豊国と戦国


── 豊国 ──




どんな時代であれ全世界で共通しているのは自分が住み暮らしている地が平穏で作物が豊かである事を望み営みを続けている、人だけではなく動物の世界でもそれは共通している事と思われる但しそれは前提の話である、戦国時代後半期の那須家の物語。


作中で使われる基準の各国の石高は太閤検地による天正101582年に始まり慶長31598年まで再検地を含めて全国で実施された資料を基に大まかに書かれている、石高という単語で検索すると年代毎の石高表がヒットする、この1598年時の日本の石高総計は1850万石となっている、しかし、僅か10年後には2220万石、1872年には3225万石となる、石高の増加と人口の伸びも比例していく、当然と言えば当然である。


石高を上げる、増産する一番の方法は、平穏な事が第一であり、後は自然災害が大きく左右する、1598年の1850万石は戦国期が終わった時の石高と言える、その10年後には370万石も増加している、この石高には蝦夷と琉球は含まれていない、那須家、北条家、小田家はここ数年自国領内での戦は行われておらず、年々田畑の耕作面積は増大し、子供の出生率も増加しており石高と人口の増がはっきりと誰の目にも判る形となっいた。


特に農村の村々では村分けが行われ、それに伴い既存の村から枝分かれした村を○○新田という地名で村人たちが呼ぶなど新村が次から次と生まれていた、特に那須は広大な領地を持ち、半兵衛の政策で河川から水車を利用し、新しい水路が引かれ田畑が開墾されていた。


広大な領地であるにも関わらず石高か低かった大きな理由は、田畑を耕す農民の人口が少ない事、農民の人口が少ない主な要因は既存の河川周辺に田畑はあるが水路を作らぬ事で田畑も増えず石高も増えないという悪循環であった、半兵衛が那須に来てより10年を超え、水路の整備が整い、新しい田が増えこの年の那須国の石高は北条家を超える豊国の国となった、北条家も、小田家も大きく石高を増やす中、那須が一番となった事は資晴が行って来た政が正しかった証拠であり那須の国はこれより新時代に入るとの予感する秋を迎えた。


北条家 260万石から278万石

小田家 224万石から240万石

那須家 240万石から280万石

三家の石高724万石からこの一年間で798万石と大幅に増えた。



「父上お聞き致しましたか、来年には300万石に手が届くかも知れませぬ、日ノ本で織田家に次ぐ家となります、何やら嬉しいような怖いような不思議な気分であります、那須家の舵取りも益々難しく大変な事になります、そこでお願いがあります、私が当主となっても隠居と言う形ではなくそれなりの御立場で関り頂きたいのです、如何でしょうか?」



「それでは隠居出来ぬではないか、儂はもう疲れたぞ、そろそろ楽隠居出来るのかと思っていたのだ、まだ何かをやらせると言うのか!!」



「・・・父上楽隠居など早死に致しますぞ、それほど難しい事を私も言いませぬが、間違った方向に進まぬ様にしたいのです、昔のように5万石の家であれば簡単に間違いを治せますが、このように大きい家となれば私一人の目では届きませぬ、その届かぬ所をそっと手をお出しして頂きたいのです」



「父上にお願いしたい内容は父上を中心に御伽衆を作って頂き政の横槍が態と入り政が正しい方向に向かう様に仕向けたいのです、主に評定時にお伽衆が集まり進言頂きたいのです」



「御伽衆とはどんな役目の者なのだ、名は聞いた事はあるが那須家にはこれまで無い職ぞ!!」



「はい、和田殿から教えて頂いたのですが将軍や大大名には中心者に知恵を授け、時には雑談に応じたり、自己の経験談、書物の講釈などで不足している処を補い、時には当主が行う政に態と不満を語る事で鬱憤を抜き解決に導く役目などある者達だそうです、直接の権限は無く、当主に諫言する事が出来る相談役との事です、今、父上が大関殿初め代替わりを進めておりますが、老臣達を父上の元で御伽衆として評定時に参加させて頂けないでしょうか、数年間は是非お願いしたいのです」



