猛撃武田騎馬隊


鬼の真壁という簡単な言葉を検索すると本当に戦国時代の鬼の真壁が多数ヒットします、と言うか他に該当する人が出ません、戦国最弱大名の家に鬼がいました、史実ではそのうち真壁は敵側に寝返りますが、家を守る為の方策なので仕方無いですね。





十兵衛が騎馬隊250名と共に正太郎の館に戻った、5月3日夜八時である。



「皆の者ご苦労である、やはり予想した通り隠れていた一手があったのだ、上総の千葉が参戦した兵数は2500との事である、ここで食事と休憩を行い、大子にて休息してより一気に小田軍への援護となる、戦状況を確認し、場合によって後から半兵衛が騎馬隊を率いて来るので合流してより援護するやも知れぬ、その采配は十兵衛に任す、小田の危機を救う事が出来るのは我らしかおらん、皆の者頼むぞ、駒は村の者が飼葉を与える」



「若様の読み通り千葉が隠れておったのですね、佐竹側は1万を超えていますが小田様にも数日はなんとか耐えられるでしょう、明日昼頃に到着出来るかと思います」



「十兵衛がいてくれて助かった、荷馬車も用意してある、あれに石火矢を積んでおる『てつはう』は小田様にも渡してあるが『てつはう』だけでは時間稼ぎにしかならん、攻撃力のある石火矢が必要であろう、秘密の兵器であるが遠慮なく使うが良い、佐竹も肝を冷やすであろう」



「ありがとうございます、恐らく小田様は籠城しております、敵は曲輪に殺到しておりましょう、その集まった中に石火矢を打ち込めば敵は混乱します、一気に局面をひっくり返して見せまする、ご安心下さい」



館には那須本軍から資胤がアウンと騎馬隊200も既に控えており十兵衛達と合流し数時間程仮眠を取り出発する騎馬隊、その数450騎。



十兵衛達が出発した二時間後に半兵衛が騎馬隊1200騎を引き連れ館に戻った。



「若様、白河結城家は降伏致しました、仕置については芦野殿伊王野殿千本殿にお願いし、我ら騎馬隊は小田家援軍の為戻りました」



半兵衛の報告を聞き、炊出しの者達も含め白河結城を倒した話を聞き、大歓声を上げる一同。



「よくやった半兵衛流石である、この様に早く敵を倒し、今また援軍に駆けつける心意気見事である、騎馬隊の者よ、お主達は那須の誇りである、先程十兵衛達が出立した、食事を取り休憩してより援軍に向かってくれ、大子でも休憩出来る様に手配りしておる」



同じく村人達が駒を引き取り面倒を、騎馬隊は仮眠を取り、三時間後に大子に向け1200騎の騎馬隊が進軍を開始した。



「飯富よ、我らの力を見せる時が間もなく訪れる、その方の蛇行突撃は鈍っておらぬであろうな? 儂に教えていたあの突撃よ、久し振りにそちと並び蛇行突撃を行って見たい」



「太郎様、那須の騎馬は弓で御座いますが、敵が大軍との事、某が得意とする蛇行突撃を行う時が必ずありましょう、太郎様にも見えておりましょう、騎馬が進む道を、那須のお家は弓です、蛇行の動きは知らぬでしょう、那須が突撃する際の『鋒矢の陣ほうしのじん』とは似てはおりますが別物です、某が編み出した唯一無二の突撃です、必ずその時が来ます、恩返しを致しましょう」




5月4日朝六時銅鑼と法螺貝が鳴響き佐竹軍の総攻撃が始まった、大手正門側の志田曲輪と遠回りになるが陽動として田土部曲輪にも敵勢が盾のトンネルを作り押寄せた、腰には砂袋を持ち小田の火責め武器『てつはう』から飛び散る油の炎が広がらない様に火消しの砂を持たせた。



前夜小田の火責めに散々な目にあった佐竹軍、暗闇から投げ込まれる『てつはう』に対処出来ずに一旦下がったが、対策さえ行えば軽症で済む、後は弓だけである、鉄砲を盾の隙間から射手を狙い徐々に攻略すれば夕刻までに曲輪を突破し本丸正門に辿り着けると読んだ佐竹義重。



結城と千葉勢は死傷者を多数の被害ではあるがここまで来たら小田を降伏させる以外に道は無く、手柄を持って帰らずには戻れないと覚悟を決め佐竹勢より気勢をあげた。



「敵が二手に別れ攻撃を行って来た、志田曲輪の通路には鬼の真壁と曲輪に1000名の兵、志田曲輪後方から弓隊600にて援護せよ」



「田土部曲輪には菅谷、赤松にて1000名を引き連れ敵勢を食い止めるのだ、海賊衆は弓にて田土部曲輪を援護せよ」



「負傷した者は後方に下がらせ兵を補充せよ」



佐竹側の兵力9000に対して小田は残り5850、ここからはお互い命を削る消耗戦、籠城戦で一般的に有利とされているのが三倍勝利の法則という事を耳にする事がある、籠城側より三倍の兵力があれば勝てるという事を説明した言葉であるが実際にその様なケースは稀である、攻撃する側が少数でも内通者を作り敵兵を城内に引き入れれば人数など関係なくなる。



