第46話 諜報戦


諜報戦こそ、見えない戦いです、現代のサイバー攻撃ってところでしょうか。




 ── 佐竹義重 ──




佐竹馬廻役の筆頭小貫より、当主佐竹義重に戦準備の報告が告げられた。



「我らの馬も鉄砲の音に慣れ、騎馬隊の調練は順調に進んでいます、ご安心下され」



「ほうそうか、鉄砲を多数用意し、那須の騎馬隊に攻撃する際に、こちらの馬が音に驚いたのでは、藪蛇になってしまうからな、馬が鉄砲の音に敏感な事に気付いて良かった」



「おっしゃる通りです、那須は騎馬から弓での攻撃が主となります、その際に鉄砲の音で、こちらの馬が驚いては、逃げる那須の騎馬隊を追いかける事が出来ぬ事になる所で御座いました」



「奴らは、騎乗からの弓攻撃、それが通じぬと判れば籠城しかないであろう、これより那須家には塩止めも行い、商人に売ってはならぬと差し止めよ」



「那須の領内に草を放ち、いろいろと探るのじゃ、どんな動きでも良い、特に居城烏山城を中心に探って見るのだ」



「年が明け田植えが終われば、一気に那須を片付け、秋の収穫が終われば小田を平らげ父上が元気な内に関東の覇者となり、北条と対峙する、父上より家督を継いだばかりゆえ、儂が侵攻を開始するとは思っておらぬであろう、北条が関東管領長尾と争っている今が好機である、今の内にこちらは準備しておくのだ」

(佐竹義昭からこの年家督を継いだ佐竹義重、佐竹は関東管領から北条討伐参加要請を断りっており、那須への侵攻を行う、史実と同じである)





 ── 正太郎 ──




鞍馬の配下より佐竹の動きについて報告が入ったと申さるから聞く、正太郎は既に前年より佐竹領内の動きを知るべく鞍馬の配下を忍ばせていた、配下の報告では、佐竹騎馬隊の近くで多数の鉄砲を放ち、何やら調練を行っているとの事です、それと佐竹の草が領内に潜伏していると報告を受けた、馬の近くで鉄砲を放つとは、どいう事であろうか、どんな意味があると思うか?



「馬とは体の大きい割には臆病な所があります、目に見えない音に対する調練ではないかと、佐竹は多数の鉄砲を用意している様です、来年の当家に対する合戦準備を始めたのでしょう」



「音とは・・・こちらは騎馬が中心である、音に対する調練は、当家では鉄砲が無い、どうすれば良いと思うか?」



音だけの調練であれば、鉄砲が無くても火薬を若様は持っています、それを使い、音に対する調練は出来るのでは、あと、太鼓なども打ち、大きい音に慣れさせるのも良いかも知れませぬ」



「油屋から買った火薬はそれなりにある、勿体ないがそれを使い試してみるか、だが鉄砲に似た音でないと効果は薄いかも知れぬ、どうすれば良いか?」



「鍛冶師に鉄の筒を作くらせ、その筒に火薬を入れ点火したらどうでしょうか?」



「お~、鉄砲は造れずとも鉄の筒だけならやれるか、申よ、鍛治師に15本程作らせよ、それと佐竹の草はどうする?」



「泳がせて見てはどうでしょうか? 恐らく戦準備の為、こちら側の動きを知りたいのかと思います、泳がせて、油断させてはいかがでしょうか?」



「草に偽の話を掴ませ、持ち帰らせるのだな、相手を油断させる訳だな」



「草は何時でも排除出来ます、排除すれば佐竹も警戒するかと思います、わざと偽の知らせを持ち帰らせる事がよろしいかと」



「では草を見張り、こちらは、何も準備していない、何も警戒していないと、持ち帰らせよ」



「それと若様、アウンとウインの事で御座いますが、やはり鷹の目を持っておりました」



「遠くが見える目の事だな、どれ程だったのだ」



「鞍馬の中で某が一番遠くを見る事が出来まするが、某より、倍以上遠くを見えまする、一里先の人の数をとらえまする、本当に見えておりまする、まぎれもなく鷹の目であります」



「二人ともか?」 「はい、二人とも見えております」



「二人に聞いたところ、育った部族では珍しい事ではなく、他の者も遠くを見る事ができるそうです、むしろ我らが遠くを見えない事に驚いておりました」

(アフリカの部族では、視力が凄い部族が現代でも多数います、マサイの戦士と言われている部族では、視力6.0~8.0と言われ、テレビ番組で実験したところその者は11.0だったと、視力検査の一番小さいCの印を14階ビル屋上から地上のCマークの確認が出来る距離だそうだ)



「その二人は敵の動きを事前に察知する事に使えそうであるな、ちと考えてみよう、それにしてもすごい者達じゃな」



「それと鞍馬の者達で、今の内に調べてもらいたい事が一つあるのだ、この地図を見て欲しい、この道とこの道なのだが、馬での移動が出来るか確認して欲しいのじゃ、合戦時に別の者達がここへ速く移動したいのじゃ、山道ゆえ、今の内に確認し、馬で移動出来る様にしたいのじゃ、確認して欲しい」