「御伽衆とはそういう役目の職であるか、ふむ~評定時のう、代替わりだけを求めず評定時には口が出せるという事なのじゃな、口が出せるとなれば政に参加していると錯覚となる、錯覚する事で鬱憤が溜まらぬ・・・という事であるな、考えたな資晴、上手い手じゃ、隠居となると中々良い返事が出ぬが、責任は持たぬが政に口が出せるとなれば、大関は大喜び隠居に応じようぞ!!」



「成程のう、評定に出る程度であれば儂も賛成と致そう、戦の事は資晴の者達で大丈夫であろうが、金山や大きい交易の事もある、それに来春は小田殿と皐月の結婚じゃ、その後は資宗、そして北条殿と小田殿の姫との婚儀もあり、三家は何かと忙しい、老臣達の活躍する場面が沢山ある、儂が働き、他の者を楽させる訳には参らん、その御伽衆なる職を儂が纏めよう!! 後はお主の側室の件は年内中に纏めるのだ、代替わりを行った後に皆に伝える、良いな!!」



「ありがとう御座います、これで前に進めます!!」



当主資胤が引退を拒む大関を無理強いさせる事無く新しい御伽衆という名目の職に就ける事で代替わりを出来るように仕向けたと言える、大関が代替わりとなれば各七家の老臣達も自ずと家を継ぐ若者に刷新されるであろうと、資晴が作った学び舎で育った優秀な若者が既に沢山排出されている、武家の者もおれば農民の出、商人の家柄であった者も採用され若き人材が七家にはいる、その者達に道を開くには上が新しくならないと次に進めぬ、その為にも大関の引退は是か非でも必要であった。


猪肉、鹿肉、雉肉、大学芋、焼きとうもろこし、焼き握り、飯芋粥、各種麦菓子、砂糖をまぶした煎り豆、鯵の干物焼き、イカ焼き、そして新たに登場した、どら焼き、砂糖をまぶした揚げぱん、クリームパン、麦茶、濁酒、澄酒、輪投げ、子供用弓の的当て、大人と子供相撲大会、村々による綱引き、弓騎馬隊と槍騎馬隊の演武、最後の仕上げ巫女48の萌え舞。


多くの露店、新しい菓子のお披露目と那須家の演武とアイドル巫女の萌え舞がこの秋も、豊穣祭りが三日間に渡り例年どおり行われた、鶴姫は初めて見る那須家の豊穣祭りに目を輝かせ、桟敷席のど真中で恥じらいも無く、酒以外は全て何度もおかわりをしていた、育ち盛りの鶴姫、そのかわいらしい幼妻を一目見ようと多くの領民が参加していた。



「鶴様あちらをご覧下さい、あそこです、鶴様に手を振っておりますぞ!」



「どこじゃ、梅様、妾も手を振って良いのか?」



「勿論です、あの者達に手を振って下さい、喜ばれますぞ!」



「本当じゃ、妾の手に応えておる、お~沢山手が上がった~、お~お~お~数え切れぬ、凄い凄い、駄目だこっちの手がもう動かせぬ、今度はこっちの手じゃ!!!」



結婚した際に領民が開いた縁日でのお披露目、初めて外界への冒険となった城下町の巡行、お方様が開いてくれた甘味処へのお忍びとお茶会、夏の盆踊り、そしてこの豊穣祭り、鶴には全てが新しい世界であり、こんなにも楽しく素晴らしい国に嫁げた事に幸せであった、毎日がドキドキして楽しい日々の連続、冬には板室と言う那須の奥地にある温泉に浸かりに行くと資晴様に言われ感極まる鶴であった。


無事に豊穣祭りを終え、資晴は梅を自室に呼び側室の件をいよいよ話す事にした、梅も何れ資晴から何か側室の件について話をされる事を覚悟していた、覚悟してはいたが、側室になる覚悟は出来ていなかった、資晴がどのように自分を認めているのか、認めてはいてもどう想っているのか、これまで両者で話した事など一度も無かった、これまでは主人と侍女の関係であり対等の立場で無い当然の事である。



「梅、どうじゃこの新作のパンは? 洋一殿から教えて頂いたのじゃ、洋一殿の世界では大層な人気のパンじゃそうな、那須には沢山砂糖があるので作れとの事じゃ、ささ食べて見よ」



