家に共通していた、那須については10年続く石高増で五公五民という事で240万石の内120万石は領民の主に百姓たちの食い扶持であり米が充分に行き渡るようになっていた。


飢饉に備え村では1年分の備蓄米の倉庫があり、余った米は米問屋が買取り城下の町人や様々な者達へ行き渡る、領内の七家他の大名も皆同じであり豊国の名に相応しいと言える、そこへ大量の米を買い取りたいと依頼が届いた、那須では勝手に他国に米を売る事は禁止されており、米は戦国時代の武器でもある。



「忠義、茶臼屋がなんと言っているのだ、大量の米としか聞いておらんが相手は何処なのだ?」



「茶臼屋の話では西国の商人からの依頼でどうやら毛利という大名からの依頼だそうです、ただ米の量が余りに多く断ったそうですが、それでも再度依頼され裁量を仰ぎたいとの事です」



「裁量と言われてもそれだけでは判断出来んな、その毛利から依頼を受けた商人を呼び出すが良い、直接話を確認せねば、それに父上が不在である、そろそろ戻る頃であろうが、先ずはその商人じゃ!!」



「茶臼屋、その横にいるのが毛利家の商人なのじゃな、我らは西国に疎いゆえ正直に言うのじゃ、誰の命で何のために米を求めているのじゃ?」



「はっはー、某は堺の商人であり毛利家とも商いをしております若松屋の松と申します、毛利家には多数のお抱え商人がおりまして、私の若松屋の店は堺にあります、那須と親しい油屋様も若松屋の事は存じております、けして怪しい者ではありませぬ、よろしくお願い致します」



「お~油屋の知り合いであったか、身元は確かなようだな、それで何のために如何程の米が必要なのじゃ、その辺りを頼む!」



「はい、毛利様の治めている西国は戦が絶えず、乱取りも激しく大変なご様子で、それと将軍様を毛利にて庇護しておりまして、その将軍が米を求めておりまして、どうやら将軍様と懇意しております本願寺の顕如様からの依頼の口利きを毛利様にされたようであります、西国から米を集めるのは難儀でありまして此度は那須のお家を頼りに訪問させて頂きました、依頼されている米の量は1万石であります!」



「はあ~1万石だと? とんでもない量であるぞ、どうやって運ぶのじゃ?」



「毛利家は船を多数もっておりますので、船にてお運び致します」



「う~何故その本願寺で米が必要なのじゃ、京周辺で買えぬのか?」



「織田様が米止めしておりまして、10俵20俵という米は手配出来ますが、何しろ寺には4万人もの多数の信者など女子供が籠っておりましてその量の米では全く行き渡らず将軍様を頼った様であります」



「では織田殿と確か一向の本願寺が手打ちしたと聞いたが、そうではないのか?」



「はい全く違う様であります、又いつ戦が起きても不思議ではありませぬ、何しろ米止めしたのは織田様なので顕如様も戦う気であろうかと思われます」



「儂はあの将軍が嫌いなのじゃ、いつも問題を起こす、我が那須家にも何度も織田追討の文が来る、頭がどうかしているのだ、勝てぬ相手に何故他家の兵力で戦わねばならぬのか、それも我侭からの大義が無い戦に狩りだそうとする、顕如とかいう一向一揆を操る者も狂っている、仏教という釈迦の教えを壊しておる、我らも一向と戦った事があるから判るが理屈が通らぬ、実に危ない、問題は何も知らぬ信者たちじゃ、哀れである、糧に困っているから寺に頼るのであろう、飢餓ほど苦しい事は無い!!」



「毛利と言う家も将軍にかき回されて大変なのであろう、困った話であるな、どうすれば良いと思う忠義ならなんとする?」



「某に聞かれても・・・若松屋、米を買う金は誰が払うのじゃ?」



「はい、私は毛利家からの依頼なので毛利様から頂きます!」



「なに、では毛利家は自腹でそのような大金を用意するのか?」



「実際に銭を払うは本願寺の顕如様です、毛利様が買い、それを又本願寺に売るのでは無いかと、顕如様は沢山の銭を持っております」



「なんでそのように寺に大量の銭があるのじゃ?」



「本願寺には所属している寺院が数千あると聞いております、信者と所属の寺より本山の顕如様に銭が集まるのです、噂となりますが、数万貫又は10万貫以上お持ちかと思われます」



「10万貫以上じゃと・・・そそそんなにあるのか、我が那須家でもそこまでの銭は無いと思うぞ、恐ろしい話であるな、それでは一万俵を買う銭など何でもない事であるな!!」



