第47話 荒ぶる神謙信


翌年5月に佐竹との戦に備える那須家、その周辺では荒ぶる戦神が大暴れしていた、荒ぶる戦神、上杉謙信である、1561~関東へ度々進出する謙信、関東管領が差配する国は本来、相模・武蔵・安房・上総・下総・常陸・上野・下野・伊豆・甲斐10ヶ国から管領職が越後の上杉謙信へ移譲されたのでここに越後が加わります、関東という名前が付いているので関東地方と思ってしまいますが、管領職が差配する地域はより広大であった。




 ── 第四次川中島の戦い ──




1561年、上杉謙信と武田信玄との戦い、一番犠牲者を出した有名な戦い、上杉軍18000人の内3000、武田軍20000人の内4000という犠牲者が出たと言われている、謙信が信玄の本陣に乗り込み、信玄を三度切り付けるクライマックス、大河ドラマではその数倍の犠牲者数で演じられている。




 ── 生野山の戦い ──




上杉謙信と北条氏康との戦い、武蔵国生野山で上杉家は柿崎景家を大将とし、北条と戦う、永禄4年(1561年)11月27日に武蔵国生野山、北条氏康と上杉家で行われた戦い、この合戦の背景には武蔵国の中原を押さえる要衝・松山城の支配権を巡る北条氏と上杉氏の対立、氏康は小田原城の戦いで謙信の攻勢を食い止めた後、反撃に転じ、上杉方に奪われた武蔵北部を奪還するため、松山城 (武蔵国)・秩父高松城の攻略に向かい、北条氏康が謙信を退けた。




── 第二次国府大合戦 ──




生野山の戦いの翌年1563年から1564年に北条氏康、北条綱成と里見義明、里見義弘との戦い、この戦いは北条氏康と武田信玄が合力し、武蔵松山城を攻撃、それを防ぐために、上杉謙信から里見家に武蔵松山城に救援要請に里見家が兵を派兵し、北条家と激突した戦いであった。




この様な状況下、他の戦に参加せず、那須の家は力を温存し、数カ月後の佐竹との戦に備えていた。





 ── 1563年11月下旬 那須家大評定 ──





那須七騎重臣、大田原より、急なお呼び出し、資胤様いかがありましたでしょうか?との問いに。



「その方達に諮る前に儂の方で対応していたのだが、皆の力を借りねばならぬ事態が起きた、皆も知っての通り、関東管領様と北条との戦い、他にも周辺国で合戦が起きており、那須の領内に被害を受けた農民が避難して来ておる」



「今のところ当家で庇護した者は1000名を超え、烏山城周辺の村に配し、農民として移住させ糧食を手当てしている、ところがその避難して来る者達が一向に減る気配がなく、日に日に増えて来ておるのだ、那須家に避難すれば助けてくれるという噂が起きている、そこで皆の力を借りねばならなくなった」




評定参加の下級家老より、保護を求め避難してくる者達を追い返してはいいがでしょうか? 佐竹との戦を控え、今はその様な者達の面倒を見る時ではないのでは、ここは強気に追い返してはどうでしょうか? との意見を聞き正太郎が声を上げる。



「その方、父上である当主の話をどのように聞いておったのか? 既に父上は1000以上の者を庇護しているという話をしたばかりではないか、どこに追い返すから力を貸せという話になるのだ」




「これからも庇護を求めて来る者達を受け入れる為に皆の力を借りたいと言う話では無いか、心得違いをしてはならん」



「はっ、申し訳ございません、お許し下さい」



「皆の者どうであるか?」  



「他領より避難して来る者達を受け入れる事は出来ますが、手当てする糧食を考えれば備えている分だけでは、戦を控えておりますので、蔵を開ける訳には参りませぬ、糧食の手当てが不安になりまする」



「今の大田原殿の話もっとな事であるが叔父上の芦野での田について説明をお聞き下さい」



「はっ、某の領地は石高が2000石という小さいのですが、昨年の田植えで若様より教えて頂いた新しい田植えの方法にて、この秋の収穫では、2000石から2500石という増産になり申した、この方法を他家でも行えば充分に賄えるのではありませぬか」