「もう10月半ばじゃ、あっという間に新しい年になる、鉄の筒と、佐竹の草、道の確認を頼む、鉄の筒が出来次第、最初に山内一豊が率いる騎馬隊で試してみよう」



山内一豊は次男、三男と家を継ぐ事が出来ない者30名を正太郎の馬廻役として騎馬隊を編成し調練に励んでいた。




 ── 洋一と玲子 ──




5月の結婚に向けて式場巡りを行うも、5月のGW期間に開催するには、既に予約が入っており難航していた、やっと1ヶ所だけ確保出来たのである、5月6日の1時から川越の式場で行う事に決まった、後は両家の参加人数や、ドレスをどうするか、食事の内容とかプランナーさんと詰めていけばなんとかなりそうであった。



もう一つの問題は二人はどこに住むのか? 洋一は川越、玲子は明和村役場が職場である、洋一は朝8時半就業、玲子は8時である、仮に川越から役場に行く場合、通勤時間は約1時間10分程、そうなると、家を6時半頃に出ないと行けない、8時就業だから15分前には着かなくてはいけない、結構きつい通勤になりそうである。



玲子は現代の女子、自炊の経験は無い、掃除洗濯はいいとして、問題はごはんの支度である、ご飯は炊けるが、おかずは全く自信が無い、洋一に何気に自炊出来るのか聞いたら、普通に出来ると予想外の返事があった。



「えっ、洋一さんって自炊出来るの?」 



「結構出来ます、家が農家なので食材が沢山あるから、農繁期に親が忙しかったので、代わりに夕食作っていたし、そこそこ行けるかも」



「それは凄いね、私は自炊ほとんど経験ないから今のところ、ご飯しか炊けない・・・・」



うっ・・・(ハズレか笑・・) まあー経験していけば・・・と励ます洋一。



「玲子さん住居は、どこに住みますか?」



「最初はアパートかマンションとか借りて通勤に無理が生じない所がいいかな? 洋一さんの会社、社宅とかは無いの?」



「以前はあった様ですが、今は無いです、ただ、結婚して賃貸で生活する社員に住宅手当てが2万5千円補助があります、借りれば今回の場合手当てが付きます」



「それは嬉しいね、私は多分1万円位かと思う、家賃の金額によって少し違うから、はっきり言えないけど、多分その位かな」



「それだと折角新婚になるからアパートかマンションとか借りて、通勤も無理しない辺りで検討でもしましょうか?」



「それがベストかな、家賃っていくら位なのかな?」



「同僚がマンション借りていて家賃7万って言ってました、多分その位必要かも知れません」



「それだと半分が手当てで、半分が自腹で払うようだよね」 



「それは仕方ないですね」



「じゃー住む所は年が明けて、春に考えましょう」



「わかりました」



「那須の正太郎君は今どうなっているの?」



「田の収穫も多くなって、それなりに順調の様です、五峰弓の生産も間に合いそうです、今はいろいろと正太郎なりに手を打っている様です、このまま順調に行ってほしいです」



「それは大丈夫だよ、この軍師玲子にお任せあれです」



と、笑う洋一と玲子、式場を決め、住む処をなんとかすればスタート出来そうな二人であった、洋一達も正太郎も、決戦は年明け5月を睨んで、打てる手を打ち整える三者、決戦は間もなくである。





 ── 移民 ──




「父上、武蔵国から農民達が庇護を求めて来たと聞きました、どうなっておるのでしょうか?」



「困った事が起きたのよ、関東管領上杉様が北条が支配する地へ進軍を開始して、武蔵で兵達に乱取りを行わせ、この冬を越せぬ農民達が、我が領内に避難を求めておるのよ」



「佐竹との戦いが控えており、出兵の要請を断っていたので、詳しい状況は分らぬが、上杉軍が通過するところは、あたりかまわず乱取りされているそうだ」



「それでは民は・・・一番の被害は民ではないですか?」



「正太郎よ、よく聞け、戦が一度起きてしまえば、人知の及ばぬ事が起きる物よ、上杉軍が乱取りをせねば、相手の力を削げぬと考え、乱取りにて相手側から食料が入れれば、それだけ味方は得をしたと考えるものなのじゃ、これが戦と言うものなのじゃ」



「私には納得出来ませぬが、先ずは避難を求めている農民達を庇護しましょう、当家は領地が広く、耕す所は幾らでもあります、先ずは各村に避難した者達を配し、その者達の米を那須家にて提供し、領内の農民として暮らして頂きましょう」



「それがよいな、農民の数が少なく、石高が増やせない事情があったゆえ、こちらから農民を引き入れた訳ではないので、筋道が通る、よしそれは儂の方で手を打つゆえ心配するな」



「父上よろしくお願いします」



この10月半ばから年明けまでの間に、年内だけで那須に庇護を求め2000人以上という多数の難民が押し寄せた、幸い、正太郎が行った米の増産分と、芦野家で行った増産分もあり、食料が間に合い、避難した者達から餓死者は出ていないと報告を受けた。





関東管領上杉憲正及び上杉謙信の北条討伐における、川越夜戦、1561年に起きる小田原城の戦いが有名です、又、謙信の事を軍神とか、戦が強いという英雄的な捉え方が多いかと思います、謙信は北条が治める領地を取り戻しても、自国に帰還してしまう為に、再び、治めた領地が北条に戻ると言う負のループになります、力ある大名の庇護を受けようと、国人領主達は謙信が戻ると手の平を返し北条に付くのです。

次章「荒ぶる神謙信」になります。

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