「どう致す忠義?」



「私に聞かれても、困ります、若様が決めて下され!」



「若様宜しいでしょうか?」



「お~梅、此度も良い案があるのか、教えてくれ!」



「では、恐らく西国では戦も多く米の値が那須より倍はしておりましょう、折角であります、来春には婚儀です、銭は沢山必要となります、米を食べる者達の多くは女子供です、ここは欲しいだけお売りしましょう、値は2.5倍で1万俵これでどうでしょうか?」



「・・・・・ううう梅・・お主ぼったくる気なのか?」



「なにを言いますか、顕如の手元にある銭を取り上げれば戦は止みます、少しでも減らす為の策でもありますが、女子と子供には必要な糧なので売るのです、一挙両得という案であります」



「いっいっいっ一挙両得であるか!? 津軽安東家の時もそうであったが、梅は凄い女子になったのう、もはや忠義では敵わん、半兵衛でも判らんぞ、それで行こう、どうじゃ若松屋、2.5倍の1万俵でどうじゃ?」



「判り申した、是非それにてお願い致します、私も多くの銭が動く事で益も多くなります、よろしくお願い致します」



「良し蔵にある古米を出すのじゃ、新米は駄目であるぞ、籾付きの米であるから傷んではおらん、食するのに問題は無い、忠義奉行に命じ準備するように!!」



「他に必要な物があれば言うが良い、酒もあるぞ、酒も2.5倍じゃ! そうじゃ、椎茸があった、あれなれば僧の奴らが沢山買うであろう、どうじゃ、顕如から銭をむしり取るのだ、そうすれば戦が速く終わる、干し肉と干し魚もあるぞ蝦夷から仕入れた絶品ぞ、京では手に入らぬ品ぞ、干した昆布も大量にある、船を沢山寄こすのだ、判ったのう若松屋、何れ儂が大儲けさせてやる此度は顕如から沢山銭をむしり取るのだ!!」



結局米の他大量の澄酒と椎茸、干し肉と一度の商いで1万貫という現代の10億円もの大金となった、その内の5%が若松屋の利益であり大儲けした、本来の相場で購入すれば3~4千貫の品が1万貫となり、その利益で資晴の婚儀費用を捻出出来そうであった、結婚とは嫁ぐ家の方が何倍も費用を要し、迎える側は館を作り準備を整えるだけであるが、北条家では格式もあり、相手が資晴という事もあり桐の箱で作った長持ちを300箱用意していた、長持ちとは嫁入り道具を運ぶ箱、横170センチ×縦60センチ×高さ60センチ相当の棺桶みたいな立派な箱である、それを大人4人で運ぶ。


若松屋との商談が終わり、年明けに米など荷渡しする事となった、後七ヶ月程で婚儀を迎える中、忘れていた油屋が遠い国より戻って来た、約一年振りの帰国であった、真っ黒に日焼けし、なんとも言えぬ姿で戻って来た、油屋が資晴から行く様に言われていた国はマレーシアであった、何の為に行かされたのか、ゴムの樹液を求めて行かされいた。



「若様なんとか戻りまして御座る、言い付けの樹液沢山持って来ましたぞ、しっかり購入をお願い致しますぞ、それと儂はこれ程長旅となるは、もう無理であります、これよりは少し若い者にお願い致します、それと帰りに南の果ての北条殿と小田殿の家の者達が行っている砂糖を育てている島に寄り砂糖をもって参りました、代わりに樹液の苗を植えて来ましたが、なんとその島にも同じ木が沢山ありました、もうあのように遠くの外ノ国に行かなくても良いかと、何しろ遠くて、もう日ノ本に帰れぬと覚悟致しました、暫く那須の地にて休養致します」



「よう戻った、ご苦労であった、儂も神仏に祈っておったのだ、無事に戻れる事を毎日祈っておったのだ、どうやら通じた様である、板室の温泉で暫くのんびりと休むが良い、今では温泉の宿屋街に居酒屋も甘味処もある、儂はまだ行った事が無いが綺麗処が揃っている宿もあるようだ、操船した者達を連れゆっくりして来るが良い!!」



「それと帰るのに相当期間があったが、行き来の他にも向こうに滞在したのはどの位滞在したのじゃ?」



「往復で五ヵ月って所でしょうか、後は向こうの人達と交渉し、樹液が集まるまで半年以上の滞在と近くの都市をいろいろ見て回りました、それと気候が全く違う為一年中温かく、雨も良く降りまして、風呂など入りませなんだ、暖かい国で一年中作物が育つので皆のんびりとした生活でありましたな、それと沢山の島があるようで色んな者達が市場に品を持ち寄り、そうですな一つの町が露天市場となっておりその規模には驚きました、あれは面白いでありましたな!」