籠城戦は結局のところ戦略という机上の理論が及ばない殺し合いであり、どちらが先に相手を皆殺しにするかと言う最終戦でもある、押寄せる敵に岩を投げ、てつはうを投げ入れ、弓を放ち、重症を負った者が死を悟り死兵となり命途切れるまで斬り込む、一言で言えば攻撃する者も防ぐ方も凄惨な殺戮場である。



命がけの戦いで人は30分も戦えない、全身の力を使い戦う為に身体が動かなくなる、動けなくなった者は次々と後方と交代し消耗戦に、兵数の少ない小田側も二時間を経過する頃には塀を乗り越える者が出始める、そこへ鬼の真壁が金砕棒を振回し敵を叩き割る、脳漿が飛び散り、眼球も飛び散る、恐れ慄く敵兵に容赦なく襲いかかる金砕棒、鬼の真壁の活躍で志田曲輪の防衛がなんとか保たれていた。



佐竹義重は最初から膠着する事は読んでいた、小田側の兵力を考えれば30分で兵が入れ替わりをさせても二回までが限度であり三回目に入れば支える力が弱まるであろうと読んでいた、全力で戦える時間は累計一時間と読んだ、それ以上は急激に体力が弱まり兵力の多い佐竹側が有利になる時間と読んだのである。



早朝6時より攻撃を開始、間もなく昼である、あと二時間が限界と読んだ佐竹、兵力の多い佐竹側の交代は更にそこから二時間は充分戦える、そこからが本当の勝負となる、佐竹義重は父、祖父の影響を強く受けており、詰将棋をする様に戦局を読み、一手一手を指し、敵を追込み勝利の棋譜を描ける若き武将であった。



午後二時、十兵衛率いる騎馬隊450が小田城近くまで到着し、状況確認の為、鞍馬が放たれた。



「どうやら間に合った様である、太郎殿南蛮の大きい駒には慣れ申したか?」



「いやはやこの駒は凄き駒ですぞ、気性もさほど違いなく見た目以上に扱い易う御座います、騎馬に適した駒です」



「どうやら太郎殿のお力をお借りする場面がありそうです、その時はよろしくお願い申す」



「遠慮のう申し付けて下され、飯富もあの様に暴れたくて血色が赤くなっており申す」



暫くして鞍馬の忍びが戻り、小田城に敵勢が押寄せ戦っておりますが、小田様も敵を防ぎ均衡は保たれております、今の所どちら側にも傾いてはおりませぬ。



「あい分かった、ではもう少し様子を見ましょう、援軍だからと言って余計な手出しは時には迷惑な話となります、援軍であればこそ、小田殿に必要と思われた時に出るが一番喜ばれる事でしょう、暫しここで休憩致します、石火矢の支度をし、待ちましょう」




 ── 佐竹 ──




「そろそろ限界のようだ、よう頑張って耐えておる、あと半刻一時間程で頃合いであろう、結城殿、原殿間もなく崩れ始めるかと思われる、その時は本陣を城前に押し出し致します、全軍にて一気に襲います、よろしゅう差配願います」



「承知致した、佐竹殿の読み流石ですのう、小田を降伏させ、その勢いで明日那須に向かいましょうぞ、さすれば宇都宮小山を入れれば優に12000以上となりましょう」



「確か芦野側にも那須の兵がおるから我らと戦う那須の兵は多くて5000もおらんでしょう、那須の騎馬が強くても兵差がそれ程あれば問題無いでしょう」



「その油断が危ないので御座る、那須の奴らは騎馬が多いので中々囲い込む事が出来ずに前回はそれで時間を使ってしまった、此度は盾も強化しており対策は行ったが油断は禁物ですぞ」



「流石歴戦のお家です、勉強になり申した」



頼りにならない奴らと思いながら、今は目の前の敵に勝つ事だけで良しとした佐竹義重。



午後二時を過ぎ小田城では徐々に疲れが出始めた、田土部曲輪では海賊衆500名による弓での援護が効を奏していた、曲輪手前の堀に水が張っており堀から10m程で田土部曲輪である為、曲輪に近づける兵数に限りがあり、水の張った堀外側に多数の兵が押寄せており弓での攻撃が効果を得ていたのである。



問題は志田曲輪であった、こちらが側が本来主体となる攻撃口であり、佐竹側も手を抜かずに兵を交代させながら休む事無くかれこれ八時間攻撃を行っていた、曲輪を乗越える敵兵を叩き潰す鬼の真壁にも疲れが出始めていた、通路には夥しい死体の山が出来ていた、ここまで来ると麦菓子の糖分補給も追い付かず後は気力との勝負である。




 ── 援軍到着 ──




午後三時、半兵衛率いる芦野別動隊の騎馬隊1200名が十兵衛の元に辿り着いた。



「お~半兵衛殿間に合い申したか、間もなく我ら突撃を行う所であった」



「間に合い申したか、それはようございました、白河結城を降伏させ、急ぎ騎馬隊の者を引き連れて参りました、状況はどうなっておりましょうか?」



「小田様はなんとか耐えておりますがそろそろ限界の様子かと、徐々に塀を乗越える者が現れております、敵本陣も動きそうです、その時を待っている所です、本陣が動いた時にこちらも本陣を襲う予定です」