梅に新しいパンを試食させた人気のパンとは『あんどーなつパン』であった、誰もが知るパンであり年齢に関係なく好まれている菓子パンの代表の一つである。



「これは・・・大変に甘く・・どら焼きとも違います、甲乙付けがたい逸品であります、これは人気間違い無しです!!」



「そうであろうそうであろう、それにな実は良い話があるのだ、あの姉妹の不明となっていた両親が見つかったのだ、やはり京にいたのだ、大店の商家で働いていたのだ、既にその家には話を付けており、年明けに那須に迎い入れる手筈が整っている、あの姉妹が両親と再会出来るのじゃ、嬉しいであろうな!!」



「それは要御座いました、流石若様であります、良くぞ見つけました、両親が揃いましたら家族で新しい店が開けましょう、クリームパンも人気の品になっております、それとこのあんどーなつパンがあれば充分食べて行けます、それと揚げパンもありました、益々城下の町は繫盛致しましょう」



「うんうん、梅も喜んでくれるか儂も嬉しい、そこでじゃ、儂はもっともっと梅とこれからも先も喜びたいと思っている、共に喜び歩みたいと心より願っている、既に母上から聞いておる儂の側室になる話をせねばならぬ、那須の家を守るためでもあるし、儂自身に必要な大事なる事じゃ、梅は儂の側室になるは嫌か?」



「・・・梅は若様を慕っております、嫌ではありませぬが、傷者なのです、瑕疵のある者なのです、側室になってはならぬ者なのです、どうかお許し下さい!」



「実はのう、今だから言うが気を悪くしないで欲しい、あの刺客に襲われた際に梅が倒され、あの時は覚えておらなんだが、以前より一閃という技を洋一殿から習って調練したのを知っていたと思うが、あの時に知らずに、梅が倒れた時に何も考えずに一閃の技を放ち梅の仇を討ったのだ、儂にとってかけがえのない大切な者を倒した憎き刺客に立場を忘れ無我夢中で飛び込んだのだ!」



「幸い梅は助かった、儂は全身の力が抜け三日ほど動けなかったが頭だけは冴えていた、寝込みながらあの時何も考えずに飛び込めたのは、儂は梅の事が好いていたからだと判断したのだ、ただ元服前の童でも那須家の嫡子でありその事は誰にも言えなかった、安易に話せる事では無かった!」



「それと梅の身体にある傷を実は何度か見ておるのだ、知っておるのだ、許せ!! 儂も梅の事を心配しており公家殿が切った傷跡は大丈夫かと心配もした、その後は怒らないで聞いて欲しい、何時しか年頃の男となり何度か梅が風呂に入った所を覗いてしまった、済まん許して欲しい、だから身体の傷は前より知っておる、全く気にならん・・・・」



「風呂を覗かれたのですか・・・・怒るに決まっておりましょう・・・勝手に嫁入り前の女子の身体を見るとは・・・他の女子の身体は見ておりませんでしょうね!!!」



「・・・実は梅かと思って覗いたらお婆様を見てしまった、その位じゃ!!」



「・・・・・判りました・・・・もうこれ以上は駄目であります、許しませぬ(笑)」



「それともう一つ伝える事がある、その傷は梅が梅である証左であり、儂は誇りに思って欲しいのだ、その傷こそ那須家を守ろうとした証左であり、儂の誇りでもあるのだ、そのように素晴らしき者が儂を守っていると言う誇りなのじゃ、見た目は傷に見えるが儂には傷とは見えぬ、儂と梅が繋がる証にしか見えぬ、傷の事で悩む必要は無い、それより儂と共に歩もうでは無いか、何よりも儂はそちが梅が大好きじゃ、正室と側室では立場は違う事もあろうがそれは表向きの事じゃ、儂にはどちらも同じじゃ、大切な者であり離してならぬ二人じゃ、これからも儂の側で支えて欲しい、これが儂の正直な気持ちじゃ!!!」



震え流れる滴の味を噛み締め聞き入る梅は一人の女子であり女性であった、資晴の口元から語られる想いは自分をこの上なく好いてくれており自分の心情と同じ想いがありそこには上下の立場も無かった、資晴の言葉を噛み締め何度も頷く梅の姿がそこに。




刺客に襲われ倒れた時の章を書いた際に私の中でも梅の存在が大きく成り、その際に側室の場面をいつか書こうと秘めておりました、なんとか作中に反映出来てホットしています。次章「雪遊び」になります。

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