新年会・・・2


烏山城で盛大に開かれた新年会、正太郎も母上達と楽しいひと時を過ごしていた。



「そう言えば竹太郎も間もなく5才です、5才になったら私と同じように父に頼んで従者を付けたらどうでしょうか? 村は私の村の政を手伝う事も良いかと思います、私も父から村を頂いてからいろいろ学ぶ事が出来ました、母上から父上に聞いて見て下され」



「そう言えば5才の誕生日で仔馬と弓を頂きましたね、正太郎がやっている政を見るだけでも竹太郎には勉強になりますね」



「どうじゃ? 竹太郎そろそろお城から出て兄の手伝いをしてみるか? 外はいろいろあって面白いぞ、母上に甘えてばかりでは、妹の皐月さつきに笑われてしまうぞ、どうであるか?」



「私も兄上と同じく馬と弓を頂き村を見ます、兄上と一緒に麦菓子を食べたいです」



「えっ、竹太郎いま兄と一緒に麦菓子を食べたいと言ったのか? 兄はこっそり食べているのか?


 ささ、怒らないから話してごらん、母に話してごらん竹太郎」



「ちょちょっ・・何を言うのだ竹太郎、あれ程言うたではないか、まてまて、梅じゃ梅が変な事を言うたに違いない・・・いや、百合もきっと犯人じゃ、そうに違いない・・・」



「では後ほど百合と梅に聞いて見ましょう、母上に隠し事は通じません、正月故怒りませんが、歯に悪いので麦菓子は程々にするのですよ、竹太郎も麦菓子は沢山食べてはいけませんよ」



「わかりました母上、でも母上は食べていいのですか? 大人は食べていいのですか?」



「竹太郎まて今なんと申した、母上が何を食べていると・・・麦菓子を食べているのか?」



二人して目を見つめ笑いあう親子であった、母がもごもごしながら食べたら歯をしっかり水でゆすぐのじゃぞ、と笑った、この年から弟竹太郎も城から外へデビューとなった。





── 今成家新年会 ──





川越の今成家にも新年の挨拶で洋一夫婦と親戚が集まっていた、結婚して最初の新年会である、洋一夫婦も初参加という事もあり叔父叔母家族も大勢を引き連れて総勢20人以上の大宴会となった。



婆様自慢の煮物と漬物、大鍋二つを並べ、新年の祝いが始まった。



「あけましておめでとうございます、では皆で乾杯しましょう、ではカンパイ~♪」



「ささ食べよう、子供達は先にお年玉上げるからこっちにおいで、お年玉をもらう時はあけましておめでとう御座います、今年もよろしくお願いしますって言うんだぞ、じゃーおいで~」



お年玉をもらいに並ぶ子供達が嬉しそうに各親戚の所へ、洋一夫婦も玲子から渡した。



賑やかな今成家新年会が始まった、やはり玲子が参加する最初の新年会と言う事もあり二人の生活も話題に、叔母が。



「玲子さんどうですか新婚の生活には慣れた? 洋一はちゃんと家事手伝い出来てるの?」



「頭ではわかっていたのですが、いざ生活すると、右も左もわからない事が多いですね、洋一さんは家事手伝い頑張ってくれています」



「偉いじゃないか洋一」



「私の時は旦那が全然頼りにならなかったわ」



「おいおい正月からやめろ、それなりに手伝ったぞ!」



「新婚からなんでも出来る人はいないぞ」



それが普通だと言う洋一の父、叔父もそうだそうだ、昔は炊飯器が無かったから鍋で炊いたから慣れるまで毎日ご飯がお粥みたいで、困ったもんだと笑いながら話していた。

(玲子が炊くご飯は炊飯器でもお粥・・・・が多いのである、言葉に出せない洋一)



「まあー色々あるから仲良く出来る事という事だ、それもいつかはいい思い出になる、それが家庭だな」



「洋一仕事は〇ンマーだったな、どんな事をやってんだ?」



「今は農業機械のメンテナンスだから県内の農協に行ったり直接農家に行ったりと結構忙しいんだよ、でもいい事もあるよ、高価な果物を頂いたり、結構野菜も頂けるから実家に帰らなくても助かっているよ」



「あ~あと実家が専業農家って説明すると喜んでくれる農家が多くて、本当に可愛がってもらってるよ」



「それは良い事だ、玲子さんも役場務めだから安定してるし、まあー後は、いずれ子でも出来れば安心だな」



「そう言えば玲子さんが歴史が好きとか結婚式で言っていたけど、確か今羽生市に住んでいるんですね?」



「はい、羽生で家を借りて住んでいます」



「その羽生だけど大昔に城があってその殿様が今成だって聞いたが、玲子さんなら知ってたかな?」



「たしか川田備前守今成とかいう殿様だったかと思います」



「さすがだ、たいしたもんだ、名前が直ぐに出るとは、その今成は私達先祖の今成と繋がりがどうなのかな?」



「川越の今成とはどこまで関係するのは判りませんが、群馬の明和にいる今成と、羽生にいる今成は同じ今成という先祖からの流れだと思います」



「羽生にも今成がいるんですね?」 



「そうなの、羽生にも今成姓の家が沢山あるの、羽生と明和町は間に利根川が流れているから、今は県も違うから見過ごしてしまうけど、羽生の城の殿様が治めていた時は、羽生も明和も同じ殿様だから一緒だと言えます」