「では騎馬隊を二手に分けて下さい、敵本陣に突撃する騎馬隊と、突撃した後に全方向から弓攻撃する騎馬隊に分けて行いましょう」



「お待ちください、突撃する騎馬隊に我ら武田を使って下さい、我らであれば突き抜ける事が出来ます、突き抜けた後も敵陣の弱っている所へ突き抜けます、崩れた所を全方向から弓攻撃をお願いします」



「よし、では武田騎馬隊80騎に某達の370で共に突き抜けます、武田殿達は得意の槍で進み下され、後続の我らが石火矢を放ち本陣を混乱させ、弓を連射にて放ちます、崩れた所を半兵衛殿の1200騎で攻撃を行って下され」



「判りました、今の話聞いたであろう、敵本陣を一気に叩き潰す」



「幟旗を持っている者は背に掲げよ、那須の紋章を示すのじゃ、敵に那須の恐ろしさを知らしめるのじゃ」



ウインが、敵本陣動きました、敵の本陣が動いております、城に向かっているのが見えますと告げた。



「よし、全軍突撃せよ!」



颯爽と武田太郎と飯富を先頭に80騎の槍騎馬隊が動き出す、その後ろに370騎の弓騎馬隊、計450騎が佐竹本陣を目掛け動き出す、その後ろに1200騎の騎馬隊が大津波となって動き出した。




「志田曲輪が落ちたぞ、今だ本陣を前に出せ、小田城を落城させるのだ、銅鑼を鳴らせ、攻撃に力を入れよ、進め進むのだ、田土部曲輪の攻撃はもう良い本丸へ攻撃を行う、戻させよ」



佐竹軍本陣2000が城に向けて進軍を開始した。



それを見た小田氏治は真壁と曲輪に残っている兵を引き上げ、本丸正門後ろに急ぎ移動させた、ここまでに小田軍の死傷者は1000名を超えており、悲惨な状況であった。



志田曲輪を通り過ぎ、本丸前に2000の佐竹兵が押寄せ、入りきらない兵数千が取り巻いていた。



佐竹本陣も城から500m程の所に陣が移動し指揮を取る中、周囲警戒している物見から知らせが、後方より何かが向かって来ております、と報告が入る。



砂塵は見えるが判明出来ずに見ていると何やら旗らしき物が見えた、あの旗はどこの物だと聞くも、判らず、その方向に足を止め2000の兵が見守る中、徐々に大きな塊が、騎馬の塊が迫って来ていると判断した、佐竹は危機を察知し、全軍本陣に戻る様に太鼓を鳴らさせた、急ぎ本陣に戻り防御の陣構えを指示したのである。



佐竹義重は那須が来たと直感した、那須以外あの様に大軍の騎馬を用意出来ないと判断、旗を確認する前に指示を出したのである。



防御の陣と言っても結城と千葉の軍勢はそれぞれ別の家であり、それぞれが行わなければならない、突如防御の陣を敷く事は中々出来ないのである、外側に盾兵を配置し、出来る事は円陣を組む事しか出来ない。



小田城から本陣に戻る合図を聞くも数千人もの大勢がひしめき合っている兵達に指示は聞こえず1000名程度が不思議な様子で戻り始めるも意味を理解しておらず歩いて移動する始末である。



佐竹義重は那須騎馬隊の攻撃力を誰よりも知っており外側に盾兵の壁を隙間なく円を描く様に配置させ、その内側にも同じく二重の盾兵を用い、中心に大将の陣を構えた、唯の円陣ではなく二重の円陣とし、鉄砲隊が戻れば盾の後ろ側に配置する事にした、強固な方円の陣を敷いたのである。



佐竹本陣に迫る先頭の武田騎馬隊80騎、その姿は朱色に輝く見事な漆で塗られた赤備えの騎馬隊である、ここに太郎復活の赤備えの騎馬隊が佐竹が固める円陣に襲い掛かる。



その距離300と迫り飯富が槍を掲げ、我に続けの合図を騎馬隊に送る、そのまま突撃するかと思いきや、飯富は円陣の周りを一周し突如突入したのである。



「ここだ、ここから突破する、ここから崩すのだ」



飯富が大声で叫び突入した、怒涛の勢いで撫で斬りながら速度を弱めず蛇行を始める騎馬隊、これこそ飯富が編み出した『蛇行突撃』である、敵陣の弱い所を見極め、そこから傷口を広げる、その動きは、敵兵を次から次と飲込む、蛇行しながら敵をなぎ倒して行くのである。



傷口を塞ぐ為に佐竹兵も盾を持ち詰め寄るも、動きが直線では無く捉え所が無い騎馬隊の攻撃に贖えないのである、朱色の騎馬隊が通り過ぎると今度は、和弓と同じ大きさの五峰弓から石火矢が放たれた。







まさか赤備えが那須に登場するとは読者の裏をかいたでしょうか?

それとも皆さん読んでいましたか。

次章「挟撃」になります。

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