「ほうそれで帰って来るのが遅かったのか、暖かい国とは羨ましいのう、それとその市場なる売り場はどの位の規模なのだ?」



「その国には小さい規模の所もあれば巨大な所もあり、小さい所では40~50の店が集まり、大きい所では1000位の店があると思われます、なんでもかんでも自由に売っておりました」



「それは凄い規模であるのう、領内も色々と豊かになって来た、各村毎に試しに店でも秋祭りの時に行って見るか、あと三週間で豊穣祭りじゃ、今年は蝦夷の民達も多く来る、賑やかな祭りになる、その市場も面白そうであるな!!」



「さっきから気になっておるのだが、真っ黒に日焼けしており別人のようじゃ、疲れも溜まっておろう、続きは温泉から帰って来てからと致そう、先ずは何しろ疲れを癒して欲しい!!!」



「では荷を運び入れましたらお言葉に甘えさせて頂きます!」



ゴムの木は小笠原諸島にも生えており、態々マレーシアまで行く必要が無かった、この時代の小笠原諸島は無人で島であり原生林に覆われ、気候も本土と全く違い亜熱帯性のものが多く、オガサワラビロウ、タコノキ、木生シダ類等が繁茂し、内地とは相当異なっている、また、ガジュマル、ヤシ等の大木、バナナ、オレンジ、パパイヤ等の果樹の自生化したものも見られ植物の固有率も高く、ワダンノキ、シロテツ、オオハマギキョウ等世界的に珍しい植物も少なくない。


ゴムの樹液からゴムが出来る工程を洋一から教わり、ゴムを作るのに欠かせない那須には硫黄が豊富になる、那須山は火山でありその頂上近くの斜面には巨大な硫黄の塊が無数にある、現代でも那須ロープウェイで山を登って行く時にアナウンスで大きい硫黄の塊が見える所を紹介してくれる、それほど那須山には硫黄が露天で採取できる。


現代ではゴムは欠かせない品であり絶対に必要な物である、そのゴムを利用する事を洋一は教えた、ゴムが無い時代に与える影響力は営みを変える程の革命的な品と言える、那須で利用している騎馬が引く荷車の車輪も木だけで丈夫に作られているが実に重く、修繕が必要であったり交換も頻繁に必要であり、車輪が必要な物は便利ではあるが修繕が追い付かない状態であった、その車輪にゴムと言う画期的な革命品が必要と洋一は考え教えたのである。


ゴムの木が注目されるきっかけ、文明社会との遭遇と言えば、コロンブスが初めてヨーロッパに伝えた事によると言われています、コロンブスの2回目の新大陸航海時に、ハイチ島において原住民の子供たちが樹液から作った黒いボールで遊んでいるところを見て発見したと言われています。


1839年、アメリカのグッドイヤーが、硫黄による天然ゴムの架橋を発見しました、研究室で寝てしまった彼のゴム靴に実験中に使っていた薬品がこぼれ、これがストーブで加熱され、翌朝目覚めた彼はゴム靴の弾性が増大している事に気付き発見した。この発見には、幾つか諸説あるようで、泊まっていたホテルで、硫黄を混ぜたゴムの切れ端をストーブの上に何げなく置き、しばらくして見てみると、熱によりベタベタになっているはずのゴムが革状になり、弾性力を持っている事に気付き発見したというエピソードも残っているようです。


洋一が与えた知識の板バネとゴムは革命的な技術といえよう、防水機能が備わった長靴、手袋、隙間を埋めるパッキンに幾らでも使い道は戦国期であってもあります、むしろ戦国期ほど貴重な品となりましょう。


油屋が荷を下ろし板室に向かう頃に幕臣の和田の所に来客が身を寄せた、大物と言えば大物であり大丈夫か? と言えばやや心配な武将が和田を頼って訪問して来た。



「本当に当家を頼って仕官したいと言うのですね、しかし、某は幕臣であり客将と言う扱いになります、貴方様程の名が通ったお方が仕官するとなればそれなりの職となりましょうし、郎党の方達も食わせて行くとなればそれなりの重責が必要となりましょう、郎党の方達は何人ほどおられますか?」



「お恥ずかしい事になりますが、某に付いて来た者は身内の5名しかおりませぬ、家族を含め18名となります」



「なんと貴方様程のお方が1万の軍勢を率いていたお方が、嘆かわしい、貴方様は二代に渡って家を支えたお人ではありませぬか、宜しい私にお任せ下さい、当主の資胤様が今不在でありますが、若様に話して見ます、暫く私の家に滞在して下され、家族の方々を呼び入れて下され」







なんか梅が進化していますね、那須家に貢献度が高いですね。

ついにゴムを手に入れましたね、革命ですね。

次章「佐久間ドロップ」になります。

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