第20話 蒙古弓の恐るべき正体・・・1


 那須家当主との対面。



 平家の里、女将と鞍馬天狗他5名が広間に拝礼している中、忠義が。



「御屋形様の御成りであると」



 声を上げ、当主資胤が入室し上座に座り。



「那須家当主 資胤である、よくぞ参った大義である」



「この度は那須家当主、御屋形様に拝謁できます事、恐悦至極でございます、さらに5月の折には嫡男正太郎様にわざわざ私どもの里へ御足をお運び頂き誠に感謝申し上げ致します。本来であれば我らより御屋形様、正太郎様へご挨拶申し上げねば成らぬのに誠に不忠の手際を行い慙愧に耐えません、心よりお詫び申し上げ致します」



「うむ、その方の里の事なれば那須家に取っても当主と限られた者しか知りえぬ秘事であり、挨拶など無用の事柄である、祖である与一様からの当主に与えられた尊き使命なれば見守るのが当然の事である、又、正太郎が訪問の際は心よりの配慮を尽くして頂いたと聞き及んでいる、父としても感謝する次第である、それにそちたちから頂いた濁酒は大変に美味であった嬉しく思う」



「はっ、恐れ多いお言葉誠に感謝致します」



「父上、堅苦しい挨拶はこれでよろしいでしょうか」



 と言って笑顔で父を見る正太郎である、笑みをこぼし。



「うむ、これよりは堅苦しい話は止めにして聞きたい事など多々あり教えて頂こう」



「正太郎より、天狗殿よ、その者達はこれから、この正太郎に召し抱えて良い、者達であろうか? 少し紹介して欲しい」



「はっ、先ずこの女将は某の奥であり妻の伴でございます、本日は平家の里を代表として表の顔として御屋形様に拝謁にまいりました、以後御屋形様にお見知りおき下さいますようお願い申し上げ致します」



 女将より。



「鞍馬天狗の奥であります伴と申します、よろしくお願い申し上げ致します」



「うむ、よく来たな、これよから先も里を頼むぞ」



「はっ、ありがたきお言葉恐れ入ります」



「そして私の横にいますのが、鞍馬の者にて弓師の弓之坊です、こたび若様からお預かり致しました蒙古の弓見事再現し謎を解明致しました」



「なんとそれは本当か、父上ここで蒙古弓なる物についてお聞きしても宜しいでしょうか?」



「もちろんよ、わしも興味がある」



「では弓之坊より説明を申し上げよ」、



「はっ、では失礼いたしまして、ご説明致しまする、この蒙古弓なる物は我ら日ノ本の弓とは全く違う弓であり恐るべき弓で御座いました、預かりましたる弓は何枚もの木と獣の皮より張り合わせて作られており、弓一つ作るのに三ヶ月もの時間を要しました、完成したのもついこないだの事になります」



「そして我ら日ノ本の弓と違うのはこの、弦であります、我らの弓は樹木の繊維を縒って弦として使いますが、この蒙古弓の弦はなんと獣の筋から出来ておりました、それも細かく一本一本を乾燥させ膠で付けそれを紡ぎ弦としていたのです」



「当初何で出来ている弦なのか不明でおり、水に漬け、ぬるま湯に漬け、油に漬けるなどしても蘇らず、獣の油に漬けたるところ数日にて徐々に蘇りました、ただそれでも弱った弦でしたので、同じ様に獣の筋を利用し乾燥させては膠で貼り、獣油で乾燥を防ぎ再現出来る事になりました」



「完成した弦を弓に張り、試し打ちしたところ、とんでもない弓であると判明致しました」


 


「ほうどのように、とんでもない弓だったのじゃ」



「はっ、武家の皆様が使用される大弓では狙った敵、又は獲物に向かって直線的に飛ぶ矢の距離は強者でも60間(約118m)の距離で御座います、ましてより遠くへ飛ばす為には、弓を上に向け放射状に射やる事になります、それでも強者でも100間(182m)が良いところで御座います」



「そうよな100間も飛ぶなら、それは凄き強者よ」



「ところがこの蒙古弓なる物は、我らやマタギの者が使う小弓とほぼ同じ大きさなれど、狙った敵、又は獲物に向かって真っすぐに、なんと、200間程(364m)も飛びまする」

(ネット検索でもトルコ弓の記録では600mと紹介されています、真実はともかく800m以上の記録もありそうです)



「遠くへ飛ばず為弓を上に向けて放射状に射ればこれまた、275間程(500m)飛びまする、もう少しお時間を頂ければもう一工夫出来そうで御座います」



 この弓は現代の合成弓と呼ばれている弓です、この仕組みは何枚もの板を張り合わせて作られるアーチェリーの基本仕様となっている、原形の弓です。



「実に恐ろしき弓で御座いました」



 その話を聞き、正太郎も当主質胤も、唖然として、言葉が出ないとなったのである。



 我に返り、当主資胤が。



「なぜそれほど飛ぶのじゃと聞く、はっ、この弓自体に曲げても戻る力がとても強く、先ほどの弦ですが、これが我らの樹木の繊維からなる弦とは違って、獣の筋から作りました弦はこの様に力をいれて引くと伸びるのです、その力が合わさるとより強力に弓と弦の力によって飛ぶのでございます、飛び出た後に弦はまた、もとの通りに縮み元通りになります」



「この様な仕組みで出来ており、実に恐るべき弓であり、この弓より飛ぶ弓は日ノ本にはございませぬ」



「なんと、なんと凄き弓じゃ、我が那須家は与一様を祖としており、日ノ本一の弓士の強者が家よ、その私が今驚き、鳥肌が立って居る、よくぞ見抜いた、その方実に見事である」



「正太郎も、驚きました、そんな秘密がこの弓にあったのですね、父上、これは那須家に取って武威を強める事に繋がる事かと思います」



 うむ、まさにその通りである。



「しかし、なぜ、蒙古襲来時に相手側より得た弓なのに、それだけ強い弓が日ノ本に広まらなかったのだ、不思議な事である」



「はっ、それは鞍馬の弓師は日ノ本で一番の業師であり、日ノ本で使われおります、数々の弓、全てを知り尽くしておる者であります、この弓之坊なる者は代々に受け継がれた弓師であり、その者だけに弓之坊を名乗る事が出来る者で御座いまする」



「故に弓之坊が見事絡繰りを見抜き再現出来たのです、日ノ本で広まらなかった理由は、真似て作る事が出来なかった故で御座います」



「なるほど、さすが聖徳太子様から帝を守る使命を綿々と伝える鞍馬の一党である。


 実に見事であり褒めて遣わす、その方に褒美としてこの太刀を遣わす」



 恐縮する弓之坊であったが、正太郎からも受け取るようにと、言われ当主より小刀の太刀を頂いた弓之坊である。

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