一同、驚きの声が広がる評定となる・・・



「それは本当の事でありますのか?」



「私が持っている5つの村が例年1200俵取れていたが、新しい方法で1560俵となったのじゃ、480石から624石である」



「ほうーそれは凄い事です、合戦で領地を得て石高を増やすのは至難でありますが、新しい田植えで石高が増やせるのであれば、これは凄い事で御座います」



「儂も正太郎が行った新しい田植えに注目をしている、そこでじゃ、皆に相談は、今後増えるであろう庇護を求めて来る者達を受け入れ、新たに新田を耕し、その者達が食べて行けるまで糧食を手当てすれば益々石高が上がり、その者達への糧食は、正太郎が行った新しい田植えを領内に奨励すれば米の収穫が大幅に増え、その米で充分賄えるであろう」



「一つだけ注意があります、那須家と接している他家に通じる道のある村ではこの新しい田植えは行ってはなりませぬ、他家に新しい田植えを教えてはなりませぬ、そこで道にある村には四公六民にして、不公平にならない様に配慮してください、他の村では米が増えるのに他国に通じる道にある村では米を増やせないと言う不満が出ない様に配慮してください」



「私の計算では、那須の石高5万石が、来年には約6万3千石程にはなると考えます、新たな田が増えれば5年もしない内に8万から10万石も見えて来るかと思われます、すなわち、皆様がお持ちの石高が倍になるかも知れぬという事で御座います」




評定の場は一同どよめきと驚きとなんとも言えぬ空気に、伊王野氏より。



「それは何とも良き話です、某の領地も芦野殿と接しており石高はほぼ同じ、それが増えるという話では、某の領地で庇護を求めて来る者達をどんどん受け入れますぞ、むしろ避難して来る者達に感謝したい」



「某も避難民を受け入れます、農民を増やせる好機と言っては語弊がありますが、この話、那須家に災い転じて福となす、という素晴らしき事では」



「御屋形様、戦は控えておりますが、受け入れの態勢を整えればよろしいかと思います、若様の新しき田植えと言う力強い支えがあれば村々の民も前向きに協力するものと思います」



「そこでもう一つ私正太郎より提案があるのです、米が増産されて、村の農家で米余りが生じる恐れがあります、そこで各村にて飢饉に備えて増えた分の何割かを村にて保存させ、さらに余る米は私が買い取ります、買い取る事で農民にも銭が回る様にして行きます、領内を麗して行きますのでその様に差配をお願い致します」



「買い取った米で何をなさるのでしょうか?」



「安心するのだ、買い取った米で皆が飲む酒を大量に作るのじゃ(笑)、儂はあんな拙い酒はまだ飲めぬが、皆の褒美に造るのじゃ(笑)」



大笑いとなる中、当主資胤より。



「では今後庇護を求めて来る者達を一度ここ烏山で受け入れ、各地に移住させるので受け入れの態勢を整えて欲しい、年内は今のままで大丈夫であるが、新年より行う、新しい田植えの方法も正太郎の村長、芦野殿の村長に聞き、年明けに伝授されるよう手配を頼む」



「佐竹との戦、新しい田植え、難民の受け入れ、いろいろとあるが進めてくれ、他に確認する事はあるか? 遠慮せずに聞く様に!」



「佐竹がでは私より先に、佐竹が合戦に備え、当家に塩止めを行いました、そこで小田家にて塩を融通してくれております、それも佐竹より何割も安く都合してくれております、皆様も今後は佐竹に通じた商家からの塩を買う必要がありませぬ。、もう一つ、合戦にそなえ佐竹では多数の鉄砲を用意しております、騎馬に鉄砲の音を聞かせ驚かない様に調練しているとの事です」



「当家には鉄砲はありませぬが、当家の騎馬に鉄砲の音に驚かない様に調練が必要になりました、鉄砲の代わりに、鉄の筒を作り、火薬を入れ、点火すれば鉄砲と同じ音が出る事に成功しました、その作りました鉄の筒と火薬を後ほどお渡ししますので、使用方法はお渡しの際に教えますのでお持ちの騎馬隊に調練をお願いします、私からは以上です」



「他に無い様であるな、では皆の者、間もなく新年を迎える、気を抜かず、一気に七家の家運を広げようぞ!!」




幕府という力の存在が無い、弱い政府というのは、そのしわ寄せは、一番力のない民に押し寄せる、現代も全く同じです。


次章「美濃騒乱」になります。

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