那須の新春


 ── 1565年新春正太郎 ──



竹中半兵衛は那須に身を寄せて気候風土を調べる中で育った地域と比較してある助言を。



「若殿この那須には美濃と違って瓜を作る農家が少くのう御座る、この那須でも充分実ると思います、奨励してみてはいかがでしょうかでしょうか?」



「なるほど、その方達が育った地と比べると気候が違うが、この地でも育つ物なら奨励した方が良いかも知れぬ、常陸の海の領地も得たから、そこで育つ作物でも那須で育つ物なら奨励すべきであるな、それが良い」



「それから半兵衛この度、京から来た公家の錦小路殿が医道全般を先祖から代々知識を受け継がれているおり専門だそうだ、そこで錦小路殿と話して滋養によい食べ物と薬草を村で育てる手配をそちが率先して食して皆にも食べる様にして欲しいのじゃ」



「なにゆえ、某にその様な役目をとお考えになられたのでしょうか?」



「うむ、それがのう、洋一の軍師玲子からの指示なのじゃ、なんでもその方の体に滋養が不足しており、今から5年後に肺を病むそうだ、洋一の時代には肺を病む人は殆どいないそうだ、食する物が豊富にあり滋養がある食べ物が沢山あるので肺が病まないそうだ」



「体に滋養が満ちていれば何も問題ないそうだ、だから知識ある錦小路殿と打ち合わせして、儂が引き取った親無しの子達も滋養が不足しているから、あの子達が肺を病まない様に育てたいのじゃ、そこで先ずは半兵衛に率先して行ってもらいたいのじゃ」



話を聞きながら、この人はここまで私の様な者にも手を差し伸べようとしている事に感謝すると共に、この恩に報いる為に肺などを病む様な弱い体を克服すると決意した。



「お心遣い誠にありがとうございます、肺を病む様な弱き体から強き体になり若様と生涯共に歩みますのでよろしくお願いします」



「うんうん、そちは儂に取って大切な者なのじゃ、では頼んだぞ」



この1月にやっと村に正太郎館が完成した。



「幸地、でかした、立派な館である、ほう、炊事場に竈が6つもある、立派じゃ、おおーここは、湯舟ではないか、二つもある、城より立派じゃ、でかした、湯舟は大好きなのじゃ、部屋数も20もあるな、いつでも皆が泊まれる、蔵も4つもあるのじゃな、儂専用の部屋が三つもあるのだな、ここはなんじゃ? ほう書庫部屋とは、こんなにも読む本がまだあるのじゃな、横の建物は、これは・・おー、これは室ではないか氷室ではないか、よくぞ作った」



「この氷室は、雪は、どこから持って来たのじゃ?」



「板室の雪です、そこで集めた雪をここに箱に詰め持って来ました」



約60坪はあるかと思う大きい氷室の倉庫が出来ていた。



「でかしか、これで夏でも涼しい部屋となる、これで、確か雪の氷を食べる砂糖水をかけた氷の粒が食べれる、これは本当にでかしたぞ、楽しみじゃ」



「これからも沢山の者がこの村にやって来る、大工の手は足りているのか?」



「些かきつう御座います、親方になれる者が8名おりそれぞれに8人程付けて色々な現場を回しておりますが、これ以上は中々手が回らない状態です」



「そうであったか~、実は幸地達大工を寄こして欲しいと七騎の家からも儂の元に来ておって、困っていたのじゃ、武蔵国と上野国から来た者達に大工の者などいればいいのだが、各村に通達を出して幸地の元に来る様に手配してみるか、手先が器用な者も大工だけでなく他の職人達も手が足りぬと困っているから、どうであろうか、幸地?」



「是非、お願いします、間もなく大津浜に500石船も来ます、その船を見本に、某が本来船大工であった某は、暫く大津に行かなくてはなりませぬ、是非、人の手配をお願いします」



「よし分かった、福原、福原今の話聞いておったな、直ちに各村に通達せよ、あっ、そうだ、避難した者だけではなく村にいる者で手先が器用な者も含めよう、うん、それが良い、では福原頼むぞ」  



「畏まりました」



そこへ山内一豊がアウンとウインを連れて来た、温厚な一豊が珍しく二人を怒鳴りながら連れて来たのである。



「どうしたのじゃ、なんで二人は怒られているのじゃ?」



「この馬鹿者二人が、嫁の奪い合いで喧嘩をしているのです、くだらない喧嘩なので怒ったのですが、言う事を聞かぬものだから、では若様に聞いて頂いて若様の指示なら従うと言うので連れて来たのです」



「なんじゃ、そりゃ、あの件か、あの、前に相撲大会で女子で5人抜きした福の事か?」



「そうです、結婚をするなら福がいいと兄の私が言ったら、弟のウインが福と結婚するのは俺の方だと言い出したのです、最初に若様にお願いしたのは俺の方だと言ったのですが、言う事を聞かないのです、それで喧嘩になりました」