「本当に詳しいな、さすが明和の今成さんだ、たいしたもんだ、その羽生に今は住んでいるから何か不思議な縁でそこに住んだのかも知れないぞ」



「人は不思議な見えない物で繋がっていると、突然その繋がりが見える様になる時があるって聞いたぞ、その一番いい例が見えない糸で結ばれたのが夫婦だと、どこかの博士が言っていたぞ」



叔父が俺達も見えない糸で結ばれたのか?と言えば、叔母が、どうりで私があんたから逃げてもあんたが追いかけて来るとおもったよ、見えない糸が原因だったのか、糸が見えればハサミで切ったのにねぇー、大笑いする一同、楽しい新年会、この日玲子は泊り、翌日は玲子の家に新年の挨拶に行く洋一夫婦、玲子の家でも賑やかな新年会となり楽しい新年の出発が出来た。



しかし、正太郎のいる、1565年は歴史的に大事件が起きる年となる。




── 正太郎の正月 ──




烏山城で行われた新年会も無事に終わり、正太郎はいつもの身内を集めて新年会を行った、メンバーもいつしかいろいろと増えており20名は集まり、にきにぎしい新年会であった。



「十兵衛と義隆、京では大変だったな~、話を聞いただけで疲れる、無事に戻れて安堵した」



「朝廷から御所の治安警備の依頼が来た時は、帝をお守りして死ぬるなら本望だと思いました、将軍と御屋形様が謁見し、将軍が御屋形様の首に刃をあてた時は、御屋形様と共に死ぬるは本望だと思い、命を差し出す覚悟が出来ましたが、まさか数日で二回も死ぬ覚悟が生じるとは、本当に凄まじい数日間で御座いました」



「御屋形様の態度は見事で御座いました、与一様を見ている感じでした、御屋形様の横にいた小田の殿様も立派で御座いました、最後は、公家の山科殿が勅命だと言って将軍を諫めた時はもう頭が追い付けませんでした、勅命と聞き全身が震えました」



「そうであろうな、儂ならおしっこが漏れてしまうぞ、考えただけで怖い話である」



「今頃若様が書かれた文を読んで将軍様はおしっこを漏らしていると思います、若様の文も恐ろしい文で御座います」



その言葉に笑う一同、あははは、馬鹿に付ける薬は無いから、いい薬になったかも知れぬ、あはははー まさに痛快で御座います、あははははー、若様を敵に回すと命が幾つあっても足りませぬな、あっはははー。



「それから十兵衛の家族と半兵衛の家族はこちらに来る事になったと聞いたが、手はずはどうなっておるのだ?」



「油屋殿が二月になったら船を二艘出して那須に来ます、その時に一緒に乗せて下さります」



「油屋が来るのか、それは楽しみじゃ、いろいろと運んで来れば良いのう、今年は那須でも船が用意出来る、船乗りたちの調練も春には独り立ち出来るであろうと彦太郎殿から文が来ておる」



「油屋殿も那須で領地が増え、石高が上がった事で儲ける時が来たと満面の笑みでおりました、砂糖も沢山運んでくる物と思います」



「さすが油屋だ目聡い事だ、それから皆に伝えるが、いよいよ本格的に金が取れる様になりそうだと松男から報告が来ておる、鉱山の近くに工夫が寝泊まり出来る宿舎が間もなく完成するそうだ、そうすれば稼働に入れるとの事だ」



「あとこれを見て何か判るか? この針の上にへの字に曲がった針を乗せると、あっちを向くのじゃ、やじろべいみたいだけど、あっちにだけ向くのじゃ」



「うっ、これはもしや、この針はいつもこの方角を示すのですね、これは方位を示す道具では?」



「さすが半兵衛じゃ、洋一から伝わった物じゃ、これから船を使うのであればこれが必要になるとの事で、この針先はいつでもどこでも北を指す羅針という物だそうじゃ、簡単に作れた皆も知っているかと思うが鉄に付く磁石をこの針先に何回もこすると力が伝わり、この様に北を指す針ができたのじゃ、これを船で利用すれば陸が見えなくても北が解るので迷子にならないと言う訳じゃ」



「これは陸の騎馬隊でも相当役に立ちます、山の中では方位に迷います、これがあればどちらに進めば良いか判ります、これは優れた武器と同じです」



「うんうん、そこで飾り職人左之助に30個作らせておる、船と七家の重臣と隊長に持たせるように手配している、さすが洋一である、荷馬車の衝撃を和らげるへの字の鉄板も相当役に立っている、あの遠くを見る遠眼鏡も、メノウ職人の腕が上がってもっと遠くが見える物が出来ておる、誰もが鷹の目を持てるのじゃ、きっと那須の家だけであろう」



「ささ、百合と梅が用意してくれた鍋が冷めてしまった、温めなおして食べ様では無いか、自由に澄酒を飲んでくれ、儂は甘酒で楽しむ、ささ頂こう」




弟竹太郎と妹皐月さつきが初登場しました。

古城羽生城に川田備前守今成というキーワードも登場しました。

次章「那須の新春」になります。

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