「お前達は馬鹿なのか、二人で取り合ってどうする、福にまだ聞いておらぬぞ、福が結婚したく無いと言ったらどうするのじゃ」



泣き出す二人・・・いやだ福が、福と結婚したいです・・え~ん、俺も福と結婚したいです・・・と泣き出す、巨体の戦士を見て、苦笑いする一豊・・・



「まてまて、泣くな馬鹿者、いい話を教えてやろう、だから泣くな馬鹿」



正太郎の一言で、泣くのを止めた巨人達・・・



「あのな、福は今、母上の元で侍女として仕えているが、農民の娘だったので、武家のしきたりなど知らないから教えているそうよ、所が昔は足軽の家であったそうよ、中々食べて行けずに農家になったそうな、それとしきたりを一通り覚えたら福に結婚の話を伝えようと母上は考えているのよ」



うんうん目を輝かせて聞いている二人であった。



「それでな、アウンからの事は母上も知っているので、福の家の事を聞いたら、なんとなんと、驚くなよ・・・妹がいたのじゃ、それも福と同じ様に力があって、同じ体格だと言うのだ、うり二つだそうじゃ、妹の名は万という名じゃ!!」




巨人達・・・うり二つ・・・?  



「だから福の妹は福とそっくりだそうじゃ、お主達と同じじゃ」



「まてまて、喜ぶのはまだ早いぞ、但し、その二人がお主達と結婚したいとは限らぬぞ、あれ程の強き女子じゃ、誰でも嫁に欲しがるぞ、嫁に欲しいのはお前達だけではないぞ」



また泣き顔になる二人・・・・



「そうだのう、二人が簡単な文字が書ける様になれば母上に聞いてみようかのう、字が書けない者達の所へきっと福と万は嫁に行きたくないであろうな」



育ったアフリカの部族には文字が無かった、字を覚えさせようとしたが一向に覚える気が無い二人であった。



「うんうんうん、覚えます、漢字やります、だから若様、お願い、お願いだから結婚したい」



「わかった、わかった、ではちゃんと勉強するのじゃ、儂も毎日勉強しているのだぞ」



正太郎館に引っ越しを行い二日目に鞍馬弓之坊がやって来た。



「若様、些かお時間、よろしいでしょうか?」



「お~お、遠慮せずに時間は大丈夫じゃ、今お茶を用意する待っておれ、梅、茶をたのむ」



「ところで何かあったか?」 



「こちらの矢をご覧下さい」



「~その様な理由で、この様に新しい矢を作って見ました、若様の騎馬隊で試射を行って試して下され、改良する所があるかなどお聞きしたいのです」



弓之坊の説明では、佐竹との戦いを終えて、どの様に佐竹側に五峰弓で被害を与える事が出来たのかを矢を集め検証していた、その結果弓之坊にとって思ったより芳しくない結果であった、直射と遠射で飛距離は問題なく満足する結果であり、鉄砲より優れた武器である事が実践でも証明された、しかし、矢が鎧に当たった際に、鎧を身に着けた兵士には思ったより被害が生じていなかったのである。



確かに鎧とは、相手の武器から身を守る物であり、それは弓であっても同じである、しかし、この五峰弓の場合は、鎧を突き通すだけの力がある、しかし思ったより鎧を突き抜けた矢が無かった。



そこで弓之坊は使用していた矢を用いて鎧に何度も試射を行い、原因が判明した、戦国時代に使用されていた和弓の矢の材質は現代でも、ほぼ同じである、戦国時代に使用されていた矢本体の材質は竹である、主に篠竹という竹であり、太い物で大人の親指程の太さになる竹である。



篠竹は剛性も備えており、矢にするには適した材料である、しかし、今まで使用していた和弓と五峰弓では、発射される矢の速度が余りにも早く、力強い矢であった為に、鎧に衝突した際に、鎧を突き抜ける前に当たった衝撃が矢の竹の真ん中部分に集まり矢の中央部で篠竹が砕けた矢が沢山あったのだ。



さらに篠竹の矢では重さが不足していたのである、矢の速さは早く力強い矢であったが、鎧に衝突した際に重さが不足しており、重さが不足している分、鎧を貫く、押し通す力が弱かったのである、折角力ある矢の力を出し切っていなかったのだ。



そこで弓之坊は、矢の材質を篠ではなく、加工しやすく、剛性も備えている杉の木に注目し、杉を矢の材質として新たに作成してみた、杉で作成した矢を試射した所、簡単に鎧を見事貫いた、貫けない時は矢が鎧に当たる角度に問題がある時だけであった、ただこれまでと違って矢が重くなるため、実際に使用する騎馬隊に試してもらうために新たな矢を持って訪れたのである。



「なるほど、某はまだ大人達より弓を引く力が無いゆえ、その様な事には気づけなかったが、確かに、矢が真ん中辺りで砕けておる、折角相手に当たっても矢が砕けてしまっては、五峰弓にも申し訳が無い」



「流石弓之坊である、そち以外にこの事は見抜けなかったであろう、一豊に試射させるゆえ報告を後日伝える、折角来たのじゃ、海魚の干物と澄酒もそこに沢山あるから遠慮せずに自由に持って行くがよい」



喜んで帰る弓之坊、あれだけ強い五峰弓であったが強すぎるゆえ、矢が弱点になっていたとは、どんだけ凄い弓なのかと改めて驚く正太郎であった。

(そもそも弓矢で鎧を貫く発想に驚いた正太郎であった)






アウンとウイン、巨人兵という漫画的な呼び名・・・

福と万、そうです、万福でしょうか? 

次章「如月」になります。

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